時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第八節「心の色 人の形 力の先」

~一触即発、勘違いは突然に~

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 ほんの少し雲行きの怪しい雰囲気を抱きつつ、勇達がようやくパーク内を進み始める。
 最初に迎えたのは、お土産店などが並ぶ【ノースバザール】というエリア。
 先程勇達を感動させた建物が連なる場所である。

 ミズニーランドはまず東西南北のエリアで分かれている。
 東の【トゥーンイースト】。
 西の【ウエスタンパーク】。
 南の【サウスファンタジー】。
 そして北の【ノースバザール】。

 それぞれにジャンルが存在し、更に細かな作品枠エリアが振り分けられている。
 各アトラクションもそのジャンルに沿った物が展開されているといった感じだ。

 ちなみに人気は南の【サウスファンタジー】。
 ミズニーが最も力を入れてるだけあって、興行力は他のエリアに比べて桁違い。
 誰しもがこぞって最初に向かう場所なのだとか。

 なお、出入り口ゲートが存在する【ノースバザール】だけは作品枠に縛られない。
 帰る来場客の事も考慮してこの様なエリアが設置されているのだという。

 もちろん、入った時にお土産を見繕うのも当然アリ。
 コインロッカーもしっかりと設置されているので安心しての買い物が可能だ。

 でも勇達の目的はやはり、お土産よりもアトラクション体験。
 視線は惹かれても、歩みは真っ直ぐ別エリアへ。
 〝お買い物の楽しみは帰りにとっとこう〟と打ち合わせた故の結論である。



 ただ、魅惑の対象は何もアトラクションだけとは限らない訳で。



「見て見て、あそこに【ディニー】がいるよ! きゃー【ディニー】!!」

 こうして歩き始めると、早速ウェルカムキャラクターがお目見えに。

 ミズニーランドではこうして毎日何かしらのミズニーキャラが来場客を迎えてくれる。
 本日は【ディニー】というカルガモをモチーフにした女の子キャラクターだ。

 背丈は大人くらい、三頭身程の全体的に丸めずんぐりむっくりな体型。
 黄色を基調とした服装はちょっとお茶目感を演出していて。
 かつ頭部にも負けない大きなリボンが可愛さを押し出し、性別に拘らず愛されている。
 ちょっと他のキャラと比べて印象が弱く、地味な所が玉に傷といった所か。

 でもそんな人気などに拘らず、ちゃなはもう大興奮だ。
 興奮のあまりに、膝先で駆けている様な「ペタペタ」とした走り方で駆け寄っていく。
 理性さえも消し飛ばんまでの勢いに、勇はもはや笑いしか零れない。



 だが、そんな愛らしいキャラクターを前に―――たった一人だけ雰囲気を変えた子が。



「あれは魔者ッ!! 何故この様な所にッ!? くッ!!」

 それはエウリィ。
 【ディニー】を見つけた途端に戦慄し、遂には身構えるまでに。

 どうやら彼女には愛くるしい【ディニー】が憎き魔者に見えたらしい。
 確かに魔者も動物の様な外見を持った人型で、共通点は多いけども。

 魔剣使いではないとはいえ、やはりエウリィも【あちら側】の人間。
 魔者に対する憎悪は半端なものではない。

 たちまちその体に煌めきを纏い、両拳を握り締めさせていて。
 既に殺る気充分、今にも飛び掛かりそうな雰囲気だ。

 「ゴゴゴ」と迸らんばかりの命力を滾らせるエウリィ。
 その隣で「コォォ」と凍り付かんばかりの冷や汗を流す勇。
 そして何も知らずに軽快なステップを踏んで観客を喜ばせる【ディニー】。

 その絶妙なトライアングル、もはや一触即発。
 キッカケがあれば次の瞬間にでも【ディニー】が肉塊になりかねない。

 ―――厳密に言えば中の人が。

 この様な状況で〝中の人なんて居ない!〟なんて反論する余地すらあるはずも無く。
 すぐさまに勇が間に立ち塞がり、エウリィを制止する。 

「いや、あれ魔者じゃないよ!? 人畜無害だからね!?」

「あ、あら……そうなのですか?」

 どうやらそんな咄嗟の行動が功を奏した様で。
 エウリィの生んだ煌めきは間も無く大気に混じって消えていく。
 これには勇も冷や汗を拭わずにはいられない。
 
 なお、勇としても結構必死だった模様。
 何せ現状で戦闘力はエウリィの方が断然高い。
 一歩間違えれば遮った当人が【ディニー】の身代わりになりかねないのだ、これ程怖い事は早々無いだろう。

 幸い、今の出来事はほぼ一瞬の出来事で。
 周囲の人々はエウリィの放った光には気付いておらず、勇も色んな意味でホッと一安心だ。

「えっと、ミズニーランドっていうのは彼等みたいな人を喜ばすのが大好きなキャ―――動物達が住んでる国でね。 だから皆はそんな動物達に逢いたくてここに来るんだ」

「まぁ、ではあの方はああして私達を喜ばせようとしているのですね。 とても素敵だと思いますっ」

 とはいえ、このままでは完全に安心する事など出来ないだろう。
 こんな説明にも言葉を選ばなければならないのだから。
 下手な事を言って夢をぶち壊してしまえば、この計画そのものが瓦解しかねない。

 これでは遊びに来たと言うか、それともおりに来たと言うか。
 勇の心労はなお重なるばかりである。

 一方で莉那はと言うと―――ただ静かに佇みながら眺めるだけで。
 今の騒動の最中でも一切動じる事は無く。
 一体何を考えているのやら、相変わらずの能面っぷりだ。

「莉那ちゃん、もしかして楽しくない?」

 もちろん勇はそんな莉那への配慮も忘れない。
 顔を覗き込む様に頭を降ろして顔色を伺う。

 しかしその反応は相変わらず。

「楽しいよ」

「そ、そう……」

 そうは言うが表情は当然の如く変わらないままで。
 感情も読み取れず、勇としても「はは……」と苦笑で返すしかなく。

 それに、勇に考察する余裕など既に無い。
 気付けば、【ディニー】との戯れを終わらせたちゃなが興奮のままに歩き始めていて。
 このままでははぐれかねないと、勇が二人の背中を押す様に両腕で仰ぐ。

 勇としてはやっぱり一番心配なのはちゃなの模様。
 昨日からの興奮具合をよく知っていて。
 かつ今の暴走気味な姿を目の当たりにすれば心配するのも当然だ。
 
 でももしかしたら、その心配は不要だったのかもしれない。

 勇達が行く先で、ちゃなが購入したチュロスをパクパクと咥えながらちゃんと待っていたのだから。





 パーク内には案内地図が幾つも置かれている。
 来場者が広大なパーク内で行き先を迷わない様に。
 
 勇達も【ノースバザール】を越えた所の案内地図で最初の目的地を探す。
 こうして皆で行き先を決めるのも、テーマパークで遊ぶ一つの醍醐味と言えるだろう。

「ここからどこにでも行けるのか。 じゃあ、どこに行こっか」

 もちろん人の流れはどちらかと言えば南の【サウスファンタジー】向き。
 やはり人気とあって、その差は見てわかる程に顕著だ。
 勢いに乗るならやはり人気エリアに行くのが得策だろうか。

「私は皆さんに付いていきます。 どこでも楽しめそうですから」

 こういう時のエウリィは控えめで、纏める勇としても実に助かる。
 もっとも、エウリィには予備知識どころか現代知識も乏しいので。
 それを理解した上で勇達に委ねる事にしたのだろう。

「私、【サウスファンタジー】に行きたいですっ!!」

 対するちゃなはもう留まる所を知らない。
 興奮のままに指を差し、ぐいぐいと必死にアピールする姿が。
 今までの大人しかった彼女は一体どこへ行ったのやら。

 とはいえ、今だけはこういう押しを見せる事も大切だ。
 楽しみだったのだから、こんな時こそ望むがままに。



 だが―――



「ダメね」

 空かさず、その勢いを容赦無く断ち切る一言が。
 またしても莉那である。

 ただ、今回ばかりは先程とはちょっと雰囲気が違う。
 驚いて振り向いた勇達に向けられたのは、その一言だけでは無かったのだ。

「この【ノースバザール】から【ウエスタンパーク】へ、そこから反時計回りに【サウスファンタジー】、【トゥーンイースト】を回り北東の【フューチャーランド】で締めが得策。 各所のアトラクションを計画的に利用していく事が大事。 無駄な時間は費やせない」

 放たれたのはまるでマシンガンの如き早口説明で。
 今までの物静かなイメージを撃ち壊さんばかりに言葉を連ねていく。
 その速度、勇達が途中から聴き逃がしてしまう程。

 しかもその早口はまだまだ止まらない。
 反論どころか声一つ挟む事すら許されないままに。

「ミズニーは広いわ。 プレミアムフリーパスを持っている人でも全てを回る為には効率を求められるの。 ゲートを通常通過した貴方達ならなおさら。 あの流れに乗っていたら一日では回り切れない程にね。 むしろあの流れは最悪のパターンを引き起こしかねない。 幾つかのアトラクションを見捨て、かつ行けないエリアが発生してしまう。 それを防ぐ為にもこの計画を順守する事は必須。 最善策なの。 この話さえも本当は無駄。 あと一分以内に動かないと想定範囲時間を超えるし」

 莉那の語りは文字で読むのとは別次元。
 余りにも速く、活舌は良くとも聴き手の読み取りが間に合わない。
 言い切った時には既に、勇達の思考回路は停止寸前だ。
 理解度は半分以下と言った所か。

 でもこうして一回も舌を噛む事無く説明出来るのだ。
 その活舌は元より知識量は勇達よりも断然高く、相応の経験を積んでいるのだろう。

 だとすれば何も知らない勇達よりはずっと頼れる訳で。

「莉那ちゃんは通い慣れてるみたいだし、田中さんの行きたい所も順序通り進めば行けるみたいしさ? 今は莉那ちゃんの指示に従ってみよう?」

「うー、はい……」

 今は莉那に従う方が得策かもしれない。
 より楽しむ為にも。

 そう判断した勇が他の二人を再びなだめ、険悪な雰囲気を振り払う。
 こんな事がかさむ度に勇の眉間のシワも一本づつ増えている訳であるが。

 それに、今の勇ではもう蟠りを拭うには役不足なのかもしれない。
 先に行く女性陣はなんだかもう自分達のペースで歩き始めていて。
 その間隔は開く一方、見るからに不穏である。

「大丈夫なのかこれ……」

 そうして生まれた不安がポツリとした呟きを零させる。
 そんな勇の追い掛ける足取りも、三人に負けず劣らず弱々しかった訳であるが。

 とはいえ、ちゃなのマイペースだけは相変わらずで。
 行く先で買ったチュロスキャラメル味をパクパクと咥えながら、ちゃんと待っていてくれた様だ。

 これには勇もホッとせずにはいられない。


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