時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」

~遥か音を超える~

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 【グリュダン】との戦いの折、ちゃなは勇を置いて逃げようとした。
 指示に従ったからとはいえ、不本意のままに。

 それが恥ずかしかった。
 とても悔しかった。
 そして何より辛かった。

 逃げなければならなかった事が。
 自分の力が及ばなかった事が。
 一緒に逃げる事も叶わなかった事実が。

 だから払拭したかったのだ。
 何でもいい、何か思い付く限りのお詫びをする事で。

 それで勇が帰って来るはずだった日は自分で料理したいと思っていて。
 でも帰ってこなかったから残念で仕方が無かった。

 けれど今度は勇の方から求めてくれて。
 ならちゃなが応えない訳が無い。
 これで少しでも情けない自分を払拭出来るなら、と。



 故に今、ちゃなは全力で空をばく進していた。
 想いの迸りに従って、今までに無い程の高揚のままに。



 その所為か、体現していた速度は今までよりもずっと速い。
 以前に録った記録よりもなお。

 お陰で飛行を始めてから僅か一二分で名古屋2/3に到達していて。
 目下で薄っすらと見える陸地の動きは実にとめどない。
 油断すると目的地さえ一瞬で過ぎ去ってしまいそう。

 そんな訳であっという間に京都へと到達する事に。
 大空からだからこそ目的地もしっかりと丸見えだ。

 するとたちまち体が杖が、地面へ向けて傾いていく。
 何と速度を維持したまま降下を始めたのである。

 フィールドのお陰で気圧変化は問題無い。
 熱も籠っているから気温も保たれている。
 強いて言うなら重圧が凄まじいが、これももう馴れたものだ。

 なら後は、地面が接近するという恐怖に耐えられればいい。

 だが今のちゃなに恐れる物は無かった。
 勇に呆れられたり、見捨てられる事の方がずっと怖かったから。
 例えそんな事はしないとわかっていようとも。

 そんな想いに駆られて杖を奮う。
 やりきる自信はあったから。
 【熱線旋回斬スピンブレード】と同じ要領で切り返し、降下速度を相殺すればいいだけだ。

 そしてその自信は行動さえ伴わせた。

 地面が接近した途端、思う通りにその身体がぐるりと半回転して。
 途端に大地へと凄まじい炎が当てつけられる。

 なれば急激に速度が落ち、遂には滑空するまでに。



 そう、見事に成功したのだ。
 土壇場のぶっつけ本番だったけれどしっかりと。



 強い決意が、信念が実を結ばせたのである。
 ただ勇の想いに応えたい一心で。

 その想いからの命力機動のお陰で重圧にも耐える事が出来た。
 恐怖にも打ち勝つ事だって難なく。

 更には、勇の目前へと着地する事だって。
 
「えぇ……田中さん、早くない?」

「はいっ! がんばりましたっ!」

「う、うん、頑張ったのは凄いけど、凄まじ過ぎない……?」

 ちなみに、電話をしてからここまでの記録はおおよそ四七分。
 自宅前発射までの準備や打合せなどを除くと、飛行時間は大体一九分。
 もはや音速を超えるどころか、更にその先へ挑戦するレベルである。

 そんな事実は知らないものの、まさか一時間以内に現れるとは。
 思って見なかった現実に、勇もさすがと驚愕と戦慄を隠せない。

 どうやら期待に応えようとし過ぎて、逆に度肝を抜く事となったらしい。

「これ、後でまた速度計算し直してもらった方がいいかもね。なんかどんどん速くなってる気がするよ……」

「かもしれません。成長期なんでしょうか」

 確かにちゃなは成長期だけれども。
 特に胸の方の成長は凄まじいけれども。

 だとしても音速を更に超える成長とはこれ如何に。
 そのたわわな胸には脂肪の代わりにジェット燃料でも詰まっているのだろうか。

「あ、勇さんコレ」

「あっそうだった。ありがとう田中さん! お陰で俺、何とかなりそうだよ!」

 しかしともあれ大事な物の運送ミッションは成功を果たした。
 お陰で早速、グゥの日誌が勇の手元へと渡る事に。

 だからか、ちゃなも何だかとっても嬉しそう。
 手を腰裏に回した恥じらいを見せてしまうほど。

「良かったぁ、勇さんに喜んでもらえて……」

 きっとこれで払拭出来た事だろう。
 先日の戦いでの後悔は。
 役に立ちたいという常日頃の想いの成就と共に。

 そんな姿は女の子らしくとても可愛らしかった。
 頬まで赤く染めて、ぷっくりと膨らんでいて。

 ただ惜しむらくは、その姿を見せたかった相手がもう居ない事か。

「あ、あれ……? 勇さ~ん?」

 そう、当人は既に居ない。
 日誌を受け取ってすぐジヨヨ村長の家に直行である。

 間が悪いというかなんというか。
 勇ももう少しはちゃなを労っても良かったのだけれども。
 どうやら昨日からの焦りはまだまだ収まっていなかったらしい。

「ま、いっか。カプロ君どこに居るんだろ」

 で、ちゃな自身もあまり深く考えない子なのでいつも通りに。
 やるべき事は済ませたから、後は退屈凌ぎに遊ぶだけだ。

 もっとも、大事な事を一つやり残している訳だけど。





 一方その頃、勇の自宅では。

「あれ、誰も居ないんだが……ちゃなちゃ~ん?」

 一人取り残された勇の父親が居ない者の名を呼ぶ。
 買い物にでも出掛けたのかと疑問を抱きながら。

 悲しい事に彼、ちゃなから出掛ける事さえ教えられなかった模様。
 フライトの激音でさえも起きなかったのはさすがの寝坊助さんである。

 なので事情も知るはず無く、ただポカンとするばかりだったという。
 いつの間にやら煤けていたリビングの窓を前にして。


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