馬鹿王子にはもう我慢できません! 婚約破棄される前にこちらから婚約破棄を突きつけます

白桃

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もう我慢できません。

「もう我慢できませんわ!!」

 私はテーブルの上に飲んでいた紅茶のカップを叩きつけました。
 カップから飛び出した紅茶がぬらしたその手紙。
 それは子爵令嬢である私、メアリー=フォックスの婚約者である第三王子ポール=クリフォードからのものでした。

「あの馬鹿王子がまた何かやらかしたのですか?」

 私の専属メイドであるアンが、テーブルの上を片付けながらそう尋ねます。
 そして中身を読まないように注意しながら、紅茶を拭き取った手紙を私に差し出しました。
 個人的な手紙の中身を従者が勝手に見るわけには行かないという事でしょう。
 私はそんなアンを心から信頼しています。

「読んでみなさい」

 なので、私はあの馬鹿王子から送られてきた手紙を受け取らず、アンにそのまま読むように勧めました。
 どうせ馬鹿王子からの手紙なんて、いつもいつもたいしたことは書いていないのですから気にしなくて良いのです。

「よろしいのですか?」
「いいのいいの。それに私だって一人くらい同じ思いを抱いてくれる仲間が欲しいのよ」
「そうですか。聖女のように優しいメアリー様をそれほどまでに怒らせる手紙には少し興味がありました。それでは読ませて頂きますね」

 アンは複雑そうな表情を浮かべながら手紙を読み始めました。
 彼女の目が左右に動き、何度か往復しているうちに額にどんどん皺が寄っていきます。
 まだ若いのに、そんな顔をしていてはしわしわのお婆ちゃんになってしまうのでは無いかと心配するほどに。

 だけど、多分私もアンと同じ顔を先ほどはしていたに違いありません。

 なぜなら私の婚約者であるはずの馬鹿王子から送られてきた手紙の内容のほとんどは留学先の国での豪遊話や自慢話、それに普通婚約者に向けた手紙で書くような事ではないその国の令嬢との一夜の恋の話などが自慢げに長々と書かれていたのですから。

 しかも最後の方には嫌みったらしく「君と違ってこの国の令嬢たちは皆優しく美しい。君も見習うべきじゃ無いか。ああ、いっそ君との婚約を無かった事にしてこの国に住みたいと思ってしまうよ」などと毎回のように書かれているのである。
 眉間に皺を寄せるなという方が無理がある。

 一通り読み終わった後、アンはその手紙をそっとテーブルの上にもどすと、疲れ切った表情で目を軽く指でほぐすと私を心底同情したような表情で見つめてきました。

「メアリーさま。お返事はどういたしましょう」
「必要ある?」
「一応あれでもこの国の王子ですので、失礼があっては周りの者たちの目がありますし」

 私は大きくため息をつくと、テーブルの上の手紙を乱暴に掴み執務机に向かいます。
 そして机の上に雑に手紙を放り投げると、引き出しから便せんと筆、そしてフォックス家の紋章が入った封蝋をするための器具を一通り並べながら心を落ち着かせるため深呼吸をしました。

「アン」
「はい?」
「決めましたわ」

 私は背後に控えるアンに自らの決意を伝える。

「もうあんな馬鹿王子にはほとほと愛想が尽きましたわ。あちらが婚約を無かった事にしたいと仰るなら、こちらから――」

『婚約破棄を突きつけてさしあげますわ!!!』
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