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第八節「心の色 人の形 力の先」
~かの少女、噂の問題児~
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道中はとりわけ大きなトラブルも無く。
二回ほど乗り換えを挟めば、ミズニーランド最寄り駅である【踊浜駅】へと到着だ。
さすが大人気テーマパークの傍ともあって、駅そのものが実にファンタジカル。
遊園地を彷彿とさせる洋風構造に、キャラクターやイメージ模様の内装で飾られていて。
多くの来客を送り届けられるよう、設備や道順までがしっかりと設けられている。
そんな駅内は平日にも拘らず、もう既に来場客で一杯。
この人の多さにはエウリィだけでなく勇達もビックリだ。
「この国にはこんなに人が居らっしゃったのですね。 ここだけでも既にフェノーダラの総人口より多い気がしてなりません……」
「これには俺も驚いたかなぁ」
「わ、私もです」
その来場客のほとんどがやはり子供か学生か。
大人は小さな子供達の付き添い程度でそれほど多く無い。
夏休み終了間際ともあって、駆け込みで遊びに来たのだろう。
やはり日本で一位二位を争うテーマパークは伊達ではないという事か。
そのまま人の流れに沿って進み、駅構外へと。
真っ先に見えるのは当然、象徴とも言える蒼白巨城のシルエット。
空色に混じってもなお目立つ程の圧倒的外観は、それだけで来場者の心を躍らせてくれる。
それはもちろん勇達も例外ではない。
ちゃなもエウリィも、再びのその巨体を前にもう興奮を隠せない様子。
「なんて大きなお城なんでしょう。 あそこに一体どれだけの防衛兵器が備えられているのか楽しみですっ!」
しかしそこはやはり『あちら側』出身のエウリィ、常識が現代人とちょっとだけ異なる様で。
爽やかに物騒な事をポロリと零す彼女を横目に、勇としては不安を隠せない。
「えーっと……エウリィさん、福留さんからミズニーランドがどういう所かって聞いてる?」
「はいっ! 夢で溢れたとても楽しいお国なのだと!」
「全然具体的な説明じゃないよ福留さーん!?」
恐らくは予備知識無しで存分に楽しんで貰おうという趣向なのだろう。
エウリィに「夢の国」という理想のカタチでのミズニーランドを楽しんで貰う為に。
だがこのままでは「ミズニーランドは防衛兵器に溢れた夢の国」という事になりかねない。
世界が異なればここまで常識が異なるとは。
その現実を目の当たりにしてしまった勇の不安は募る一方である。
「ミズニーランドって、バシャーッ!ってしたり、ワーッ!ってしたり、おいしく食べたりする所なんですよ」
「まぁ、とても激しい所なんですね! でも魔者を食べるのはちょっと……」
「田中さーん!?」
しかも語彙力の無いちゃなが説明に入れば更に拗れる事間違いナシ。
フォローを回る勇の事など考えず、好き放題に語り続ける。
楽しみだっただけに、相当話したかったのだろう。
それからほんの少し歩けば、巨大な入口ゲートがとうとう姿を見せる。
そのフェノーダラ城の城壁も霞む程の大きさに、エウリィはもう驚きも隠せない。
「皆、この城壁を突破する為に集っているのでしょうか? いけません私、武器を持ってくるのを忘れてしまいました!」
「やっぱりそういう発想になっちゃう!?」
しかしその驚きはやはり全く違う方向性だった模様。
このままでは命力を篭めた体一つで突貫しかねない。
そうなったら一体何匹のミズニーキャラクター達が犠牲になる事か。
それにもしその犠牲の渦中に、一匹しかいないとされるメインキャラクター【ビッキー】が巻き込まれてしまえば大惨事だ。
皆の夢を守る為にも、そうなる事だけは絶対に食い止めなければならない。
せめて【ビッキー】だけでも守らねば。
「何て言ったらいいかな……ミズニーランドっていうのは夢の世界を現実に呼び込んだ場所でね、争いとは一切縁の無い国なんだ。 だから戦いの事は忘れて平気だよ」
「あら、そうなのですね。 申し訳ありません、この素晴らしさを前に少し熱くなってしまったみたいです」
そんな想いでひり出した苦肉の説明であったが、どうやらちゃんと伝わったらしい。
途端にエウリィがしおらしい肩を寄せた姿を見せていて。
エウリィも多少なりに現代と自分達のギャップを理解してはいるのだろう。
ただ、そうであっても常識というものはやはり簡単には拭えないものだ。
この様に興奮してしまえば地が出てしまうのは仕方ない。
「あぁ、いやいや、謝らなくてもいいって。 何も怖がる事は無いから心配しないでって事だよ」
「自由と夢の国ですもんね! あるがままに~って楽しめばいいんですよ!」
「はいっ!!」
そして物分かりのいいエウリィだからこそ、勇やちゃなのフォローですぐさま笑顔を取り戻す。
特にミズニーアニメの有名な台詞を絡めたちゃなの繋ぎは絶妙。
こんな時に役立つのもミズニー関連ならではと言った所か。
もしかしたら人気のミズニーアニメには、この様に人の心を落ち着かせるセラピー的な効果もあるのかもしれない。
その様な話を交わしている最中に、ようやくゲート前に到着だ。
「確かここで待ち合わせだったっけか」
「そういえばそうでしたね」
でも勇達にはまだここを通る事は叶わない。
もう一つ課せられた使命があるからこそ。
そう、福留に伝えられた四人目と合流する為だ。
もちろん、まだ誰なのかはわからないままだが。
「あら、他に誰か来られるのですか? あっ! もしかして瀬玲様でしょうか!?」
知らないのはエウリィも同様なのだろう。
閃いた名前を挙げては、またしても目をキラキラと輝かせていて。
しまいには胸に両腕を絡ませて「早くお会いしたいですっ」と悦び震えるまでに。
よほど瀬玲の事が気に入っていたらしい。
これには勇も「ハ、ハハ……」と引きつった苦笑を浮かべるばかりだ。
瀬玲当人がどう思っているかなんて言える訳も無く。
「た、多分違うかな。 まぁ俺達も知らないんだけどさ」
「そうでしたか、残念です……」
あのサバサバとした瀬玲の事だ。
苦手な人物の同伴だとわかれば即断るに違いない。
例えミズニーランドにタダで行けるとしても。
つまり瀬玲という可能性はほぼゼロに等しいという事に他ならない。
加えて、エウリィも知らないとすればレンネィという可能性も無いだろう。
となるとやはり予想は付かない訳で。
とりあえず言いつけ通りにその場で待つ事に。
もちろん勇はちゃんと指定の鞄を所持してきている。
【大地の楔】用にあつらえられた運搬用の鞄だ。
見た目はただの縦長ボストンバッグ。
ほんの少しギターケースの様な、肩に掛ける事を前提とした作りで。
その中央にはスポーツ用品メーカー【CatsI】のロゴが浮かび、ただの市販品にも見える。
でもその中には、しっかりと魔剣をホールドしておける機構が備わっていて。
他にも関連の専用装備と思しき物が所狭しと格納されている。
刀剣そのものも専用の鞘に納められ、ちょっとやそっと動いただけでは破れない。
これぞ特事部が特注で造らせた、今までの知識と経験の集大成。
【大地の楔】を最大限に運用する為の特別装備なのである。
……が、もちろんこうして日常での使用もアリ。
常日頃魔剣を帯刀する魔剣使いの為に考慮された優しい仕様となっている。
今日の様に目印にする事だって可能だ。
なんたって特注品。
世界でたった一つしかない逸品なのだから。
「あれ、でも待てよ……この鞄を目印って事は、この鞄の事を知ってる人って事だろ?」
「うーん、そうなりますね」
ただ、勇の言う事ももっとも。
だとすれば来るのは特事部関係者なのだろうか。
考えれば考える程、ますます謎が深まるばかりで。
だが、そんな話をしている最中。
「ん?」
突如として勇の脚に妙な感覚が襲う。
それはまるで肌をカリカリと優しく掻き毟った様な。
でも服が擦れただけとは言えない程に素早く、明らかに作為的な触感だ。
それに気付いた勇が咄嗟に足元へと見降ろしてみると―――
―――そこには、勇を上目遣いで見上げる一人の少女の姿が。
「え、誰……?」
勇がついそう漏らしてしまうのも仕方ない。
全く知らない子だったのだ。
しかも余りにも小さく、小学生か中学生かといった程の背丈で。
かといって周囲には両親らしい姿も見当たらず。
ただひたすら小刻みに勇のアンダーを引っぱり続けている。
気付いた今もなお。
そんな少女、容姿も実に女の子らしい。
くるりと丸みを帯びたショートボブに僅かなCカーブを添えて、それでいてふわりと柔らかそうだ。
それも一本一本丁寧に整えられているのか、跳ね毛一本見当たらない。
その輪郭も子供らしく丸く、白い肌と相まってまるで人形のよう。
太ももを隠す程度のチェック生地ショートサロペットをメインに、下には純白薄手の刺繍入りブラウスを着込んでいて。
そのブラウスの質感はと言えばシルク調でとても高級感に溢れており、佇まいはお嬢様といったところか。
しかしその目付きはと言えば、ちょっと怖い。
くりっとした瞳を据わらせ、じっと睨みつけて来るものだから。
それも、まさに人形と言わんばかりの無表情で。
これには勇も「え、ええ……俺、何かした!?」と慄くばかりだ。
迷子だろうか。
この背丈なのだ、もしかしたら人の波に押し出されて両親とはぐれてしまったのかもしれない。
もしそうだとしたら一大事だ。
そんな事が勇の脳裏に過り、お人好しの精神がここぞとばかりに発揮する。
「えっとー……お父さんかお母さんとはぐれ―――」
「アタシ福留」
だが。
その時の勇の言葉を遮った一言は、そのまま黙らせる程に衝撃的だった。
聞き違いかとさえ思えてしまうまでに。
「も、もしかして、福留さんのお孫さん……?」
「そ」
なお不愛想な無表情を見せつけ、あっさりとした答えを返す。
そんな少女が、話だけ聞いていた噂のあの子。
そう、彼女こそが福留を何度も困らせたといういわく付きの孫娘なのである。
しかしその雰囲気は福留とはまるで大違い。
何せ表情はほぼ無動で。
唇と瞼くらいしか動かず、全く感情が読み取れない。
その様子はまるで能面か鉄面皮。
これには、同じく気付いたちゃな達もまた顔をしかめる程に異様だ。
「アタシ、莉那っていうから。 よろしくー」
「え、あ、よろしく……」
しかもそう一言紹介だけ済ませば、「プイッ」と振り返ってゲートへ向かう始末。
果てにはそのまま人混みに紛れ、その姿はあっという間に視界から消える。
余りにも突然かつ予想外の展開に、勇はもはや唖然とするばかりだ。
それどころか、ちゃなとエウリィに至っては「ムスッ」とした表情で先を睨みつけていて。
「あの子、挨拶も無しに! 福留様のお孫にしては不作法この上ありません……!」
「本当ですよ! いくらなんでも失礼です!」
莉那の塩対応は女子達にはどうやら不評な様だ。
おまけに彼女のどういう要素が福留を困らせていたのかが未知数で、勇の不安を煽りに煽る。
とはいえ、福留に任された以上、このまま一人にする訳にもいかない。
不安を抱えたままだが、とりあえず勇達もまたゲートを通る事に。
愛と夢と希望の溢れる国、ミズニーランド。
だが―――
様々な思惑を交錯させる彼等が行く先に、果たして愛と夢と希望は本当にあるのだろうか……。
二回ほど乗り換えを挟めば、ミズニーランド最寄り駅である【踊浜駅】へと到着だ。
さすが大人気テーマパークの傍ともあって、駅そのものが実にファンタジカル。
遊園地を彷彿とさせる洋風構造に、キャラクターやイメージ模様の内装で飾られていて。
多くの来客を送り届けられるよう、設備や道順までがしっかりと設けられている。
そんな駅内は平日にも拘らず、もう既に来場客で一杯。
この人の多さにはエウリィだけでなく勇達もビックリだ。
「この国にはこんなに人が居らっしゃったのですね。 ここだけでも既にフェノーダラの総人口より多い気がしてなりません……」
「これには俺も驚いたかなぁ」
「わ、私もです」
その来場客のほとんどがやはり子供か学生か。
大人は小さな子供達の付き添い程度でそれほど多く無い。
夏休み終了間際ともあって、駆け込みで遊びに来たのだろう。
やはり日本で一位二位を争うテーマパークは伊達ではないという事か。
そのまま人の流れに沿って進み、駅構外へと。
真っ先に見えるのは当然、象徴とも言える蒼白巨城のシルエット。
空色に混じってもなお目立つ程の圧倒的外観は、それだけで来場者の心を躍らせてくれる。
それはもちろん勇達も例外ではない。
ちゃなもエウリィも、再びのその巨体を前にもう興奮を隠せない様子。
「なんて大きなお城なんでしょう。 あそこに一体どれだけの防衛兵器が備えられているのか楽しみですっ!」
しかしそこはやはり『あちら側』出身のエウリィ、常識が現代人とちょっとだけ異なる様で。
爽やかに物騒な事をポロリと零す彼女を横目に、勇としては不安を隠せない。
「えーっと……エウリィさん、福留さんからミズニーランドがどういう所かって聞いてる?」
「はいっ! 夢で溢れたとても楽しいお国なのだと!」
「全然具体的な説明じゃないよ福留さーん!?」
恐らくは予備知識無しで存分に楽しんで貰おうという趣向なのだろう。
エウリィに「夢の国」という理想のカタチでのミズニーランドを楽しんで貰う為に。
だがこのままでは「ミズニーランドは防衛兵器に溢れた夢の国」という事になりかねない。
世界が異なればここまで常識が異なるとは。
その現実を目の当たりにしてしまった勇の不安は募る一方である。
「ミズニーランドって、バシャーッ!ってしたり、ワーッ!ってしたり、おいしく食べたりする所なんですよ」
「まぁ、とても激しい所なんですね! でも魔者を食べるのはちょっと……」
「田中さーん!?」
しかも語彙力の無いちゃなが説明に入れば更に拗れる事間違いナシ。
フォローを回る勇の事など考えず、好き放題に語り続ける。
楽しみだっただけに、相当話したかったのだろう。
それからほんの少し歩けば、巨大な入口ゲートがとうとう姿を見せる。
そのフェノーダラ城の城壁も霞む程の大きさに、エウリィはもう驚きも隠せない。
「皆、この城壁を突破する為に集っているのでしょうか? いけません私、武器を持ってくるのを忘れてしまいました!」
「やっぱりそういう発想になっちゃう!?」
しかしその驚きはやはり全く違う方向性だった模様。
このままでは命力を篭めた体一つで突貫しかねない。
そうなったら一体何匹のミズニーキャラクター達が犠牲になる事か。
それにもしその犠牲の渦中に、一匹しかいないとされるメインキャラクター【ビッキー】が巻き込まれてしまえば大惨事だ。
皆の夢を守る為にも、そうなる事だけは絶対に食い止めなければならない。
せめて【ビッキー】だけでも守らねば。
「何て言ったらいいかな……ミズニーランドっていうのは夢の世界を現実に呼び込んだ場所でね、争いとは一切縁の無い国なんだ。 だから戦いの事は忘れて平気だよ」
「あら、そうなのですね。 申し訳ありません、この素晴らしさを前に少し熱くなってしまったみたいです」
そんな想いでひり出した苦肉の説明であったが、どうやらちゃんと伝わったらしい。
途端にエウリィがしおらしい肩を寄せた姿を見せていて。
エウリィも多少なりに現代と自分達のギャップを理解してはいるのだろう。
ただ、そうであっても常識というものはやはり簡単には拭えないものだ。
この様に興奮してしまえば地が出てしまうのは仕方ない。
「あぁ、いやいや、謝らなくてもいいって。 何も怖がる事は無いから心配しないでって事だよ」
「自由と夢の国ですもんね! あるがままに~って楽しめばいいんですよ!」
「はいっ!!」
そして物分かりのいいエウリィだからこそ、勇やちゃなのフォローですぐさま笑顔を取り戻す。
特にミズニーアニメの有名な台詞を絡めたちゃなの繋ぎは絶妙。
こんな時に役立つのもミズニー関連ならではと言った所か。
もしかしたら人気のミズニーアニメには、この様に人の心を落ち着かせるセラピー的な効果もあるのかもしれない。
その様な話を交わしている最中に、ようやくゲート前に到着だ。
「確かここで待ち合わせだったっけか」
「そういえばそうでしたね」
でも勇達にはまだここを通る事は叶わない。
もう一つ課せられた使命があるからこそ。
そう、福留に伝えられた四人目と合流する為だ。
もちろん、まだ誰なのかはわからないままだが。
「あら、他に誰か来られるのですか? あっ! もしかして瀬玲様でしょうか!?」
知らないのはエウリィも同様なのだろう。
閃いた名前を挙げては、またしても目をキラキラと輝かせていて。
しまいには胸に両腕を絡ませて「早くお会いしたいですっ」と悦び震えるまでに。
よほど瀬玲の事が気に入っていたらしい。
これには勇も「ハ、ハハ……」と引きつった苦笑を浮かべるばかりだ。
瀬玲当人がどう思っているかなんて言える訳も無く。
「た、多分違うかな。 まぁ俺達も知らないんだけどさ」
「そうでしたか、残念です……」
あのサバサバとした瀬玲の事だ。
苦手な人物の同伴だとわかれば即断るに違いない。
例えミズニーランドにタダで行けるとしても。
つまり瀬玲という可能性はほぼゼロに等しいという事に他ならない。
加えて、エウリィも知らないとすればレンネィという可能性も無いだろう。
となるとやはり予想は付かない訳で。
とりあえず言いつけ通りにその場で待つ事に。
もちろん勇はちゃんと指定の鞄を所持してきている。
【大地の楔】用にあつらえられた運搬用の鞄だ。
見た目はただの縦長ボストンバッグ。
ほんの少しギターケースの様な、肩に掛ける事を前提とした作りで。
その中央にはスポーツ用品メーカー【CatsI】のロゴが浮かび、ただの市販品にも見える。
でもその中には、しっかりと魔剣をホールドしておける機構が備わっていて。
他にも関連の専用装備と思しき物が所狭しと格納されている。
刀剣そのものも専用の鞘に納められ、ちょっとやそっと動いただけでは破れない。
これぞ特事部が特注で造らせた、今までの知識と経験の集大成。
【大地の楔】を最大限に運用する為の特別装備なのである。
……が、もちろんこうして日常での使用もアリ。
常日頃魔剣を帯刀する魔剣使いの為に考慮された優しい仕様となっている。
今日の様に目印にする事だって可能だ。
なんたって特注品。
世界でたった一つしかない逸品なのだから。
「あれ、でも待てよ……この鞄を目印って事は、この鞄の事を知ってる人って事だろ?」
「うーん、そうなりますね」
ただ、勇の言う事ももっとも。
だとすれば来るのは特事部関係者なのだろうか。
考えれば考える程、ますます謎が深まるばかりで。
だが、そんな話をしている最中。
「ん?」
突如として勇の脚に妙な感覚が襲う。
それはまるで肌をカリカリと優しく掻き毟った様な。
でも服が擦れただけとは言えない程に素早く、明らかに作為的な触感だ。
それに気付いた勇が咄嗟に足元へと見降ろしてみると―――
―――そこには、勇を上目遣いで見上げる一人の少女の姿が。
「え、誰……?」
勇がついそう漏らしてしまうのも仕方ない。
全く知らない子だったのだ。
しかも余りにも小さく、小学生か中学生かといった程の背丈で。
かといって周囲には両親らしい姿も見当たらず。
ただひたすら小刻みに勇のアンダーを引っぱり続けている。
気付いた今もなお。
そんな少女、容姿も実に女の子らしい。
くるりと丸みを帯びたショートボブに僅かなCカーブを添えて、それでいてふわりと柔らかそうだ。
それも一本一本丁寧に整えられているのか、跳ね毛一本見当たらない。
その輪郭も子供らしく丸く、白い肌と相まってまるで人形のよう。
太ももを隠す程度のチェック生地ショートサロペットをメインに、下には純白薄手の刺繍入りブラウスを着込んでいて。
そのブラウスの質感はと言えばシルク調でとても高級感に溢れており、佇まいはお嬢様といったところか。
しかしその目付きはと言えば、ちょっと怖い。
くりっとした瞳を据わらせ、じっと睨みつけて来るものだから。
それも、まさに人形と言わんばかりの無表情で。
これには勇も「え、ええ……俺、何かした!?」と慄くばかりだ。
迷子だろうか。
この背丈なのだ、もしかしたら人の波に押し出されて両親とはぐれてしまったのかもしれない。
もしそうだとしたら一大事だ。
そんな事が勇の脳裏に過り、お人好しの精神がここぞとばかりに発揮する。
「えっとー……お父さんかお母さんとはぐれ―――」
「アタシ福留」
だが。
その時の勇の言葉を遮った一言は、そのまま黙らせる程に衝撃的だった。
聞き違いかとさえ思えてしまうまでに。
「も、もしかして、福留さんのお孫さん……?」
「そ」
なお不愛想な無表情を見せつけ、あっさりとした答えを返す。
そんな少女が、話だけ聞いていた噂のあの子。
そう、彼女こそが福留を何度も困らせたといういわく付きの孫娘なのである。
しかしその雰囲気は福留とはまるで大違い。
何せ表情はほぼ無動で。
唇と瞼くらいしか動かず、全く感情が読み取れない。
その様子はまるで能面か鉄面皮。
これには、同じく気付いたちゃな達もまた顔をしかめる程に異様だ。
「アタシ、莉那っていうから。 よろしくー」
「え、あ、よろしく……」
しかもそう一言紹介だけ済ませば、「プイッ」と振り返ってゲートへ向かう始末。
果てにはそのまま人混みに紛れ、その姿はあっという間に視界から消える。
余りにも突然かつ予想外の展開に、勇はもはや唖然とするばかりだ。
それどころか、ちゃなとエウリィに至っては「ムスッ」とした表情で先を睨みつけていて。
「あの子、挨拶も無しに! 福留様のお孫にしては不作法この上ありません……!」
「本当ですよ! いくらなんでも失礼です!」
莉那の塩対応は女子達にはどうやら不評な様だ。
おまけに彼女のどういう要素が福留を困らせていたのかが未知数で、勇の不安を煽りに煽る。
とはいえ、福留に任された以上、このまま一人にする訳にもいかない。
不安を抱えたままだが、とりあえず勇達もまたゲートを通る事に。
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