時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第二十六節「白日の下へ 信念と現実 黒き爪痕は深く遠く」

~夢でありたい~

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 もしかしたら、亜月もわかっているのかもしれない。
 勝てないなんて、わかりきった事なのかもしれない。

 けれど、亜月はそれでも引き下がらない。
 守りたい人が居るから。
 救いたい人が居るから。

 自分の愛した人がここに居るから。

 だから亜月はその力を全て、その人の為に奮う。
 勝てないなんて思わない。
 愛する人を救う為だけに力を奮う。
 それが心から願う、彼女の想いだから。

「アタシがッ!! 勇君をッ!! 守るッ!!」

キィン!! チュインッ!!

 亜月の憤怒はその動きさえも常識を凌駕させていた。

 一撃打ち込めば、寸後には背後に回り込んでいて。
 斬撃は引いた残光を弾き飛ばす程に荒々しく。
 それでいて息つく間も与えぬ連続攻撃でデュゼローを地に帰さない。

「うあッッ!! ッがあああッ!!」

 牙を剥き、叫びを上げて、怒りを露わにしながら。
 デュゼローに反撃の余地すら与えない程に速く、強く打って打って打ちまくる。
 なおも加速し、力をも上げさせて。

「これほど!! とはなッ!!」

 しかしデュゼローもまたその連続攻撃を耐え抜いている。
 勇の予想通り、一切力を衰えさせる事無く。
 魔剣一本一本を巧みに操り、如何な攻撃をも防いで。

 反撃が叶わなくとも関係は無い。
 耐えて耐えて耐え続け、勝機を見出せばいいのだから。

 それに、人とは見慣れる生き物だ。
 これだけの動きを連続で続けられれば、幾ら加速しようとも捉えられよう。

 故に今、デュゼローは亜月の斬撃が全て見えていた。
 全て防ぎ、凌ぎきっていたのだ。
 だからもう服さえ滅多に刻ませない。
 体への傷はもう増えない。

 ならばいつかは反撃さえも可能となるだろう。

 猛攻の様子は依然として変わらない。
 千野達が不安に思ってしまう程に。
 このままデュゼローが負けてしまうのではないかと思う程に。

 ただ、その状況は知らぬ内に変化を見せ始める。

ヒュンッ!!
ピシシッ!!

 この時、足掻き続ける勇の傍に何かが飛んで来て。
 思わずその何かに視線を向ける。

 そして気付くだろう。
 がもたらした、現実に。

 それは米粒ほどの銀色の金属片だった。
 橙色の残滓を残した破片、だった。



 亜月の魔剣が砕け始めているのだ。
 度重なる猛攻による衝撃によって。



 なまじ軽量の魔剣だからこそ、強度が伴わず。
 加えて強烈な命力にも耐えきれず、崩壊し始めているのだろう。

 よくよく見ればもう魔剣自体が既に変調をきたしている。
 羽根飾りが砕け。
 刀身に亀裂が及び。
 自慢の排気弁もひしゃげていて。

 それでもなお力を増し続ければ、自滅さえ有り得るだろう。

「あ、あああ……あず、あず……ッ!!」

 でも、そう気付いても、勇に訴える術が無い。
 あと少しでも命力があれば、亜月に訴えられるのに。

 〝逃げてくれ〟と。

 だから震えた腕を、掌を向けて体で訴える。
 ただただ必死に。

 亜月の無事を祈って。

「だのむッ……あずッ、にげで……ッ!!」

 例え命力が無くとも感情は心に滲む。
 昂りを帯びれば熱い涙を目元に呼んで、頬を伝って流れ行く。

 涙にさえ命力は籠るのに、どうして声には乗らないのだろう。
 そんな世界の理不尽さと、己の非力さに苛まれながら、勇は声を上げ続ける。

 在り方を、生き様をありありと見せつける亜月へと。



 でもきっと亜月は、勇の声が聴こえても攻撃を止めないだろう。
 デュゼローを倒すまで、猛攻を抑えないだろう。

 そうする事が、今の亜月の生きる理由だから。

―――仕方ないよね。
    だって好きなんだもん。
     守りたいって気持ちは抑えられないよ―――

「があァァァーーーッ!!」

―――大切だからさ。
    あの人が居るから。
     私が今こうして居られるんだって―――

「うあぁぁああーーーッ!!」

―――わからなくたっていい。
    これは私だけの気持ち。
     誰かの為じゃない、私だけの想い―――

「だからさ、勇君……!!」

 例え魔剣が崩壊しようとも。
 例え命力が尽きようとも。

 今の亜月は止まらない。
 その想いが迸り、空を翔ける翼を抱く限り。

 そう―――亜月は今、光翼をその手に携えていたのだ。

 崩壊間近の魔剣からこれ以上無い光が溢れ出して。
 風の潮流に乗って幾度も巡り舞い、還っていく。
 そうして生まれた光の膜が幾多にも重なり、幻想の翼を生み出していたのである。

 まるで空を羽ばたく天使の様に。

 その光景を前にして、人々は心を奪われた。
 勇も、千野達も、映像を目の当たりにした者達も。



―――アタシ ハ トマラナイ ヨ―――
 


 この時、二刃が合わさり一つの橙光刃となる。
 強き想いが命力を完全に一つとしたからこそ。
 ならば魔剣さえも合わせれば強大無比の斬撃となろう。

 デュゼローの魔剣に亀裂をもたらす程の一撃に。

 そんな一撃を見舞い、デュゼローを壁際へと追い込んで。
 末に想い全てを捧げ、光の翼さえも剣と昇華える。



 そうして顕現させしは【希望光閃矛グロウレンシス】。



 それは愛を貫き通す想いが生んだ、極大の光矛。
 デュゼローへの更なる一手と成り得る力として。
 己の想いを形にした、亜月の心のカタチ。

 それが刹那に瞬き、力を解き放つ。

 想いのままに。
 願うままに。

 敵を今、貫く為に。





「そうか、それが全てか」





 だが、世界はそんな亜月にさえも残酷さを貫く。

 恐らく、デュゼローはこの瞬間を狙っていたのだろう。
 全ての力を一撃に込めるこの瞬間を。

 故にもう、亜月の視界にデュゼローの姿は無い。



 もう既に、亜月の背後に居たのだ。
 逆手の凶刃を、彼女の小さな背へと突き通しながら。
 


ズグリ……

 この時、鈍い音が亜月の体に響き渡る。
 肉を突き進んだ異物の感覚と共に。

 左胸を突き抜けた黒い刃の先をも目の当たりにして。

「ゴぷぶッ……!?」

 たちまち亜月の口から鮮血がとめどなく溢れ出る。
 事実を認識出来ず、眼を見開かせる中で。

 迸っていた力がもう出ない。
 まるで全てが嘘だったかの様に。
 何もかもが掻き消えて、無くなっていく。

 四肢の力さえも。

 そんな感覚に苛まれながら、途端に腕をだらりと落とし。
 抵抗すら成せないまま、魔剣を床へと転がして。

「終わりだな」

 確実な心臓への一突きだった。
 一寸の狂いも無い、狙った一刺しだった。
 だからこそ、そう確信したのだろう。

 間も無くデュゼローが魔剣を強引に引き抜き、その勢いのままに亜月を蹴り飛ばす。
 偶然か、それとも意図してか―――それも勇の下へと送り出す形で。
 「バシャシャ」とおびただしい鮮血を撒き散らさせながら。

「あ、ああッ、ああああッ!!」

 その絶望の光景を前に、勇が必死にその手を、身体を伸ばしていて。
 目前に倒れた亜月を手繰り寄せようと。

 そして腕に抱え、抱き締める。
 弱り切ってもう動けなくなった亜月の体を。

「あ、あず、あずうッ!!」

「ア……ゴフ、ゆ、君……」

「ダ、ダメだ、死んじゃダメだ!! 死ぬなぁあずうッ!!」

 死が近い事なんて、誰が見てわかる程の惨状だった。
 今の一撃がどれだけ重かったのか、など。

 その眼は虚ろで、今にも閉じてしまいそう。
 胸からはとめどなく血が溢れて止まらない。
 あまつさえ口からも血が溢れ続け、呼吸すら妨げて。
 勇に応えたくても、もう声を出す事さえままならないだろう。
 
 けれど勇には亜月の苦痛を和らげる手段など有りはしなかった。
 助けたくても、救いたくても、それを成す命力がもう欠片も無くて。
 目の前で掠れていく心を前にして、抱き締める事しか出来ないでいる。

 ただ悲しみ、ただ震え。
 それでも諦めたくない気持ちが声となって訴える。
 冷たくなった亜月の手を掴んで、「死ぬな」と必死に。

 その想いはきっと、亜月にも届いたのだろう。

「アタ、シ……ゴフッ、しなな……いよ」

「あず……?」

「『アイ、シテル』って……言って、くれたら、ェウッ……」

 紅血に汗と涙が混じり、意思さえも流して床へと溶ける。
 そうして意識が薄れていく中でも、亜月の心の在り方は変わらない。

 ただただ、愛する人の想いは胸に留めたままで。

「俺はッ、俺はあッ……!!」

 そんな亜月の願いに応えたくて。
 たった一言を伝えたくて。

 勇の唇が震える。
 伝えたい一言を喉の奥で詰まらせて。

「―――ッ!?」

 でもそれで、その所為で気付いてしまったのだ。
 じっと抱き続けていたから。
 


 亜月の眼にはもう、光が灯っていなかった事に。



 その心はもう無だった。
 誰をも照らしてくれたあの明光は、もう一抹も残されていなかった。

 感じるのは流れを緩めた血液の流れのみ。
 それも間も無く収まり、冷めていくのだろう。

「あ……ああ、あああ……」

 勇の体が震えて止まらない。
 その受け入れがたい現実を前にして。

 抱えた体を強く、ただ強く抱き締めながら。

「あぁ、あッあッ……ぁぁあッ!!―――」
 
 また、救えなかった。

 その絶望が、悲哀が、後悔が。
 抑えられなくなった衝動が、抑え込んで来た心の奥底から解き放たれる。

 かつての辛い苦しみと共に。



「―――あァぁあアァァァーーーーーーッッッ!!!!」



 天に訴える様に高く高く、悲愴の覆うその面を突き向けて。


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