時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第十節「狂騒鳥曲 死と願い 少女が為の青空」

~美味なるものには遠慮なし~

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「「「美味である!」」」

 ジョゾウ達が七人並び座って叫びを上げる。
 皆が皆、ドス黒い液体を内包せし魅惑の飲物【コケッコーラ】を手にしたままに。

 どうやら演劇興行で上手く稼げたらしく、皆がこうして嗜む余裕は出来た様だ。
 もっとも、勇と出会った手前、もうそんなお金が必要とは思えないけども。

 それというのも―――勇は現在、福留に連絡中。
 建物の影に隠れ、こそこそと電話する姿がここに。

『おお勇君、良い所に電話してくれました。 いきなりで申し訳ありませんが、栃木駅に―――』

「ええ、今栃木駅に着きました」

『おお、でしたらその周辺を―――』

「はい、魔者ですよね、鳩の。 今目の前に居るんですけど」

『そ、そうですか。 では―――』

「で、もう和解しちゃって。 それでちょっとすいません、トラック一台都合して欲しいんです。 フェノーダラ城に皆で行ける感じの」

 でもそんな会話も間も無く、福留の無言で止められる事となる。
 察するに、特事部につい今しがた情報が回って来たばかりと言った所か。
 存在が極秘なだけに直通報よりも伝達が遅くなってしまうのは仕方のない事だ。

 きっと今頃、福留も電話先で理解に苦しんでいる事だろう。
 勇達の対応の速さもさることながら、ジョゾウ達の存在感はそれだけ異様なので。
 もちろん良い意味で、だが。

『ではこれから自衛隊の輸送用トラックを手配します。 なのでしばらく駅前でお待ちください。 あ、出来れば一緒に居る所はなるたけ撮られないよう』

「いや、無理ですって。 彼等フレンドリー過ぎて制御出来ませんもん」

『……でしたら騒動を起こさない事だけ気を付けてください。 後の処理は我々の方で何とかしますので』

「了解。 それとなく現地で知り合った人のていで行きます」

 こうも堂々と人前に現れると、勇達としても逆に動きにくい様で。
 正体がバレない様にこうしてコソコソしなければならなくなる。
 正直者な勇の最も苦手とする行動だ。

 とはいえそんな努力の意思も間も無く水泡に帰す訳だが。

 何せ振り向けば、ちゃなが既にジョゾウ達と仲良さそうに語っていたものなので。
 一緒に椅子に座って語る姿はもはや知り合い以上―――友達そのものである。

「美味しそうだなぁ、私も飲もうかなぁ」

「それがよかろうな、実に美味なるぞ」

 おまけに絶賛【コケッコーラ】布教中ときたもので。
 遂には二人揃って―――いや、八人が自販機の前に立つ事に。

 そう、全員が自販機の前に並んで立っている。
 ただひたすら【コケッコーラ】のボタンを連打し、手に入れては飲みながら後列へ。
 飲み終えた頃には自分の番が回って来るという、リロード形式の連コイン状態だ。
 頼むから自販機を休ませてあげて欲しいと言わんばかりの酷使っぷりである。

 その中にちゃなを加え、とうとう【コケッコーラ】式ロシアンルーレットが勃発する事に。
 果たして誰が売り切れを迎える事となるのか、と。
 ちゃなから教えて貰った〝弾は無限ではない〟という事実を前に、皆戦々恐々である。

 もっとも、隣とその隣の自販機にもあるので何の心配も要らないのだけれども。

「ジョゾウさん、しばらくここで待っててもらえます? 迎えを寄越したので」

「おお、左様であるか。 かたじけのう御座る。 なれば『まねぃ』を使い切っても良かろうか」

「まぁいいですけど、一体どれだけ飲むつもりなんですか……」

 勇としてもこの飲みっぷりを前に驚きを隠せない。
 炭酸飲料をここまで激飲みしてよく平然としていられるな、と。
 彼等の胃の中は一体どの様な構造になっているのだろうか。
 まさか障壁が炭酸の威力まで抑え込んでいるのではなかろうか。

 という訳で。

 結局勇達は〝そことなく仲良くなった友達の体〟でジョゾウ達と付き合う事に。
 なおその後、勇もがロシアンルーレットに巻き込まれたのは言うまでも無く。

 搬送トラックが着いた頃には、その場の全【コケッコーラ】に売切ランプが浮かんでいたという。





◇◇◇





 搬送トラックに乗り込んでおおよそ一五分。
 運転手の視界に早速、フェノーダラ王国への入り口が。

 もちろん搬送トラックが通るのは正規の入り口だ。
 となるとその周辺には騒ぎを聞きつけたジャーナリストの姿がちらほらと。
 恐らく栃木駅での騒動を知り、予め回り込んでいたのだろう。
 魔者が来たならここにも来るだろうと。

 とは言っても、フェノーダラ王国の事はまだ公表されていない。
 人権問題も絡むので対応を慎重にせざるを得ないのだとか。
 なのでこの先に潜んでいるのが何者なのか、世間は知らないという事で。

 つまりジャーナリストは勘だけを頼りに集まって来たという事になる。
 勘でここまで回り込めるのだ、なかなかの嗅覚と言えよう。

 もっとも、真実がわからないままに変わりは無いが。
 精々彼等に手を振って応えるジョゾウ達の写真を撮って終わりである。
 なお勇達は荷台の奥で隠れているのでバレていない模様。

 そんな訳で、ようやく陸の孤島・フェノーダラ城へと到着だ。
 勇が早々に荷台から飛び降りてはジョゾウ達を誘い出す。

 一方そのジョゾウ達はと言えば、初めての車搭乗に揚々と興奮していたらしく。
 ずんぐりむんぐりな体を跳ねさせる様に次々と降りていくという。
 中には「実に楽しうござった」という声まで。

「ジョゾウさん?は、えーっと」

「拙僧に御座る」

「あ、そっちか」

 そんな彼等が見分け付かないのはもはやご愛敬だ。
 何せ人間からしてみれば魔者は大体同じに見えるもので。
 勇に至っては、まだアージとマヴォの差さえ理解しきれていないのだから。

「すいません、しばらく待っててもらえますか? 王様がちゃんと会ってくれるならいいんだけど、そうもいかなさそうだから……」

「わかりもうした。 今再びユウ殿に任せましょうぞ」

「自衛隊員さんも少し待ってて貰えます? 正直このまま何事も無く済むとは思えないんで」

「わかりました。 それと自分達は今日一日、藤咲殿に従うよう命令を受けております。 ですので何か指示がありましたら伝達願います」

 それに、勇はまだフェノーダラ王国の事さえ理解しきれていない。
 彼等が如何ほどまでに魔者を怨んでいるのかを。

 先日訪問した時、王様が言っていた。
 〝魔者を気軽に連れてこないで欲しい〟と。
 それは彼等が未だ魔者を強く憎んでいるからで。
 まさに『あちら側』の感情をそのまま体現している状態と言えよう。

 だから今回は、その憎悪がどれだけ深いのかを確かめる必要がある。
 でなければジョゾウ達の抱く〝問題〟は一向に解決する事は叶わないだろうから。



 そう、勇は既に聞いて知っているのだ。
 ジョゾウ達が抱く〝問題〟が何であるかという事を。
 だからこそ敢えて彼等をここまで連れて来た。
 それが決して、フェノーダラ王国にとって他人事で済む問題ではないからこそ。

 今、勇が門を見上げる。
 未だ閉まられたままの門を。

 果たして、勇はこの強固な門を、彼等の心を開く事は出来るのだろうか。


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