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第二十六節「白日の下へ 信念と現実 黒き爪痕は深く遠く」
~求め続けたい~
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絶望の叫びが、勇の喉を裂いて噴き出した。
悲哀の訴えが、血潮の如き涙を溢れさせる。
後悔の眼が、瞼さえも遮る事を許さない。
それでも、現実が変わる事は無い。
叫びはただ静かに木霊し、風と共に去り行くのみ。
亜月の遺した微風に乗って。
しかしそれも間も無く消える事だろう。
主を失った心の残滓は、あるべき世界へと。
幾多の想いを乗せて、空の彼方へと還るのだ。
「つくづく情けないな。 人としても」
「な、に……?」
そんな悲しみに打ちひしがれていた勇の心を、再びデュゼローが突く。
何故か手を出す事も無く傍観していたあの男が、今となってまた。
かといって同じくセンチメンタルに浸っていた訳ではないのだろう。
勇の事を蔑む様に見下していたのだから。
「何故その女に『愛してる』の一言も言えなかった?」
「あ……」
「恋人では無かったのか? それとも本当は、愛してはいなかったんじゃあないか?」
「あ、ああ……」
「つまりお前は、その女に『愛してる』の一言も言えない情けない男だったという事だ」
いや、デュゼローも多少は気に掛けていたのかもしれない。
恋人同士であろう二人のやりとりを前にして。
しかし、その結果は酷だった。
真に恋人なら、すぐにでも「愛している」と言えただろう。
そうすれば亜月も笑顔のままに逝けたのかも知れない。
でも、今の亜月の死に顔は違う。
まるで枯れた草花の様にもたれ、苦痛のままに逝ってしまった。
勇が最後の一言を掛けてあげられなかったが故に。
だからこそデュゼローはこうして蔑んでいるのだろう。
死に行く者に手向けさえ掛けられない男を。
その程度の覚悟で人を守ると宣った男を。
そしてデュゼローは、目的の為には手段を択ばない者だからこそ―――
「いや、言えるハズも無いか。 間も無く肉塊となる相手を愛すなど」
その顔に不敵な笑みを浮かべ、遂には嘲笑う。
藤咲勇という男を徹底的に落とす為に。
非道の一言を宣う事さえ、もはや厭わない。
「キ、サマァ……ッ!!」
なれば勇とて憤らずには居られるものか。
こうして亜月の事を〝肉塊〟呼ばわりされようものならば。
自身を蔑んだ事よりも何よりも、それだけが憎くて、恨めしくて。
たちまち怒りに身を任せてデュゼローを睨み付ける。
歯を食いしばった顔を、強張った肩を向けながら。
ガゴッ!!
しかしその途端、勇の顎に強い衝撃が。
体が宙を舞う程の力を以って。
突き出した顎を、デュゼローが蹴り上げていたのだ。
「ぐがっ!?」
そのまま勇が先の床へと転がり行く。
何が起きたのかもわからないままに。
亜月の体を置き去りにして。
そんな中でも、デュゼローの苦責めは止まらない。
「守ると言ってくれた人間にすら、お前は一言掛ける事無く見殺しにしたのだ」
そうして放たれる一言一言が、胸を突くかのよう。
抉られて、引っ掻き回されて、千切り取られるかのよう。
倒れていようが、苦しんでいようが関係無く。
事実を盾に、不条理な怒りさえもぶつけられない中で。
するとその時、デュゼローがまたしても信じられない行動を起こす。
なんと、亜月の体を唐突に蹴り飛ばしたのだ。
それも、空中に飛び上がるほど強く。
「ああッ!?」
力無き亡骸が宙を舞う。
おびただしい血液を撒き散らしながら。
ただ勢いの赴くままに。
そうしてあろう事か壁へと叩き付けられ、滑る様に床へと落ちていく。
血の弾ける音と共に、節々をあらぬ形へと向けて。
まさに鬼畜の所業である。
こんな事が出来るデュゼローに尊厳の概念があるかはもはや疑わしい。
「なん、て、事をォ……!!」
「戦いで死んだ者の身など誰も気にせん。 それはこの世界の人間とて同じ事だろう?」
「な、にッ!?」
「故に死んだ以上はただの肉塊に過ぎん。 邪魔だからどかした、ただそれだけだ」
いや、デュゼローは最初からそんな物など持ち合わせていないのかもしれない。
『あちら側』という戦いだけの世界で生きて久しくて。
死んだらそれまで、という概念が染みついているからこそ。
現代における倫理や尊厳など通用しないのかもしれない。
ただ、これはデュゼローの言う通り現代でも言える事だ。
これまでの戦争において、敵兵の死を嘆いて戦う者などほぼ居ない。
当然だろう。
それが殺し合いというものなのだから。
「だがアレを肉塊に仕立てたのは貴様だ。 アレが来る様に仕向け、力及ばずとも止める事が出来なかった。 そしてアレもまた、それがわかっていても止めようとはしなかった。 その結末がこのザマだ」
故に止まらない。
敵への苦責めを止める気など全く無い。
戦いに生きて来たデュゼローだからこそ、こうして冷酷になれるのだ。
目の前で怒りに露わにする相手に対して。
全ての元凶である者として。
「無駄死にだな。 何の役にも立たなかった」
そしてその一言が放たれた時、勇の中で何かが「ブツリ」と切れた。
頭の中で熱い何かがじわりじわりと広がり始め、意識が混濁して。
ただ目前の敵に向けた血紅の意思一杯となっていく。
殺意だ。
「―――してやる……」
怒りが、溢れ出す。
閉じていた憤怒の釜蓋が軋み、割れて、砕けて弾け。
抑えきれない衝動という名の溶岩流を吹き上げるかの如く。
「殺、してやる……ッ!!」
【翠星剣】を再び掴み、怒りをその拳に乗せながら。
無数の青筋を顔中に立て歪ませて。
吹き上がった憤怒が、叫びとなって遂に打ち上がる。
「殺してやるッ!! 殺してやるぞッデュゼロオォォォーーーーーーッッッ!!!!!」
心のままに咆え。
力の限りに猛り。
剣を両手に携えて、その足で再び床を蹴る。
怒りが、憎しみが、悲しみが心を支配するままに。
その感情を糧として、今またデュゼローへと立ち向かう為に。
もう力なんて残されていなかった。
奮った剣も、ただ力の限りに振っただけだった。
でもそんな事なんて関係無かったのだ。
ただ一矢報いたくて。
亜月を穢したデュゼローを許せなくて。
だから殺意も、悲意も、悔意も何もかもを一撃に篭めて打つ。
打って、打って、打ち続ける。
例え敵わなくとも。
例え無駄だとしても。
そうしなければ、誰も救えないと思ったから。
しかし、対するデュゼローはその攻撃をただ躱し続けるのみ。
反撃もせず、ゆっくりと迫る斬撃を魔剣で受け流して。
冷酷な眼を向け続けながらも、トドメを差す様な事はしようとしない。
「どうした、それでは私を殺せんぞ?」
「うおああッ!! があああッッ!!」
【翠星剣】が砕け、破片が散っていき、切っ先が割れ、宙を舞う。
それでもなお打ち続けるのだろう。
亜月がそうしてくれた様に。
その心が光を灯す限り。
でももう、勇には残されていなかったのだ。
こうして抗い続ける為の光さえも。
ドグンッ!!
その時、心臓がたった一鳴りの鼓動を打ち放つ。
誰にも聴こえそうな程に大きく、それでいて後に続かない一鳴りを。
そう、その鼓動こそが全ての最後だった。
「かッ……!?」
その鼓動を機に突如として剣が止まり、呼吸さえも止まる。
衝動さえ霧散し、血の気までが引いていく。
意識さえもが、消え失せていく。
後はただふらふらと頭を、体を揺らして。
一つ二つ支えを失った糸人形の様に、ガクリと肩を落としてゆらりと立つ姿が。
足元さえもおぼつかなくなりながら。
「……ここまでよく粘ったものだ。 だが、これで終わりだな」
そんな勇に気付き、デュゼローがそっと距離を取る。
魔剣を降ろし、戦意を払う中で。
もう戦う必要は無いと悟ったからこそ。
きっと勇にはもう、こんなデュゼローの呟きも聴こえていないのだろう。
もしかしたら、自分が何故ここに居るのかもわからないかもしれない。
その眼から、心から、もう光さえも消えようとしていたのだから。
意識が薄れ、感覚が消えていく。
何もかもをも黒く塗り潰していく。
体が冷えていく感覚と共に。
「―――命力、ゼロだ」
そして力を失った体が、遂に支える事も出来ず崩れ行く。
肉体という重みの誘うまま、前のめりに倒れながら。
悲哀の訴えが、血潮の如き涙を溢れさせる。
後悔の眼が、瞼さえも遮る事を許さない。
それでも、現実が変わる事は無い。
叫びはただ静かに木霊し、風と共に去り行くのみ。
亜月の遺した微風に乗って。
しかしそれも間も無く消える事だろう。
主を失った心の残滓は、あるべき世界へと。
幾多の想いを乗せて、空の彼方へと還るのだ。
「つくづく情けないな。 人としても」
「な、に……?」
そんな悲しみに打ちひしがれていた勇の心を、再びデュゼローが突く。
何故か手を出す事も無く傍観していたあの男が、今となってまた。
かといって同じくセンチメンタルに浸っていた訳ではないのだろう。
勇の事を蔑む様に見下していたのだから。
「何故その女に『愛してる』の一言も言えなかった?」
「あ……」
「恋人では無かったのか? それとも本当は、愛してはいなかったんじゃあないか?」
「あ、ああ……」
「つまりお前は、その女に『愛してる』の一言も言えない情けない男だったという事だ」
いや、デュゼローも多少は気に掛けていたのかもしれない。
恋人同士であろう二人のやりとりを前にして。
しかし、その結果は酷だった。
真に恋人なら、すぐにでも「愛している」と言えただろう。
そうすれば亜月も笑顔のままに逝けたのかも知れない。
でも、今の亜月の死に顔は違う。
まるで枯れた草花の様にもたれ、苦痛のままに逝ってしまった。
勇が最後の一言を掛けてあげられなかったが故に。
だからこそデュゼローはこうして蔑んでいるのだろう。
死に行く者に手向けさえ掛けられない男を。
その程度の覚悟で人を守ると宣った男を。
そしてデュゼローは、目的の為には手段を択ばない者だからこそ―――
「いや、言えるハズも無いか。 間も無く肉塊となる相手を愛すなど」
その顔に不敵な笑みを浮かべ、遂には嘲笑う。
藤咲勇という男を徹底的に落とす為に。
非道の一言を宣う事さえ、もはや厭わない。
「キ、サマァ……ッ!!」
なれば勇とて憤らずには居られるものか。
こうして亜月の事を〝肉塊〟呼ばわりされようものならば。
自身を蔑んだ事よりも何よりも、それだけが憎くて、恨めしくて。
たちまち怒りに身を任せてデュゼローを睨み付ける。
歯を食いしばった顔を、強張った肩を向けながら。
ガゴッ!!
しかしその途端、勇の顎に強い衝撃が。
体が宙を舞う程の力を以って。
突き出した顎を、デュゼローが蹴り上げていたのだ。
「ぐがっ!?」
そのまま勇が先の床へと転がり行く。
何が起きたのかもわからないままに。
亜月の体を置き去りにして。
そんな中でも、デュゼローの苦責めは止まらない。
「守ると言ってくれた人間にすら、お前は一言掛ける事無く見殺しにしたのだ」
そうして放たれる一言一言が、胸を突くかのよう。
抉られて、引っ掻き回されて、千切り取られるかのよう。
倒れていようが、苦しんでいようが関係無く。
事実を盾に、不条理な怒りさえもぶつけられない中で。
するとその時、デュゼローがまたしても信じられない行動を起こす。
なんと、亜月の体を唐突に蹴り飛ばしたのだ。
それも、空中に飛び上がるほど強く。
「ああッ!?」
力無き亡骸が宙を舞う。
おびただしい血液を撒き散らしながら。
ただ勢いの赴くままに。
そうしてあろう事か壁へと叩き付けられ、滑る様に床へと落ちていく。
血の弾ける音と共に、節々をあらぬ形へと向けて。
まさに鬼畜の所業である。
こんな事が出来るデュゼローに尊厳の概念があるかはもはや疑わしい。
「なん、て、事をォ……!!」
「戦いで死んだ者の身など誰も気にせん。 それはこの世界の人間とて同じ事だろう?」
「な、にッ!?」
「故に死んだ以上はただの肉塊に過ぎん。 邪魔だからどかした、ただそれだけだ」
いや、デュゼローは最初からそんな物など持ち合わせていないのかもしれない。
『あちら側』という戦いだけの世界で生きて久しくて。
死んだらそれまで、という概念が染みついているからこそ。
現代における倫理や尊厳など通用しないのかもしれない。
ただ、これはデュゼローの言う通り現代でも言える事だ。
これまでの戦争において、敵兵の死を嘆いて戦う者などほぼ居ない。
当然だろう。
それが殺し合いというものなのだから。
「だがアレを肉塊に仕立てたのは貴様だ。 アレが来る様に仕向け、力及ばずとも止める事が出来なかった。 そしてアレもまた、それがわかっていても止めようとはしなかった。 その結末がこのザマだ」
故に止まらない。
敵への苦責めを止める気など全く無い。
戦いに生きて来たデュゼローだからこそ、こうして冷酷になれるのだ。
目の前で怒りに露わにする相手に対して。
全ての元凶である者として。
「無駄死にだな。 何の役にも立たなかった」
そしてその一言が放たれた時、勇の中で何かが「ブツリ」と切れた。
頭の中で熱い何かがじわりじわりと広がり始め、意識が混濁して。
ただ目前の敵に向けた血紅の意思一杯となっていく。
殺意だ。
「―――してやる……」
怒りが、溢れ出す。
閉じていた憤怒の釜蓋が軋み、割れて、砕けて弾け。
抑えきれない衝動という名の溶岩流を吹き上げるかの如く。
「殺、してやる……ッ!!」
【翠星剣】を再び掴み、怒りをその拳に乗せながら。
無数の青筋を顔中に立て歪ませて。
吹き上がった憤怒が、叫びとなって遂に打ち上がる。
「殺してやるッ!! 殺してやるぞッデュゼロオォォォーーーーーーッッッ!!!!!」
心のままに咆え。
力の限りに猛り。
剣を両手に携えて、その足で再び床を蹴る。
怒りが、憎しみが、悲しみが心を支配するままに。
その感情を糧として、今またデュゼローへと立ち向かう為に。
もう力なんて残されていなかった。
奮った剣も、ただ力の限りに振っただけだった。
でもそんな事なんて関係無かったのだ。
ただ一矢報いたくて。
亜月を穢したデュゼローを許せなくて。
だから殺意も、悲意も、悔意も何もかもを一撃に篭めて打つ。
打って、打って、打ち続ける。
例え敵わなくとも。
例え無駄だとしても。
そうしなければ、誰も救えないと思ったから。
しかし、対するデュゼローはその攻撃をただ躱し続けるのみ。
反撃もせず、ゆっくりと迫る斬撃を魔剣で受け流して。
冷酷な眼を向け続けながらも、トドメを差す様な事はしようとしない。
「どうした、それでは私を殺せんぞ?」
「うおああッ!! があああッッ!!」
【翠星剣】が砕け、破片が散っていき、切っ先が割れ、宙を舞う。
それでもなお打ち続けるのだろう。
亜月がそうしてくれた様に。
その心が光を灯す限り。
でももう、勇には残されていなかったのだ。
こうして抗い続ける為の光さえも。
ドグンッ!!
その時、心臓がたった一鳴りの鼓動を打ち放つ。
誰にも聴こえそうな程に大きく、それでいて後に続かない一鳴りを。
そう、その鼓動こそが全ての最後だった。
「かッ……!?」
その鼓動を機に突如として剣が止まり、呼吸さえも止まる。
衝動さえ霧散し、血の気までが引いていく。
意識さえもが、消え失せていく。
後はただふらふらと頭を、体を揺らして。
一つ二つ支えを失った糸人形の様に、ガクリと肩を落としてゆらりと立つ姿が。
足元さえもおぼつかなくなりながら。
「……ここまでよく粘ったものだ。 だが、これで終わりだな」
そんな勇に気付き、デュゼローがそっと距離を取る。
魔剣を降ろし、戦意を払う中で。
もう戦う必要は無いと悟ったからこそ。
きっと勇にはもう、こんなデュゼローの呟きも聴こえていないのだろう。
もしかしたら、自分が何故ここに居るのかもわからないかもしれない。
その眼から、心から、もう光さえも消えようとしていたのだから。
意識が薄れ、感覚が消えていく。
何もかもをも黒く塗り潰していく。
体が冷えていく感覚と共に。
「―――命力、ゼロだ」
そして力を失った体が、遂に支える事も出来ず崩れ行く。
肉体という重みの誘うまま、前のめりに倒れながら。
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