時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十五節「消失の大地 革新の地にて 相反する二つの意思」

~君にこれが受け止められるか、勝負だッ~

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「―――さよなら!」

 狙いを定めたエクィオが遂に覚悟の一発を解き放つ。
 定めた先は瀬玲の左胸―――心臓。

 多大に篭めた命力は彼女の持つ如何な防御手段でさえも貫く威力を誇る。
 しかも研ぎ澄まされた感覚によって撃ち放たれた弾丸はもはや回避不能。

 一撃必殺の殺意が今、瀬玲へと迫り行く。










「弾丸? ならよぉ―――」

 だが、が動く事を誰が予想しただろうか。

 魔剣も持たず、妙技も持たず。
 たった今特筆するべき力を持たないあの男に何が出来るのかと。

 誰もが侮っていたのだ。
 エクィオや通話先の男だけではない。
 仲間である瀬玲もが。
 ただのおまけと思ってしか見ていなかったのだから。

「物理兵器って事は、殴れるってェ事だよなあッ!!」

 その時迫る弾丸。
 今までに見ない程の命力が籠った命力貫通弾ソウルピアッサー

 その弾丸軌道を―――心輝は既に捉えていたのである。





「だらっしゃあーーーーーーッッッ!!!!!!」





パキョウーーーンッッ!!!

 その瞬間、空に響き渡る程の金鳴音が木霊する。
 一体その場で何が起きたのか。

 なんと、心輝が迫り来る弾丸を叩き落したのである。
 その腕に紅蓮の炎を纏わせて。

 彼にはもう魔剣など必要無かったのだ。
 炎を放つ事など、この長い年月で何度も繰り返してきたから。
 グワイヴを失おうとも、そのイメージは未だ彼の中に残り続けている。

 故に今、彼は魔剣無しで炎が放てる。
 しかも自由自在に。



 そして驚くべき点はそれだけに留まらない。



 心輝が弾丸を叩き落したという事実。
 それは言う程簡単な事では無い。

 弾丸は向かう相手が相対しているならば比類無き殺傷力を誇る。
 貫通力に特化し、場合によっては鉄の板さえも貫く程に強力な弾さえあるのだ。

 とはいえ、そんな弾丸も側面からの抵抗には極端に弱い。

 貫通力を重視するが故にその身は細く、進行方向に長いのが特徴で。
 その代償として外面からの抵抗に弱く、ちょっと何かで押すだけで軌道がズレてしまう。
 弾丸があらぬ方向に弾かれる【跳弾】などはその特徴がある為に発生する現象で。
 ガツンと叩かれれば、たちまち大きく弾かれてしまう程に脆弱なのである。

 ただし〝それが可能ならば〟という条件付きであるが。
 
 当然だ、弾丸は音速さえも軽く超す速度で撃ち出される。
 並の人間では捉える事は愚か、撃たれた事にさえ気付かないだろう。
 例え捉えたとしても、手で触れようならその回転力によって指が千切れ飛ぶ。
 それだけの威力を誇っているのだから。

 だがそれを心輝はこうして成したのだ。

 拳に掛かる反力を命力で打ち消し。
 貫通力を引き出す命力も炎で受け流す。

 そしてそれを身切る為に、彼は弾丸を目では無く心で見ていた。

 でもそれはよく言われる心眼などとは違う。
 見切りの類でも、運でも何でもない。

 ただ弾丸に籠った命力を辿っただけだ。
 その描いた軌跡が速度や軌道、タイミングを読ませ。
 心輝にその弾丸の叩き落す地点を感覚で割り出させたのである。



 その技術こそ、敢えて形容するならば―――【命眼めいがん】。



 命力の辿る先は意思の先。
 その先を見切る事は、速さを追い求める今の心輝にとってもはや必要不可欠。

 反射神経よりも、本能よりも速く鋭く。
 予感よりも、予測よりも確実に。
 直感を先鋭化させた【先覚せんかく

 その力を今、心輝は惜しげも無く見せつけたのである。





「―――曹長さん、どうやらあなた方の見立ては間違っていた様だ」

『どういう事だ? 何が起きた?』

「シンキ=ソノベです。 彼が僕のソウルピアッサーを叩き落したんです……!」

『バカな!? 弾丸を素手でだとおッ!?』

 そしてその心輝の見せた奇跡にも近い行為はエクィオ達へのこれ以上に無い牽制となっていた。
 当然だ、自慢の精密射撃をこうして強引に叩き落されたのだから。
 それはつまり〝次を撃とうとも防ぎきる〟という意思を見せつけたという事に他ならない。

 その様な断固たる意志を心輝が見せていたのだ。
 「お前の居場所はもう既にわかっている」と言わんばかりの剣幕で。

「彼は想像以上にやり手の様です。 正直羨ましい。 あそこまでなんて」

 エクィオはそんな心輝の姿をスコープ越しに覗き込み。
 この時どんな想いを馳せたのか、その目を僅かに細らせる。

『……エクィオ君、作戦は終了だ。 一人も討てなかったのは残念だが、それは彼等が上手だったに過ぎない。 それにもう活動限界は近いのだろう? 』

 そんな中、通話先の男がその時見せたのは制止の意思。
 既に彼の言う予定作戦時間リミットはとうに過ぎているから。

 恐らくこの男は軍人なのだろう。
 しかも相当に頭が切れる程の。
 思い切りの良さ、判断能力……そのいずれもが経験豊富な者でしか成し得ない。
 常人離れしたエクィオをサポートする程に彼もまた何かしら卓越した存在だという事だ。

 しかしそんな男の指示を前にエクィオが取った行動は―――



 ―――再びの狙いすましターゲッティング



「ええ。 ですがこのまま逃がすつもりもありませんから。 なので曹長さん、アフターケアの方、よろしくお願いします」

『……いいだろう。 死なない程度にやりたまえ』

 エクィオもまた戦士なのだ。
 目の前でこうして挑発されたからこそ、彼もまた黙ってはいられなかったのである。
 強大な命力と意思をとめどなく放つ心輝を前にして。
 
 羨望の眼差しを向け、再び狙いを付ける。
 今度は瀬玲では無く、挑戦してきた心輝へと向けて。

「だったら僕は君を貫いて見せる。 全身全霊を賭けて……!!」

 それは彼がまだ本気では無かったからこそ。

 エクィオが撃ち放ってきたのは命力によって強化された弾丸だ。
 通常弾であったのは、余計な回路を組み込まれて力が分散しないようにするため。
 よりシンプルに、より純粋に。
 そうであればある程、彼にとっては都合よく力を乗せる事が出来るから。

 それは単にエクィオという青年が類を見ない程、命力操作に卓越しているからである。

 しかしその消耗も当然激しい。
 何せ命力を撃ち出すのだ、消耗する一方なのだから。
 それだけの威力を誇るからこそのデメリットと言える。

 だからこそ彼は制限し続けて来たのだ。
 何度も撃ち放つ事が出来る様にと。

 だが、もう今の彼は加減する事を辞めた。
 目の前の強敵を討ち果たす為に。
 残った命力全てを一発の弾丸に込める事を決めたのだ。

 こうなった時、もはや先程までとは比べ物にならない〝何か〟が生まれる。

 その砲身に輝くのは―――蒼雷槍そうらいそう



「僕の全力、【極雷命槍砲ソウルフルブラスター】です……!! 君にこれが受け止められるか―――勝負だッ!!」



 そこに全てを乗せて、エクィオは放つ。

 漆黒の闇夜を切り裂く蒼雷を。
 パリの空を一瞬にして貫く雷光を。

 その速度、その威力どちらをとってももはや桁外れ。
 何もかもをも焼き尽くす雷迅の如き一撃である。



 この時、心輝は何を思っただろうか。
 いや、思う事すら出来なかったかもしれない。

 それ程までに強烈、強大。
 圧倒的破壊の意思が今、雷鳴と共に迸る。



ドギャアアアーーーーーーッッッ!!!!!



 直撃。



 たちまち空を覆い尽くさんばかりの巨大な青の雷光が球状に帯電し、空間に無数の稲光を撒き散らす。
 放電現象―――余りにも強烈過ぎる電力が周囲の空気に乗って放出されているのだ。

ズゴゴゴゴゴゴッ!!!―――

 更には耳を塞ぎたくなる程の音を轟かせる。
 まるでそこで無数の稲妻が連続で落ち続けているかの様な轟音を。

 その稲妻もまたエクィオの成せる業の一つ。
 叩き落す事は愚か、振れる事さえ叶わぬ必殺の一撃。

 それが【極雷命槍砲ソウルフルブラスター】……全てを賭した攻撃手段なのである。



「やった……か……ッ!?」

 でもその一撃は意識を手放してしまうだけの消耗率を誇るが故に。
 途端に宙を跳ねていた彼の体は逆風に囚われ、弾かれる様にして空高く舞い上がっていて。
 身動きが出来ないまま、きりもみ状態で落下していく。

「でも、もう彼等は―――ッ!?」

 そんな中でも自分の成果を見届けようと微かな意識を保たせ。

 そして垣間見る事となる。
 予想だにもしなかった驚愕の事態を。

「そんな……まさか僕の一撃がッ!?」

 凄まじい放電は強烈な熱を伴い、収束後も真っ白な蒸気が焼かれた大気から生まれて場を覆う。
 しかしそんな物でさえ霞む程の光がその先から打ち放たれていて。

 その力強さを彼は知っていた。
 その恐ろしさも、知っていた。





「何故ここで貴女が来るんですか……ッ!! チャナ=タナカッ!!」



 

 そう、その光の素こそ【命力全域鎧フルクラスタ】の輝き。
 全身を覆い尽くしてなお広がりを見せる赤の光の結晶。



 なんと茶奈が心輝達の盾として立ち塞がっていたのである。



 しかも当然の如く無事。
 渾身のソウルフルブラスターさえも茶奈の極限たる防御能力を貫ききる事は出来なかったのだ。

 「セリさんッ!! シンさんッ!! 一気に逃げますから全力で耐えてください!!」

 背中に展開する【翼燐エフタリオン】もまた健在。
 瀬玲の逃走速度などものともしない加速で二人を捕まえ、あっという間に空の彼方へ。

 エクィオが意識を手放しきるよりも先に、三人はその場から姿を消した。

「全く……規格外だ……誰も彼も……なのに僕は―――」

 そしてエクィオも同様にパリの街並みへと消えていく。
 その意識を完全に手放して。





 パリでの騒動はこれで静まりを見せ。
 街に住む人々も「ただの雷騒ぎだ」と勘違いしたまま夜の営みを続ける。

 瀬玲達とエクィオ達の攻防はこうして誰にも知られないまま終わりを告げたのだった。


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