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第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」
~日誌に秘められし真実~
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「ジヨヨさん、日誌持ってきました!!」
日誌を手に入れたその勢いのまま、勇がジヨヨ村長の家へと跳び入る。
その余りの早さ、勢い故か、堪らず村長の口から茶が吹き出す事に。
「な、なんじゃーい!? もう持ってきたんかいな!?」
「はいっ!!」
「お、おぬの家は相当近いトコにでもあるんやな……」
さすがの一時間未満達成は他の者さえ度肝を抜くのに充分過ぎた。
初邂逅の時と同様、再来訪は明日かなと思っていただけに。
しかしそこはジヨヨ、どうやら下準備だけはちゃんと済ませていたらしい。
「ま、ええわ。その日誌の件はバノ達に伝えとるでの。そいつを彼奴等に見せたってぇな。そうすりゃ何とかしてくれるやろ」
「え、バノさん達が……? わ、わかりました、行ってきますッ!!」
どうやら残すは日誌だけだった様だ。
つまりこれがあれば問題は全て解決するのだという。
と、わかればもう行動は早かった。
やってきた時の勢いはまだ留まる所を知らない。
勇が再び疾風の如く跳び去っていく。
扉が閉まる事さえ確認しないままに。
なので直後には扉が閉まりきらずに「ギギィ」と開かれて。
するとたちまち冷たい風が入り込み、ジヨヨの赤鼻を容赦無く突く。
「ぶぇっくしょぉい!! ったく、扉くらいちゃんと閉めてかんかーい!」
しかし訴えようとももはや無駄である。
勇は既に声も届かない場所に去ったので。
これは静観していた事への報いか。
あるいは只の甲斐性の無さ故か。
ジヨヨはそんなやり場の無い虚しさに苛まれて。
ただただ眉間を寄せつつ、自ら扉を閉める以外に出来る事はなかったという。
それで勇はと言えば、勢いのままにもう工房へ。
ただいま整理中だったバノ達もジヨヨ同様に驚くばかりだ。
「んな……お前さん随分とまぁ早い登場やんけ」
「さすがは勇さんッスね、うぴぴ」
ただ、こちらは勇の性格をよく知っている訳で。
驚きはするものの、半ば呆れにも近い様子での歓迎である。
その中でバノが催促する様に腕を伸ばしていて。
応えて差し出された日記を摘まむ様にして受け取る。
それでカプロと共に大机の前へと腰を掛け、早速冊子を開き始めた。
すると間も無く揃ってウンウンと頷く姿が。
どうやら中身はバノ達なら普通に読む事が出来るらしい。
「あ、やっぱりカプロにも読めるんだな」
「うん、これはボクらの里にもある言葉を使ってるッスからね」
というのも、勇はグゥの日誌の中身を未だ殆ど把握しきれていない。
エウリィに【オーダラ語】は教えてもらったが、それでも読む事は出来なくて。
何でも、書かれた文字は一般言語とは形体が全く異なるのだそうな。
どちらかと言えば一部の魔剣に刻まれた象形文字に近いという。
だけどフェノーダラの知識陣ではその文字も解読出来ないのだとか。
余りにも古過ぎて資料が残っていないから。
でもバノ達はしっかりと読めている。
アルライの里ではきっと、そんな昔の言葉が今も残り続けているのだろう。
もしかしたらグゥの故郷であるエウバの里も同様にして。
だから日誌の中に書かれた事はジヨヨとバノしか知らない。
それにわざわざその翻訳の為に赴くのも何だか悪くて。
お陰で勇にとっての中身はまだ謎だらけだという訳だ。
「こ、これは……!?」
しかしそんな謎に触れたカプロが突如として唸りを上げる。
まるで子供とは思えない真剣な表情と共に。
「驚いたぁろ?」
「これは凄いッス……」
それはとある頁へと辿り着いた時からだった。
まだまだ空白から開いて十数頁くらいの所だったのだが。
それでも書かれた内容に驚きを隠せなくて。
その所為か、ページをめくる手が途端に遅くなる。
二人がまるで食い入る様に見つめ始めたからだ。
そしてある程度を読み解くと、たちまちカプロの手から冊子が閉じられる事に。
「何がわかったんだ……?」
それでバノとカプロが上下顔を合わせて頷いていて。
今度は勇へと揃って視線を向ける。
今まで見た事も無い様な真剣なまなざしを。
「とんでもねぇ事ッス。グゥって人がなんでこの日誌を守ろうとしていたのかが痛い程わかるくらいのね」
「えっ……」
「恐らく、ワシらが同じ境遇だったらきっと同じ様にしてたやろなぁ。この日誌にゃそれくらいの価値と危険性が描き込まれとるっちゅうこっちゃ」
「それってどういう……」
それだけ日誌に書かれた事が大事だから。
命を張ってまで守り抜かなければならない程に。
この日誌を見失うだけで、個人の命以上の危険性が露出してしまうからこそ。
「ここに書かれているのは、魔剣の製造方法なんスよ……!」
「なッ!?」
そう、日誌にはなんと魔剣の造り方が記載されていたのだ。
一歩間違えれば戦争をより過酷にしてしまいかねない情報が。
一本あれば魔者を何百と抹殺出来る魔剣。
そんな物が量産されてしまえばどうなるか。
間違い無く人間か魔者のどちらかが滅ぶだろう。
表世界ではそれくらいの怨恨が広まっているから。
どちらかを滅ぼしきってもおかしくないくらいの。
だからグゥは自身と共に日誌を消し去るつもりだった。
それで勇達に殺してくれと懇願した。
「恐らくグゥさんはボクらみたいに、魔剣製造を伝承する末裔だったんスね」
「だから危険性もわかっとったんやろな。前置きの文からそれがひしひしと伝わってくるようやったわ」
「どんな事が書いてあったんです?」
だけど勇と出会って、人とも仲良くなれる事を知って。
そう導いてくれてた勇ならばきっと日誌を正しく扱ってくれると信じてくれた。
お陰でその後、アルライの里とも親交を持てて。
アージやマヴォという仲間さえ増えて。
その結果、危険だった情報は勇の為に正しく開示される事となったのである。
『この伝承を受け継ぐ者へ。魔剣とは心を映す手鏡である。手にした時から行い見えし自分自身である。なれば造る事を選びし時は与える者を見よ。そして心せよ。その刃が己の胸へと突き刺される覚悟を以て。そう在らぬならば今すぐこの書を棄て、永久に封印せしものと知れ』
もし勇が危険人物ならば、ジヨヨもバノもこの情報を開示しなかっただろう。
例えみせしめに殺される様な事があっても。
それがこの日誌を読んだ者の責務なのだから。
信頼する者以外に開示してはいけない。
でなければ胸を刺される事になるのは自分なのだと。
恐ろしい話だが、これは現代でも言える事だ。
見返りを求めて裏仕事をこなしても、返って来たのは弾丸だった、など。
信用する相手を間違えれば命取りにもなりかねない技術だから尚さらに。
「まぁそれでも勇殿なら問題なかろぉ」
「そうッスね。ボク、勇さんなら全然信じていいと思うッス」
「そ、それじゃあ……!!」
でもジヨヨもバノも、そしてカプロも勇を信じた。
だから今、笑顔で応えてくれている。
勇はこの情報を絶対に受け取るべき人物なのだとして。
「出来るッスよ、勇さんの魔剣が。勇さんの為の魔剣が造れるんスよ!!」
まさか魔剣が造れるなんて思っても見なかっただろう。
フェノーダラ王国でもそんな話は一片も聞かなかったから。
それで今ある物に拘って何とかしようとしていて。
けど、もう既存の物に拘る必要は無い。
単に、勇は魔剣使いを辞めなくても済む様になったのだから。
失ったなら何度でも造ればいい。
そしてその土台は今この場に存在するからこそ。
「素人のボク達でもこの日誌があれば多分造れるハズッス。だからボク達に任せて欲しいッス。きっと立派な魔剣を造って見せるッスからね」
「カプロ……ありがとう、ありがとう……ッ!!」
例え製造経験は無くとも、槌を奮う経験ならば誰よりもある。
そんなバノとカプロならばすぐ造る事も出来るだろう。
そうわかっているからカプロも自信満々だ。
ホームステイの時と同じサイドサムズアップを見せつける程に。
今だけはそんなポージングがとても頼もしく見えてならない。
そのお陰でもう、勇は涙が止まらなかった。
感極まった感情のダムはここで遂に決壊してしまったらしい。
今までにも色々あったから、我慢も限界だった様だ。
「さぁ師匠、勇さんの為に魔剣を作るッスよ!! ボクも手伝うッス!!」
そんな勇を前にカプロが張り切って見せつける。
やはり頼られるという事は人の動力源となりうるという事か。
ならその期待を集めたバノはと言えば――
「んなぁの出来るわきゃねぇだろ」
二人の期待を他所に冷淡の一色である。
これには勇の感涙もズゴゴシュポンと涙腺へ帰っていく事に。
気合いを入れて指差していたカプロも据わった目を向けるばかりである。
どうやら製造方法がわかったからと言って、簡単に事が進む訳ではなさそうだ。
日誌を手に入れたその勢いのまま、勇がジヨヨ村長の家へと跳び入る。
その余りの早さ、勢い故か、堪らず村長の口から茶が吹き出す事に。
「な、なんじゃーい!? もう持ってきたんかいな!?」
「はいっ!!」
「お、おぬの家は相当近いトコにでもあるんやな……」
さすがの一時間未満達成は他の者さえ度肝を抜くのに充分過ぎた。
初邂逅の時と同様、再来訪は明日かなと思っていただけに。
しかしそこはジヨヨ、どうやら下準備だけはちゃんと済ませていたらしい。
「ま、ええわ。その日誌の件はバノ達に伝えとるでの。そいつを彼奴等に見せたってぇな。そうすりゃ何とかしてくれるやろ」
「え、バノさん達が……? わ、わかりました、行ってきますッ!!」
どうやら残すは日誌だけだった様だ。
つまりこれがあれば問題は全て解決するのだという。
と、わかればもう行動は早かった。
やってきた時の勢いはまだ留まる所を知らない。
勇が再び疾風の如く跳び去っていく。
扉が閉まる事さえ確認しないままに。
なので直後には扉が閉まりきらずに「ギギィ」と開かれて。
するとたちまち冷たい風が入り込み、ジヨヨの赤鼻を容赦無く突く。
「ぶぇっくしょぉい!! ったく、扉くらいちゃんと閉めてかんかーい!」
しかし訴えようとももはや無駄である。
勇は既に声も届かない場所に去ったので。
これは静観していた事への報いか。
あるいは只の甲斐性の無さ故か。
ジヨヨはそんなやり場の無い虚しさに苛まれて。
ただただ眉間を寄せつつ、自ら扉を閉める以外に出来る事はなかったという。
それで勇はと言えば、勢いのままにもう工房へ。
ただいま整理中だったバノ達もジヨヨ同様に驚くばかりだ。
「んな……お前さん随分とまぁ早い登場やんけ」
「さすがは勇さんッスね、うぴぴ」
ただ、こちらは勇の性格をよく知っている訳で。
驚きはするものの、半ば呆れにも近い様子での歓迎である。
その中でバノが催促する様に腕を伸ばしていて。
応えて差し出された日記を摘まむ様にして受け取る。
それでカプロと共に大机の前へと腰を掛け、早速冊子を開き始めた。
すると間も無く揃ってウンウンと頷く姿が。
どうやら中身はバノ達なら普通に読む事が出来るらしい。
「あ、やっぱりカプロにも読めるんだな」
「うん、これはボクらの里にもある言葉を使ってるッスからね」
というのも、勇はグゥの日誌の中身を未だ殆ど把握しきれていない。
エウリィに【オーダラ語】は教えてもらったが、それでも読む事は出来なくて。
何でも、書かれた文字は一般言語とは形体が全く異なるのだそうな。
どちらかと言えば一部の魔剣に刻まれた象形文字に近いという。
だけどフェノーダラの知識陣ではその文字も解読出来ないのだとか。
余りにも古過ぎて資料が残っていないから。
でもバノ達はしっかりと読めている。
アルライの里ではきっと、そんな昔の言葉が今も残り続けているのだろう。
もしかしたらグゥの故郷であるエウバの里も同様にして。
だから日誌の中に書かれた事はジヨヨとバノしか知らない。
それにわざわざその翻訳の為に赴くのも何だか悪くて。
お陰で勇にとっての中身はまだ謎だらけだという訳だ。
「こ、これは……!?」
しかしそんな謎に触れたカプロが突如として唸りを上げる。
まるで子供とは思えない真剣な表情と共に。
「驚いたぁろ?」
「これは凄いッス……」
それはとある頁へと辿り着いた時からだった。
まだまだ空白から開いて十数頁くらいの所だったのだが。
それでも書かれた内容に驚きを隠せなくて。
その所為か、ページをめくる手が途端に遅くなる。
二人がまるで食い入る様に見つめ始めたからだ。
そしてある程度を読み解くと、たちまちカプロの手から冊子が閉じられる事に。
「何がわかったんだ……?」
それでバノとカプロが上下顔を合わせて頷いていて。
今度は勇へと揃って視線を向ける。
今まで見た事も無い様な真剣なまなざしを。
「とんでもねぇ事ッス。グゥって人がなんでこの日誌を守ろうとしていたのかが痛い程わかるくらいのね」
「えっ……」
「恐らく、ワシらが同じ境遇だったらきっと同じ様にしてたやろなぁ。この日誌にゃそれくらいの価値と危険性が描き込まれとるっちゅうこっちゃ」
「それってどういう……」
それだけ日誌に書かれた事が大事だから。
命を張ってまで守り抜かなければならない程に。
この日誌を見失うだけで、個人の命以上の危険性が露出してしまうからこそ。
「ここに書かれているのは、魔剣の製造方法なんスよ……!」
「なッ!?」
そう、日誌にはなんと魔剣の造り方が記載されていたのだ。
一歩間違えれば戦争をより過酷にしてしまいかねない情報が。
一本あれば魔者を何百と抹殺出来る魔剣。
そんな物が量産されてしまえばどうなるか。
間違い無く人間か魔者のどちらかが滅ぶだろう。
表世界ではそれくらいの怨恨が広まっているから。
どちらかを滅ぼしきってもおかしくないくらいの。
だからグゥは自身と共に日誌を消し去るつもりだった。
それで勇達に殺してくれと懇願した。
「恐らくグゥさんはボクらみたいに、魔剣製造を伝承する末裔だったんスね」
「だから危険性もわかっとったんやろな。前置きの文からそれがひしひしと伝わってくるようやったわ」
「どんな事が書いてあったんです?」
だけど勇と出会って、人とも仲良くなれる事を知って。
そう導いてくれてた勇ならばきっと日誌を正しく扱ってくれると信じてくれた。
お陰でその後、アルライの里とも親交を持てて。
アージやマヴォという仲間さえ増えて。
その結果、危険だった情報は勇の為に正しく開示される事となったのである。
『この伝承を受け継ぐ者へ。魔剣とは心を映す手鏡である。手にした時から行い見えし自分自身である。なれば造る事を選びし時は与える者を見よ。そして心せよ。その刃が己の胸へと突き刺される覚悟を以て。そう在らぬならば今すぐこの書を棄て、永久に封印せしものと知れ』
もし勇が危険人物ならば、ジヨヨもバノもこの情報を開示しなかっただろう。
例えみせしめに殺される様な事があっても。
それがこの日誌を読んだ者の責務なのだから。
信頼する者以外に開示してはいけない。
でなければ胸を刺される事になるのは自分なのだと。
恐ろしい話だが、これは現代でも言える事だ。
見返りを求めて裏仕事をこなしても、返って来たのは弾丸だった、など。
信用する相手を間違えれば命取りにもなりかねない技術だから尚さらに。
「まぁそれでも勇殿なら問題なかろぉ」
「そうッスね。ボク、勇さんなら全然信じていいと思うッス」
「そ、それじゃあ……!!」
でもジヨヨもバノも、そしてカプロも勇を信じた。
だから今、笑顔で応えてくれている。
勇はこの情報を絶対に受け取るべき人物なのだとして。
「出来るッスよ、勇さんの魔剣が。勇さんの為の魔剣が造れるんスよ!!」
まさか魔剣が造れるなんて思っても見なかっただろう。
フェノーダラ王国でもそんな話は一片も聞かなかったから。
それで今ある物に拘って何とかしようとしていて。
けど、もう既存の物に拘る必要は無い。
単に、勇は魔剣使いを辞めなくても済む様になったのだから。
失ったなら何度でも造ればいい。
そしてその土台は今この場に存在するからこそ。
「素人のボク達でもこの日誌があれば多分造れるハズッス。だからボク達に任せて欲しいッス。きっと立派な魔剣を造って見せるッスからね」
「カプロ……ありがとう、ありがとう……ッ!!」
例え製造経験は無くとも、槌を奮う経験ならば誰よりもある。
そんなバノとカプロならばすぐ造る事も出来るだろう。
そうわかっているからカプロも自信満々だ。
ホームステイの時と同じサイドサムズアップを見せつける程に。
今だけはそんなポージングがとても頼もしく見えてならない。
そのお陰でもう、勇は涙が止まらなかった。
感極まった感情のダムはここで遂に決壊してしまったらしい。
今までにも色々あったから、我慢も限界だった様だ。
「さぁ師匠、勇さんの為に魔剣を作るッスよ!! ボクも手伝うッス!!」
そんな勇を前にカプロが張り切って見せつける。
やはり頼られるという事は人の動力源となりうるという事か。
ならその期待を集めたバノはと言えば――
「んなぁの出来るわきゃねぇだろ」
二人の期待を他所に冷淡の一色である。
これには勇の感涙もズゴゴシュポンと涙腺へ帰っていく事に。
気合いを入れて指差していたカプロも据わった目を向けるばかりである。
どうやら製造方法がわかったからと言って、簡単に事が進む訳ではなさそうだ。
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