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第十節「狂騒鳥曲 死と願い 少女が為の青空」
~この偶然たりし出会いに感謝をば~
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遂にこの時がやってきた。
念願成就の希望に満ち溢れたフェノーダラ王国訪問が。
数々の試練を乗り越え、障害を排した末に。
勇が栃木駅に降り立ったのである。
もちろんちゃなも同伴で。
もう終始浮かれっぱなしだった。
口数こそ今まで通りだが、常に鼻を伸ばしていて。
それも、ちゃなが後ろで据わった目を向ける程にあからさまと。
やはりここまでとなれば、素直な彼女でも呆れてしまうのは無理も無いか。
とはいえ勇としてはもう憂いは何一つ無いと思っているから堂々としたものだ。
なにせ朝から「恋悩む女子か!」と突っ込まれんばかりに準備を整えたので。
朝風呂に入っては体の隅々まで入念に洗いきり。
歯磨きは愚か、口内洗浄液でしつこく三回ほど洗ったり。
爪切り、顔のムダ毛処理、おまけに脂取りなども欠かさない。
更にはまつげなども揃えたりと、母親が唖然としてしまう程の手の込みっぷりだ。
もちろんお泊り準備も欠かさない。
実は昨日のうちにお泊り用道具・衣服は購入済みで。
インナーウェアに至ってはいつもと違い、少しお高めの物をチョイスしている。
しっかりと携帯用の口内洗浄液・口臭対策薬・洗顔ペーパーなども言わずもがな。
もはや身なりに関しては何の心配も要らないと言えよう。(でもゴムだけは恥ずかしくてどうしても買えなかった)
故に勇が持つのは旅行用スーツケースと、とても仰々しい。
とても一泊用の荷物とは思えない容量だ。
相変わらずのうさぎ鞄で済ませたちゃなと大違いである。
もっとも、彼女は彼女で少な過ぎるけども。
そんな二人が並んで駅構外へ。
後はタクシーに乗って近くのコンビニまで行き、要人専用路を通って城まで歩くのみ。
実は普段使いの入口こそが要人専用路であり、汎用入路は別にある。
なのでいつもジャーナリストに怯える事も無く自然と入れるという訳だ。
交通事情もこの数か月で随分と整ったと言えよう。
なのでもう誰にも止められない。
―――そう、思っていたのだが。
「あれ、なんだろ?」
いざロータリーへと躍り出れば、早速勇達の視界に何かが映り込む。
いつも使うタクシー乗り場を無数の人々が覆い尽くしていたのだ。
それもまるでイベント会場の様に何やら騒がしく。
「お祭りかな?」
「うーん、それなら貼り紙とかありそうなんだけど……」
とはいえ人が多過ぎて何が起きているかはさっぱりわからない。
人が道路にさえはみ出て覆い隠していたもので。
勇達としては気にこそなっても確認しようがなく。
「まぁ事件とかじゃなきゃ別にいいけどさ」
街中で起こった事だからと、首を突っ込むつもりも無いらしい。
悪い騒動ならともかく、皆楽しそうだったから。
〝後で動画でも探せばきっと出て来そうだ〟と軽く受け流していて。
別にタクシーでなくともバスでも行けるから。
少し待ち時間があるくらいで済むから問題は無いのだ。
なら待ってくれている異性の為に少しでも早く赴きたい。
そう思い一心に行動するのが恋心というものだろう。
だから勇達は今、騒動の外を迂回していた。
少しでも急がんと割と速足で。
だがその時、勇達の耳に信じられもしない声が届く事となる。
「あっ今こそ、今こそォォォウ!! 我等魔者がァ~過ごし易き未来をォォ~!!」
「―――は?」
余りの驚きに、足さえもがガチリと止まり。
誘われる様に二人揃って首を捻らせるのだが。
その途端、人混みの中心からとんでもないモノが飛び出していて。
ジョゾウである。
あの鳩風のナニカがピョンコピョンコと跳び上がり、興奮のままに何かを叫んでいたのだ。
「「え"ッ!?」」
今一瞬見えたその物体を前に、二人とも驚愕を隠せない。
なにせ二人とも目の錯覚かとさえ思ってしまったもので。
鳩? 鶏?
なんでこんな所に?
疑問が疑問を呼んで頭からクエスチョンマークが離れない。
そんな中、遂には太鼓の音までが聴こえて来るという。
チョン、チョン、と軽快に跳ねる様な音をリズム良く。
それに合わせて手拍子まで響き、人々もがそれに合わせて手を叩くまでに。
「御清聴、感謝つかまつる。 此度の演武、各々の胸に届いたなれば是非ともおひねりを頂戴致したく。 されば拙僧達にとってこの上なき幸いでありましょう。 なにとぞ、なにとぞォウ!」
「面白かったよ」
「また来てね」
そんな声が響く中、とうとう人だかりが解けていく。
皆が皆、「ハハハ」と笑いを浮かべる中で。
その中で満を持して現れたのは―――やはりあのジョゾウ達。
出された小銭を空ボトルの切半身で受け取る姿がそこに。
そう、彼等はなんと路上演劇でお金を稼いでいたのだ。
なんたる目的への執念か。
こうしてまで果たさねばならない理由がきっとあるのだろう。
おまけにリアルに戦いを繰り広げた者達だからか、演劇とはいえ力が籠っていた。
ならその舞いを見た者達が心を奪われるのも当然の結果か。
おひねり額こそそこまで多くは無かったが、与えられた感動は計り知れない。
最後しか聴いていない勇とちゃなとしては、ただただ愕然とするばかりだった訳だが。
「な、なんでこんな所に魔者が……?」
「さ、さぁ……」
こうハッキリと姿を見せられて初めてわかる。
目の前に居る七人が魔者だという事が。
何となくだが命力も感じるし、言葉も普通に通じているし。
それに妙に馴染んでいるし。
「ひいふうみい……おお、銀色がこんなに!」
「こちらには金色があります! とても大きい!」
「この人写りし紙は何であろうか? さては絵描き紙か。 解せぬ」
おまけに言うとお金の価値自体は余りわかっていないらしい。
こういう所はやはり『あちら側』の者という事か。
そんな時、ジョゾウがふと気付く。
唖然と立ち尽くしていた勇とちゃなに。
すると独特のくりんとした瞳を向け、まさに鳩の如く首を傾げていて。
何を思ったのかパチリと手を打ち、パタパタと近寄っていくではないか。
「お子よ、拙僧らの演武はこれで仕舞いにて候。 かの雄姿は【いんすとりあるぐらむ】で投稿予定ゆえ、しばし待たれよ」
「なんで【インスト】―――いや、ちょっと待って。 魔者がなんでここにいるの?」
どうやら勇は未だ理解が追い付いていなかったらしい。
何の躊躇いも無く話し掛けて来たジョゾウを前にして、ついその手を広げて制止する姿が。
目前の鳩は既に、勇の想像を遥かに逸脱している存在だ。
人間を前にして殺意を見せるどころかお金稼ぎまでして見せていて。
しかもスマートフォンで動画投稿とか、出来る事がもう既に勇さえ凌駕しているので。
余りにも突然かつ想定外過ぎて、何一つ理解が出来ない模様。
「魔者ってこんなんだっけ?」と何度も思い返してしまう程に。
隣のちゃなに至っては思考停止状態である。
なお、ジョゾウの方も鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔を向けていた訳だが。
どうやらこのジョゾウ、話を意図せず切り替えられると途端に固まる性格らしい。
思考能力自体はそこまで卓越しているという訳ではなさそうだ。
ともあれ、たちまち勇達とジョゾウの間で妙に静かな空気が流れ込む事に。
背後で別の六人とタクシー運転手(演劇補助役)との金銭トレードが行われる中で。
「拙僧ら、目的の地へ赴くつもりであったが『まねぃ』が尽きた故、何とか工面せねばと演武を始めて今に至れり。 そこで『タイゾウ』殿にも尽力を頂き、こうして成就したという訳に御座る」
「タイゾウって誰!?」
その中でようやく口を開いたと思えば、またしても謎がまた一つ浮かぶ事に。
もっともその謎も、タクシー運転手のサムズアップを前にしてすぐ解決した訳だけども。
今、タクシー運転手・泰三氏(58)の笑顔がとても眩しい。
よほど沢山取り分を貰えたのか、手がお札で一杯である。
「なんだかもうよくわかりませんね……」
「うん、なんだか頭痛くなってきた」
とはいえ、こう語る勇達も安心してはいるのだろう。
今までの様な敵意を剥き出しに魔者とは全く違うから。
こんな存在など居ないと思っていただけで、ただ想定外だったに過ぎなくて。
「んで、目的地って?」
だからこそ今はこうやって気軽に返す事も出来る。
相手が割と気さくにも見えるからか、半ばタメ口で。
少し考えるのが億劫になったからかもしれない。
「フェノーダラ王国に御座る」
だがその何気無い答えが勇達に再び緊張を取り戻させる事となる。
勇が警戒するのも当然だ。
魔者が『あちら側』の国に用があると言えば、思い付く理由はただ一つ。
攻城―――つまり、フェノーダラ城に攻めいる事しかないのだから。
それは『あちら側』の者達における因縁とさえ思えてならなかったからこそ。
現代の地域に向かうのなら、まだ観光とも思えるものだろう。
それだったら勇だって笑顔で見送れたかもしれない。
これだけ人に馴れているのだ、そう言いだしても不思議ではないのだと。
故に今、勇が魔剣の入った鞄を手に掴む。
場合によっては今ここで斬らなければならないと。
でなければフェノーダラ王国が、エウリィが危険に晒されかねないのだから。
「〝フェノーダラ王国に赴き、『フジサキユウ』と出会いて共に問題解決を図れ〟と主殿より勅命を受けたのである」
「……え?」
しかしそんな警戒も間も無く揺らぐ事となった訳だが。
そう、つまりジョゾウ達の目的は勇と出会う事。
フェノーダラ王国に向かうのはただ手段に過ぎないと言うのだ。
それも〝共に問題解決を図れ〟となれば、なおのこと警戒など無粋な訳で。
勇が再びポカンとした顔を浮かべる事に。
「俺が藤咲勇なんだけど……」
「おおっ!? 誠かあッ!? ホッホー! これぞまさしく創世の女神の導きよ!!」
そして真実を打ち明けようものなら、ジョゾウが喜ばずにはいられようか。
この偶然の出会いを感謝するかの如く、広げた翼を空へと掲げていて。
遂には仲間達と共に喜び踊る姿がそこにあったという。
こうして、この奇妙奇天烈な出会いが勇達の訪問の意味を大きく変える事となる。
でもまだ彼等の言う問題が何なのかはわかってはいない。
だからこそ勇は不穏を感じずにはいられなかった。
果たして、共に解決するべき問題とは―――
念願成就の希望に満ち溢れたフェノーダラ王国訪問が。
数々の試練を乗り越え、障害を排した末に。
勇が栃木駅に降り立ったのである。
もちろんちゃなも同伴で。
もう終始浮かれっぱなしだった。
口数こそ今まで通りだが、常に鼻を伸ばしていて。
それも、ちゃなが後ろで据わった目を向ける程にあからさまと。
やはりここまでとなれば、素直な彼女でも呆れてしまうのは無理も無いか。
とはいえ勇としてはもう憂いは何一つ無いと思っているから堂々としたものだ。
なにせ朝から「恋悩む女子か!」と突っ込まれんばかりに準備を整えたので。
朝風呂に入っては体の隅々まで入念に洗いきり。
歯磨きは愚か、口内洗浄液でしつこく三回ほど洗ったり。
爪切り、顔のムダ毛処理、おまけに脂取りなども欠かさない。
更にはまつげなども揃えたりと、母親が唖然としてしまう程の手の込みっぷりだ。
もちろんお泊り準備も欠かさない。
実は昨日のうちにお泊り用道具・衣服は購入済みで。
インナーウェアに至ってはいつもと違い、少しお高めの物をチョイスしている。
しっかりと携帯用の口内洗浄液・口臭対策薬・洗顔ペーパーなども言わずもがな。
もはや身なりに関しては何の心配も要らないと言えよう。(でもゴムだけは恥ずかしくてどうしても買えなかった)
故に勇が持つのは旅行用スーツケースと、とても仰々しい。
とても一泊用の荷物とは思えない容量だ。
相変わらずのうさぎ鞄で済ませたちゃなと大違いである。
もっとも、彼女は彼女で少な過ぎるけども。
そんな二人が並んで駅構外へ。
後はタクシーに乗って近くのコンビニまで行き、要人専用路を通って城まで歩くのみ。
実は普段使いの入口こそが要人専用路であり、汎用入路は別にある。
なのでいつもジャーナリストに怯える事も無く自然と入れるという訳だ。
交通事情もこの数か月で随分と整ったと言えよう。
なのでもう誰にも止められない。
―――そう、思っていたのだが。
「あれ、なんだろ?」
いざロータリーへと躍り出れば、早速勇達の視界に何かが映り込む。
いつも使うタクシー乗り場を無数の人々が覆い尽くしていたのだ。
それもまるでイベント会場の様に何やら騒がしく。
「お祭りかな?」
「うーん、それなら貼り紙とかありそうなんだけど……」
とはいえ人が多過ぎて何が起きているかはさっぱりわからない。
人が道路にさえはみ出て覆い隠していたもので。
勇達としては気にこそなっても確認しようがなく。
「まぁ事件とかじゃなきゃ別にいいけどさ」
街中で起こった事だからと、首を突っ込むつもりも無いらしい。
悪い騒動ならともかく、皆楽しそうだったから。
〝後で動画でも探せばきっと出て来そうだ〟と軽く受け流していて。
別にタクシーでなくともバスでも行けるから。
少し待ち時間があるくらいで済むから問題は無いのだ。
なら待ってくれている異性の為に少しでも早く赴きたい。
そう思い一心に行動するのが恋心というものだろう。
だから勇達は今、騒動の外を迂回していた。
少しでも急がんと割と速足で。
だがその時、勇達の耳に信じられもしない声が届く事となる。
「あっ今こそ、今こそォォォウ!! 我等魔者がァ~過ごし易き未来をォォ~!!」
「―――は?」
余りの驚きに、足さえもがガチリと止まり。
誘われる様に二人揃って首を捻らせるのだが。
その途端、人混みの中心からとんでもないモノが飛び出していて。
ジョゾウである。
あの鳩風のナニカがピョンコピョンコと跳び上がり、興奮のままに何かを叫んでいたのだ。
「「え"ッ!?」」
今一瞬見えたその物体を前に、二人とも驚愕を隠せない。
なにせ二人とも目の錯覚かとさえ思ってしまったもので。
鳩? 鶏?
なんでこんな所に?
疑問が疑問を呼んで頭からクエスチョンマークが離れない。
そんな中、遂には太鼓の音までが聴こえて来るという。
チョン、チョン、と軽快に跳ねる様な音をリズム良く。
それに合わせて手拍子まで響き、人々もがそれに合わせて手を叩くまでに。
「御清聴、感謝つかまつる。 此度の演武、各々の胸に届いたなれば是非ともおひねりを頂戴致したく。 されば拙僧達にとってこの上なき幸いでありましょう。 なにとぞ、なにとぞォウ!」
「面白かったよ」
「また来てね」
そんな声が響く中、とうとう人だかりが解けていく。
皆が皆、「ハハハ」と笑いを浮かべる中で。
その中で満を持して現れたのは―――やはりあのジョゾウ達。
出された小銭を空ボトルの切半身で受け取る姿がそこに。
そう、彼等はなんと路上演劇でお金を稼いでいたのだ。
なんたる目的への執念か。
こうしてまで果たさねばならない理由がきっとあるのだろう。
おまけにリアルに戦いを繰り広げた者達だからか、演劇とはいえ力が籠っていた。
ならその舞いを見た者達が心を奪われるのも当然の結果か。
おひねり額こそそこまで多くは無かったが、与えられた感動は計り知れない。
最後しか聴いていない勇とちゃなとしては、ただただ愕然とするばかりだった訳だが。
「な、なんでこんな所に魔者が……?」
「さ、さぁ……」
こうハッキリと姿を見せられて初めてわかる。
目の前に居る七人が魔者だという事が。
何となくだが命力も感じるし、言葉も普通に通じているし。
それに妙に馴染んでいるし。
「ひいふうみい……おお、銀色がこんなに!」
「こちらには金色があります! とても大きい!」
「この人写りし紙は何であろうか? さては絵描き紙か。 解せぬ」
おまけに言うとお金の価値自体は余りわかっていないらしい。
こういう所はやはり『あちら側』の者という事か。
そんな時、ジョゾウがふと気付く。
唖然と立ち尽くしていた勇とちゃなに。
すると独特のくりんとした瞳を向け、まさに鳩の如く首を傾げていて。
何を思ったのかパチリと手を打ち、パタパタと近寄っていくではないか。
「お子よ、拙僧らの演武はこれで仕舞いにて候。 かの雄姿は【いんすとりあるぐらむ】で投稿予定ゆえ、しばし待たれよ」
「なんで【インスト】―――いや、ちょっと待って。 魔者がなんでここにいるの?」
どうやら勇は未だ理解が追い付いていなかったらしい。
何の躊躇いも無く話し掛けて来たジョゾウを前にして、ついその手を広げて制止する姿が。
目前の鳩は既に、勇の想像を遥かに逸脱している存在だ。
人間を前にして殺意を見せるどころかお金稼ぎまでして見せていて。
しかもスマートフォンで動画投稿とか、出来る事がもう既に勇さえ凌駕しているので。
余りにも突然かつ想定外過ぎて、何一つ理解が出来ない模様。
「魔者ってこんなんだっけ?」と何度も思い返してしまう程に。
隣のちゃなに至っては思考停止状態である。
なお、ジョゾウの方も鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔を向けていた訳だが。
どうやらこのジョゾウ、話を意図せず切り替えられると途端に固まる性格らしい。
思考能力自体はそこまで卓越しているという訳ではなさそうだ。
ともあれ、たちまち勇達とジョゾウの間で妙に静かな空気が流れ込む事に。
背後で別の六人とタクシー運転手(演劇補助役)との金銭トレードが行われる中で。
「拙僧ら、目的の地へ赴くつもりであったが『まねぃ』が尽きた故、何とか工面せねばと演武を始めて今に至れり。 そこで『タイゾウ』殿にも尽力を頂き、こうして成就したという訳に御座る」
「タイゾウって誰!?」
その中でようやく口を開いたと思えば、またしても謎がまた一つ浮かぶ事に。
もっともその謎も、タクシー運転手のサムズアップを前にしてすぐ解決した訳だけども。
今、タクシー運転手・泰三氏(58)の笑顔がとても眩しい。
よほど沢山取り分を貰えたのか、手がお札で一杯である。
「なんだかもうよくわかりませんね……」
「うん、なんだか頭痛くなってきた」
とはいえ、こう語る勇達も安心してはいるのだろう。
今までの様な敵意を剥き出しに魔者とは全く違うから。
こんな存在など居ないと思っていただけで、ただ想定外だったに過ぎなくて。
「んで、目的地って?」
だからこそ今はこうやって気軽に返す事も出来る。
相手が割と気さくにも見えるからか、半ばタメ口で。
少し考えるのが億劫になったからかもしれない。
「フェノーダラ王国に御座る」
だがその何気無い答えが勇達に再び緊張を取り戻させる事となる。
勇が警戒するのも当然だ。
魔者が『あちら側』の国に用があると言えば、思い付く理由はただ一つ。
攻城―――つまり、フェノーダラ城に攻めいる事しかないのだから。
それは『あちら側』の者達における因縁とさえ思えてならなかったからこそ。
現代の地域に向かうのなら、まだ観光とも思えるものだろう。
それだったら勇だって笑顔で見送れたかもしれない。
これだけ人に馴れているのだ、そう言いだしても不思議ではないのだと。
故に今、勇が魔剣の入った鞄を手に掴む。
場合によっては今ここで斬らなければならないと。
でなければフェノーダラ王国が、エウリィが危険に晒されかねないのだから。
「〝フェノーダラ王国に赴き、『フジサキユウ』と出会いて共に問題解決を図れ〟と主殿より勅命を受けたのである」
「……え?」
しかしそんな警戒も間も無く揺らぐ事となった訳だが。
そう、つまりジョゾウ達の目的は勇と出会う事。
フェノーダラ王国に向かうのはただ手段に過ぎないと言うのだ。
それも〝共に問題解決を図れ〟となれば、なおのこと警戒など無粋な訳で。
勇が再びポカンとした顔を浮かべる事に。
「俺が藤咲勇なんだけど……」
「おおっ!? 誠かあッ!? ホッホー! これぞまさしく創世の女神の導きよ!!」
そして真実を打ち明けようものなら、ジョゾウが喜ばずにはいられようか。
この偶然の出会いを感謝するかの如く、広げた翼を空へと掲げていて。
遂には仲間達と共に喜び踊る姿がそこにあったという。
こうして、この奇妙奇天烈な出会いが勇達の訪問の意味を大きく変える事となる。
でもまだ彼等の言う問題が何なのかはわかってはいない。
だからこそ勇は不穏を感じずにはいられなかった。
果たして、共に解決するべき問題とは―――
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