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第八節「心の色 人の形 力の先」
~夢の国、されど雲行き妖しく~
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ゲート前は開園してから一時間ほど経とうとも未だ大人数で賑わっている。
でも決して列が溢れる事は無く、一定の流れが生まれていて。
そもそもが混雑を想定した場所だけあって、運びは実にスムーズ。
通る際には係員が妙に首を傾げていたが、それ以外は特に何の問題も無く。
お陰で勇達も人の流れのままに、ようやく園内へと足を踏み入れる。
そしてその途端に現れたのは―――如何にもファンタジックな建物達だった。
ミズニーとは創業以来、独自の幻想世界を構築してきた世界的なエンターテイメント企業だ。
その歴史は数十年と長く、全てはヴォルト・ミズニーという一人の男の創作から始まったという。
彼等が提供するのは基本的に子供向けのアニメーション。
灰色ネズミをモチーフにしたキャラクターである【ビッキー】を主軸とした独特の世界観が売りで。
その歴史において育まれてきた技術は都度あるごとに評価され、人々の目に留まり続けた。
お陰で今では老若男女、人種や国境を超えた多くの人々に愛され続けている。
彼等が創るのは主に洋風の物語。
王子様やお姫様が出てきたり、騎士や魔法使いやドラゴンが出てきたり。
かくいうシンボルの城もそんなファンタジーの中に登場した建造物がモチーフとなっている。
いや、城だけではない。
この園内に存在する建物はアニメーションの中に登場した物と全て同じ。
そう、ミズニーランドとは―――かのヴォルト・ミズニーが創り出した幻想世界を現実化させたものなのである。
「わぁー! やったぁ!! 夢のミズニーランドだぁ!!」
数々の幻想的な建物達を前に、ちゃなのテンションはもう既に最高潮だ。
余りにも嬉しかったのか、遂にはピョンピョンと飛び跳ねる程のはしゃぎよう。
もはや勇もエウリィも忘れたかの様に周囲を眺め始めて止まらない。
きっと小さな頃から憧れていたのだろう。
もしかしたらミズニーアニメを満足に見る事も出来なかったかもしれない。
でもこうして願いが一つ叶った。
だから今だけは、彼女が主人公のお姫様気分になっても許されるだろう。
そんなちゃなの姿を、勇とエウリィが後ろから静かに見守る。
今までに見せた事の無い様な喜びっぷりは、二人にも大きな笑顔をもたらしていた。
「ちゃな様、とても嬉しそう……」
「昨日から凄く行きたがってたから、よほど楽しみだったんだろうね」
「でもその気持ち、なんとなくわかります。 この道中に見て来た物とも違う、ふんわりとした雰囲気を感じてなりませんから。 まさに夢の中にいる様な感覚です」
エウリィも何故そう感じているのか具体的にはわかっていない。
ただその雰囲気は勇も同様に感じていて。
やはりこのテーマパーク全てが現実には無い世界観を有しているからだろうか。
勇もちゃなも、この二ヶ月で非現実的な世界を幾つも垣間見て来た。
エウリィも現代という名の非現実を目の当たりにしている。
だからこんな夢世界との境界線が薄れていて、誰よりも強く幻想感を味わっているのだろう。
入口でもこうなのだ。
中に入ればもっと感じる事が出来るかもしれない。
それこそ夢の中なのではないかと勘違いしてしまいそうな程に。
二人もそれが楽しみでしょうがない様だ。
ちゃなに続く足取りはどこか、いつもより歩幅が大きくて。
浮ついた心が思わずその足を軽くさせたのだろう。
こうして始まる夢歩き。
戦いとは無縁の、楽しい冒険が彼等を待っている。
―――はずだったのだが。
「遅いんだけど」
意気揚々とした歩みは間も無く遮られる事となる。
莉那という未知数の存在によって。
その彼女はと言うと、腕を組みながら睨む様に彼等を見つめていて。
雰囲気からしてどうにも不機嫌そう。
相変わらずの無表情なのでそう見えてるだけかもしれないけれども。
「普通に入ったらこんなもんだと思うんだけど、もしかして違う?」
「……ま、別にいいケド」
しかし不機嫌の理由を説明せぬまま、莉那はそのままスタスタと先へ。
後に残された勇達はと言えば、なんだか先程のテンションが嘘の様に萎えていて。
ちゃなもエウリィも再びの膨れっ面で、まるで莉那の不機嫌が移ったかのよう。
「ま、まぁちょっと俺達も悠長にし過ぎてるのかもしれないね?」
「それなら仕方ないのですが……なんだか棘を感じてしまいます」
「むーっ!」
やはり二人とも莉那の態度が気に入らないらしい。
エウリィは特に、心を感じられるだけにより強い不快感をもたらされた様だ。
とはいえ、これには勇も少し同感を得ている訳だが。
でもだからといって喧嘩する訳にもいかない。
問題児とはいえ恩人の可愛がっている孫娘で。
しかもその当人にお願いされて同伴する事になったのだから。
それに何より、もし今回莉那がへそを曲げたりしたら―――
福留の心象が悪くなり、今後の待遇が悪くなるかもしれない。
最悪の場合、魔剣使いとして戦う事も難しくなるかも。
あの人の良い福留だから恐らく平気であろうが、やはり不安は拭えない。
一番立場的に苦しい勇としても、どうにか二人に納得してもらうしかない訳で。
「あんな子みたいだからさ、少しは多目に見てあげよう? 俺達の方が年上だろうし?」
とりあえずは二人をこうしてなだめる他無く。
今の気分は〝仲違いする社員の仲裁をする上司〟と言った所か。
どっちつかずを取らなければならないという心境は、きっと何とも言えぬ複雑さであろう。
「勇様の言う通りですね。 ここは夢の国。 争いは相応しくありませんから」
「エウリィさんがそう言うなら……」
どうやらエウリィはそんな勇の気持ちをわかってくれた様で。
「フフッ」といつもの穏やかな微笑みを勇へと返す。
ちゃなもどうやら渋々であるが頷いてくれた。
これで勇もホッと胸を撫で下ろし、ようやく一安心である。
とはいえ、これはまだ騒動の序章に過ぎないが。
でも決して列が溢れる事は無く、一定の流れが生まれていて。
そもそもが混雑を想定した場所だけあって、運びは実にスムーズ。
通る際には係員が妙に首を傾げていたが、それ以外は特に何の問題も無く。
お陰で勇達も人の流れのままに、ようやく園内へと足を踏み入れる。
そしてその途端に現れたのは―――如何にもファンタジックな建物達だった。
ミズニーとは創業以来、独自の幻想世界を構築してきた世界的なエンターテイメント企業だ。
その歴史は数十年と長く、全てはヴォルト・ミズニーという一人の男の創作から始まったという。
彼等が提供するのは基本的に子供向けのアニメーション。
灰色ネズミをモチーフにしたキャラクターである【ビッキー】を主軸とした独特の世界観が売りで。
その歴史において育まれてきた技術は都度あるごとに評価され、人々の目に留まり続けた。
お陰で今では老若男女、人種や国境を超えた多くの人々に愛され続けている。
彼等が創るのは主に洋風の物語。
王子様やお姫様が出てきたり、騎士や魔法使いやドラゴンが出てきたり。
かくいうシンボルの城もそんなファンタジーの中に登場した建造物がモチーフとなっている。
いや、城だけではない。
この園内に存在する建物はアニメーションの中に登場した物と全て同じ。
そう、ミズニーランドとは―――かのヴォルト・ミズニーが創り出した幻想世界を現実化させたものなのである。
「わぁー! やったぁ!! 夢のミズニーランドだぁ!!」
数々の幻想的な建物達を前に、ちゃなのテンションはもう既に最高潮だ。
余りにも嬉しかったのか、遂にはピョンピョンと飛び跳ねる程のはしゃぎよう。
もはや勇もエウリィも忘れたかの様に周囲を眺め始めて止まらない。
きっと小さな頃から憧れていたのだろう。
もしかしたらミズニーアニメを満足に見る事も出来なかったかもしれない。
でもこうして願いが一つ叶った。
だから今だけは、彼女が主人公のお姫様気分になっても許されるだろう。
そんなちゃなの姿を、勇とエウリィが後ろから静かに見守る。
今までに見せた事の無い様な喜びっぷりは、二人にも大きな笑顔をもたらしていた。
「ちゃな様、とても嬉しそう……」
「昨日から凄く行きたがってたから、よほど楽しみだったんだろうね」
「でもその気持ち、なんとなくわかります。 この道中に見て来た物とも違う、ふんわりとした雰囲気を感じてなりませんから。 まさに夢の中にいる様な感覚です」
エウリィも何故そう感じているのか具体的にはわかっていない。
ただその雰囲気は勇も同様に感じていて。
やはりこのテーマパーク全てが現実には無い世界観を有しているからだろうか。
勇もちゃなも、この二ヶ月で非現実的な世界を幾つも垣間見て来た。
エウリィも現代という名の非現実を目の当たりにしている。
だからこんな夢世界との境界線が薄れていて、誰よりも強く幻想感を味わっているのだろう。
入口でもこうなのだ。
中に入ればもっと感じる事が出来るかもしれない。
それこそ夢の中なのではないかと勘違いしてしまいそうな程に。
二人もそれが楽しみでしょうがない様だ。
ちゃなに続く足取りはどこか、いつもより歩幅が大きくて。
浮ついた心が思わずその足を軽くさせたのだろう。
こうして始まる夢歩き。
戦いとは無縁の、楽しい冒険が彼等を待っている。
―――はずだったのだが。
「遅いんだけど」
意気揚々とした歩みは間も無く遮られる事となる。
莉那という未知数の存在によって。
その彼女はと言うと、腕を組みながら睨む様に彼等を見つめていて。
雰囲気からしてどうにも不機嫌そう。
相変わらずの無表情なのでそう見えてるだけかもしれないけれども。
「普通に入ったらこんなもんだと思うんだけど、もしかして違う?」
「……ま、別にいいケド」
しかし不機嫌の理由を説明せぬまま、莉那はそのままスタスタと先へ。
後に残された勇達はと言えば、なんだか先程のテンションが嘘の様に萎えていて。
ちゃなもエウリィも再びの膨れっ面で、まるで莉那の不機嫌が移ったかのよう。
「ま、まぁちょっと俺達も悠長にし過ぎてるのかもしれないね?」
「それなら仕方ないのですが……なんだか棘を感じてしまいます」
「むーっ!」
やはり二人とも莉那の態度が気に入らないらしい。
エウリィは特に、心を感じられるだけにより強い不快感をもたらされた様だ。
とはいえ、これには勇も少し同感を得ている訳だが。
でもだからといって喧嘩する訳にもいかない。
問題児とはいえ恩人の可愛がっている孫娘で。
しかもその当人にお願いされて同伴する事になったのだから。
それに何より、もし今回莉那がへそを曲げたりしたら―――
福留の心象が悪くなり、今後の待遇が悪くなるかもしれない。
最悪の場合、魔剣使いとして戦う事も難しくなるかも。
あの人の良い福留だから恐らく平気であろうが、やはり不安は拭えない。
一番立場的に苦しい勇としても、どうにか二人に納得してもらうしかない訳で。
「あんな子みたいだからさ、少しは多目に見てあげよう? 俺達の方が年上だろうし?」
とりあえずは二人をこうしてなだめる他無く。
今の気分は〝仲違いする社員の仲裁をする上司〟と言った所か。
どっちつかずを取らなければならないという心境は、きっと何とも言えぬ複雑さであろう。
「勇様の言う通りですね。 ここは夢の国。 争いは相応しくありませんから」
「エウリィさんがそう言うなら……」
どうやらエウリィはそんな勇の気持ちをわかってくれた様で。
「フフッ」といつもの穏やかな微笑みを勇へと返す。
ちゃなもどうやら渋々であるが頷いてくれた。
これで勇もホッと胸を撫で下ろし、ようやく一安心である。
とはいえ、これはまだ騒動の序章に過ぎないが。
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