時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十五節「消失の大地 革新の地にて 相反する二つの意思」

~どうやら君は子供だからわからない様だね~

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 ナターシャとピューリーが空で激戦を繰り広げている頃。
 一方、地上では―――

「はは……冗談だよねぇ?」

 ナターシャから振り落とされた獅堂がその時見上げていたのは、筋肉の巨人。
 その身を起こした時、既に彼は見下ろされていたのだ。

 先程アルバは諦めたのでは無い。
 ただ獅堂の言葉を真に受け、勢いを留めたに過ぎず。
 今こうして追い付き、凄まじい闘気と命力と熱気を放ちながら佇んでいたのである。

「フォォォォォォ……!!」

 蒸気にも足る深い息を口から、鼻から耳から吐き出しながら。
 闇夜にも勝る深い影を落として。

 圧倒的存在感。
 そこにあるのはただそれだけだった。
 
 訓練の時に見せたイシュライトやマヴォの威圧感など比べ物にならない程の強者感。
 それが今獅堂の全身を覆い、心を、精神を握り潰す。

 コイツには勝てない―――そう思わせてしまう程に。



 だが―――



素晴らしいィグゥレイトォーーー!!! よく言ったぞボォーーーーーーゥイッ!!!」



 その時現れたのは、今までに見ない程の大きな笑み。
 そして獅堂を称賛して止まない高らかな笑いであった。

「へっ?」

 余りにも唐突。
 余りにも意外。
 獅堂がこうして唖然としてしまう程に。

「筋肉の可能性ッ!! そこを追い求めんとするボォイの心意気に惚れたぞおッ!! 素晴らしいッグラッツ!! 是非とも友と呼ばせてくれぇ!!」

 たちまちその巨大な腕が獅堂の細い腕を掴み、力の限りに上下に振り回す。
 それはアルバによる渾身の握手。
 獅堂の体が宙へ浮く程に激しいものだ。

 それでさえも攻撃と思わせんばかりの。

「俺はアルバ!! 筋肉とパワーと筋肉を追い求めし者!! 同じ目的を持つ者に敵味方強弱など関係無ぁいから安心するのだ!! ちなみに空で遊んでいるのはピューリーだぞ。 あれは筋肉では無い」

「は、はぁ……」

 しかも勝手に自己紹介まで始めていて。
 本当に聴いていいのかとすら思える程に真正直だ。
 仲間の事まで簡単に漏らす辺り、本当に脳まで筋肉で出来ているのではないかと思わせてならない。

 空で激戦が繰り広げられていようともお構いなしである。

「だがデュラン殿に集まる者達の殆どが筋肉だ。 当然デュラン殿もなッ!!」

「それはそれは……なんだか会うのが不安になって来たよ」

 ここまで筋肉を連呼されれば当然か。
 今の獅堂にはデュランを含めた全員がアルバの様な筋骨隆々な存在として想像されてしまう程なのだから。

「ではそういう事で早速始めるとするか……友として、同じ筋肉としてッ!!」

「あ、やっぱりそうなっちゃう?」

 しかしアルバもやはりそこまで馬鹿では無いのだろう。
 いや、元々これを所望していたのかもしれない。

 血沸き肉躍る―――筋肉と筋肉のぶつかり合いを。

「誘った者として……まずは俺の実力を見せよう」

「そこは普通譲る方じゃない!?」

「否!! 俺は先に俺の筋肉を魅せたいッ!!」

 ここまで自分の欲望に忠実。
 横暴であろうともそうも感じさせない程に筋肉に素直。
 それがアルバという存在の在り方なのだ。

 途端、アルバがその太い右腕を力の限りに腰裏へと引き込ませる。
 ゆっくり、ゆっくりと。
 たちまち筋肉の軋み音が「ビチビチ」と鳴り響き、多大な力を篭めさせていて。
 しかもその腕が輝く程の命力を纏い始めていた。

 目の前に佇む獅堂を睨みつけながら。

「筋肉とはパワーでありスピード。 パワーとスピードは極限の筋肉によって生み出される。 しかも強靭、強烈、強引。 そこに生半可な力では―――」



ギュリィッ!!!



 しかもその筋肉が絞りを見せた時、引き絞られた腕が螺旋の輝きを放たせる。
 プロテインが如き真っ白な超濃度なる命力の輝きを。

 獅堂はその圧倒的な力の奔流を前に絶望するしかない。
 まともに貰えば間違いなく全身の骨、肉、血管、内臓が漏れなく弾け飛ぶだろうと予感してしまったから。

「ならさ、やるっきゃないでしょおッ!!」

 だからこそ今は全力で耐えるのみ。

 今まで培った全ての力を防御に換えて。
 一つ、二つ、三つ……合計五つの命力の盾を直列に張り、最悪最大の攻撃に備える。

 それだけの事が出来る程の成長は果たしていた。
 少なくとも才能センスはあったのだ。
 決定的な攻撃能力をまだ得ていないからこそ、前線にはまだ出られないだけに過ぎない。

 ただその防御が通用するかどうかと言えば―――



「―――抗えぇぇぇーーーーーーぬッッッ!!!!!!」



ヒュボッ―――



 その一撃を前には、そんな盾など紙切れ同然だった。

 撃ち抜かれた拳は彗星の如く。
 その迫力は獅堂の視界を覆い尽くす程に巨大。
 パワーとスピード、その二つを重ね揃えた究極の一撃。

 もはやそれは拳撃ではない。



 ただの―――圧倒的暴力だ。



ゴッッッシャアッ!!!!



「ぐがッ―――」

 命力の盾は瞬時に砕け、勢いを抑える事さえ出来ず。
 強烈な拳撃が撃ち当てられた瞬間、獅堂の体が激しく歪んでいく。
 その拳に纏った凄まじい念転力によって。



 殴る事を主とするボクシングにはコークスクリューパンチという技がある。
 肩、腕、手首などを捻り、腕そのものへ回転力を乗せて撃ち込むというものだ。
 僅かな回転域ではあるが、そこに加算される威力は侮れない。
 直進力と念転力、二つの力が合わさり、打ち込まれた相手に通常の拳とは比べ物にならないダメージを与えるのである。

 アルバの放った拳はまさにそれ。
 それも空手の正拳突きと同じ挙動によって。
 その強靭な足腰による全身の回転運動は並の人間とは比べ物にならない。

 この一撃はいつか勇がバロルフに見せた流星撃と同じ原理。



 しかもその威力と同等、またはそれ以上に―――破壊的。



 叫び声を上げる事すら叶わない。
 それまでの威力、それだけの衝撃。

 全身から軋み、砕ける音が響いていく。
 獅堂がトラウマとして抱える嫌な音が。
 かつて勇に顎を砕かれた時の破砕音を再現するかの様にして。

 だが、耐えきった。

 その身を高く空へ打ち上げられようとも。
 音速で叩き上げられようとも。
 ただ自身を守る為だけに力を振り絞っていたから。

 彼は間違いなく生きて耐えたのだ。

「ガハッ―――耐え、きって見せたッ!!」

 ただし多量の吐血を伴って。

 何せあれだけの一撃で。
 発展途上の体では衝撃を吸収しきれず、内臓に多大なダメージを受けていたのである。

 しかしそれでも彼は諦めない。

 もう諦める事を辞めたから。
 何が何でも勇達の助けになると誓ったから。

「そうさ僕はッ!!」

 今、彼が目を向ける跳ね上げられた進路方向。
 その先に映りこんだのはナターシャとピューリーの応酬劇。
 幸か不幸か、獅堂はその真っただ中に飛ばされていたのである。

 だからこそ、彼はその千載一遇なるチャンスを逃さない。

「―――ピンチをチャンスに変えるッ!! 獅堂という男なのさあッ!!」

 命力の扱い方はイシュライトから基礎から応用方法までみっちり叩き込まれた。
 まだまだ雑だが、賢い彼だからこそ教えられた事はしっかりとこなす事が出来る。

―――体の傷は命力で抑え込む。 強引に!!―――

 既に吐血は治まっている。
 空に跳ね上げられながらも、その時から行動を始めていたから。

―――予測しろ! 二人の行き先を!!―――

 そこに見えるのは姿では無く命力。
 そして意思の先。
 行き着く先を瞬時に導き出して体を揺り動かす為に。

―――軌道修正! そして加速だ!!―――

 痛みも苦しみも通り越し、その体を大きく広げ。
 手足から黄色い閃光を撃ち放つ。

 そうして生まれたのは―――加速軌道。



「タイミングばっちりだッッ!!!」 



 それは互いが迫る様にして。
 これこそが軌道を読み取りタイミングを合わした結果。

 完璧なる軌道予測。
 それを獅堂は土壇場で成し遂げたのだ。 

 そうして飛び込んだ相手こそ、ナターシャを追い詰めていたピューリーである。

「な―――ッ!?」

 突如とした獅堂の出現にピューリーはただ驚愕する。

 相対速度は現飛行速度のおおよそ二倍。
 例え卓越していようとも、それだけの速度感ともなれば認識する事は困難を極めるだろう。

 だからこそその一瞬はピューリーでさえも予測出来なかったのだ。

 そして躱す事さえも。



 この時獅堂は何を思ったのだろうか。

 逆転の一撃を加える?
 ナターシャに反撃の隙を与える? 

 どちらも今の獅堂に出来はしないだろう。
 今の彼にピューリーのフルクラスタを貫く術は無い。
 そもそもナターシャを圧倒する相手に物理的な傷を負わせる事など不可能だ。

 でも彼には覚悟がある。 
 例えどんな事をしても何があろうとも、思った事を成し遂げる覚悟が。

 そこから導き出した彼の答えは―――



 ―――ピューリーに抱き着く事。



「捕まえたッ!!」
「なあッ!? てっめえ!!」

 ナターシャよりもさらに小さいその体を背中から包み込む様に掴まり、必死に捉えて離さない。
 体裁も手段も雰囲気さえも考えず、なりふり構わず手段を講じる為に。

 もう、獅堂にはこの方法しか残されていなかったのだ。

「ナターシャちゃん!! 逃げろ!! 君だけで!!」
「ッ!?」

 ピューリーが暴れて只の並走へと形替わった今だからこそ、こんな会話が成り立つ。
 しかしそれも間も無く終わるだろう。
 獅堂が振り落とされればそれで終わりなのだから。

「でもッ!?」
「デモもストも無いッ!! 僕は元々覚悟しているッ!! 犠牲になる事も厭わない!! それに僕は君と違って帰る場所は無いんだ!! だったら君が逃げる道くらい作って見せるさあーーー!!」

 するとその時、獅堂が驚くべき行動を始める。
 ナターシャが、そして抱き着かれたピューリー本人さえもが驚く行動を。



 なんとピューリーの幼い体をまさぐり始めたのである。



「にゃ!? にゃにーーーッ!?」

 その首を、胸を、下半身をも。
 素早い手捌きで余す所無く撫で回す。

 これにはナターシャさえもドン引きだ。
 緊迫の最中の痴態、しかも敵で少女相手に。

 もちろんこれはピューリーも堪ったものでは無い。

「キャー! ヤダー! ヤメテー!!」

「悪いが止められないね!! 僕はこれでもテクニシャンとしての才能もあるッ!! 夜の帝王と呼ばれた事もある獅堂雄英の指捌きを舐めないでくれよなッ!!」

 たちまち飛行軌道にブレが生まれ、ぐねぐねと歪んでいく。
 それでも獅堂はそのいやらしく艶めかしい手付きを止めようとはしない。

「―――なんて言うと思ったかクソがあッ!!! 離れろボケェ!!!」

「今言ったじゃないか!! やだね!! 君が本音で『いやぁ、らめぇ』って言うまで僕は止めない!!」

「ぜってぇー言わないからな!! ぶっ殺すしか言わねーーー!! それに命力の鎧があるから直接触れてねーだろ!!」

 たちまちブレた軌道が不規則な鋭角軌道へと変わり。
 獅堂を死に物狂いで引き離そうと空一杯に暴れ回る。

 もちろん獅堂もふざけてこんな事をしている訳ではなく。
 相手が真面目だからこそ、こんな行為こそが最も効果的だと踏んでの事だ。

 彼がロリコンだという事実は決して無い。

「それは残念だッ!! どうやら君は子供だからわからない様だね!! これでも何人もの嬢を堕としてきたテクニックだよッ!! 神の手と呼ばれる程のさぁ!!」

 おまけに台詞一つ一つがピューリーの子供心を容赦無く突き刺していく。

 この様に抜きんでた者は子ども扱いされる事を極端に嫌うからこそ。
 そういった心理さえも突き、彼女の冷静さを根こそぎ奪い去る。

 これこそが獅堂の今出来る最大限の―――時間稼ぎ。

「子供じゃねぇし!! 感じるし!! びんかんだし!!」

 しかも効果は抜群だ。
 ピューリーがそう反論しながらも赤く染まった半面を見せ、必死に抵抗してみせる。
 でもそんな抵抗も獅堂にとってはむしろ好都合。

「なら鎧を解いて感じて見せなよッ!! か弱い女の子からオトナの女にさせてあげるさッ!!」

「えっ―――ふ、ふざけんな絶対嫌だね!! もういい!! あのハエ落としてからゆっくりお前をぶっ潰す!! グッチャグチャにしてぶっ殺す!!」

 ただピューリーも普通の子供ではない。
 デュランの仲間として、【救世同盟】として力を奮っているからこそ。
 この様な児戯にかまけ続ける程幼稚では無いのだ。

 気持ちだけは。



「って居ねぇじゃねぇか!!!!!!」



 そう、ナターシャはもうここに居ない。
 既に遥か空の彼方だ。
 こうもなればピューリーでも追い付く事はままならない。
 
 リヨンは隣国スイスに近い地で、現在国連が身を置くあのジュネーヴと目の鼻の先。
 ナターシャ達が逃げていたのはまさにその地がある方向で。
 下手に国境を越えてしまえば、その時は彼女達にとっても不味い事になってしまう。
 スイス軍が黙っていないからである。

 これはピューリーでもよく聞かされてよくよく理解している事。
 だから気付いてしまったのだ。
 獅堂との話でかまけ過ぎてナターシャにまんまと逃げられてしまったという事実を。

 もちろんナターシャもドン引きしたから獅堂を捨て置いたのではない。
 彼の意思を汲み、後ろ髪を引かれる想いで逃げたのだ。

 たぶん。

「どうやら時間稼ぎは上手く行ったみたいだ。 どうだい、このまま空で愉しむってのはさ!!」

「く そ がぁーーーーーーッッッ!!」

 獅堂の軽口が遂にはピューリーのこれ程無い怒りを誘う。
 一杯食わされてしまった事が、相当腹立たしかったのだろう。

 その時突然、ピューリーの体が回転を始めていく。
 まるで自身の体をコマにしたかの如く、その速度を徐々に早めながら。

 こうなれば獅堂も手の動きを止めざるを得ない。
 そうしないと掴まれきれない程までに回転数が上がり始めていたのだ。

「がああッ!?」

 その様子はまるで弾丸か削岩機ドリル
 獅堂がしがみ付き続ける事さえ困難な程に回転は高速になっていき。

 そして途端、水平直進していた軌道が突如として天へと向けられる。

「なあッ!?」

 その余りにも激しい鋭角軌道と回転運動が、遂に獅堂のしがみ付く力をも超えた。
 上昇の拍子にその手と足がピューリーの体から滑り抜けたのだ。

 たちまち、空へと放り出された獅堂の体が地上へ向けて落下していく。

「そうかい、ここまでって事かい……」

 そもそもが獅堂も限界に近かったのもある。
 壊された内臓の痛みと苦しみも、命力の消耗も何もかも。
 そして飛べもしない彼がそれ以上抗う術はもう残されていなかったのである。

 そんな事実の中で見上げるのは―――更なる急旋回を見せて向かい来るピューリーの姿。

 螺旋が渦さえも生み出し、怒りの命力で破壊力を増させ。
 なお全身は光り輝き、殺意の衝動のままにその硬度を上げていく。

 そうして迫り来るのは殺意の弾丸。
 自身を弾に見立てた、天の貫矢である。

「くたばれェェェーーーーーーッ!!!!!」

 獅堂にはもう抵抗する力さえ残ってはいない。
 空気抵抗のままに手足を広げ、大の字でただ待つだけだ。

「すいませんね、イシュライトさん、マヴォさん。 僕はもうここまでみたいだ……」

 間も無く訪れる自身の死を。

 後悔は無かった。
 ナターシャを逃がす事が出来たから。
 最後に悲劇のヒーローらしい事が出来たから。
 
 そうして浮かべたのは笑顔。

 やりきった事への喜びと―――諦めの。





「残念ですが彼はその程度ではくたばれませんよ」





 だがその瞬間、ピューリーの体に異変が起きた。
 つい今しがたまで大地に向かっていたはずなのに。

 今は何故か月を見ていて。

「貴女は力に頼り過ぎるのです」

 そんな彼女の耳元に再び呟きが。

 その声の主こそ―――イシュライト。

 なんと、今彼はピューリーの傍で跳んでいた。
 更には彼女をその体術で受け流す様に軌道転換させていたのである。

 その動きはまるで相手の力をそのまま自分の力へと換える武術、合気道。
 しかもそれを空中で、ピューリーの暴力の嵐に対して一発で成し遂げたのだ。

「えっ―――」

「勢いや筋力、命力がパワーやスピードになるのではありません。 その扱い方こそが大事なのですよ。 この様にね」

 しかしその声は最後まで届かないだろう。
 既にピューリーは月へ向かう様に高い高い空の先。
 自慢の推力が勝手に彼女をそこまで運んでいたのだから。
 
 間も無くイシュライト自身も重力に引かれてその身を大地へ落としていく。
 動けない獅堂と共に。

「よく頑張りましたね。 見ていましたよ、貴方の生き様を」

「イシュライトさん……恥ずかしい所見られちゃったなぁ、ハハッ」

 イシュライトはそのまま獅堂を抱えると、自慢の加速軌道で大地へと一直線に落ちていく。
 そしてそのまま暗闇に紛れ―――

 その一帯から一切の気配を消したのだった。











「おいアルバ、てめーなんで奴等を逃がした!?」

『逃がした訳ではない。 煙の様に消えたのだ。 あれはただの筋肉ではないぞ……!!』

 それから数分後。
 二人は完全に獅堂達を見失っていた。
 イシュライトの気配を消した死角移動は彼等でさえも捉える事は出来なかったのだ。

 強力ではあるが繊細さに欠いたコンビだからこそ。
 その卓越した妙技を見切る為には、力よりも感覚を養う事が大事であるが故に。
 
「ハァ……クッソ、こりゃエクィオにまたどやされるなぁ。 うー」

 そんな事を漏らす彼女はよほどエクィオが苦手なのだろう。
 たちまち体をよじらせ、堪らなさそうに苦悶の表情を浮かべる。

 とはいえ、その両腕を自身に回す様に伸ばしながらモジモジしていて。
 どうやら獅堂は成長中の彼女にとって実に相性の悪い相手だった様だ。

『どうしたのだピューリーよ、やけに大人しいではないか。 いつもは失敗すれば暴言の嵐なのに。 まさか筋肉が恋しくなったか!! 良かろう、飛び込んでくるが良いぞ!!』

 その後も相変わらずのやり取りが続き、空と大地を妙に賑わせる。
 この様な姿を見せるのも彼等が仲間同士だからだろうか。

 とはいえもう彼等に何が出来る訳も無く。
 先程の勢いが嘘の様な〝すっとろさ〟でその場から去って行ったのであった。





 こうしてリヨンで起きた逃走劇は辛くも両名脱出成功という形で幕を閉じる。

 しかし受けた傷は浅くも無く。
 獅堂にはしばらくの治療が必要という結果に。
 ナターシャ自身は大した事無かったのだが―――代わりに受けたとある傷跡が深く重く。
 


 それでもまだ全てが終わった訳ではない。
 暗雲が立ち込めるフランス逃亡劇はまだまだ続く。
 今なお勇達が、瀬玲達が、まだ命を賭して戦っているのだから。


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