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やがて
【十二】旦那様の特別
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……僕は…旦那様の"特別"になりたかったのです……――――――――。
「ほら、ゆきお」
「ありがとうございます」
勢いのまま、星様の手を引いてお屋敷を飛び出してしまった僕でしたが、ずんずんと歩いて行く中で『ゆきお、ゆきお、おいらの家、あっち!』との星様の声に、はた、と立ち止まりました。
そして、気が付きましたら、僕が星様に手を引かれて歩いていました。
星様のお屋敷は、旦那様の物とは違いまして、所謂洋風の物でした。
星様のお部屋にはべっどがありまして、今、僕はそこに腰掛けて、星様が淹れて下さった麦茶に口を付けています。
べっどに座っても良い物なのかと迷う間もなく『ゆきおは、ここ!』と、肩を押されてしまいましたので、大人しく座りました。
「…落ち着いたか? 目、真っ赤だ。顔、洗うか?」
「…ありがとうございます…大丈夫です…みっともない姿を晒してしまい、申し訳ございませんでした…」
目の前の柔らかな絨毯の上に胡坐を掻いて座ります星様に、僕は静かに首を振ります。
「うん? みっともないって、なんだ? 笑いたい時は笑えばいいし、泣きたい時は泣けばいいって、親父殿が言ってたぞ? だから、泣いていいんだぞ?」
不思議そうに首を傾げます星様に、僕は苦笑を零します。
「…いえ…。…自分でも…何故、あの様に取り乱してしまったのか…。…本当に…僕は…子供です…。…きっと…旦那様も呆れて…もう…僕の事なんて見限られた事でしょうね…」
自分で自分の感情を制御出来ないなんて…子供処の騒ぎではありませんよね…。
「うん? そんな事はないぞ? だって、ゆきおのおじさん、きらきらでぽかぽかだったぞ? おいら達の事、泣きそうな顔で見てたぞ?」
「ふえ!? そんな筈がございません! 旦那様はご立派な方で、人前で涙を見せるだなんて、その様なお姿をされる筈もございません!」
奥様が亡くなられた時でも、決して涙を見せる事の無かった旦那様です。
そんな旦那様が、涙を流さなくとも、その様なお顔をされる筈がございません。
「お、おお? ん~? ま、ゆきおがそう言うのなら、おいらの見間違いなのか? でも、な? おじさんがゆきおをみかぎる? 捨てるなんて事は無いぞ? だって、あのきらきらでぽかぽかな箱を作れるんだ。あんなにゆきおの事をきらきらでぽかぽかな気持ちで見てるんだ。それは、絶対にないぞ!」
必死に、僕を慰めようとして下さっているのでしょう。
身体の前で、胸の高さに腕を上げて両手を拳にして星様がお馬さんの尻尾を揺らして力説しています。
その姿が何故かおかしくて、頬が緩みました。
「あ、笑った」
「あ、申し訳ございません。星様の一生懸命なお姿が嬉しくて…つい…」
「んーん! 泣くより、笑う方がいい! 笑ってくれて嬉しいぞ! あ、そだ、ちょっと待ってろ!」
星様は、白い歯を見せて笑ってお部屋を出て行かれました。
そして、星様の足音が聞こえなくなった頃。
「…ふえ…」
途端に口から情けない声が出ました。
僕は、何て事を口にしてしまったのでしょうか?
星様は、ああ言って下さいましたが、旦那様は絶対に呆れています。間違いありません。
そして、僕の事等、もうどうでも良いと思っている事でしょう。
きっと、もう鼻を摘まんでくれる事もありませんし、頭を撫でて下さる事も無いでしょう。
「…ふえぇ…」
本当に、僕は馬鹿です。
大馬鹿者です。
何故、我慢出来なかったのでしょう?
何故、あの様な事を口走ってしまったのでしょう?
本当に、救いようのない粗忽者です。
僕は、これからどうしたら良いのでしょう?
お屋敷には、もう、戻れません。
僕が、自分から…自らの手で手放してしまったのですから…。
あの、暖かい場所を。
星様が言う、きらきらでぽかぽかな場所を。
「ふえぇっ…ふぇっ…嫌…です…嫌われても…呆れられても…お傍に居た、い…です…ふえっ…」
…特別になれなくても良いです…。
「…ふえぇっ…」
…鼻を摘まんでくれなくても、頭を撫でてくれなくても良いです…。
「…ふえぇっ…だ、んな、しゃ、ま…」
ただ、ただ、お傍に………。
「…ゆきおは、おじさんがすきなんだな…」
「…ふえ…?」
星様の普段とは違う静かで穏やかな声に、僕は顔を上げます。
何時の間にか、僕の目の前に、困った様に笑う星様が立っていました。
その手に持つお盆には、丼が二つと湯気の立つ湯飲みが二つありました。
「…すきだから、子供って言われて嫌だったんだろ? すきだから、親父って呼びたくなかったんだろ?」
「…す、き…?」
…好き…?
「…ふえっ…? だんな…しゃま…そんけ…、もちろ、ん、ふえっ…好き、で…」
「違うぞ。特別なすきだぞ」
星様はそう言って、お盆を机の上に置いてから僕の隣に座りました。そして、ぽんぽんと頭を軽く叩いてくれます。
「…とく…べつ…?」
「ん。親父殿が言ってたぞ。守りたくて、消えて欲しくなくて、大切なもの。それが、すきだって」
僕の頭をぽんぽんと叩いていた手が、そのまま下がって背中を撫でてくれます。
「…まも…り…たい…もの…」
「ん。それだけじゃないぞ。考えるだけで、嬉しくなったり、悲しくなったり、きらきらしたり、ぽかぽかしたり、なんか、もう色々とぐちゃぐちゃになって、ここが、ぎゅうってなるって」
「…ここ…」
星様が押さえます胸を僕も、同じ様に押さえます。
確かに、もう、今はぐちゃぐちゃで…胸も痛みます…。
「…とく、べつの…好き…」
「ん、そうだぞ。ゆきおは、おじさんにだけして欲しい事とかあるか? おじさん以外にやられたら嫌な事とかあるか? おじさんにして貰って、嬉しい事とかあるか?」
…旦那様にだけ…?
他の人にされたら…嫌な…こ…と…。
「…あり…ま…す…」
…旦那様にだけ…して欲しい事…。
…旦那様がしてくれて、嬉しい事…。
「ん。それが、特別なすきって事だぞ!」
「…ふえ…ぇ…。…は、はな…鼻を…また摘まんで欲しい…で…」
「ん」
「…あ、あたま…ふえっ…な、でてほし…」
「ん」
「…お、ふえっ…ちんちんも…ふえ…触って…ほし…」
「ん。………………………………………う、ん…?」
星様が首を傾げましたが、僕はそれに気付かずに話します。
ぽろぽろと、涙と一緒に零れて行きます。
「…だ、んなしゃま…あいた…です…ふえ…ぇ…で、でも、ぼ、ぼく…あ、あんな事言って…ふえぇ…か、えれな…ふえっ…」
「だいじょぶ。だいじょぶだぞ。おじさんもゆきおの事すきだから、何の心配もないぞ!」
「そ、なこと…ない…。…きら…われ…ました…僕が…わが…ままだか…ふえぇっ…」
「だいじょぶ! おいら、嘘は言わない! ほら、これ食べろ! 泣いたら腹へったろ? 朝作って冷やしてたんだ! あと、腹冷やしたらゴロゴロするから、あったかいお茶!」
星様がべっどから立ち上がり、机の上に置いていたお盆を手に取り、再び僕の隣へと腰を下ろして、二つある内の丼の一つを差し出して来ました。
「ふえ…こ、れは…?」
「いーから、蓋開けてみろ!」
…喉が詰まっている感じで、正直何かを食べたいとは思わないのですが…。
ひんやりとした丼を受け取りまして、首を傾げます僕に星様が笑顔で促します。
丼と言いましたら、中に入っているのはご飯物ですよね? 親子丼とか、天丼とかだと思われますが。しかし、この丼は冷たいです。あ、たぬきうどんとかでしょうか?
「…せ、いさま…こ、れは…?」
蓋を開けまして、そこに見えた色に僕は目を瞬かせました。
その時に目に溜まっていた涙も零れましたが、それきりで、そこから新たに落ちる事はありませんでした。
驚きのあまりに、涙が止まってしまった様です。
そこにありましたのは、薄い黄色い色をした…。
「茶碗蒸し! うまいぞ! ほら!」
星様はにかっと笑いまして、僕から少し距離を取って座り直して、僕達の空いた隙間にお盆を置きまして、ご自身も丼を手に取り、お盆にありましたすぷうんを僕に渡して来ました。
「…冷や…した茶碗蒸し…初めて、です…」
と、言いますか、丼に入った茶碗蒸しも初めてですが…。
「親父殿が、冷やした茶碗蒸しもうまいって教えてくれたんだ。ほら、食べろ!」
そう言いながら、星様が丼の蓋を取り、茶碗蒸しにすぷうんを入れて行きます。
にこにこと、おひさまの様な笑顔で茶碗蒸しを食べ始めた星様を見て居ましたら、僕のお腹が小さく『くう』と、鳴きました。
「ん!」
その音が聞こえたのでしょう。
すぷうんを手にしたまま動かない僕に、すぷうんを銜えたままの星様が大きく頷きました。
「で、では…戴き、ます…」
そろそろとすぷうんで茶碗蒸しを掬いまして、口へと運びます。
冷たいそれは、喉につかえる事は無く、するりと通って行きます。
そして、そのまま胃袋にすとんと落ちた気がしました。
「…美味しい…です…」
…美味しいのですが、丼一杯の茶碗蒸しを全部食べられる気がしません。
「そっか! 残してもいいぞ! 残ったらおいらが食べるから!」
「…はい…」
ですが、星様はそんな僕の心配等必要無いと言う様に、笑ってそう言って下さいました。
ですので、僕も自然と頬が緩んで、次の一口の為にすぷうんを動かしました。
「ほら、ゆきお」
「ありがとうございます」
勢いのまま、星様の手を引いてお屋敷を飛び出してしまった僕でしたが、ずんずんと歩いて行く中で『ゆきお、ゆきお、おいらの家、あっち!』との星様の声に、はた、と立ち止まりました。
そして、気が付きましたら、僕が星様に手を引かれて歩いていました。
星様のお屋敷は、旦那様の物とは違いまして、所謂洋風の物でした。
星様のお部屋にはべっどがありまして、今、僕はそこに腰掛けて、星様が淹れて下さった麦茶に口を付けています。
べっどに座っても良い物なのかと迷う間もなく『ゆきおは、ここ!』と、肩を押されてしまいましたので、大人しく座りました。
「…落ち着いたか? 目、真っ赤だ。顔、洗うか?」
「…ありがとうございます…大丈夫です…みっともない姿を晒してしまい、申し訳ございませんでした…」
目の前の柔らかな絨毯の上に胡坐を掻いて座ります星様に、僕は静かに首を振ります。
「うん? みっともないって、なんだ? 笑いたい時は笑えばいいし、泣きたい時は泣けばいいって、親父殿が言ってたぞ? だから、泣いていいんだぞ?」
不思議そうに首を傾げます星様に、僕は苦笑を零します。
「…いえ…。…自分でも…何故、あの様に取り乱してしまったのか…。…本当に…僕は…子供です…。…きっと…旦那様も呆れて…もう…僕の事なんて見限られた事でしょうね…」
自分で自分の感情を制御出来ないなんて…子供処の騒ぎではありませんよね…。
「うん? そんな事はないぞ? だって、ゆきおのおじさん、きらきらでぽかぽかだったぞ? おいら達の事、泣きそうな顔で見てたぞ?」
「ふえ!? そんな筈がございません! 旦那様はご立派な方で、人前で涙を見せるだなんて、その様なお姿をされる筈もございません!」
奥様が亡くなられた時でも、決して涙を見せる事の無かった旦那様です。
そんな旦那様が、涙を流さなくとも、その様なお顔をされる筈がございません。
「お、おお? ん~? ま、ゆきおがそう言うのなら、おいらの見間違いなのか? でも、な? おじさんがゆきおをみかぎる? 捨てるなんて事は無いぞ? だって、あのきらきらでぽかぽかな箱を作れるんだ。あんなにゆきおの事をきらきらでぽかぽかな気持ちで見てるんだ。それは、絶対にないぞ!」
必死に、僕を慰めようとして下さっているのでしょう。
身体の前で、胸の高さに腕を上げて両手を拳にして星様がお馬さんの尻尾を揺らして力説しています。
その姿が何故かおかしくて、頬が緩みました。
「あ、笑った」
「あ、申し訳ございません。星様の一生懸命なお姿が嬉しくて…つい…」
「んーん! 泣くより、笑う方がいい! 笑ってくれて嬉しいぞ! あ、そだ、ちょっと待ってろ!」
星様は、白い歯を見せて笑ってお部屋を出て行かれました。
そして、星様の足音が聞こえなくなった頃。
「…ふえ…」
途端に口から情けない声が出ました。
僕は、何て事を口にしてしまったのでしょうか?
星様は、ああ言って下さいましたが、旦那様は絶対に呆れています。間違いありません。
そして、僕の事等、もうどうでも良いと思っている事でしょう。
きっと、もう鼻を摘まんでくれる事もありませんし、頭を撫でて下さる事も無いでしょう。
「…ふえぇ…」
本当に、僕は馬鹿です。
大馬鹿者です。
何故、我慢出来なかったのでしょう?
何故、あの様な事を口走ってしまったのでしょう?
本当に、救いようのない粗忽者です。
僕は、これからどうしたら良いのでしょう?
お屋敷には、もう、戻れません。
僕が、自分から…自らの手で手放してしまったのですから…。
あの、暖かい場所を。
星様が言う、きらきらでぽかぽかな場所を。
「ふえぇっ…ふぇっ…嫌…です…嫌われても…呆れられても…お傍に居た、い…です…ふえっ…」
…特別になれなくても良いです…。
「…ふえぇっ…」
…鼻を摘まんでくれなくても、頭を撫でてくれなくても良いです…。
「…ふえぇっ…だ、んな、しゃ、ま…」
ただ、ただ、お傍に………。
「…ゆきおは、おじさんがすきなんだな…」
「…ふえ…?」
星様の普段とは違う静かで穏やかな声に、僕は顔を上げます。
何時の間にか、僕の目の前に、困った様に笑う星様が立っていました。
その手に持つお盆には、丼が二つと湯気の立つ湯飲みが二つありました。
「…すきだから、子供って言われて嫌だったんだろ? すきだから、親父って呼びたくなかったんだろ?」
「…す、き…?」
…好き…?
「…ふえっ…? だんな…しゃま…そんけ…、もちろ、ん、ふえっ…好き、で…」
「違うぞ。特別なすきだぞ」
星様はそう言って、お盆を机の上に置いてから僕の隣に座りました。そして、ぽんぽんと頭を軽く叩いてくれます。
「…とく…べつ…?」
「ん。親父殿が言ってたぞ。守りたくて、消えて欲しくなくて、大切なもの。それが、すきだって」
僕の頭をぽんぽんと叩いていた手が、そのまま下がって背中を撫でてくれます。
「…まも…り…たい…もの…」
「ん。それだけじゃないぞ。考えるだけで、嬉しくなったり、悲しくなったり、きらきらしたり、ぽかぽかしたり、なんか、もう色々とぐちゃぐちゃになって、ここが、ぎゅうってなるって」
「…ここ…」
星様が押さえます胸を僕も、同じ様に押さえます。
確かに、もう、今はぐちゃぐちゃで…胸も痛みます…。
「…とく、べつの…好き…」
「ん、そうだぞ。ゆきおは、おじさんにだけして欲しい事とかあるか? おじさん以外にやられたら嫌な事とかあるか? おじさんにして貰って、嬉しい事とかあるか?」
…旦那様にだけ…?
他の人にされたら…嫌な…こ…と…。
「…あり…ま…す…」
…旦那様にだけ…して欲しい事…。
…旦那様がしてくれて、嬉しい事…。
「ん。それが、特別なすきって事だぞ!」
「…ふえ…ぇ…。…は、はな…鼻を…また摘まんで欲しい…で…」
「ん」
「…あ、あたま…ふえっ…な、でてほし…」
「ん」
「…お、ふえっ…ちんちんも…ふえ…触って…ほし…」
「ん。………………………………………う、ん…?」
星様が首を傾げましたが、僕はそれに気付かずに話します。
ぽろぽろと、涙と一緒に零れて行きます。
「…だ、んなしゃま…あいた…です…ふえ…ぇ…で、でも、ぼ、ぼく…あ、あんな事言って…ふえぇ…か、えれな…ふえっ…」
「だいじょぶ。だいじょぶだぞ。おじさんもゆきおの事すきだから、何の心配もないぞ!」
「そ、なこと…ない…。…きら…われ…ました…僕が…わが…ままだか…ふえぇっ…」
「だいじょぶ! おいら、嘘は言わない! ほら、これ食べろ! 泣いたら腹へったろ? 朝作って冷やしてたんだ! あと、腹冷やしたらゴロゴロするから、あったかいお茶!」
星様がべっどから立ち上がり、机の上に置いていたお盆を手に取り、再び僕の隣へと腰を下ろして、二つある内の丼の一つを差し出して来ました。
「ふえ…こ、れは…?」
「いーから、蓋開けてみろ!」
…喉が詰まっている感じで、正直何かを食べたいとは思わないのですが…。
ひんやりとした丼を受け取りまして、首を傾げます僕に星様が笑顔で促します。
丼と言いましたら、中に入っているのはご飯物ですよね? 親子丼とか、天丼とかだと思われますが。しかし、この丼は冷たいです。あ、たぬきうどんとかでしょうか?
「…せ、いさま…こ、れは…?」
蓋を開けまして、そこに見えた色に僕は目を瞬かせました。
その時に目に溜まっていた涙も零れましたが、それきりで、そこから新たに落ちる事はありませんでした。
驚きのあまりに、涙が止まってしまった様です。
そこにありましたのは、薄い黄色い色をした…。
「茶碗蒸し! うまいぞ! ほら!」
星様はにかっと笑いまして、僕から少し距離を取って座り直して、僕達の空いた隙間にお盆を置きまして、ご自身も丼を手に取り、お盆にありましたすぷうんを僕に渡して来ました。
「…冷や…した茶碗蒸し…初めて、です…」
と、言いますか、丼に入った茶碗蒸しも初めてですが…。
「親父殿が、冷やした茶碗蒸しもうまいって教えてくれたんだ。ほら、食べろ!」
そう言いながら、星様が丼の蓋を取り、茶碗蒸しにすぷうんを入れて行きます。
にこにこと、おひさまの様な笑顔で茶碗蒸しを食べ始めた星様を見て居ましたら、僕のお腹が小さく『くう』と、鳴きました。
「ん!」
その音が聞こえたのでしょう。
すぷうんを手にしたまま動かない僕に、すぷうんを銜えたままの星様が大きく頷きました。
「で、では…戴き、ます…」
そろそろとすぷうんで茶碗蒸しを掬いまして、口へと運びます。
冷たいそれは、喉につかえる事は無く、するりと通って行きます。
そして、そのまま胃袋にすとんと落ちた気がしました。
「…美味しい…です…」
…美味しいのですが、丼一杯の茶碗蒸しを全部食べられる気がしません。
「そっか! 残してもいいぞ! 残ったらおいらが食べるから!」
「…はい…」
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ですので、僕も自然と頬が緩んで、次の一口の為にすぷうんを動かしました。
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