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車道に倒れ込む寸前でミーティアを助けたのは、レスターだった。
彼は同じ国の他の街で治療中だったはずなのに、どうしてここにいるのだろうか?
目の前の現実が信じられず、呆然と彼を見つめてしまう。
なのに、レスターは私を見ても特に驚きはないようで、ミーティアをフェルに預けた後、にこやかに微笑みながら私の方へと近寄ってきた。
治療はしているものの未だ成果は出ていないらしく、レスターは今も車椅子に乗っている。そんな状態でどうやってここまで……と考えていると、横からパルマーク様が現れた。
「ユリア嬢、久し振り……と言っても、まだ二週間しか経っていないが。元気にしているだろうか?」
まるで手紙の挨拶のようだなと思いつつ、私は無難な答えを返す。
「はい……。体調は特に変わりありません。パルマーク様達もお変わりないようで、なによりです」
二人の様子は普段ミーティアから聞いて知っているため、特に私の方から聞きたいことはない。否、彼ら二人が今ここにいる理由については、もの凄く知りたいけれど。
開口一番それを尋ねるのもどうかと思い、どうやって尋ねようかと考えていると、そこで漸くすぐ側までやって来たレスターが、興奮冷めやらぬといった感じで口を開いた。
「久し振りだね、ユリア。彼女……ミーティアだっけ? 助けるのが間に合って良かった。いつも分厚い眼鏡をかけていたから、素顔を見て驚いたよ……」
彼女、あんなにも可愛かったんだな……。
という声に、パルマーク様もつられたようにミーティアの方を見る。
今回私も初めて知ったことなのだけれど、ミーティアは素顔がとんでもなく可愛かった。そんじょそこらの可愛い令嬢なんて目じゃないぐらい、人並外れたもの凄い可愛らしさ。
今回私がミーティアを令嬢らしく着飾ったのは、フェルに群がる見知らぬ令嬢達を蹴散らすためだったけれど、私だって眼鏡を取ったミーティアの素顔に驚いたのだ。レスター達だって驚かないはずはないだろう。
寧ろ私は、どうして今まで隠していたのかと、本人を問い詰めてしまったほどだし。
彼女曰く「見た目に寄ってくる男は信用ならない」からだそうだけど……言われてみれば確かに、と思ってしまった。
実際パルマーク様は、熱に浮かされたような顔でミーティアのことを見ている。
レスターは……何故かこちらを見て微笑んでいるけれど。
「それで、あの……レスター達はどうしてここに?」
ミーティアに見惚れているパルマーク様のことは無視して、私はレスターに彼らのことを尋ねることにした。
本音を言えば、嫌がるレスターを半ば無理矢理他国へ行かせた身として、彼とはできる限り接点を持ちたくなかったのだけれど、こうなっては仕方がない。まさか、毎日あんなにも熱烈な手紙を私に送ってきてくれていたパルマーク様が、ミーティアの可愛らしい素顔を見た途端、見惚れて使いものにならなくなるなんて思わなかったから。
「僕達は……う~ん……正直に言ってしまうと、ミーティア嬢をつけて来たんだ……」
パルマーク様のことをチラ見しながら、レスターが言いにくそうに口にする。
それを聞いた瞬間、私は驚愕して目を見張った。
「ミーティアをつけて来たって……え、なんで?」
一体どうしてそんなことを?
聞けば、彼はとても申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめん! 休みの前日になるたび、嬉しそうにするミーティア嬢の様子が気になって……。もしかしたら、どこかで君と会っているのかも? と思ったんだ。彼女は君ととても仲が良かったし、ちょうど今は学園の長期休日期間中だろう? だから、ありえない話ではないと思って……」
「それで、パルマーク様と二人でミーティアをつけて来たと……?」
「うん……」
力なく項垂れるレスターに、言葉をなくす。
まさかミーティアの様子を勘繰って、二人してこっそり後をつけてくるだなんて……。
「それって一歩間違えば犯罪なのよ? それは分かってる?」
まるで子供に言い聞かせるかのように尋ねると、レスターはとても小さな声で「もちろん分かってるよ……」と言った。
「でも僕はユリアに会いたかったんだ。他国へ行く前の約束通り、手紙を毎日出したけど、君からの返事は一度だって来なかったし、あのまま本当に君に捨てられたらと思ったら不安で……」
そういえば、他国での宿泊先は宿だと聞いていたから、家に届いた手紙などを転送してくれるように頼んではいなかった。頼んだところで、パルマーク様からの同じような内容の手紙が毎日届くだけだろうと思っていたし、毎日ともなると、家族にも迷惑がかかるだろうと思ったから。
今思えば、一週間分を取りまとめて──とかでも良かったような気はするけれど、他国へ行く前は支度に忙しくて、そんなこと思いつく余裕もなかった。
けれどまさか、レスターが毎日手紙を出してくれていたなんて。
「……僕は、君を失いたくないと言ったろう? あの時の言葉は嘘じゃない。ユリアを失わずに済むのなら、僕はなんでもできるし、なんでもする。足は……まだ動かないけど、それでも。できる範囲でなんでもするから……」
懇願するように、レスターが私に向かって手を伸ばしてくる。
学園に入る前までは、よく握っていたレスターの手。大きくてあたたかく、優しいレスターの手。
だけれど今は、安易に彼の手を掴むわけにはいかない。掴むことなんてできない。
私達はもう、ただの幼馴染でしかないのだから。
彼は同じ国の他の街で治療中だったはずなのに、どうしてここにいるのだろうか?
目の前の現実が信じられず、呆然と彼を見つめてしまう。
なのに、レスターは私を見ても特に驚きはないようで、ミーティアをフェルに預けた後、にこやかに微笑みながら私の方へと近寄ってきた。
治療はしているものの未だ成果は出ていないらしく、レスターは今も車椅子に乗っている。そんな状態でどうやってここまで……と考えていると、横からパルマーク様が現れた。
「ユリア嬢、久し振り……と言っても、まだ二週間しか経っていないが。元気にしているだろうか?」
まるで手紙の挨拶のようだなと思いつつ、私は無難な答えを返す。
「はい……。体調は特に変わりありません。パルマーク様達もお変わりないようで、なによりです」
二人の様子は普段ミーティアから聞いて知っているため、特に私の方から聞きたいことはない。否、彼ら二人が今ここにいる理由については、もの凄く知りたいけれど。
開口一番それを尋ねるのもどうかと思い、どうやって尋ねようかと考えていると、そこで漸くすぐ側までやって来たレスターが、興奮冷めやらぬといった感じで口を開いた。
「久し振りだね、ユリア。彼女……ミーティアだっけ? 助けるのが間に合って良かった。いつも分厚い眼鏡をかけていたから、素顔を見て驚いたよ……」
彼女、あんなにも可愛かったんだな……。
という声に、パルマーク様もつられたようにミーティアの方を見る。
今回私も初めて知ったことなのだけれど、ミーティアは素顔がとんでもなく可愛かった。そんじょそこらの可愛い令嬢なんて目じゃないぐらい、人並外れたもの凄い可愛らしさ。
今回私がミーティアを令嬢らしく着飾ったのは、フェルに群がる見知らぬ令嬢達を蹴散らすためだったけれど、私だって眼鏡を取ったミーティアの素顔に驚いたのだ。レスター達だって驚かないはずはないだろう。
寧ろ私は、どうして今まで隠していたのかと、本人を問い詰めてしまったほどだし。
彼女曰く「見た目に寄ってくる男は信用ならない」からだそうだけど……言われてみれば確かに、と思ってしまった。
実際パルマーク様は、熱に浮かされたような顔でミーティアのことを見ている。
レスターは……何故かこちらを見て微笑んでいるけれど。
「それで、あの……レスター達はどうしてここに?」
ミーティアに見惚れているパルマーク様のことは無視して、私はレスターに彼らのことを尋ねることにした。
本音を言えば、嫌がるレスターを半ば無理矢理他国へ行かせた身として、彼とはできる限り接点を持ちたくなかったのだけれど、こうなっては仕方がない。まさか、毎日あんなにも熱烈な手紙を私に送ってきてくれていたパルマーク様が、ミーティアの可愛らしい素顔を見た途端、見惚れて使いものにならなくなるなんて思わなかったから。
「僕達は……う~ん……正直に言ってしまうと、ミーティア嬢をつけて来たんだ……」
パルマーク様のことをチラ見しながら、レスターが言いにくそうに口にする。
それを聞いた瞬間、私は驚愕して目を見張った。
「ミーティアをつけて来たって……え、なんで?」
一体どうしてそんなことを?
聞けば、彼はとても申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめん! 休みの前日になるたび、嬉しそうにするミーティア嬢の様子が気になって……。もしかしたら、どこかで君と会っているのかも? と思ったんだ。彼女は君ととても仲が良かったし、ちょうど今は学園の長期休日期間中だろう? だから、ありえない話ではないと思って……」
「それで、パルマーク様と二人でミーティアをつけて来たと……?」
「うん……」
力なく項垂れるレスターに、言葉をなくす。
まさかミーティアの様子を勘繰って、二人してこっそり後をつけてくるだなんて……。
「それって一歩間違えば犯罪なのよ? それは分かってる?」
まるで子供に言い聞かせるかのように尋ねると、レスターはとても小さな声で「もちろん分かってるよ……」と言った。
「でも僕はユリアに会いたかったんだ。他国へ行く前の約束通り、手紙を毎日出したけど、君からの返事は一度だって来なかったし、あのまま本当に君に捨てられたらと思ったら不安で……」
そういえば、他国での宿泊先は宿だと聞いていたから、家に届いた手紙などを転送してくれるように頼んではいなかった。頼んだところで、パルマーク様からの同じような内容の手紙が毎日届くだけだろうと思っていたし、毎日ともなると、家族にも迷惑がかかるだろうと思ったから。
今思えば、一週間分を取りまとめて──とかでも良かったような気はするけれど、他国へ行く前は支度に忙しくて、そんなこと思いつく余裕もなかった。
けれどまさか、レスターが毎日手紙を出してくれていたなんて。
「……僕は、君を失いたくないと言ったろう? あの時の言葉は嘘じゃない。ユリアを失わずに済むのなら、僕はなんでもできるし、なんでもする。足は……まだ動かないけど、それでも。できる範囲でなんでもするから……」
懇願するように、レスターが私に向かって手を伸ばしてくる。
学園に入る前までは、よく握っていたレスターの手。大きくてあたたかく、優しいレスターの手。
だけれど今は、安易に彼の手を掴むわけにはいかない。掴むことなんてできない。
私達はもう、ただの幼馴染でしかないのだから。
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