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第二十六節「白日の下へ 信念と現実 黒き爪痕は深く遠く」
~叶えたいよ、この想い~
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命力とは、命を司る力の源である。
この力は認識出来ずとも、ありとあらゆるモノに宿るという。
人間、魔者。
動物、昆虫、植物。
石土、流水、大気。
そしてそれらを象る地球そのものにも。
例え力を操れずとも、力が巡り、命を成す。
そしてその力が失われた時、須らくそのモノは〝死〟を迎える事だろう。
不可逆的な死を。
甦る事の無い、完全なる死を。
その成り立ちは『こちら側』の〝生命〟とて例外ではない。
力が失われた時、彼等は総じて―――星へと還るのだ。
それが、この世界に与えられた絶対の理なのだから。
キィンッ!!
「何……!?」
この時、不相応な金鳴音が場に響き渡る。
デュゼローがその目を見開き疑う中で。
それだけ、目の前で起きた事が信じられなかったのだ。
有り得るはずが無いと、疑ってならなかったのだ。
勇が剣を支えに、倒れる事を拒否していたなどとは。
勇にはもう命力が残っていない。
立つ力は愚か、意識すら保てない―――はずだったのに。
なのに何故か今、生きている。
確かに呼吸し、明らかに意思を以って立っているのだ。
力が無いながらも、床に刺した剣で必死に支えながら。
では剣が死んでいないのか?
それも違う。
【翠星剣】の命力珠は既に崩れ、その姿は微塵も残されていない。
よって完全に死んでいると言えるだろう。
ならば何故。
それがわからない。
わからないからデュゼローは困惑していたのだ。
「まだ力が残っていたのか? いや、違う―――命力を感じん。 なら何故だ、何故生きていられる……ッ!?」
心を見通しても、デュゼローが感じるのは一切の無だった。
勇の体全体を覆うのは、漆黒が如き闇一色で。
血脈を司る命力の筋など、一本たりとも残されてはいない。
つまり死んでいると同意義だという事だ。
なのに動いている。
すなわち、〝死んでいるのに生きている〟という。
その意味のわからない状況に、理を知り尽くした者が驚かぬはずがない。
そんな戸惑いを見せる中でも、勇は自力で立とうとしている。
支えすら必要無いという意思を見せつけんばかりに。
だからこそ恐ろしくもなろう。
「一体何が起きているというのだ……ッ!?」
故に今、デュゼローは明らかな動揺を示していた。
小声ながらも、そんな惑いの声々を漏らしてしまう程に。
唇さえも震わせて。
命力消失による死は不可逆的だ。
種火が消えれば、火を灯せないのと同様に。
その理さえも跳ね退けて勇が生きている。
余りにも常識を覆す事態に、自身の知識すら疑ってならなかったのだ。
ただ、事実は事実である。
実際に今、勇は再び剣を持ち上げようとしていて。
まだ戦おうとしているのだろう。
ならば迎え撃つのみ。
ただし、状況を把握する為にも、ありとあらゆるものを利用して。
例え計画を著しく狂わせる事になるとしても。
「イビド、ドゥゼナー、奴を殺せ―――全力で、だ」
この時、デュゼローが静観を決めていた二人に声を上げる。
深刻さをうかがわせる程の低く唸る様な声を。
その意図を読み取れたのかどうか。
呼ばれた二人はと言えば、想定もしていない一言にただ首を傾げていて。
「へへ、いいのかよ? 美味しい所だけ持って行っちまうぞぉ?」
「……構わん」
とはいえ、どちらもやる気だけはある様だ。
そう声を掛けられて早々に、「よぉし」と拳を打っての気乗りを見せる。
あれだけの戦いを見せつけられて昂っていたのだろう。
それに、彼等にはまた別の目的があったからこそ。
「ドゥゼナー、これが終わったら、わかってんな?」
「無論。 後は疲弊した彼奴さえ消せば我等の目的は達せよう」
そんな言葉が二人の間だけで囁かれる。
そう、この二人もまた心からデュゼローに従っていた訳ではない。
むしろ寝首を掻くつもりだったのだ。
全てが終わり、油断した所を狙って。
そして今がその好機。
勇をその手で殺し、勢いのままにデュゼローも殺す。
そうすれば後はギューゼルの名の下に人類へと反旗を翻せるのだと。
だからこそ今、腰に下げた魔剣を手に取る。
まずは第一の目標である勇を手に掛ける為に。
「既に虫の息か。 しかして容赦は不要」
「へへ、デュゼローみたいに生易しくはしねぇ。 さっくりと終わらせてやるよ」
彼等は勇などウォーミングアップの相手としか思っていない。
強敵となりうるであろう相手を見据えて。
故にその長剣型魔剣をゆるりと抜き、手軽く光を灯す。
殺意と叛意を籠めた煌めきをぼんやりと。
「実際、お前にゃあ何の恨みも無いがなぁ」
「世界の為に、我々の為に、剣の露と成れ」
勇もその二人に気付いたのだろう。
ふらりと体を揺らしながらも、剣を構える姿が。
ただ、その眼からは意思を感じない。
まるで虚空を見ているかの様に虚ろで。
戦える状態とはとても言い難いだろう。
でもイビドとドゥゼナーにはそんな事など関係は無い。
敵として討つ事を決めた以上は叩き斬るのみ。
その意思が、敵意が、間も無く二人を跳び出させる事に。
それも瞬時にして間を詰める程の素早くしなやかな足捌きで。
対する勇も前のめりに立ち向かって。
遂に相対せし者同士の剣が打ち交り合う。
ガシャァァァーーーーーーンッッ!!!
その瞬間、けたたましい音が鳴り響いた。
【翠星剣】の刀身が粉々に砕け散ったのだ。
無数の破片を周囲に撒き散らしながら。
ただ、勇自身は無事だった。
二人の斬撃軌道から外れた事で。
剣が盾となり、更には身を崩す様に倒れ込んでいたから。
後はイビドとドゥゼナーがそのまま擦れ違っていくのみ。
勇の隣を、飛び込んだ勢いの赴くままに。
だがその時―――
「二人共避けろおおおッ!!」
「「えっ?」」
突如としてデュゼローの叫び声が打ち上がる。
空間に響き渡る程の必死の叫びが。
イビドとドゥゼナーの視界がぐらりと傾く中で。
そう、二人にはもう気付く間すら与えられなかったのだ。
刹那の白光一閃によって真っ二つにされていた事など。
たちまち、イビドとドゥゼナーだったモノが地面へと転がり行く。
おびただしい鮮血を勇の背後で撒き散らしながら。
自分達の身に何が起きたのかも理解する間も無く。
その中で、勇はゆるりと立ち上がっていた。
両瞳に強き意思の光を灯して。
力に溢れた肉体を誇示せんとばかりに背筋を立てて。
そして握り絞めよう。
事を成せしその剣を。
己の力の象徴を。
刀身失われし剣柄から溢れ出す、輝光の奔流を。
勇が顕現させしは光の剣。
それも、剣の形をした光などという生易しいものではない。
光がとめどなく噴き出しているのだ。
空間に地響きをもたらす程の波動音を放ちながら。
切っ先に触れた床を絶え間無く切削し続ける程の威力を以って。
その光色は空色。
まさに、勇の象徴とも言うべき心の色と同じだったのである。
「ば、馬鹿な……なんだその力はッ!?」
その圧倒的な光の剣を前にして、遂にデュゼローの困惑が露わとなる。
信じられる訳も無かったのだ。
有り得る訳も無かったのだ。
勇がこの様な力を発するとは。
それもこれ程までの力を解き放つなど。
亜月の様な多重命力なのかと言えばそれも違う。
今の今でも命力は一切感じない、全くの無のままで。
それに茶奈でさえ、あの【フルクラスタ】を維持する為に命力を固着化させている。
垂れ流しでは絶対的な命力流量が足りないからだ。
にも拘らず、今の勇はとめどない破砕の光を打ち放ち続けている。
それも有り得ない程に常識を超えた放出量を。
剣を奮わない今でも床を、大気を削り続けながら。
そんな力を垣間見て、デュゼロー程の者が理解出来ない訳も無い。
その出力を命力に換算した時、どれだけの量が放出された事になるかなど。
その量、自身の命力さえ塵に等しい程に―――圧倒的。
「何者だ……何者なのだ貴様はッ!?」
故に慄きさえしよう。
常人には成し得ない力を前に。
常識では有り得ない事を成す男を前に。
コツリ、コツリと向かい来る相手から、歩を退けてしまう程に。
勇の意思はもう、完全に甦っている。
ただし怒りでは無く、これ以上無い冷静さを伴って。
静かに、そして確実に一歩を刻み、デュゼローに迫っているのだ。
まるでもう先程までの疲弊など無かったのだと言わんばかりに。
その瞳に灯るのは当然、戦意。
ならばとデュゼローもまた退く歩を止め、再び魔剣を構えて輝かせる。
己に課した目的を果たす為に、迫る相手を打倒する為にも。
そして二人の戦意がぶつかり合った時―――それは起きた。
ドギャンッ!!
それは雷鳴が如く、稲妻が如く。
石床を砕き、破砕音が打ち響く。
それ程までの力強さで勇が一跳ねしたが故に。
それも、瞬時にしてデュゼローの目前にまで迫る程の速度を以って。
「なッ!??」
気付いた時には既に光の剣を振り上げていた。
残光が引かれた時には、既に頭上で振り被っていたのだ。
あのデュゼローが反応出来ない程の神速だったからこそ。
その間も無く、場に再び閃光一閃が迸る。
光の剣による斬撃が振り下ろされたのだ。
キュオオオオーーーーーーンッ!!!
その一閃、まさに全てを断つ一振りなり。
大気を、壁を、石床を、展望台という空間そのものを。
更にはデュゼローの魔剣さえも、一刀溶断したのである。
まるでバターを切ったかの様に。
溶化欠片をも周辺へと打ち撒いて。
そうして床へと深い傷跡が刻まれる。
壁を、床を溶かして裂いた傷痕が。
なんという圧力か。
なんという破壊力か。
デュゼローの魔剣に至っては不壊にも近い強度を誇っていたのに。
それにも拘らず、何の抵抗も無く焼き切られたのだ。
これがどれだけ恐ろしいかわかるだろうか。
斬るのではなく焼き切る。
それを物理剣では到底成し得ない極致である事が。
「ちぃぃ!?」
しかし当のデュゼロー自身は既に飛び退いた後だ。
本能が、直感が、防ぐ事に危険信号を発していたが故に。
とはいえそれも咄嗟の事で、デュゼロー自身にもう余裕は一切無い。
これだけの圧倒的な力を見せつけられれば当然か。
カララァーン……
使い物にならなくなった二本の得物が静寂の戦場に鳴音を刻む。
しかしデュゼローはと言えば、冷静に外套の中へと両腕を忍ばせていて。
その両腕が引き出された時、手にはまたしても黒い得物の姿が。
先程の物とはまた違う魔剣だ。
剣聖の鞄と同様、外套の中に魔剣を隠しているらしい。
それでもあの身のこなしを実現する身体能力は驚異的だ。
ただ、それも今の勇を前にすれば霞んで見えよう。
今再び目前に迫る勇を前にしたならば。
「なんだとッ!?」
同時に繰り出されるのは、命力が無いからこその気配無き斬撃。
躱す事さえ困難な程の速度を伴った斬り上げだ。
確かにデュゼローの身のこなしは尋常ではない。
この斬撃であろうと躱す事は出来るだろう。
だが―――
バジュンッ!!
回避の遅れた魔剣が一本、再び溶断される。
切り離された刃を天井へと跳ね飛ばす程の勢いで。
「この威力はッ!? この速さはッ!? 一体なんだというのだッ!?」
例え回避出来ようとも、デュゼロー自身は気が気でないのだろう。
こうも立て続けに脅威を見せつけられようものならば。
今までの戦いは、デュゼローにとってはただの戯れに過ぎなかった。
勇との攻防も、駆け引きも。
亜月との熾烈な打ち合いも。
そう出来る自信と実力が伴っていたからこそ。
でも今はどうだ。
勇が立ち上がってからのデュゼローはもう全力だ。
全力で躱し、全力で離れている。
しかし勇はそれを凌駕する素早い動きで迫ってくるという。
先程まで死に掛けていた男が。
命力の一粒すら残っていない男が、だ。
恐怖もしよう。
戦慄もしよう。
それは絶対に有り得ない事なのだから。
この世界に訪れてもなお崩れる事の無かった理を超えているのだから。
まるで、理に適っていない創作物が現実となって襲い掛かってくる。
その様な感覚を今、デュゼローは味わっているのだろう。
「貴様は一体、何なのだ……ッ!?」
そう、今目前にしているのは明らかな異質。
デュゼローが全く理解も出来ない、屍霊の様な存在なのである。
まさに人知を超えた奇跡が今ここに。
発現せし力はデュゼローをも超えて。
希望の光を携えし勇が、その喉元へと―――迫る。
この力は認識出来ずとも、ありとあらゆるモノに宿るという。
人間、魔者。
動物、昆虫、植物。
石土、流水、大気。
そしてそれらを象る地球そのものにも。
例え力を操れずとも、力が巡り、命を成す。
そしてその力が失われた時、須らくそのモノは〝死〟を迎える事だろう。
不可逆的な死を。
甦る事の無い、完全なる死を。
その成り立ちは『こちら側』の〝生命〟とて例外ではない。
力が失われた時、彼等は総じて―――星へと還るのだ。
それが、この世界に与えられた絶対の理なのだから。
キィンッ!!
「何……!?」
この時、不相応な金鳴音が場に響き渡る。
デュゼローがその目を見開き疑う中で。
それだけ、目の前で起きた事が信じられなかったのだ。
有り得るはずが無いと、疑ってならなかったのだ。
勇が剣を支えに、倒れる事を拒否していたなどとは。
勇にはもう命力が残っていない。
立つ力は愚か、意識すら保てない―――はずだったのに。
なのに何故か今、生きている。
確かに呼吸し、明らかに意思を以って立っているのだ。
力が無いながらも、床に刺した剣で必死に支えながら。
では剣が死んでいないのか?
それも違う。
【翠星剣】の命力珠は既に崩れ、その姿は微塵も残されていない。
よって完全に死んでいると言えるだろう。
ならば何故。
それがわからない。
わからないからデュゼローは困惑していたのだ。
「まだ力が残っていたのか? いや、違う―――命力を感じん。 なら何故だ、何故生きていられる……ッ!?」
心を見通しても、デュゼローが感じるのは一切の無だった。
勇の体全体を覆うのは、漆黒が如き闇一色で。
血脈を司る命力の筋など、一本たりとも残されてはいない。
つまり死んでいると同意義だという事だ。
なのに動いている。
すなわち、〝死んでいるのに生きている〟という。
その意味のわからない状況に、理を知り尽くした者が驚かぬはずがない。
そんな戸惑いを見せる中でも、勇は自力で立とうとしている。
支えすら必要無いという意思を見せつけんばかりに。
だからこそ恐ろしくもなろう。
「一体何が起きているというのだ……ッ!?」
故に今、デュゼローは明らかな動揺を示していた。
小声ながらも、そんな惑いの声々を漏らしてしまう程に。
唇さえも震わせて。
命力消失による死は不可逆的だ。
種火が消えれば、火を灯せないのと同様に。
その理さえも跳ね退けて勇が生きている。
余りにも常識を覆す事態に、自身の知識すら疑ってならなかったのだ。
ただ、事実は事実である。
実際に今、勇は再び剣を持ち上げようとしていて。
まだ戦おうとしているのだろう。
ならば迎え撃つのみ。
ただし、状況を把握する為にも、ありとあらゆるものを利用して。
例え計画を著しく狂わせる事になるとしても。
「イビド、ドゥゼナー、奴を殺せ―――全力で、だ」
この時、デュゼローが静観を決めていた二人に声を上げる。
深刻さをうかがわせる程の低く唸る様な声を。
その意図を読み取れたのかどうか。
呼ばれた二人はと言えば、想定もしていない一言にただ首を傾げていて。
「へへ、いいのかよ? 美味しい所だけ持って行っちまうぞぉ?」
「……構わん」
とはいえ、どちらもやる気だけはある様だ。
そう声を掛けられて早々に、「よぉし」と拳を打っての気乗りを見せる。
あれだけの戦いを見せつけられて昂っていたのだろう。
それに、彼等にはまた別の目的があったからこそ。
「ドゥゼナー、これが終わったら、わかってんな?」
「無論。 後は疲弊した彼奴さえ消せば我等の目的は達せよう」
そんな言葉が二人の間だけで囁かれる。
そう、この二人もまた心からデュゼローに従っていた訳ではない。
むしろ寝首を掻くつもりだったのだ。
全てが終わり、油断した所を狙って。
そして今がその好機。
勇をその手で殺し、勢いのままにデュゼローも殺す。
そうすれば後はギューゼルの名の下に人類へと反旗を翻せるのだと。
だからこそ今、腰に下げた魔剣を手に取る。
まずは第一の目標である勇を手に掛ける為に。
「既に虫の息か。 しかして容赦は不要」
「へへ、デュゼローみたいに生易しくはしねぇ。 さっくりと終わらせてやるよ」
彼等は勇などウォーミングアップの相手としか思っていない。
強敵となりうるであろう相手を見据えて。
故にその長剣型魔剣をゆるりと抜き、手軽く光を灯す。
殺意と叛意を籠めた煌めきをぼんやりと。
「実際、お前にゃあ何の恨みも無いがなぁ」
「世界の為に、我々の為に、剣の露と成れ」
勇もその二人に気付いたのだろう。
ふらりと体を揺らしながらも、剣を構える姿が。
ただ、その眼からは意思を感じない。
まるで虚空を見ているかの様に虚ろで。
戦える状態とはとても言い難いだろう。
でもイビドとドゥゼナーにはそんな事など関係は無い。
敵として討つ事を決めた以上は叩き斬るのみ。
その意思が、敵意が、間も無く二人を跳び出させる事に。
それも瞬時にして間を詰める程の素早くしなやかな足捌きで。
対する勇も前のめりに立ち向かって。
遂に相対せし者同士の剣が打ち交り合う。
ガシャァァァーーーーーーンッッ!!!
その瞬間、けたたましい音が鳴り響いた。
【翠星剣】の刀身が粉々に砕け散ったのだ。
無数の破片を周囲に撒き散らしながら。
ただ、勇自身は無事だった。
二人の斬撃軌道から外れた事で。
剣が盾となり、更には身を崩す様に倒れ込んでいたから。
後はイビドとドゥゼナーがそのまま擦れ違っていくのみ。
勇の隣を、飛び込んだ勢いの赴くままに。
だがその時―――
「二人共避けろおおおッ!!」
「「えっ?」」
突如としてデュゼローの叫び声が打ち上がる。
空間に響き渡る程の必死の叫びが。
イビドとドゥゼナーの視界がぐらりと傾く中で。
そう、二人にはもう気付く間すら与えられなかったのだ。
刹那の白光一閃によって真っ二つにされていた事など。
たちまち、イビドとドゥゼナーだったモノが地面へと転がり行く。
おびただしい鮮血を勇の背後で撒き散らしながら。
自分達の身に何が起きたのかも理解する間も無く。
その中で、勇はゆるりと立ち上がっていた。
両瞳に強き意思の光を灯して。
力に溢れた肉体を誇示せんとばかりに背筋を立てて。
そして握り絞めよう。
事を成せしその剣を。
己の力の象徴を。
刀身失われし剣柄から溢れ出す、輝光の奔流を。
勇が顕現させしは光の剣。
それも、剣の形をした光などという生易しいものではない。
光がとめどなく噴き出しているのだ。
空間に地響きをもたらす程の波動音を放ちながら。
切っ先に触れた床を絶え間無く切削し続ける程の威力を以って。
その光色は空色。
まさに、勇の象徴とも言うべき心の色と同じだったのである。
「ば、馬鹿な……なんだその力はッ!?」
その圧倒的な光の剣を前にして、遂にデュゼローの困惑が露わとなる。
信じられる訳も無かったのだ。
有り得る訳も無かったのだ。
勇がこの様な力を発するとは。
それもこれ程までの力を解き放つなど。
亜月の様な多重命力なのかと言えばそれも違う。
今の今でも命力は一切感じない、全くの無のままで。
それに茶奈でさえ、あの【フルクラスタ】を維持する為に命力を固着化させている。
垂れ流しでは絶対的な命力流量が足りないからだ。
にも拘らず、今の勇はとめどない破砕の光を打ち放ち続けている。
それも有り得ない程に常識を超えた放出量を。
剣を奮わない今でも床を、大気を削り続けながら。
そんな力を垣間見て、デュゼロー程の者が理解出来ない訳も無い。
その出力を命力に換算した時、どれだけの量が放出された事になるかなど。
その量、自身の命力さえ塵に等しい程に―――圧倒的。
「何者だ……何者なのだ貴様はッ!?」
故に慄きさえしよう。
常人には成し得ない力を前に。
常識では有り得ない事を成す男を前に。
コツリ、コツリと向かい来る相手から、歩を退けてしまう程に。
勇の意思はもう、完全に甦っている。
ただし怒りでは無く、これ以上無い冷静さを伴って。
静かに、そして確実に一歩を刻み、デュゼローに迫っているのだ。
まるでもう先程までの疲弊など無かったのだと言わんばかりに。
その瞳に灯るのは当然、戦意。
ならばとデュゼローもまた退く歩を止め、再び魔剣を構えて輝かせる。
己に課した目的を果たす為に、迫る相手を打倒する為にも。
そして二人の戦意がぶつかり合った時―――それは起きた。
ドギャンッ!!
それは雷鳴が如く、稲妻が如く。
石床を砕き、破砕音が打ち響く。
それ程までの力強さで勇が一跳ねしたが故に。
それも、瞬時にしてデュゼローの目前にまで迫る程の速度を以って。
「なッ!??」
気付いた時には既に光の剣を振り上げていた。
残光が引かれた時には、既に頭上で振り被っていたのだ。
あのデュゼローが反応出来ない程の神速だったからこそ。
その間も無く、場に再び閃光一閃が迸る。
光の剣による斬撃が振り下ろされたのだ。
キュオオオオーーーーーーンッ!!!
その一閃、まさに全てを断つ一振りなり。
大気を、壁を、石床を、展望台という空間そのものを。
更にはデュゼローの魔剣さえも、一刀溶断したのである。
まるでバターを切ったかの様に。
溶化欠片をも周辺へと打ち撒いて。
そうして床へと深い傷跡が刻まれる。
壁を、床を溶かして裂いた傷痕が。
なんという圧力か。
なんという破壊力か。
デュゼローの魔剣に至っては不壊にも近い強度を誇っていたのに。
それにも拘らず、何の抵抗も無く焼き切られたのだ。
これがどれだけ恐ろしいかわかるだろうか。
斬るのではなく焼き切る。
それを物理剣では到底成し得ない極致である事が。
「ちぃぃ!?」
しかし当のデュゼロー自身は既に飛び退いた後だ。
本能が、直感が、防ぐ事に危険信号を発していたが故に。
とはいえそれも咄嗟の事で、デュゼロー自身にもう余裕は一切無い。
これだけの圧倒的な力を見せつけられれば当然か。
カララァーン……
使い物にならなくなった二本の得物が静寂の戦場に鳴音を刻む。
しかしデュゼローはと言えば、冷静に外套の中へと両腕を忍ばせていて。
その両腕が引き出された時、手にはまたしても黒い得物の姿が。
先程の物とはまた違う魔剣だ。
剣聖の鞄と同様、外套の中に魔剣を隠しているらしい。
それでもあの身のこなしを実現する身体能力は驚異的だ。
ただ、それも今の勇を前にすれば霞んで見えよう。
今再び目前に迫る勇を前にしたならば。
「なんだとッ!?」
同時に繰り出されるのは、命力が無いからこその気配無き斬撃。
躱す事さえ困難な程の速度を伴った斬り上げだ。
確かにデュゼローの身のこなしは尋常ではない。
この斬撃であろうと躱す事は出来るだろう。
だが―――
バジュンッ!!
回避の遅れた魔剣が一本、再び溶断される。
切り離された刃を天井へと跳ね飛ばす程の勢いで。
「この威力はッ!? この速さはッ!? 一体なんだというのだッ!?」
例え回避出来ようとも、デュゼロー自身は気が気でないのだろう。
こうも立て続けに脅威を見せつけられようものならば。
今までの戦いは、デュゼローにとってはただの戯れに過ぎなかった。
勇との攻防も、駆け引きも。
亜月との熾烈な打ち合いも。
そう出来る自信と実力が伴っていたからこそ。
でも今はどうだ。
勇が立ち上がってからのデュゼローはもう全力だ。
全力で躱し、全力で離れている。
しかし勇はそれを凌駕する素早い動きで迫ってくるという。
先程まで死に掛けていた男が。
命力の一粒すら残っていない男が、だ。
恐怖もしよう。
戦慄もしよう。
それは絶対に有り得ない事なのだから。
この世界に訪れてもなお崩れる事の無かった理を超えているのだから。
まるで、理に適っていない創作物が現実となって襲い掛かってくる。
その様な感覚を今、デュゼローは味わっているのだろう。
「貴様は一体、何なのだ……ッ!?」
そう、今目前にしているのは明らかな異質。
デュゼローが全く理解も出来ない、屍霊の様な存在なのである。
まさに人知を超えた奇跡が今ここに。
発現せし力はデュゼローをも超えて。
希望の光を携えし勇が、その喉元へと―――迫る。
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とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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