赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第三章:資本の光は辺境から

第四.五節:路地裏の少女

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 夜更けの自由市場。人波が引いた石畳には、炭の燃え残りと甘い香の煙だけが漂っていた。
 加賀谷は仕事帰りの気まぐれで、照明の落ちた裏通りに足を踏み入れた。ひとりになると、街の息遣いがよく分かる――そんな瞬間が好きだった。

 ふと、黒い路地の奥で何かが動く。
 近寄ると、薄いぼろ布の下に小さく丸まった影があった。白銀の髪が煤け、やせた肩がわずかに震えている。

 「……生きてるか?」

 声をかけると、ゆっくり瞳が開いた。水面のような淡い青――がらんとした目をしているが、焦点は合っていた。

 「食べ物、ある?」

 か細い声。だが、乞うでも怯えるでもない。状況を確認しているだけのように淡々としていた。

 「ある。ついでに屋根と布団も」

 加賀谷は外套を脱ぎ、少女の肩に掛けた。
 驚いたように瞬きをしたあと、彼女は小さくうなずく。

 「……名前は?」

 「ノア」

 それだけ言うと、力が抜けたのか意識を手放した。抱き上げると、鳥の骨のように軽い。加賀谷は、胸の奥でぼそりと呟いた。


 

 ◇ ◇ ◇

 


 城の侍女部屋は朝から騒がしかった。
 寝台に横たわるノアに、侍女頭が検温し、侍医が薬を差し出す。使用人たちは戸惑いより安堵の色を浮かべていた。

 「閣下もようやく、ご自分のことを考えられるのね」
 「それに、あの子……変な気配はしないわ」

 その日は丸一日眠り続け、翌朝になるとノアは起き上がった。食事を運ぶと、無言で完食。礼の一つも言わないが、皿一枚残さない。

 「侍女として働ける?」
 加賀谷が尋ねると、彼女は短く「うん」と頷いた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「この子、屋敷で預かります。侍女扱いで。部屋と衣服と、食事を用意してやってほしい」

 加賀谷がそう言うと、城の侍女たちは一斉に頷いた。

 誰一人として反対の声は出なかった。むしろ、“ようやく”といった空気がそこにあった。

 ──閣下が、閣下以外の誰かを個人的に連れ帰るなんて。

 ──国のことばかりで、ずっと滅私奉公だったあの人が……。

「……ま、若いんだから、そりゃ一人ぐらい、ねぇ?」

 使用人の一人がそう呟き、ほかの侍女たちは微笑ましそうに笑い合った。

 
 数日後の昼下がり。
 厨房で仕込みをしていた料理番が、慌てた様子で加賀谷を呼びに来た。

 「お、お館さま! あの娘が勝手に……いや、勝手ってわけじゃないんですが……!」

 駆け付けると、ノアが一人で鍋をかき混ぜていた。余り物の野菜と香草を煮込み、乳白色のソースを合わせている。火加減も塩の量も正確だ。

 「できた」

 差し出された皿は、色合いも盛り付けも見事だった。
 スプーンで一口。淡いハーブの香りが鼻に抜け、根菜の甘みがやわらかい酸味で引き締まる。素朴な素材とは思えない一皿。

 「……うまい。どこで覚えた?」

 「覚えたわけじゃない。匂いをかいで、作っただけ」

 平坦な声。だがその目は、加賀谷の評価をじっと待っている。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 同じ日の夕刻。
 裏庭の稽古場で、リィナは汗を拭いながら木刀を振っていた。視界の端で、素振りをする影が揺れる。

 ――ノア。

 借り物の木刀を握り、淡々と型を刻んでいる。間合いの詰め方、体軸の使い方、どこか兵士くさくない。素人が真似できる動きではなかった。

 「……普通に、私より強いかも」

 リィナはぽつりと呟き、自分の握る木刀を見下ろした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 深夜。城の回廊は静まり返り、魔導灯が壁に淡い影を落としている。
 リィナはテラスで夜風に当たりながら、小さくため息をついた。

 (カガヤが連れてきた女の子。料理も剣も天才的。……悪い子ではない、けれど)

 胸の奥に、名状しがたい“ざわめき”が残る。
 嫌な予感――と言うには幼い、だが確かな不安。

 足音が近づき、思わず振り返る。
 廊下の角を曲がったノアが、振り向く加賀谷の背中をじっと見つめていた。

 ほんの一瞬、淡い水色の瞳が揺れ、頬がわずかに紅に染まる。

 (……あら)

 リィナは小さく目を見開き、それからそっと口元を引き結んだ。

 「なんだか、本当に……嫌な予感がするわ」

 夜風が、二人の距離をそっと揺らした。









◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
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そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
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