時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第十一節「心拠りし所 平の願い その光の道標」

~な、なんだよこれ……ッ!?~

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 余りの緊急性ゆえか、車の停め方さえ雑だった。
 本部建屋スレスレまで突っ込み、そのまま乗り捨てて。
 全力の駆け足で、三人揃って階上へと上がっていく。

 本部三階、会議室。
 そこに現状の資料が全て揃っているのだという。

 そんな部屋に着いてすぐさま扉を押し開く。
 もはや体裁さえ構っていられないからこそ。

 するとその時、勇達の目に予想もしなかった人物が現れる事に。

「おう、お前等ぁ。元気にしてたかぁ?」

「えっ!? け、剣聖さんッ!?」

 そう、剣聖である。
 フェノーダラ邂逅以降、城から一切離れる事の無かったあの大男のまさかの登場だ。
 
「どうしてここに!?」
「勇君、ちゃなさん、まずは席へ」
「あ、はいっ」

 どうやら余りにも意外だったもので我を忘れてしまったらしい。

 そんな訳で福留に催促されて席に着くも、会話は止まらない。
 資料がスクリーンに投影されるまでは、だが。

「なんでも厄介な事が起きたってんでなぁ。面白そうだからよ、ちょいと来てみたのよ」

「え、じゃあもしかして一人でここに?」

「おう。相変わらずここは石壁――建物だらけで代わり映えしねぇなぁ、おぉ?」

 話から察するに、恐らく剣聖はまた跳ねて来たのだろう。
 勇と出会った当初と同じ様に、空高く飛び上がって。

 確かに、あの跳躍速度ならば栃木からでもあっという間に辿り着けそうだ。
 でも初めて来た場所なのに、こうも正確に辿り着くとは。
 それも勇達より先に。

 相変わらずやる事が人間技じゃない。
 職員の力も借りたのだとしても、それでも普通はこう上手く行くはずもないので。

「三人とも、お話はそこまでで。まずはこの映像を見て貰いたい」

 しかしそんな疑問を解決する暇さえ与えてくれないらしい。
 間も無くスクリーンに映像が映り込む。

 するとその緊張感からか、あの剣聖までもが黙り込む事に。

Oh my godなんてこったOh my godどういうことだよ!! Whatアレは一体 is thatなんだってんだ!?』

 声が聴こえて来る。
 喉が枯れて掠れ、息切れさえしていて。
 それでいてパニックしているのか、高音気味のかなり焦った感じな声だ。

 映った景色は赤茶けた大地で、緑はほとんど見えない。
 恐らくは大陸中腹部、乾燥地帯のどこかなのだろう。
 ただ走っているのか、画面がブレてどこだかはわからなさそう。

 画質も良くない辺り、ハンディカメラを使っているのだろうか。

「これは先日、アメリカ合衆国アリゾナ州グランドキャニオン付近にて撮影された映像です。 ちなみにこの付近は変容地区には指定されていません」

 そんな映像が時折、背後を映そうとしてか左右にブレる。
 すると人影がチラリと覗き、二人で並走しているのかとも思わせていて。

 でも、声は一人分だ。
 しかも、何かがおかしい。

 もう一人が居るにしては、余りに何も
  
 いや、違う。
 実際は聴こえている。
 雑音の様で違う、別の音が。

『ズズン、ズズゥン……』

 まるで地響きだ。
 それ程の重量感を伴った響きがマイクから微かに漏れ出ている。

 けれど、そんな音の正体など確かめる必要も無かったらしい。

 その時、勇達は見てしまったのだ。
 撮影者が意を決して向けた背後への映像から。

 その音の正体が何であるのか、という事実を。

「な、なんだよこれ……ッ!?」
「ううっ!?」
「ほぉ……!」

 そこに映っていたのは間違い無く人影だった。
 だが決して人ではない。
 魔者ですらない。



 遥か彼方に立つ、人影だったのだ。
 それも、かなり遠くからでも等身大の人間と見える程に巨大な。



 その巨体、グランドキャニオンの岸壁にも負けない程。
 それでいてそんな岩肌をも砕き、それでも止まらず歩き続けるという。
 なお激しく大地を揺らしながら。

 そこでようやく映像が停止する事に。
 これ以上は不要だと判断して。

「先日、突如あの様なモノがグランドキャニオンに出現したのです。 変容地区でないにも拘らず」

「そんな……あれは魔者なんですか?」

「わかりません。全くもって正体不明です。外観は岩の巨人で、しかし意思がある様で。しきりに目の様な物で周囲を探る仕草も見せたそうです」

 しかし肝心の巨人の正体はわからないままだ。
 そもそも緊急性さえよくわからない。
 相手はただ歩いているだけなのだが。

 そんな疑問が浮かぶ中、誰も聞かぬ間に早速答えが飛び出す事となる。
 そう、その正体を唯一知るあの男から。

「ありゃ……【グリュダン】だな」

「えっ、ぐりゅ……?」

「剣聖さんは知っている様ですね。教えて頂けますか?」

 どうやら剣聖はしっかりと知っているらしい。
 つまり、この巨人は『あちら側』の生物という事だ。

 そもそも、生物であるかどうかも怪しい話だが。

「神出鬼没の魔者だぁよ。どこに現れるかわからねぇ上に、現れてから一〇日間くらいすりゃ勝手に消えるっていうオカシな奴だ。でもまさか『こちら側』にまで現れるたぁ思ってもみなかったぜ」

 剣聖は〝魔者〟と言うが、生物のそれとは概念が全く異なる。
 どちらかと言えばファンタジーに出て来る【ゴーレム】だとかそういうのに近い。
 魔法生物――そう言われてもおかしくない風貌と性質だ。

 そしてその危険性はと言えば。

「だがまぁ、こっちから手を出しさえしなきゃ絶対に何もしてこねぇ……何もしなきゃな」

 聞いた限りでは、それほどでは無さそう。
 少なくとも攻撃さえしなければ勝手に消えていくだけなのだと。

 そう思っていたのだが。

「それが、残念ながら事は既に最悪の事態になっておりまして」

「えっ……!?」

「アメリカ政府は既に、この巨人に対して攻撃を仕掛けてしまったのです」

「「ええっ!?」」

 こうして呼ばれた事こそ全てが最悪に向かっているという証拠だ。
 つまり、この岩巨人は既に禁忌を犯されてご立腹だという訳である。

 でも、それは少し解せない。
 いくらごり押しパワーファイトが好きなアメリカとはいえ、魔者に攻撃などとは。
 通常兵器が通用しない事はもう周知の事実なはずなのに。

「なんでそんなっ!? 魔者に兵器攻撃なんて意味がないじゃないですかッ!?」

 だからこそ勇の疑問が跳ねる。
 その暴挙とも言える行動に対して。

 しかしこの時、福留は首を横に振っていた。

 勇の疑問も確かだが、その疑問そのものが正解とは限らない。
 少なくとも福留はその正否を知っている。

 今の時代だからこそ出来る、魔剣使い以外による魔者への対処手段を。

「実は、完全に効果が無い訳ではないのです。彼等も生物ですから、ナパーム弾で周辺の空気を焼き尽くせば窒息死する事が確認されています」

「そ、そんな事をしてたのか……」

「でも、少しむごいです……」

 そう、現代ではもう魔者への対処法が少しづつ見つかっている。
 直接攻撃では無く、間接的な攻撃による殺傷方法が。

 ただ、これらの手段は決してノーリスクとはいかない。
 何かしらの大きなデメリットを抱えなくてはならないのだ。

 例えばこのナパーム作戦も周囲全域を焼き尽くす必要があって。
 そうすると周辺一帯の大地が焼かれ、最悪の場合は人の住めない土地になる。
 あるいは元から住んでいた人々の家など財産を焼却する事にもなるだろう。
 なので実行する場所はとても限られる事に。

 だけど今回の現場はと言えば、何も無い荒野で。

「そういった実績もあり、同様の手段で攻撃を行ったのです。ですがあの巨体に通用するハズも無く。結果、その【グリュダン】という魔者を怒らせてしまったのです」

 ならば行動に移すのも早かった。
 アメリカ政府は【グリュダン】に対して即時攻撃行動を命令。
 しかしそれが仇となり、今現在は暴走しているのだという。

 すなわち、最悪の事態だという事だ。

 これには剣聖も「ヤレヤレ」とお手上げを見せてならない。
 事情を知らなかったとはいえ、その暴挙に呆れてしまって。

 巨人のしっぺ返しはとんでもない結果をもたらしかねないからこそ。

「ヘッ、こっちでもあんだろうが、『神に祟り無し』ってよぉ。なのに調子に乗った挙句がこれだ。結局、こっちの人間も俺ら側の奴等とほとんど変わりゃしねぇなぁ。あぶねぇ事にすぐ手を出しやがる」

「耳の痛い話です」

「だが現実問題、奴は簡単にゃ止まらねぇぞ? なんたって暴れたら最後、消えるまでに三つの国を滅ぼしたっつう伝説があるくらいだからなぁ」

「そんな恐ろしい奴なのか……」

 その巨体の持つ力は想像を絶する程に凶悪だ。
 魔剣使いが居る世界でさえそんな被害をもたらすとなればもう。

 それがもし、かつての伝説の如く街を襲い始めたならば。

 恐らく、近隣の街が壊滅状態に陥る。
 しかもかなりの広域において。
 国が点在する程度の『あちら側』と違い、現代は人間の密集地帯が多いのだから。

「現在、【グリュダン】は移動しながら西に向かっています。近隣の街の避難は完了しておりますが、このまま一〇日間も待てる訳は無く」

 なればその被害はもはや想像も付かない。
 最悪の場合、西海岸沿いが壊滅する可能性さえありうるのだ。
 それだけの距離をすぐに詰められそうなまでの巨体であるが故に。
 
 その身長はざっくり見ても二~三〇〇メートルほど。
 歩いた時の地響きだけで建物が倒壊するくらいの超重量巨体である。

「それで勇君とちゃなさんに白羽の矢が立ったのです。この魔者の排除あるいは誘導をお願いしたいと。無茶を承知での先方からの願いです」

「こ、こんなの、どうにか出来るのか……!?」

 となれば勇の攻撃など蚊が刺した程度にしかならないだろう。
 せいぜいちゃなの砲撃が効くかどうか、と言った所だ。
 それも【複合熱榴弾コンポジットカノン】級の攻撃を基準として。

 今までの相手とは全く訳が違う。
 魔剣使いが一人二人増えた所で、これでは焼け石に水だ。
 アージやマヴォを呼んでも勝てるかどうか。

 故に恐れてならない。
 かつてない、想像を絶する大物を前にして。

 自分達の力が通用するかどうか――それさえ判断も付かない相手なのだから。


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