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第十九節「Uの世界 師と死重ね 裏返る力」
~結う 世界~
しおりを挟む「なァおい、こんな所で終わる気かよ? お前らしくも無い」
「ッ!?」
無が訪れた矢先に聞こえた声。
それはどこか懐かしくもあり、新鮮でもある声。
「お前がさ、お前である事なんて些細な事だって、正直どうでもいいって思わないか?」
「それは……」
「要はさァ、自分が感じた事、それって真実じゃなくてもよ、お前にとっては全てなんだわ」
「あ……あぁ……!!」
首を上げ、涙で濡れた顔を上げた先に見る人影。
そしてハッキリ耳に聞こえる声、それは―――
「統也なのか……?」
「おぅ、久しぶりだなァ、勇……!!」
暗闇に紛れながらも、輪郭をしっかりと持った形で現れた統也の姿に……勇は自然と大粒の涙を目に浮かべていた。
<バ、バカな……何故キサマがここに来れる!?>
「あぁ? うっせェ黙ってろ外野が……!!」
<ぐぅ!?>
まるで今の状況を把握しているかの様に『神』を名乗る者へ歯向かう統也。
そんな彼を見た勇もまた驚きの顔を浮かべて見つめていた。
「お前……どうして……」
「……お前がよ、苦しんでるのが見えたから……来ちまった」
「『来ちまった』って……お前が何なんだよ!!」
そう言われると、統也も「ハッ」として悩む様を見せるが、すぐに「ニカッ」と笑い直した。
「お前はホント馬鹿正直な奴だからさ、どうせ騙されてるんだろうって思ってたわ……ここはな、無限の可能性を繋げる世界なんだよ。 魔剣による現象干渉効果によって、引き出された一つの可能性との邂逅による存在希薄化と、結果的な精神の消失を目的とした空間だよ」
統也の推察に、勇は目を丸くしてしまう。
「な、何言ってるのかわからねーよ!!」
「プッ、だろうな、そんなこったろうと思って難しく言ってみた。 まぁ要するに魔剣が作り出した夢みたいな空間だ。 なんつか、パラレルワールドっていうのかな? 恐らくそんな感じで別世界を見せて相手の心を殺す事が出来る代物っぽいな」
統也らしい意地悪な受け答えに自然と安堵したのだろう……勇の顔からは苦しみが消え、いつの間にか笑顔が生まれていた。
「お前相変わらずだろ……」
「当たり前だ、早々変わってたまるかよ?」
「だろーな……お前らしいよ統也……本当にお前なんだな……」
「あぁ……厳密に言えば、お前の世界の俺とは異なる俺だがな」
気付けばまるで光が差すかの様に、統也が来た事で二人の周囲に明るみが生まれ、お互いの顔が認識出来る程になっていた。
「どうやってここに来れたんだ……?」
「ま、簡単な話よ……魔剣の力を利用させてもらった。 俺ァ早い段階から仕組みに気付いて打ち破ったんだが……するとなんだ、俺が見てたお前が苦しんでる姿が見えたからよ……」
「ニシシ」と笑う統也……それは彼が死ぬ前からよく見せた彼の笑顔そのもの。
「そうだったのか……やっぱりお前は凄い奴だよ」
安心したのか、勇は「フウ」と一息吐き……落ち着きを取り戻した眼差しで統也を見つめた。
だがその統也の顔は途端に真剣な面持ちに切り替わっていた。
「いいや、それは違うぜ勇……凄いのはお前だ……俺なんて、正直お前と比べたらゴミみたいなもんだぜ……」
「何言ってるんだよ……」
「いや、これだけは言わせてくれ……俺、お前に謝らなきゃいけねェ事がある」
「え……?」
真剣な表情を浮かべたまま統也は勇の両肩へ自身の手を乗せた。
「俺はよ……お前が殺された時、魔物が憎くなった……魔者は殺さなきゃいけない、滅ぼさなきゃいけない……お前を殺した魔者は全て敵だと……そう思ってた」
「統也……」
「そこから俺は無我夢中だったよ……例え人に嫌われようと、疎まれようと……俺は唯ひたすらに殺した……殺しまくった。 それがお俺が出来るお前への報いなんだってずっと思ってた……」
勇の肩を取る両手が微かに震えを帯びる。
「でもさ、それは……違ったんだ……お前は……そんなこと望んでなかッたんだッて……!! ここでお前の姿を見た!! お前は……俺の思った以上に……凄い奴だッたんだ!! お前はァッ!!」
感情が昂り、声が高くなり、統也の目から涙が流れ落ちる。
「……俺はお前には成れなかった……お前が望む俺に成れなかったんだ!!……俺は……自分が恥ずかしい……ッ!! 自身を制御できなかった自分が恥ずかしいッ!!……ウゥ……ウァァ……!!」
統也の目から零れ落ちる涙は次第に大粒となり雫となって地面へ落ちていく。
「……だから……俺はお前の姿を見た時……本当に自分が進まなきゃいけない道がわかった気がするんだ……俺はやっと、自分を取り戻せる気がする……そう思ったんだ」
「統也……俺はそんな……」
「謙遜するなよ……お前がやってきた事は全部見てきた。 魔物との共存……スゲェじゃねェか……夢にも思わなかった事を成し遂げる、俺はそんなお前を信じた事を誇りに思う」
涙目ながらも……統也は再び笑窪を作り、勇と顔を合わせた。
それを見た勇も心配そうな顔が再び笑顔に変わる。
「勇、お前は誇れ!! お前は俺が認めたスゲェ奴だって事を!!」
「統也……俺は、俺が進むべき道を……成し遂げてみせるよ」
「あぁ、俺もお前に恥ずかしくない道に戻れる様にやっていくつもりだ」
<ググッ、キサマら……一体何故だ、この空間は我が……>
「もうキサマの策略には騙されはしない!!」
<ウグッ!?>
「あぁ、俺達はよ、未来を作り続けなきゃなんねェ……だから、行くぜ?」
「ああ!!」
統也が腰に掛けた大地の楔を手に取ると……その刀身が瞬き光を生む。
するとその周囲が光に包まれ闇を祓い除けた。
晴れた闇から落とした翠星剣が姿を現すと、それを勇が拾い上げる。
そして、二人の戦士がお互いの魔剣を構え、その光を輝かせた。
キィィィィィンッ!!
「勇、俺が奴を引きずり出す……お前は締めを頼むぜ!!」
「任せておけ!!」
そう言い放ち、統也が大地の楔を一振りし、頭上高く掲げた。
「大地の楔よ!! 俺に力を貸せ!! このクソッタレな空間を作る奴を引きずり出す為にッ!! ウォォォォッ……アースバインドォッ!!」
その瞬間、大地の楔から巨大な光の楔が無数に飛び上がり、暗闇を斬り裂いていく。
そして、獲物を求める様に右往左往すると……突如無数の楔が一つの場所へと高速で向けて直線を描いた。
<ヒィィィ!?>
楔が影を捉え、その身を縛りつけ、その正体を彼等の前に晒し出す。
黒い影であるが故に何者かはわからずとも、明らかな第三者……その存在こそが己を『神』と偽り勇の心を殺そうとした張本人である事は明白であった。
「今だーーー勇ゥーーーーーーッ!!」
「ウォォォーーー―――」
その時、勇がその足を思いっきり踏み込んだ。
翠星剣の作る光が暗闇を斬り裂く光の道となって敵へと一直線に向かって行く。
<ヤ、ヤメロォーーーー!!>
「―――ォォォオオオッ!!」
―――ギィィィィィィンッ!!
そして遂に光の一閃が黒い影を貫き、真っ二つに斬り裂いたのだった。
<ば、ばかな……カハッ!!>
そして影は暗闇に溶け込む様に消え……その気配は完全に消え去った。
トットト……
斬撃の際の勢いで飛び上がった体が降下し、床へと着地を果たす。
無音の空間に足音を微かに鳴らすと、籠った反響音が僅かに響き渡った。
魔剣の力で作った世界とはいえ、こうもリアルであれば騙されるのも無理はないのかもしれない。
「良い一撃だったぜ、勇!!」
その時背後から聞こえる統也の声……それと共に近づく足音。
「統也こそ、ナイスアシスト!!」
彼の近づいてくる方向へ体を向けると……お互いが笑顔で向き合った。
そう言い合いながら互いが近づくと……魔剣を持たない手を上げ―――
パァン!!
二人の息の合ったハイタッチ。
例え時が長く経とうと、息の合ったこのやりとりを二人は忘れる事は無かった。
すると……瞬く間に周囲の暗闇が「スゥー」っと溶け流れる様に白色へと塗り潰されていく。
そして白く、艶やかな空間が姿を現し彼等の姿をハッキリとさせた。
「お……見える様になった」
「どうやら、術が消える様だな」
そう統也が呟いた通り……空間が徐々に振動し、僅かな音を立てる。
次第にその揺れが強くなると、二人の間に亀裂の様な物が生まれ始めた。
ピシッ……ピシッ……
「これは……?」
亀裂が入っていく空間へ手をやると……何も無いはずの空間に壁を感じ掌が止まる。
その様子を見た二人が不思議そうに見つめるが、その事が何なのか統也は閃いたかのように語り出した。
「恐らく、世界が崩壊するんだろう。 お互い意識が元の世界に戻るって訳だ」
「じゃあ、俺達はここでお別れって事か」
「……そうだな……ま、けどよ……こうやってお互いが生きている世界がある……
それを知れただけでもいいじゃねェか」
「また、会えたりしないか……? この魔剣を使ってさ」
そう言われ、空間越しに統也が首をもたげる。
「そりゃまぁ、それが出来るなら越した事はねェけど……今後の為にも、こんな魔剣は無い方がいいさァ」
「そりゃそうか……そうだよな」
そう会話を交わすと、二人は軽く「ハハハ」と笑い合った。
「なぁ勇……俺さ、やり直そうかと思う」
「やり直す……?」
徐々に亀裂が大きくなっていく中……統也の言葉が続く。
「もう失った物は取り戻せない……けど、修正していく事は出来ると思う。 俺は勇の生き方に共感したい……これからでも、俺は勇が本当に望んだ道を歩んでいこうって思ってるんだ」
「そうか……ありがとうな。 俺も、統也に教えられた……自分の在り方を見失う事の怖さを。 俺はやっぱり……」
すると統也の握り拳が不意に上がり……互いの視線に映る。
それを見た勇も何かに気付いたのか、同じ様に拳を作った。
「変わるんだ……俺は変わるまいと抗い続けた男の様に」
「変えるんだ……俺は、変わろうとしていた自分を取り戻す為に」
空間を挟む様に、お互いの拳が付き合わされ……互いの目が合う。
「元気でな、勇!!」
「統也も、元気でやれよ!!」
亀裂が空間を破片として落とし始めると、その裂け目から彼等をも塗り潰す程の光を放ち白に包まれていく。
彼等が完全に塗り潰され、完全なる白を体現した時……僅かな声が囁かれた。
「なぁ統也……お前、どうやって生き残ったんだ……?」
「そりゃ決まってる……あの後すぐ逃げたんだよ……」
「なんだ……そうだったのか……はは……―――」
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