時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第九節「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」

~善意と悪意と定められぬモノ 答~

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 アージとマヴォの再会という役目は果たした。
 なら二人の事は二人だけに任せよう。
 勇達にはまだ成すべき事があるのだから。

 成すべき事とはすなわち、フェノーダラ王の意思確認。

 ドゥーラが危険な存在である事はわかっていたはず。
 にも拘らず、その事を秘密としたまま勇達に託した。
 これは明らかに両国間の関係に影響をもたらす程の大問題である。
 事と次第によっては、友好関係に修復不可能な亀裂さえ及ぼしかねない。

 だからこそ問おう。
 その真意を。

 ヘリコプターが城壁の前に降り立つ。
 すると早速、福留を筆頭とした面々が飛び出していて。
 立ち止まる事も無く、真っ直ぐと壁内へ。

 いつもならこれから開かれるはずの大扉が、今は既に開かれている。
 加えて、多くの兵士達による人の道という歓迎の下に。
 まるで勇達に申し開きを請うかの如く。
 もしかしたら、彼等はもう勇達が訪れた理由をわかっているのかもしれない。

「よく戻って来てくれた。 まずは無事の帰還を心より祝福したい」

 そんな城内を抜けてやってきた勇達を、王のこの一声が迎える。
 本来であれば当事者が「よくもぬけぬけと」と返せてしまう様な一言だ。
 勇やちゃなはまだ優しいからそんな事など思いはしないが。

 ただ、仲介を任命された福留としては黙っている訳にはいかない。

「ありがとうございます。 ですが我々が頂きたいのは祝福よりも弁明です。 今回の一件は少し―――いや、かなりのリスクをを伴っておりましたから。 その辺りの納得いく説明を頂けなければ、今後の国家間の関係にも影響が出る事でしょう」

 こう唸るのも当然だ。
 最悪の場合、勇やちゃなの命が失われたかもしれない一件だったのだから。

 福留は言わば二人の上司であり、かつ保護者代理という存在で。
 二人を戦地に送り届ける以上、必要最低限の安全は確保しなければならない義務がある。

 戦いに行く前に交通事故で死んでは意味が無い。
 戦いに勝った後に怪我が元で半身不随になれば意味が無い。
 だからこそ勇達には必要以上のサポートやアフターケアを用意しているのだ。

 しかしそんなサポートに協力国からの罠が仕込まれていればどうしようもない。
 そうして最悪の事態が起きた場合、当事者が居なければ原因もわからなくなるだろう。
 するとたちまち謀略の完成である。

 だから見極めなければならない。
 フェノーダラ王に謀略の意図があるのかどうか。
 その如何次第では、日本政府は正式に王国への援助を打ち切るだろう。
 例え仮に、知らず今回の様な結果となった、のだとしても。

「さぁ返答を願います。 納得し得る返答を」

 そう問う福留の声色は厳しい。
 通訳であるエウリィが戸惑ってしまう程に。
 家臣達が思わず頭を抱えてしまう程に。



「まぁそうカッカしねぇでやってくれねぇか。 この阿呆なりに考えてやった事なんだからよ」



 そんな時、勇達の耳に聞き慣れたあの野太い声が届く。

 剣聖である。
 遅れて部屋の奥から現れたのだ。
 相変わらずの不躾な身軽さで。

「えぇ、私としても本意ではありません。 ただ、言うべき事は言わせて頂かなければ、事を成してくれたこのお二人に申し訳が立ちませんから」

「おう。 そこんとこはこの阿呆王もわかってらぁ。 なぁユハよぉ?」

 でも事は全て知っているのだろう。
 当然、王の真意も。
 だからこそ今こうして間に立ってくれている。
 剣聖はなんだかんだでどちらの立場も尊重してくれているから。

 ただ単に気分屋で、気が向かないと黙っているだけで。
 さすがに今はそうも言っていられない状況だと悟ったのだろう

「うむ。 正直この立場でなければ頭を擦り付けて許しを懇願したい所だ。 本当に申し訳なく思う」

 そんな剣聖の仲介を経て、ようやく王が座上から頭を下げる。
 これが今の立場で出来る精一杯の誠意な様だ。

 またその傍では、エウリィ達もまた傾倒する姿が。
 それも日本式に合わせた綺麗なお辞儀を見せていて。 
 きっとこういう時の為に練習していたに違いない。
 
 それでも福留がまだ納得したという訳では無いが。

「実は皆の命を盾に取られていた。 直接そう言われた訳では無いが。 アレはそういう類の者だからね、少しでも逆らえば敵とみなされる可能性があったのだ」

 それは当然、王にもわかっている。

 故に王の弁明はまだ続く。
 王とドゥーラの背景に纏わる逸話も含めて。

「彼女は命力に関わる技術が非常に卓越していてね、少しでも謀反的な行動を起こせば意思を察知されてしまう。 でも逆に言えば、事実を知らず謀反さえして見せなければ何の問題も無い。 だから君達に害は無いと思ったのだ」

「でもそれなら剣聖さんがどうにか出来るんじゃ? もしかして剣聖さんより強いとか?」

「んな訳あるかぁ―――だが、正直戦いたくねぇ相手だ。 何せ考えてる事が全く読めねぇ。 思考が人間のそれと全く違うんだぁよ。 見る事さえ気持ち悪くなるくれぇになぁ」

 つまり王曰く、基本的には敵意さえ見せなければ危険は無かった、という事だ。
 なまじアージと出会ってしまったから真実を知ってしまっただけで。
 もしアージと和解せず倒していれば、今ごろ円満離脱で済んでいたと。

「人の敵意には敏感だが、それさえなければいつもあの調子だ。 むしろ他の我が強い魔剣使いよりは扱い易いと言えよう。 その点、勇殿達は無暗に敵意を振り撒いたりはしない。 だから安心して見送れたという訳なのだ」

「ふむ、そういう事でしたか。 となると誤算は、勇君達のその心意気があの二人を引き込んだ事にある、という訳ですねぇ。 いやはや数奇な運命を感じずにはいられません」

 世の中どう転ぶかわからないものだ。
 平気だと思っていた事も、全く別の形に思わず転んで不利益と化して。
 でもその結果、最良の出会いに恵まれたのだから。

 そうなると福留も怒るに怒れなくなる。
 ドゥーラの失踪はマイナスだが、仲良くなる事にもメリットは無いから。
 なら今の形がずっと勇達にもアージ達にも良いのだと。

「わかりました。 ならば納得する事に致しましょう」

「そう言って頂けると助かる。 以後はこの様な事が無いよう気を付ける事にする」

 確かに危険だったが、実際に事が起きた訳ではない。
 なら可能性の話で問答を続ける程、福留も愚かでは無いから。

 こうしてフェノーダラ側が反省してくれるならば、今はもうそれだけで充分だ。
 無暗に敵意を振り撒いても、互いにメリットは何も無いのだから。

 だからこれでこの件も終わりだ。
 少なくとも、王に謀略を図るつもりなど無いとわかった。
 その情報だけでも来た甲斐はあっただろう。



 だがしかし、予想外とは常々起きうるもの。
 どうやら無垢な少女の好奇心は、場の円満解決さえも許してくれないらしい。



「あの……じゃあなんでドゥーラさんの要請に従ったんですか? 最初に突っぱねちゃえば良かったのに」

「う、そ、それはだな……」

 ここでまさかのちゃなの質問である。
 今までに渡る二度の勇気がどうやら三度目をも呼び込んだ様だ。

 しかも今度はちょっとばかり鋭い突っ込みで。
 たちまち双方に穏やかではない雲行きが包み始める。

「―――昔まだ若かった頃な、若気の至りという奴で~そう、少し大人の合いがあったのだ。 なので逆らえないというかなんというか、はは……」

「だそうですウフフッ。 お父様、控えめに言って最低ですね。 娘にそんな事言わせるなんて」

「……その件は報告文に記載させて頂く事にしましょうか」

「ったく阿呆が。 やたらめったらテメーのの扱いを雑にしやがるからだ」

「剣ですか。 なるほどー魔剣の先生とかだったんですねっ」

「う、うん、そうだね。 そういう事にしておこう」

 でも幸い、無垢な少女は真意に気付かずとも満足した様だ。
 フェノーダラ王の全体的な印象が急降下したのは言うまでも無いが。



 人の欲望は己の行いさえ歪める事もある。
 ついさっきマヴォの事もあったので、あながち珍しい訳でもないみたいで。

 故に勇は心の中で強く誓う。
 昔のフェノーダラ王やマヴォの様にならないよう気を付けよう、と。


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