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第八節「心の色 人の形 力の先」
~王女様、外出につき~
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翌日―――空がようやく暗みを取り払った時間帯。
北へと向かう電車の中に、勇とちゃなの姿があった。
今日の計画をざっくり説明するとこうだ。
早朝に勇がエウリィを栃木まで迎えに行き。
そのままUターンして東京へと戻り。
ちゃなと合流して千葉のミズニーランドへと向かう。
十時前にランド前へと到着し、そのまま遊びに入る―――といった感じ。
ただそれであのちゃなが納得するはずもなく。
こうして二人で早起きし、一緒に栃木へと向かっているという訳だ。
とはいえ、目的である栃木駅は片道一時間半も走れば辿り着く距離で。
おまけに下り列車なので、通勤ラッシュに引っ掛からずにゆっくり座って来れる。
そんな訳で少しウトウトしていれば、あっという間に目的地へと到着。
颯爽と改札口へ向けて歩み行く。
すると早速、二人の視界に一際目立った存在が映り込んだ。
「あ! 勇様ー!!」
そう、エウリィである。
彼女が改札口前で待っていたのだ。
しかも普段と余り大差の無い、白い薄手のドレスを身に纏って。
今までと違うのは、肩にロングベルトポシェットを下げている所くらいか。
手荷物用にと持たされた物だろう。
そういう事もあってとにかく目立つ。
青い髪と瞳と白い肌も相まってなおの事。
周囲の視線を惹き付ける程に。
もちろん彼女一人ではない。
特事部の女性職員による送迎付きだ。
その職員はと言えば、ショートヘアに眼鏡を掛けた二十代程の女性。
様相は上下黒のスーツを着込んだ如何にもな人物で。
見た目で言えば、まるでエウリィのSPだ。
ちなみに勇も本部敷地内で会った事があるので既に知っている。
と言っても会話を交わした事は殆ど無く、物静かなイメージが強いが。
「勇様、お久しゅうございます!!」
勇とちゃなが改札口から出て来ると、早速元気なエウリィの挨拶が出迎えた。
小さく可愛く手を振る辺りは、少し周りの目を気にしているのだろうか。
「エウリィさん相変わらず元気だね。 王様困らせてなかった?」
「お父様は少し私に優しくないのです。 あれで良いのです!!」
「は、はは……」
しかし父親の話ともなると、途端に胸前に腕を寄せて「ぷぅ」と怒って見せる。
親の心子知らずか、それとも逆か。
この調子だとまた王様が気落ちしてそうで、勇としても実に複雑だ。
このあいだ窮地を救ってもらった恩もあるのでなおさらだろう。
「藤咲さん、後の事はお任せします。 お帰りの際は、電車に乗る直前にこちらの番号かメールアドレスへ一報ください」
「わかりました」
そんな二人のやりとりの最中を縫って、女性職員から紙を一枚差し出され。
勇がそれを受け取り、そっと懐へと仕舞い込む。
その時見せた女性の会釈は深々と、それでいて流れる様に丁寧。
見た目からして育ちがわかりそうな程に綺麗なお辞儀だ。
勇が思わず「ど、ども」と恐縮してしまう程に。
「それじゃあ行こうか」
ともあれ、これでエウリィとは合流完了。
後は予定の電車に乗り遅れなければいいだけだ。
という訳で早速、勇とちゃなが再び改札口を通り抜ける。
だが。
振り向いて見れば、そこには立ち止まったエウリィの姿が。
やはり初めてとあって物怖じしているのだろうか。
……と思いきや、自動改札機をまじまじと眺めていて。
やはり勝手に動いている物には興味津々なのだろう。
あれだけ容赦なくあらゆる機械を分解し続けただけに。
「これを〝ピッ〟てするのですか?」
そんな彼女の手には【Melon】がしっかりと握られている。
全国どこでも使えるという、便利な電子決済カードだ。
きっと女性職員を通して福留に持たされたのだろう。
「うん、そうだよ。 青い光が灯るまでちゃんと触れてね」
そしてその使い方も既に教わっていた様で。
勇が言い切る前に、エウリィは読み取り部へとカードを充てていて。
すると早速ゲートが「バタン」と開いて彼女を受け入れる。
「まぁすごい。 これは一体どういう仕組みなのでしょうか?」
でもそのエウリィはと言えば、相も変わらず機械に興味津々で。
遂には改札機に触れ、ゲートとの隙間から中身を覗こうと屈みこむまでに。
けれどそんな事をしていれば当然―――
「エウリィさん、後がツカえるから一旦こっちに来てー」
勇の声が聴こえ、ふと後ろを向いてみれば。
エウリィの背後には何人もの行列が生まれている訳で。
事情を知らぬ人々はと言えば、余裕が無い様でどこか不満そうだ。
「あら、申し訳ありません」
しかしそこはさすがのエウリィか。
お淑やかに「フフッ」と笑みを零し、丁寧な足捌きで素早く通り抜けていく。
そんな彼女の姿はやはり目立っている様で。
一連の様子を眺めていたり、中には写真に納める者も。
といっても、そんな興味もすぐに逸れる訳だが。
時代柄、奇抜な格好で街を歩く人間も増えてきていて。
エウリィの様な青い髪に染める子も少なくは無く。
だからレンネィ然り、エウリィもコスプレと見間違えられているのだろう。
注目を浴びているのは、それだけ完成度が高いからに過ぎない。
これこそ作り物ではない、ナチュラルに出来上がった者の強みである。
「にしても、もう少し目立たない様に出来なかったのかなぁ」
この際、そんな容姿は仕方ないとして。
白いドレスだけは事前にどうにか出来たはずなのだが。
「福留さんからお出掛け用の服とか渡されてない?」
「渡されたには渡されたのですが、お父様が外に出るならこれをと。 フェノーダラの伝統染め物で作ったお洋服ですから、きっと恥ずかしくないでしょうし」
「な、なるほど。 王様も現代の事知らないのになぁ……」
どうやら間に余計な入れ知恵が割り込んだ様だ。
これもフェノーダラ王の娘を愛するが故か。
こうして裏目に出ると、勇としては何も言える訳も無く。
良かれと思ってやった事なだけになおさらである。
しかも時間的に新しい服を選んでいる暇は無い。
もうすぐ予定時刻の電車が訪れる時間なので。
それに、その気になれば現地でも着替える事は出来る。
なにせミズニーランドはコスプレイヤーも受け入れる自由と夢の国である事で有名。
園内でもそういった服を扱っているので、チャンスは幾らでもあるだろう。
(※モチーフ元でのコスプレは禁止されています。 間違えなきようお願い致します)
という訳で結局、そのままの服装でミズニーランドへと赴く事に。
電車に乗り遅れないよう、三人揃って足早にホームへと下りていく。
そして早速扉位置に立つ勇達。
一般人に混じって並び立つお姫様の実にシュールな事か。
王冠やティアラの様な装飾品が無いだけまだマシかもしれないが。
「ここから『デンシャ』に乗り込む訳ですね、楽しみです」
そんな最中もエウリィは周囲をキョロキョロと眺めていて。
「わぁ」と目を輝かせてとても嬉しそう。
例えただの広告看板であろうとも、彼女にとっては色鮮やかな絵画。
例えなんて事の無い石段であろうとも、彼女にとっては幾何学的なオブジェ。
例え普通のレールであろうとも、彼女にとっては無限に続く夢の橋。
全てが見た事の無い物だから、何もかもが珍しい。
もうこれだけで彼女の欲求が満たされてしまいそうな程に、世界は未知なる物で溢れているのだ。
「電車の中には他の人も一杯居るから、あまり迷惑掛けない様にね」
「存じております。 留意する様にと教えて頂きました」
これも女性職員から聞いているのだろう。
言いつけを守っている限りは心配無さそうだ。
もっとも、彼女の常識が現代に通用すれば、であるが。
服の事という前例がある以上、不安は否めない。
『間もなく一番線に列車が参ります。 危ないですから白線の内側に―――』
「あ、来た来た」
そうこうしている間に、場内にアナウンスが流れ。
間も無く、陽炎揺らぐ彼方から一台の列車が走ってくる。
パッと見た目は箱状の何か。
でも後の後まで続くその長さに、エウリィももう「わぁー……」と感嘆の溜息を漏らすばかりだ。
「まぁ、あんなに大きい物がこの様な速さで……!」
平気だとわかっているとはいえ、やはり大きい物が接近してくるのはさすがに怖い様で。
近づいてくる列車を前に、ほんの少し後ずさり。
それでも横切る巨体に堪らず惹かれ、先頭車両をその目その顔で追う。
そんな初々しい様子を見せるエウリィに、勇もちゃなも微笑みを綻ばさずにはいられない。
車両が止まると、即座に扉が「プシュー」と開き。
勇とちゃなが早速車両へと乗り込んでいく。
しかし、エウリィはその一歩が踏み出せないでいた。
驚きの連続で物怖じが極まってしまったのだろう。
振り向く勇達を前に、どうにも固まって動けない様で。
もしかしたら今の彼女には、ホームと電車の隙間が大穴に見えているに違いない。
「あ、エウリィさん―――」
だがそんなエウリィの姿を見た時、勇はとある事をふと思い出す。
それは先日に母親がそれとなく口にした一言。
―――ちゃんとエスコートしてあげなさいよ?―――
あの時はただの冗談にしか聴こえなくて。
でもこうして思い出した時、その心強い一言が勇の背中を押し。
こうして生まれた勇気が、即座に行動へと移させた。
心の赴くままに、掌をそっと差し出したのである。
それはまるでお姫様を迎える王子様の様に。
いつか福留が見せてくれた、ちゃなを支えるその姿を真似て。
そしてそれがきっと正解だったのだろう。
呼び水となった掌がエウリィの手を誘って。
そのまま添えられた手を掴み、そっと引き寄せる。
たったそれだけで、彼女の体は「ピョンッ」と車内へ入り込む事が出来たのだ。
「ありがとうございます、勇様っ」
「うんっ」
こんな気遣い一つで相手にも勇気を与えられる。
それをこうして身を以って体験する事が出来たから。
勇もまた、エウリィへの感謝の気持ちを抱かずにはいられない。
―――これがエスコートなんだな。 こういうのも何だか悪くない―――
照れくさくもあり、嬉しくもあり。
そんな勇の口元には思わず「ニシシ」とした笑みが浮かぶ。
どうやら初っ端から良い所を見せられたのが何より気分良かった様だ。
対するエウリィはと言えば、閉まっていく扉に好奇心を奪われていた訳であるが。
何はともあれ、これでようやく出発に。
別世界のお姫様を乗せた列車は、その真実を知る事無く走り始める。
目的地は千葉県、自由と夢の国ミズニーランド。
果たしてこの道中、三人は無事に乗り切る事が出来るのだろうか。
北へと向かう電車の中に、勇とちゃなの姿があった。
今日の計画をざっくり説明するとこうだ。
早朝に勇がエウリィを栃木まで迎えに行き。
そのままUターンして東京へと戻り。
ちゃなと合流して千葉のミズニーランドへと向かう。
十時前にランド前へと到着し、そのまま遊びに入る―――といった感じ。
ただそれであのちゃなが納得するはずもなく。
こうして二人で早起きし、一緒に栃木へと向かっているという訳だ。
とはいえ、目的である栃木駅は片道一時間半も走れば辿り着く距離で。
おまけに下り列車なので、通勤ラッシュに引っ掛からずにゆっくり座って来れる。
そんな訳で少しウトウトしていれば、あっという間に目的地へと到着。
颯爽と改札口へ向けて歩み行く。
すると早速、二人の視界に一際目立った存在が映り込んだ。
「あ! 勇様ー!!」
そう、エウリィである。
彼女が改札口前で待っていたのだ。
しかも普段と余り大差の無い、白い薄手のドレスを身に纏って。
今までと違うのは、肩にロングベルトポシェットを下げている所くらいか。
手荷物用にと持たされた物だろう。
そういう事もあってとにかく目立つ。
青い髪と瞳と白い肌も相まってなおの事。
周囲の視線を惹き付ける程に。
もちろん彼女一人ではない。
特事部の女性職員による送迎付きだ。
その職員はと言えば、ショートヘアに眼鏡を掛けた二十代程の女性。
様相は上下黒のスーツを着込んだ如何にもな人物で。
見た目で言えば、まるでエウリィのSPだ。
ちなみに勇も本部敷地内で会った事があるので既に知っている。
と言っても会話を交わした事は殆ど無く、物静かなイメージが強いが。
「勇様、お久しゅうございます!!」
勇とちゃなが改札口から出て来ると、早速元気なエウリィの挨拶が出迎えた。
小さく可愛く手を振る辺りは、少し周りの目を気にしているのだろうか。
「エウリィさん相変わらず元気だね。 王様困らせてなかった?」
「お父様は少し私に優しくないのです。 あれで良いのです!!」
「は、はは……」
しかし父親の話ともなると、途端に胸前に腕を寄せて「ぷぅ」と怒って見せる。
親の心子知らずか、それとも逆か。
この調子だとまた王様が気落ちしてそうで、勇としても実に複雑だ。
このあいだ窮地を救ってもらった恩もあるのでなおさらだろう。
「藤咲さん、後の事はお任せします。 お帰りの際は、電車に乗る直前にこちらの番号かメールアドレスへ一報ください」
「わかりました」
そんな二人のやりとりの最中を縫って、女性職員から紙を一枚差し出され。
勇がそれを受け取り、そっと懐へと仕舞い込む。
その時見せた女性の会釈は深々と、それでいて流れる様に丁寧。
見た目からして育ちがわかりそうな程に綺麗なお辞儀だ。
勇が思わず「ど、ども」と恐縮してしまう程に。
「それじゃあ行こうか」
ともあれ、これでエウリィとは合流完了。
後は予定の電車に乗り遅れなければいいだけだ。
という訳で早速、勇とちゃなが再び改札口を通り抜ける。
だが。
振り向いて見れば、そこには立ち止まったエウリィの姿が。
やはり初めてとあって物怖じしているのだろうか。
……と思いきや、自動改札機をまじまじと眺めていて。
やはり勝手に動いている物には興味津々なのだろう。
あれだけ容赦なくあらゆる機械を分解し続けただけに。
「これを〝ピッ〟てするのですか?」
そんな彼女の手には【Melon】がしっかりと握られている。
全国どこでも使えるという、便利な電子決済カードだ。
きっと女性職員を通して福留に持たされたのだろう。
「うん、そうだよ。 青い光が灯るまでちゃんと触れてね」
そしてその使い方も既に教わっていた様で。
勇が言い切る前に、エウリィは読み取り部へとカードを充てていて。
すると早速ゲートが「バタン」と開いて彼女を受け入れる。
「まぁすごい。 これは一体どういう仕組みなのでしょうか?」
でもそのエウリィはと言えば、相も変わらず機械に興味津々で。
遂には改札機に触れ、ゲートとの隙間から中身を覗こうと屈みこむまでに。
けれどそんな事をしていれば当然―――
「エウリィさん、後がツカえるから一旦こっちに来てー」
勇の声が聴こえ、ふと後ろを向いてみれば。
エウリィの背後には何人もの行列が生まれている訳で。
事情を知らぬ人々はと言えば、余裕が無い様でどこか不満そうだ。
「あら、申し訳ありません」
しかしそこはさすがのエウリィか。
お淑やかに「フフッ」と笑みを零し、丁寧な足捌きで素早く通り抜けていく。
そんな彼女の姿はやはり目立っている様で。
一連の様子を眺めていたり、中には写真に納める者も。
といっても、そんな興味もすぐに逸れる訳だが。
時代柄、奇抜な格好で街を歩く人間も増えてきていて。
エウリィの様な青い髪に染める子も少なくは無く。
だからレンネィ然り、エウリィもコスプレと見間違えられているのだろう。
注目を浴びているのは、それだけ完成度が高いからに過ぎない。
これこそ作り物ではない、ナチュラルに出来上がった者の強みである。
「にしても、もう少し目立たない様に出来なかったのかなぁ」
この際、そんな容姿は仕方ないとして。
白いドレスだけは事前にどうにか出来たはずなのだが。
「福留さんからお出掛け用の服とか渡されてない?」
「渡されたには渡されたのですが、お父様が外に出るならこれをと。 フェノーダラの伝統染め物で作ったお洋服ですから、きっと恥ずかしくないでしょうし」
「な、なるほど。 王様も現代の事知らないのになぁ……」
どうやら間に余計な入れ知恵が割り込んだ様だ。
これもフェノーダラ王の娘を愛するが故か。
こうして裏目に出ると、勇としては何も言える訳も無く。
良かれと思ってやった事なだけになおさらである。
しかも時間的に新しい服を選んでいる暇は無い。
もうすぐ予定時刻の電車が訪れる時間なので。
それに、その気になれば現地でも着替える事は出来る。
なにせミズニーランドはコスプレイヤーも受け入れる自由と夢の国である事で有名。
園内でもそういった服を扱っているので、チャンスは幾らでもあるだろう。
(※モチーフ元でのコスプレは禁止されています。 間違えなきようお願い致します)
という訳で結局、そのままの服装でミズニーランドへと赴く事に。
電車に乗り遅れないよう、三人揃って足早にホームへと下りていく。
そして早速扉位置に立つ勇達。
一般人に混じって並び立つお姫様の実にシュールな事か。
王冠やティアラの様な装飾品が無いだけまだマシかもしれないが。
「ここから『デンシャ』に乗り込む訳ですね、楽しみです」
そんな最中もエウリィは周囲をキョロキョロと眺めていて。
「わぁ」と目を輝かせてとても嬉しそう。
例えただの広告看板であろうとも、彼女にとっては色鮮やかな絵画。
例えなんて事の無い石段であろうとも、彼女にとっては幾何学的なオブジェ。
例え普通のレールであろうとも、彼女にとっては無限に続く夢の橋。
全てが見た事の無い物だから、何もかもが珍しい。
もうこれだけで彼女の欲求が満たされてしまいそうな程に、世界は未知なる物で溢れているのだ。
「電車の中には他の人も一杯居るから、あまり迷惑掛けない様にね」
「存じております。 留意する様にと教えて頂きました」
これも女性職員から聞いているのだろう。
言いつけを守っている限りは心配無さそうだ。
もっとも、彼女の常識が現代に通用すれば、であるが。
服の事という前例がある以上、不安は否めない。
『間もなく一番線に列車が参ります。 危ないですから白線の内側に―――』
「あ、来た来た」
そうこうしている間に、場内にアナウンスが流れ。
間も無く、陽炎揺らぐ彼方から一台の列車が走ってくる。
パッと見た目は箱状の何か。
でも後の後まで続くその長さに、エウリィももう「わぁー……」と感嘆の溜息を漏らすばかりだ。
「まぁ、あんなに大きい物がこの様な速さで……!」
平気だとわかっているとはいえ、やはり大きい物が接近してくるのはさすがに怖い様で。
近づいてくる列車を前に、ほんの少し後ずさり。
それでも横切る巨体に堪らず惹かれ、先頭車両をその目その顔で追う。
そんな初々しい様子を見せるエウリィに、勇もちゃなも微笑みを綻ばさずにはいられない。
車両が止まると、即座に扉が「プシュー」と開き。
勇とちゃなが早速車両へと乗り込んでいく。
しかし、エウリィはその一歩が踏み出せないでいた。
驚きの連続で物怖じが極まってしまったのだろう。
振り向く勇達を前に、どうにも固まって動けない様で。
もしかしたら今の彼女には、ホームと電車の隙間が大穴に見えているに違いない。
「あ、エウリィさん―――」
だがそんなエウリィの姿を見た時、勇はとある事をふと思い出す。
それは先日に母親がそれとなく口にした一言。
―――ちゃんとエスコートしてあげなさいよ?―――
あの時はただの冗談にしか聴こえなくて。
でもこうして思い出した時、その心強い一言が勇の背中を押し。
こうして生まれた勇気が、即座に行動へと移させた。
心の赴くままに、掌をそっと差し出したのである。
それはまるでお姫様を迎える王子様の様に。
いつか福留が見せてくれた、ちゃなを支えるその姿を真似て。
そしてそれがきっと正解だったのだろう。
呼び水となった掌がエウリィの手を誘って。
そのまま添えられた手を掴み、そっと引き寄せる。
たったそれだけで、彼女の体は「ピョンッ」と車内へ入り込む事が出来たのだ。
「ありがとうございます、勇様っ」
「うんっ」
こんな気遣い一つで相手にも勇気を与えられる。
それをこうして身を以って体験する事が出来たから。
勇もまた、エウリィへの感謝の気持ちを抱かずにはいられない。
―――これがエスコートなんだな。 こういうのも何だか悪くない―――
照れくさくもあり、嬉しくもあり。
そんな勇の口元には思わず「ニシシ」とした笑みが浮かぶ。
どうやら初っ端から良い所を見せられたのが何より気分良かった様だ。
対するエウリィはと言えば、閉まっていく扉に好奇心を奪われていた訳であるが。
何はともあれ、これでようやく出発に。
別世界のお姫様を乗せた列車は、その真実を知る事無く走り始める。
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