時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第七節「絆と絆 その信念 引けぬ想い」

~Blue-Sky <その心の色>~

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 透き通った青の空は人の想いをも乗せて流れ行く。
 ならば、如き心の色が色合いをより濃くさせて、人の想いを繋ぐ事になるのなら―――

 ―――少年は、前に進む事を躊躇わないだろう。

 自身が望む、願いの形を持ち続ける限り……





「終わった……のでしょうか?」

「さ、さぁ?」

 剣聖の突然の退場はギャラリーにも唖然を呼び込んだ様だ。
 熱気が冷めやらぬ中、既に兵士達は持ち場へと戻り始めていて。
 当事者であるフェノーダラ王達も困惑するばかりである。

「ただ、剣聖殿が興を削がれたのは確かだ。 ああなればもう安心していいだろう」

「そ、そうなのですか?」

 どうやらフェノーダラ王曰く、これはいつもの通りとの事で。
 翻訳するレンネィの頷きも合わせて聴けば、福留も「ホッ」と一安心だ。

「ところで、エウリィさんは?」

「あら、あの子どこに行ったのかしら~」

 しかしそんな話をしている間にも、エウリィの姿はもはやここに無く。
 流れる様に出ていく兵士達の影からも覗きはしない。

 分け隔てなく心の色を読めるからこそ、見るよりも早くわかる事があるのかもしれない。

「我々も戻りましょう。 勇君がいつ戻って来てもいい様にね?」

 それはどうやらレンネィも同様らしい。
 ただ彼女に限ってはいわゆる女の勘、というヤツであろうが。



 こうしてフェノーダラ王も福留も、レンネィに誘われるまま城壁を後にする。
 勇と剣聖の類稀なる戦いを経て昂った感情を抱きながら。
 汗をにじませた拳を握り締めて。

 どちらも年甲斐無く、皆揃って今の戦いに興奮していた様だ。





◇◇◇





「さぁ勇様、お手を」

 勇が疲れ果てて空を見上げていた時、不意にそんな声が耳へと届く。
 ふと振り向いて見れば、そこには手を差し出すエウリィの姿が。
 優しく穏やかな微笑みを向けていて、まるで勇の戦いを労うかのよう。

「あれ、エウリィさん、ここ城の外―――」
「今だけですから。 さぁ」

 エウリィが外に出る事はフェノーダラ王に禁じられている。
 彼女が現代世界において世間知らずであり、危機に晒されない様にという親心からの配慮で。

 ただ、今だけは。

 戦いに疲れ果て、きっと手を差し伸べる者が必要となるだろう。
 それが今一番相応しいのは彼女だろうから。

 もうエウリィの行為を目にする者は居ない。
 全てレンネィが退けた後だ。

「ありがとうエウリィさん……」

 でもきっとそんな視線などあっても関係無いのだろう。
 勇を想う気持ちは嘘ではないのだから。



 こうして互いに手を取り、勇がようやく立ち上がる。
 ただこの時、不思議と……体がほんのり軽くなったようにも感じていた。










 それから数分後。
 勇はエウリィに連れられて大広間へと戻っていた。

 剣聖はどうやら自室に戻った様で、鍵まで掛けて締め出しっきりらしく。
 髪を切られた事がよほどショックだったのだろう。
 駄々を捏ねる辺りはますます子供っぽい。

 とはいえ、危機が去ったのも事実。

 というのも……その証拠と言わんばかりに、大広間に戻って来た勇を賛辞が迎えてくれたのだ。
 フェノーダラ王も含め、兵士達もが集まって勇に声援を贈ったのである。

「もしかしたら不安を抱いているかもしれんから先に教えておこう。 剣聖殿はもうアルライの里へは向かわんよ。 アレはそういう人間だからね」

 どうやらフェノーダラ王は語る前に勇の微かな不安を見抜いた様子。



 何でも、勇の心配は杞憂だという。
 それと言うのも、剣聖が二度とアルライに興味を持つ事は無いのだとか。

 剣聖は例えるなら、一度火が付けば燃える限り動き続ける蝋燭ろうそくの様なもので。
 しかし一度その火が消えれば一瞬にして興味を失い、時間を置けばさらっと忘れてしまうらしい。



 剣聖らしいと言えば剣聖らしいのだが、ますます自己中心的と言うかなんというか。
 これにはもはや勇も失笑気味である。

「しかし君の心配もわかる。 なので今後剣聖殿が再び気を起こす様なら早めに伝える事にしよう」

「ありがとうございます、王様」

 この配慮が勇にとってどれだけ心強いか。
 思わずお辞儀をしてしまいそうになる程に。

 ただまだ戦いの疲れが抜けきっていない様で、思わず足の覚束ない様子を見せつける。
 エウリィが居なかったらきっと転んでいたかもしれない。

 でもほんの少し、女の子に支えて貰っている事が恥ずかしいのだろうか。
 誤魔化す様に苦笑を浮かべる姿が。

「さて、今日はこの辺りにしておきましょうか。 勇君もお疲れでしょうしね」

 そんな勇へと配慮する様に、福留が車のキーをくるりと回す。
 堂々と腰を降ろして休める場所は車の中だけだから。

 でももしかしたら、今だけは違うのかもしれない。

「福留様、申し訳ありませんが少しだけお時間を頂けませんか?」

「えっ? あ、はい。 勇君がそれでいいなら構いませんよ」

「御厚意ありがとうございます。 勇様、どうかもう少しだけ耐えてくださいませ」

「うん? わかった、頑張ってみる」

 するとエウリィは何を思ったのか、肩を貸したまま勇と共に城壁上への道へ。
 広場に残った者達がただ静かに、暖かい眼差しで見守る中で。



 城壁への道は、疲れきった勇には少しきつそうだ。
 一段一段が不規則な高さで積み上げられていたから。

 それでもエウリィの助けの下で、二人はようやく城壁上へ。
 するとたちまち微風が体を優しく撫で始めていて。

「さぁ、勇様こちらへ」

 そのまま太陽の下へとその体を晒す。
 夏らしい陽射しが再びじわりとした汗を呼び、息苦しささえ伴わせながら。

 そんな中で何をするのだろうかと、勇に疑問さえも抱かせていて。

「勇様、私の背中に体をお預けくださいませ。 寄り掛かる様にして」

 しかしその中で放たれたエウリィの言葉が思わず勇の動揺を呼ぶ。

「えっ!? で、でも―――」

「こう見えて私、体の強さには自信があるのです。 ですから大丈夫です。 恥ずかしければ背中合わせでも構いませんから」

「う、うん……」

 エウリィの示す行為が何を意味するか、勇にはわからない。
 でもそう恥ずかしげも無く語るエウリィが意味の無い事をするとは到底思えなくて。

 そう言われるがまま小さな体へとそっと背中を預ける。
 気を抜けばこのまま倒れ込んでしまいそうな程にか細い背中に。

 でも預けて初めてわかる。
 その安定感が。
 いつかは恐ろしいとさえ思えた力が、今はこれ程に無く頼もしくさえ感じさせてならない。

 それだけではなく、服を通した背中に彼女の肌の感触がジワリと伝わり始めていて。

 彼女の纏う服もまた勇と同様に汗を伴っているのだろう。
 しっとりとした感触が二人の背中を覆っていた。

 でも不思議と不快ではない。
 むしろどこか心地良く、それでいて落ち着ける。
 そのまま眠ってしまいそうな程に。

 するとそんな時、不意に勇の垂れた両手へ別の感触が。
 エウリィがその両手を掴み取っていたのだ。

 まるでその場所だけ時が止まったかの様に、二人は静かにその身を重ね合う。

 そんな少女が少年を支える姿は、身と心を寄せ合う恋人そのもので。
 こうやって支え支えられる事に何一つ苦が無いからこそ、二人は心を通じ合う事が出来るのだ。

「エウリィさん……君は心の色が見えるんだね」

「ええ、最初から貴方の心をずっと見ていました。 透き通って先が見えてしまう程に薄く青い澄んだ色だと。 そしてその色も今こうして更に濃さを増しているからこそ、私は貴方にこうして背中を預けられるのだと思います」

 背中の感触同様に、握り合った手もまた柔らかくて心地良い。
 まるで命力が伝わってくる……そんな気がしてならない程に、心が軽くなっていく感じがして。
 今なら一人で立てそうだとさえ思える程に。

 それでも勇はまだ離れたいとは思わない。

 今はこうして彼女の声を聴いて。
 彼女の想いに応えたかったから。

 その先に待つ答えを、聞きたかったから。



「私は貴方の心の色が好き。 だから私は望みます。 その色がいつまでも貴方の心であり続ける事を。 私の愛する貴方であり続けてくれる事を」



 それはきっと彼女だけの望み。
 空の色を望む彼女だけの願い。

 それでも勇は望むだろう。
 その想いに応えたいと願うだろう。

 彼女が「好き」だと言ってくれた心をいつまでも持ちたいと―――願うだろう。

 背中越しに伝わる想いは言葉を超えて。
 温もりと、愛情と、強い願いを響かせる。

 だから勇はその全てを、エウリィへと預ける事が出来た。
 


―――これが彼女の優しさ……なんだな―――



 青い空が包む高台の上で、互いに背を預けて目を瞑り。
 両手は気付けば絡み合う様にして握り合い、より強い想いを感じ合う。

 この時二人はきっと感じているのだろう。
 互いを想う優しさを。
 相手を慈しむ事の愛しさを。



「エウリィさん……俺、約束するよ。 今の自分で在り続けるって事を」

「はい、信じています。 いつまでも―――」



 だから二人は―――こうして気持ちを伝え合う事が出来た。





 世界はきっと、勇達が思う程には単純ではないのだろう。
 不信と疑念に塗れ、責任を伴わなければならない世界なのだから。

 でもきっと、違う世界に生まれたこの二人がこうして背中を合わせる限り。

 まだ人は、単純でいる事を許されるのだ。



 人間と魔者、背中合わせのえる世界。
 けれどこうして背中を合わして伝わる世界もあるのだから―――

 ―――人間も魔者も、いつか相まみえる日が訪れることだろう。



 互いの手を取り合う為に。





第七節 完


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