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第三十五節「消失の大地 革新の地にて 相反する二つの意思」
~ボクは絶対に帰るんだッ~
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例え同じデューク=デュランの仲間でも、一人一人の個性は大きく異なる様だ。
性格は元より、その戦闘スタイルまでもが。
特筆すべきは瀬玲達を追うエクィオ。
彼は戦いの最中であろうとも街の人間に配慮を欠かさなかった。
それが彼自身の持つ優しさであり、一つの信念でもあるのだろう。
だが、ナターシャと獅堂を襲うアルバという男は全く別物と言っても過言ではない。
リヨンの街並みや民衆など全く気にする事も無く。
二人を追う為に一直線に、何もかもをもぶち抜いて突き進む。
家も、店も、街路樹も。
電灯も車も公共施設でさえも関係無く。
人を弾き飛ばしても気にする事無く追い掛け続ける。
ただひたすらに「筋肉」を呼称し続けながら。
「何故だぁーーー!! 何故逃げるゥーーー!! 筋肉を高め合う事こそが魔剣使いの本懐はなずであろうーーー!! 俺と一緒に腹筋祭りをしようじゃあないかあ!!!」
語っている事そのものは敵意とは言い難い程にフレンドリーなのだが。
相手が勇かイシュライトかバロルフならつい立ち止まってしまいそうな程に。
でも生憎、ナターシャも獅堂も筋肉馬鹿ではない。
アルバの様なあからさまな敵を相手に、しかも敵地で呑気に汗を流す様な真似などする訳も無く。
「敵じゃなきゃ今の僕としては願ったりなんだけどッ!?」
「ぬぅん!! ボォーイ!! 君の様な骨と皮だけならなおさらだぁ!!」
「こう言われちゃ腹立つね!! 事実だけどさぁ!!」
相変わらずの獅堂節は必死であっても変わらない。
今の彼はまだ発展途上、戦力になるかどうかと言えばまだノーだ。
いっそこのアルバと共に修行したいと願うくらいのコンプレックスさえあるもので。
「悪いけど僕はスマートにいかせてもらうよッ!! 筋肉は美しい程度でいいのさッ!!」
「なぁにぃ~~~!?」
でも獅堂の理想は目の前に迫り来る筋肉ゴリラではない。
勇の様に整えられてかつ目的を果たす為だけに造られた肉体だ。
ただひたすパワーとスピードを求めるだけのアルバ。
その肉体の限界を超えて何が出来るかを模索し続けて来た勇。
その二人は根本が、根源が違う。
だから獅堂は勇に惚れたのだ。
彼の人生観と、真っ直ぐひたむきな心に。
「その筋肉の奥底に秘める可能性を追い求めるッ!! それが獅堂という男なのさッ!!」
「シドーパッパ落ちる!! 落ちる!!」
その決め台詞・キメポーズの為にならその身を挺す事も厭わない。
例え片手でぶらさがる事に成ろうとも。
自分の力で逃げている訳ではない獅堂が自慢げに、目の前の筋肉ゴリラへと咆え上げる。
それでもキメる事が、獅堂の求める英雄像なのである。
「な、なんだとォ……!? ぬぅぅぅん……」
だがその決め台詞が効果てきめんだったのだろうか。
途端にアルバの勢いが落ちていき。
見る見るうちにナターシャ達との距離が開き始めていく。
「やった、やったよ!! 効いたみたいだ!! さすが僕、頭もキレるうッ!!」
「なんだか複雑ー!!」
獅堂は元御曹司でしかも実力による一流大学卒業を果たした実績がある。
おまけに実業家として働いた実績もある事から、実は相応に頭がキレるのだ。
命力こそまだ実戦には程遠いが、戦闘部隊の中で最も頭脳派だと言えるだろう。
今のこの応酬にその賢さが役立っていたかどうかは別として。
しかしこうして生まれたチャンスは一つに限らない。
この時丁度二人が差し掛かったのは大通り。
直線距離で開けた場所ならナターシャの加速も十分発揮可能だ。
「このまま一気に行くッ!! 全力でッッ!!」
「わかったッ!!」
そう宣言された途端、獅堂が己の命力を篭めてナターシャの腰を抱き込み。
たちまち、空気を裂く音がその場に木霊する。
ナターシャがその力で一気に急加速を始めたのだ。
キィィィーーーーーーンッッッ!!
たちまち生まれたショックウェーブが通りの建物の窓の一部を弾けさせる。
それ程の加速、それ程の速度。
今、ナターシャはその力全てを推力へと換えているのである。
「なぁ、そんなすっとろい速度でどこまで行くつもりなんだよ?」
「「ッ!!?」」
しかしその時、有り得もしない状況が二人を包む。
まさかの出来事だった。
全速力で加速していたのに。
もうすぐトップスピードに差し掛かろうとしていたのに。
そんな二人の頭上に、あの少女が居たのだ。
それも平然とした……いや、むしろ退屈そうな顔つきで。
超速度の中を、ピューリーという少女は何の苦も無く並走していたのである。
「なぁ、もうブッ殺していい?」
「で、出来ればお手柔らかに?」
もはやその異常な状況を前に、見るだけの獅堂にはそう答える事しか許されない。
しいて言うならば、高速化でさえ遮られる事の無い命力会話が憎たらしいと感じた事か。
そしてそんな問答をする間がこれほど恋しいと思った事は無いだろう。
何故なら―――次の瞬間、二人は地面に激しく叩き付けられていたのだから。
余りにも一瞬の事で二人共何が起きたかさっぱりわからなかった。
たちまち二人の視界は地面から空へと変わっていて。
景色も凄まじい勢いで回転し、重力に関係無く天地がひっくり返っていく。
砕けた道路の破片を周囲に纏わせながら。
一体何が起きたのか。
それは―――ピューリーがただ殴っただけ。
ナターシャの顔を容赦無く。
ただし普通の拳ではない。
その拳に纏うのは超高圧縮の命力装甲。
しかも拳だけではない。
その光が覆うのは―――全身。
そう……今、彼女が身に纏っているのは【全身命力鎧】。
茶奈の専売特許とも言える、超容量の命力を誇る者だけにしか扱えないはずの特技である。
それをあろう事か、ピューリーは難なく実現して見せたのだ。
薄茶色のツインテールを角の様に跳ね上げ。
小さな体を余す事無く超重厚命力が覆い尽くす。
凄まじき重低音の波動共鳴を掻き鳴らしながら。
グォォォーーーーーーンッッッ!!!!!
その激しさは茶奈のそれにも負けず劣らない。
「キャッハハハ!! まるでボールみたいだッ!! そうだ、ボール遊びをしよう!! いつになったら潰れるかなあッ!!」
しかしその身に纏う命力は茶奈の優しい赤色の輝きとはまるで違う。
ドス黒いまでに染まり上がり、青を通り越した群青色。
空の闇に溶け込んでしまいそうな程に鈍く輝いていたのだ。
そこに見せるのは無邪気な子供の声。
でもその顔に覗き見えるのは大人ですら怯ませる程の負の感情。
普通の小さな子供では到底現す事も出来ない表情を彼女は見せているのである。
「それっ!! まずは一発目ッ!!」
そうして彼女が再び空を舞った時、もはや時など必要とはしない。
そう言い切った頃には既に、跳ね上げられたナターシャの上で両拳を振り上げていて。
フルクラスタによって強化された打ち下ろしが彼女の体を再び大地へと叩き付けさせる。
「があッ!?」
同じく体の小さいナターシャもそれだけの攻撃を受ければ堪ったものではない。
鈍い声と共に再び大地へと打ち付けられ、本当のボールの様に再び跳ね上げられ―――
「二はーつッ!!」
待ち構えていたかのように、ピューリーの残酷な拳撃がナターシャの腹部へと突き刺さる。
するとたちまちその体が付近の建物へと叩き付けられ。
ドッガァアーーーーーーッ!!!
ドゴゴゴォンッ!!!
凄まじい衝撃音と共に建物内部を貫かせていく。
それも留まる所を知らず、殴った衝撃は建物上部からはじき出す程。
常識を超えた威力はナターシャの様な少女相手であろうと容赦はしない。
いや、容赦などという言葉などピューリーには存在しないのだろう。
当然だ。
彼女は年齢で言えばまだ十歳。
まだまだ無邪気な年頃で、時には無意識に残酷にもなれる歳なのだから。
こうして学校にも行かず魔剣使いとして戦っているからには、加減を学ぶつもりさえ無いだろう。
叩き付けられた建物が崩壊していく中、ピューリーがニタリとした笑みで空を見上げる。
その先に映るのは滞空し続けるナターシャの姿。
ナターシャもまた諦めていないのだ。
怪我を負おうとも、不利であろうとも。
この場から逃げ切る為にも、愛する人とまた会う為にも。
こんな所で―――負けていられない。
ナターシャとピューリーが対峙する。
暗闇の中、広大な空の下で。
互いに敵意を向け合いながら。
「そぉうこなくっちゃさあーーーーーーッ!!!」
「ボクは絶対に帰るんだッ!! リュー君の所にッ!!」
例え足場の無い場所であろうとも、今の二人にとってはただの動きやすい空間でしか無い。
二人の超速度の突進が強い残光を引きながら一気に距離を縮めていく。
チュイィンッ!!
そして間も無くナターシャの斬撃とピューリーの剛拳が擦れ違いざまに打ち合い。
たちまち激しい火花を撒き散らしながら絡み合う二つの光筋が刻まれる。
その様子はまるで螺旋の軌跡。
突如としてリヨンの空に刻まれた光の道筋は、何も知らない市民達をただただ驚かせるばかり。
彼等には何が起きているかわからないから。
そこで起きている戦いが、もはや認知する事も叶わない程に信じられないものだったのだ。
「お前ーッ!! 思ったよりやるじゃあないかッ!! もっと俺を楽しませろよーーーッ!!」
そんな戦闘の最中でも、ピューリーの余裕が削がれる事は無い。
まるで戦いを楽しむ様に、待ち望んでいたかの様に。
その顔に浮かぶのは憎悪を受け入れ悦び狂う修羅の如し鬼笑。
「コイツーーーッ!?」
ナターシャもそれを防ぐのに手一杯だ。
相手の硬度もさることながら、その速度に付いていくだけでも必死なのである。
ピューリーの推進力の大元は当然、背中に背負ったランドセル。
だがその性能は名前の様な生易しい物ではない。
フルクラスタを再現出来る程の命力を誇っているのだ、推進力さえも尋常では無く。
その加速力は【光翼エフタリオン】を纏う茶奈にさえも匹敵する。
いや、直線だけで言えばピューリーの方が上だ。
爆発力と思い切り、そしてそれに耐えうる肉体と命力。
その全てを重ね揃えた今の彼女を、今のナターシャでは止めきれない。
気付けば二つの螺旋は姿を変え。
一つの光筋をもう一つの閃光が付き纏う様に空を刻んでいた。
しかも絶え間ない鋭角軌道を見せつけながら。
ガガガガッ!!―――
「サンドバッグだあッ!! 楽しいなぁこれえッ!!」
「ぐぅぅぅ!?」
例えどの様に逃げようとも追従してくる。
旋回しようと反転しようとも。
執拗に、執念深く、何度も何度も。
その度に魔剣で防ぎ、あるいは躱すのみ。
ピューリーの攻撃精度はそれほど高くは無い。
ほぼインファイト、おまけに腕も短いから躱す事も不可能ではないという程度だ。
ただそれも間を与える事なく行われれば反撃がまず不可能。
下手な動きをすればそれだけで隙を与える事となってしまうのだから。
「キャッハハハハーーーーーーッ!!!」
それ故に―――ナターシャの不利は依然変わらない。
性格は元より、その戦闘スタイルまでもが。
特筆すべきは瀬玲達を追うエクィオ。
彼は戦いの最中であろうとも街の人間に配慮を欠かさなかった。
それが彼自身の持つ優しさであり、一つの信念でもあるのだろう。
だが、ナターシャと獅堂を襲うアルバという男は全く別物と言っても過言ではない。
リヨンの街並みや民衆など全く気にする事も無く。
二人を追う為に一直線に、何もかもをもぶち抜いて突き進む。
家も、店も、街路樹も。
電灯も車も公共施設でさえも関係無く。
人を弾き飛ばしても気にする事無く追い掛け続ける。
ただひたすらに「筋肉」を呼称し続けながら。
「何故だぁーーー!! 何故逃げるゥーーー!! 筋肉を高め合う事こそが魔剣使いの本懐はなずであろうーーー!! 俺と一緒に腹筋祭りをしようじゃあないかあ!!!」
語っている事そのものは敵意とは言い難い程にフレンドリーなのだが。
相手が勇かイシュライトかバロルフならつい立ち止まってしまいそうな程に。
でも生憎、ナターシャも獅堂も筋肉馬鹿ではない。
アルバの様なあからさまな敵を相手に、しかも敵地で呑気に汗を流す様な真似などする訳も無く。
「敵じゃなきゃ今の僕としては願ったりなんだけどッ!?」
「ぬぅん!! ボォーイ!! 君の様な骨と皮だけならなおさらだぁ!!」
「こう言われちゃ腹立つね!! 事実だけどさぁ!!」
相変わらずの獅堂節は必死であっても変わらない。
今の彼はまだ発展途上、戦力になるかどうかと言えばまだノーだ。
いっそこのアルバと共に修行したいと願うくらいのコンプレックスさえあるもので。
「悪いけど僕はスマートにいかせてもらうよッ!! 筋肉は美しい程度でいいのさッ!!」
「なぁにぃ~~~!?」
でも獅堂の理想は目の前に迫り来る筋肉ゴリラではない。
勇の様に整えられてかつ目的を果たす為だけに造られた肉体だ。
ただひたすパワーとスピードを求めるだけのアルバ。
その肉体の限界を超えて何が出来るかを模索し続けて来た勇。
その二人は根本が、根源が違う。
だから獅堂は勇に惚れたのだ。
彼の人生観と、真っ直ぐひたむきな心に。
「その筋肉の奥底に秘める可能性を追い求めるッ!! それが獅堂という男なのさッ!!」
「シドーパッパ落ちる!! 落ちる!!」
その決め台詞・キメポーズの為にならその身を挺す事も厭わない。
例え片手でぶらさがる事に成ろうとも。
自分の力で逃げている訳ではない獅堂が自慢げに、目の前の筋肉ゴリラへと咆え上げる。
それでもキメる事が、獅堂の求める英雄像なのである。
「な、なんだとォ……!? ぬぅぅぅん……」
だがその決め台詞が効果てきめんだったのだろうか。
途端にアルバの勢いが落ちていき。
見る見るうちにナターシャ達との距離が開き始めていく。
「やった、やったよ!! 効いたみたいだ!! さすが僕、頭もキレるうッ!!」
「なんだか複雑ー!!」
獅堂は元御曹司でしかも実力による一流大学卒業を果たした実績がある。
おまけに実業家として働いた実績もある事から、実は相応に頭がキレるのだ。
命力こそまだ実戦には程遠いが、戦闘部隊の中で最も頭脳派だと言えるだろう。
今のこの応酬にその賢さが役立っていたかどうかは別として。
しかしこうして生まれたチャンスは一つに限らない。
この時丁度二人が差し掛かったのは大通り。
直線距離で開けた場所ならナターシャの加速も十分発揮可能だ。
「このまま一気に行くッ!! 全力でッッ!!」
「わかったッ!!」
そう宣言された途端、獅堂が己の命力を篭めてナターシャの腰を抱き込み。
たちまち、空気を裂く音がその場に木霊する。
ナターシャがその力で一気に急加速を始めたのだ。
キィィィーーーーーーンッッッ!!
たちまち生まれたショックウェーブが通りの建物の窓の一部を弾けさせる。
それ程の加速、それ程の速度。
今、ナターシャはその力全てを推力へと換えているのである。
「なぁ、そんなすっとろい速度でどこまで行くつもりなんだよ?」
「「ッ!!?」」
しかしその時、有り得もしない状況が二人を包む。
まさかの出来事だった。
全速力で加速していたのに。
もうすぐトップスピードに差し掛かろうとしていたのに。
そんな二人の頭上に、あの少女が居たのだ。
それも平然とした……いや、むしろ退屈そうな顔つきで。
超速度の中を、ピューリーという少女は何の苦も無く並走していたのである。
「なぁ、もうブッ殺していい?」
「で、出来ればお手柔らかに?」
もはやその異常な状況を前に、見るだけの獅堂にはそう答える事しか許されない。
しいて言うならば、高速化でさえ遮られる事の無い命力会話が憎たらしいと感じた事か。
そしてそんな問答をする間がこれほど恋しいと思った事は無いだろう。
何故なら―――次の瞬間、二人は地面に激しく叩き付けられていたのだから。
余りにも一瞬の事で二人共何が起きたかさっぱりわからなかった。
たちまち二人の視界は地面から空へと変わっていて。
景色も凄まじい勢いで回転し、重力に関係無く天地がひっくり返っていく。
砕けた道路の破片を周囲に纏わせながら。
一体何が起きたのか。
それは―――ピューリーがただ殴っただけ。
ナターシャの顔を容赦無く。
ただし普通の拳ではない。
その拳に纏うのは超高圧縮の命力装甲。
しかも拳だけではない。
その光が覆うのは―――全身。
そう……今、彼女が身に纏っているのは【全身命力鎧】。
茶奈の専売特許とも言える、超容量の命力を誇る者だけにしか扱えないはずの特技である。
それをあろう事か、ピューリーは難なく実現して見せたのだ。
薄茶色のツインテールを角の様に跳ね上げ。
小さな体を余す事無く超重厚命力が覆い尽くす。
凄まじき重低音の波動共鳴を掻き鳴らしながら。
グォォォーーーーーーンッッッ!!!!!
その激しさは茶奈のそれにも負けず劣らない。
「キャッハハハ!! まるでボールみたいだッ!! そうだ、ボール遊びをしよう!! いつになったら潰れるかなあッ!!」
しかしその身に纏う命力は茶奈の優しい赤色の輝きとはまるで違う。
ドス黒いまでに染まり上がり、青を通り越した群青色。
空の闇に溶け込んでしまいそうな程に鈍く輝いていたのだ。
そこに見せるのは無邪気な子供の声。
でもその顔に覗き見えるのは大人ですら怯ませる程の負の感情。
普通の小さな子供では到底現す事も出来ない表情を彼女は見せているのである。
「それっ!! まずは一発目ッ!!」
そうして彼女が再び空を舞った時、もはや時など必要とはしない。
そう言い切った頃には既に、跳ね上げられたナターシャの上で両拳を振り上げていて。
フルクラスタによって強化された打ち下ろしが彼女の体を再び大地へと叩き付けさせる。
「があッ!?」
同じく体の小さいナターシャもそれだけの攻撃を受ければ堪ったものではない。
鈍い声と共に再び大地へと打ち付けられ、本当のボールの様に再び跳ね上げられ―――
「二はーつッ!!」
待ち構えていたかのように、ピューリーの残酷な拳撃がナターシャの腹部へと突き刺さる。
するとたちまちその体が付近の建物へと叩き付けられ。
ドッガァアーーーーーーッ!!!
ドゴゴゴォンッ!!!
凄まじい衝撃音と共に建物内部を貫かせていく。
それも留まる所を知らず、殴った衝撃は建物上部からはじき出す程。
常識を超えた威力はナターシャの様な少女相手であろうと容赦はしない。
いや、容赦などという言葉などピューリーには存在しないのだろう。
当然だ。
彼女は年齢で言えばまだ十歳。
まだまだ無邪気な年頃で、時には無意識に残酷にもなれる歳なのだから。
こうして学校にも行かず魔剣使いとして戦っているからには、加減を学ぶつもりさえ無いだろう。
叩き付けられた建物が崩壊していく中、ピューリーがニタリとした笑みで空を見上げる。
その先に映るのは滞空し続けるナターシャの姿。
ナターシャもまた諦めていないのだ。
怪我を負おうとも、不利であろうとも。
この場から逃げ切る為にも、愛する人とまた会う為にも。
こんな所で―――負けていられない。
ナターシャとピューリーが対峙する。
暗闇の中、広大な空の下で。
互いに敵意を向け合いながら。
「そぉうこなくっちゃさあーーーーーーッ!!!」
「ボクは絶対に帰るんだッ!! リュー君の所にッ!!」
例え足場の無い場所であろうとも、今の二人にとってはただの動きやすい空間でしか無い。
二人の超速度の突進が強い残光を引きながら一気に距離を縮めていく。
チュイィンッ!!
そして間も無くナターシャの斬撃とピューリーの剛拳が擦れ違いざまに打ち合い。
たちまち激しい火花を撒き散らしながら絡み合う二つの光筋が刻まれる。
その様子はまるで螺旋の軌跡。
突如としてリヨンの空に刻まれた光の道筋は、何も知らない市民達をただただ驚かせるばかり。
彼等には何が起きているかわからないから。
そこで起きている戦いが、もはや認知する事も叶わない程に信じられないものだったのだ。
「お前ーッ!! 思ったよりやるじゃあないかッ!! もっと俺を楽しませろよーーーッ!!」
そんな戦闘の最中でも、ピューリーの余裕が削がれる事は無い。
まるで戦いを楽しむ様に、待ち望んでいたかの様に。
その顔に浮かぶのは憎悪を受け入れ悦び狂う修羅の如し鬼笑。
「コイツーーーッ!?」
ナターシャもそれを防ぐのに手一杯だ。
相手の硬度もさることながら、その速度に付いていくだけでも必死なのである。
ピューリーの推進力の大元は当然、背中に背負ったランドセル。
だがその性能は名前の様な生易しい物ではない。
フルクラスタを再現出来る程の命力を誇っているのだ、推進力さえも尋常では無く。
その加速力は【光翼エフタリオン】を纏う茶奈にさえも匹敵する。
いや、直線だけで言えばピューリーの方が上だ。
爆発力と思い切り、そしてそれに耐えうる肉体と命力。
その全てを重ね揃えた今の彼女を、今のナターシャでは止めきれない。
気付けば二つの螺旋は姿を変え。
一つの光筋をもう一つの閃光が付き纏う様に空を刻んでいた。
しかも絶え間ない鋭角軌道を見せつけながら。
ガガガガッ!!―――
「サンドバッグだあッ!! 楽しいなぁこれえッ!!」
「ぐぅぅぅ!?」
例えどの様に逃げようとも追従してくる。
旋回しようと反転しようとも。
執拗に、執念深く、何度も何度も。
その度に魔剣で防ぎ、あるいは躱すのみ。
ピューリーの攻撃精度はそれほど高くは無い。
ほぼインファイト、おまけに腕も短いから躱す事も不可能ではないという程度だ。
ただそれも間を与える事なく行われれば反撃がまず不可能。
下手な動きをすればそれだけで隙を与える事となってしまうのだから。
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それ故に―――ナターシャの不利は依然変わらない。
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