時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
349 / 1,197
第十一節「心拠りし所 平の願い その光の道標」

~隙を見て一気に逃げるから……ッ!~

しおりを挟む
「「剣聖さぁぁぁーーーんッ!!」」

 余りにも激しい攻防だった。
 誰しもが立っていられない程に。
 それだけ元の地形が歪み尽くすまでに。

 それに、これだけ暴れてしまえば地震として周囲に伝わる。
 ならきっと近隣の街にも被害は届いているだろう。
 つまり、何もかもが後手に回ってしまっているのだ。

 しかしもう勇達にはそんな事さえ考える事が出来なかった。

 まさかの剣聖の敗北。
 頼みの綱だった存在がこうして地に堕ちたのだから。

 だからこそ剣聖が消えた彼方を見つめずにはいられない。
 実は戻って来るんじゃないか、そんな一抹の期待があって。
 今なお崩れ落ちる山から視線を外せずにいた。

 ただし勇以外は、だが。

「た、田中さん……今すぐ、俺の背に、乗るんだ……ッ!」
「えっ?」

 そんな二人は戦場の荒れ狂う末に離れていて。
 しかし今、勇が小声でちゃなを再び背に誘う。

 その顔と声に焦燥感と戦慄を交えながら。

 でもこの時、まだちゃなには何もわかっていなかった。
 勇は何故ここまで焦っているのかと。

 ただ、その顔が向けられていたのは自分とは違う場所で。
 つい釣られて、視線が同じ方へと向けられる。

 そしてすぐ気付いたのだ。



 【グリュダン】の眼が、今度は勇達へと向けられていた事に。



 亀裂の混じった眼が「ゴリリッ、ゴリリッ」と動く。
 まるで勇達にカメラの焦点を合わせているかの如く。
 しかしその動きも間も無く収まっていて。

 今にも、身体が動き出しそうだった。
 それこそ、勇達が何かすれば真っ先にと。

 だから勇は静かにちゃなを呼んだ。
 これ以上【グリュダン】を刺激するのは不味いと感じて。
 
 こうなればもはやちゃなも戦々恐々だ。
 恐る恐る勇へと近づき、ゆっくりと背負われて。
 互いに見つめ合い続けながら、勇が一歩を下げる。

 だが、その一歩で――巨人の足もが「ズリリ」と動いていた。

 そう、【グリュダン】は完全に二人を捉えているのである。
 敵として、戦闘対象として。
 しかも一切、妥協するつもりは無いらしい。

 今は見定めているのだろう。
 どういう行動を執るのか、何をするつもりなのかと。

 だから視線を一切外そうとしない。
 例え一日二日このままだろうと退かない、そんな気配があって。
 その所為で勇達もまたこう思えてしまう。

 〝いっそこのまま動かないで居た方がいいんじゃないか?〟と。

 だが事実上、それは不可能だ。
 あと八日間、このままで居られる訳が無い。
 身体を動かすどころか食事、生理現象処理まで叶わないならば。

「田中さん、隙を見て、一気に、逃げるから……ッ!」

 それに痺れを切らして一方的に動いて来る可能性も否めない。
 なら膠着状態の今、こっちから動いた方が僅かだけ有利になる。

 それだけ、少しでも逃げ易くなる。

 勇にはもう応戦するつもりなど無かったのだ。
 あれだけの戦いを見せつけられたならば。

 敵う訳が無い。
 それほど常軌を逸していたから。
 戦おうとしていた自分達がおこがましいと思えるくらいに。

 ならどうやって逃げるか。
 あれだけの運動性能を見せつけた相手から。

 可能性はただ一つだけ。
 ある程度の速度を付けたら、ちゃなの飛行能力で一気に飛び去る。

 これしかあの運動性能から逃げ切れる術は無い。

「――そういう事だから、頼んだよ……ッ!」

「わ、わかりました……!」

 小声で相談し合い、口裏を合わせる。
 絶対に、生きて帰る為にも。
 そう福留と約束したから。



 だから今、勇は駆けていた。
 己の力を振り絞り、地面を蹴り上げて。



 まるでロケットの様な加速だった。
 それだけの速さで裏へ跳ね、空中で転身。
 そのまま一気に駆け抜けていて。

 たったそれだけで、二人の速さは最大速度へ。
 であればもう飛び立つ事さえ可能となる。

「田中さんッ!!」
「はいッ!!」

 故に今、ちゃなは魔剣を握り締めていた。

 飛び方はもうしっかり覚えている。
 あの戦いの後、福留監修の下で練習を行ったから。
 だから今なら迷い無く飛び立つ事が出来るだろう。



 ただし〝その先に障害物が無ければ〟の話に限るが。



 二人は全て上手く行ったと思い込んでいた。
 このまま飛んで逃げて終わりなのだと。

 だがその時、二人の視界は闇に包まれて。
 たちまち突風と激震がその小さな体をこれ以上無く揺らす事となる。

「う、ああ……ッ!?」

 そして思い知るのだ。
 自分達が如何に浅はかだったのかと。

 逃げ切る道など何処にも無かった、という事実を目の当たりにして。



 なんと【グリュダン】は二人を飛び越え、先回りしていたのだ。
 この一瞬で、魔剣を構える間さえ与える事無く。



 まるで二人の作戦を理解しているかの様な行動だった。
 今まで話を聞いて、それでいて逃がすまいとして。

 しかも再びあの圧倒的な身体能力を見せつけたという。

 これでは空を飛んで逃げるなど到底不可能だ。
 この跳躍速度はもはやちゃなの飛行速度でさえ振り切れない。
 少なくとも、最高速度までは絶対に達しきれないだろう。

 きっと、それまでに掴まってペシャンコだ。
 
 だからこそ、またしても戦慄する。
 逃げ場無しと言わんばかりの巨人を前にして。



 逃げる事が叶わない今、勇達に成す術は殆ど残されていない。
 果たして、その中で生き残れる道は本当にあるのだろうか。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

気弱令嬢の悪役令嬢化計画

みおな
ファンタジー
 事故で死んだ私が転生した先は、前世の小説の世界?  しかも、婚約者に不当に扱われても、家族から冷たくされても、反論ひとつ出来ない気弱令嬢?  いやいやいや。 そんなことだから、冤罪で処刑されるんでしょ!  せっかく生まれ変わったんだから、処刑ルートなんて真っ平ごめん。  屑な婚約者も冷たい家族も要らないと思っていたのに・・・?

【完結】病弱な幼馴染が大事だと婚約破棄されましたが、彼女は他の方と結婚するみたいですよ

冬月光輝
恋愛
婚約者である伯爵家の嫡男のマルサスには病弱な幼馴染がいる。 親同士が決めた結婚に最初から乗り気ではなかった彼は突然、私に土下座した。 「すまない。健康で強い君よりも俺は病弱なエリナの側に居たい。頼むから婚約を破棄してくれ」 あまりの勢いに押された私は婚約破棄を受け入れる。 ショックで暫く放心していた私だが父から新たな縁談を持ちかけられて、立ち直ろうと一歩を踏み出した。 「エリナのやつが、他の男と婚約していた!」 そんな中、幼馴染が既に婚約していることを知ったとマルサスが泣きついてくる。 さらに彼は私に復縁を迫ってくるも、私は既に第三王子と婚約していて……。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

【完結】何でも欲しがる妹?お姉様が飽き性なだけですよね?

水江 蓮
ファンタジー
「あれは…妹が…アンリが欲しがったから…渡すしかなかったんです…。お父様、新しいドレスをお願いします。ドレスも宝石も欲しいと言われたら…姉として渡すしかなくて…」 お姉様は泣きながらお父様に伝えております。 いえ…私1つも欲しいなんて言ってませんよね? 全てはお姉様が要らなくなっただけですよね? 他サイトにも公開中。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

処理中です...