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第三章:資本の光は辺境から
第五節:都市に人は集う──自由都市構想
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朝の謁見室。
石造りの大窓から差し込む光が、長机に並んだ地図を照らしている。加賀谷は、赤と黒のピンを使いながら、地図上に新たな都市の枠組みを描いていた。
「……このあたり、古い鉱山町の跡地ですね」
リィナが地図を覗き込む。しばらく前に廃坑になった場所だ。
「うん。道路網からも外れてるし、今は完全な空白地帯。でも、逆に言えば誰にも邪魔されずに、都市を一から組み立てられるってことだ」
加賀谷の声には、ほんのわずかに熱が混じっている。
ただの復興ではない。“ゼロから創る”という営みには、彼の心を躍らせるものがあった。
「人は……集まるでしょうか?」
「条件次第だね」
彼は指を折るように言葉を数えた。
「まず、食える仕事を用意する。次に、身分や出自に関係なく、安全に暮らせることを保障する。それがあれば、逃げ場のない奴隷や傭兵、行き場のない元農奴……全部、来るよ」
リィナは口を結ぶ。その視線の先には、廊下を静かに掃除しているノアの姿がある。
(……確かに)
大公の元に、すでに一人の“集まるべき人材”が現れていた。ならば、あの構想も――絵空事ではない。
◇ ◇ ◇
午後、ヴァルドが報告を携えてやってきた。
その表情は、いつになく生き生きとしている。
「開拓候補地への調査班、すでに派遣済みです。地質、水源ともに問題なし。商人ギルドとも仮契約を結びました」
「早いな」
「三日で、とのことでしたので」
……やはり真に受けていた。
加賀谷は苦笑いしつつも、心の中で(まじかよ)と呟く。だが、その過剰な忠誠心が今はありがたい。
「自由都市、ですか。妙に耳障りがいい……その響きだけで人が集まりそうですな」
ヴァルドが地図の一角を指しながら続ける。
「住民の受け入れ枠も、奴隷解放者と冒険者ギルド、両方に割り当てます。自治組織の骨子もご確認ください」
差し出された書類には、すでに都市運営に必要な機構の素案が列記されていた。教育、警備、租税制度……どれも実用段階にある。
「……まるで、元から考えてたみたいだな」
「いえ。ただ、閣下なら“必ずそうされる”と思っておりましたので」
軽く一礼するヴァルドの瞳に、いつものように熱が灯っている。
加賀谷は、それ以上何も言わず、視線を再び地図へ戻した。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
加賀谷とリィナは、外套を羽織りながら公都の夜道を歩いていた。整備された通りを、ほのかな光が照らす。通貨が回り、商人が店を開け、子どもたちの声が戻ってきた。
「ずいぶん、変わったね」
リィナがぽつりと呟く。
「まだ途中だけどね。でも――」
加賀谷は立ち止まり、振り返って彼女を見た。
「……俺たちで、もう一つ創ってみない?」
「もう一つ?」
「国じゃない。都市だよ。“人が集まり、育ち、夢を見られる場所”ってやつをさ」
驚いたように目を見開くリィナ。だが、すぐにわずかに笑った。
「ふふ……ほんとに、欲張りね」
「そうしないと、面白くないだろ?」
加賀谷は手を差し出した。リィナが戸惑いながらも、その手を取る。
◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
更新の励みになりますので、
いいね&お気に入り登録していただけると本当にうれしいです!
今後も読みやすく、テンポよく、そして楽しい。
そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
石造りの大窓から差し込む光が、長机に並んだ地図を照らしている。加賀谷は、赤と黒のピンを使いながら、地図上に新たな都市の枠組みを描いていた。
「……このあたり、古い鉱山町の跡地ですね」
リィナが地図を覗き込む。しばらく前に廃坑になった場所だ。
「うん。道路網からも外れてるし、今は完全な空白地帯。でも、逆に言えば誰にも邪魔されずに、都市を一から組み立てられるってことだ」
加賀谷の声には、ほんのわずかに熱が混じっている。
ただの復興ではない。“ゼロから創る”という営みには、彼の心を躍らせるものがあった。
「人は……集まるでしょうか?」
「条件次第だね」
彼は指を折るように言葉を数えた。
「まず、食える仕事を用意する。次に、身分や出自に関係なく、安全に暮らせることを保障する。それがあれば、逃げ場のない奴隷や傭兵、行き場のない元農奴……全部、来るよ」
リィナは口を結ぶ。その視線の先には、廊下を静かに掃除しているノアの姿がある。
(……確かに)
大公の元に、すでに一人の“集まるべき人材”が現れていた。ならば、あの構想も――絵空事ではない。
◇ ◇ ◇
午後、ヴァルドが報告を携えてやってきた。
その表情は、いつになく生き生きとしている。
「開拓候補地への調査班、すでに派遣済みです。地質、水源ともに問題なし。商人ギルドとも仮契約を結びました」
「早いな」
「三日で、とのことでしたので」
……やはり真に受けていた。
加賀谷は苦笑いしつつも、心の中で(まじかよ)と呟く。だが、その過剰な忠誠心が今はありがたい。
「自由都市、ですか。妙に耳障りがいい……その響きだけで人が集まりそうですな」
ヴァルドが地図の一角を指しながら続ける。
「住民の受け入れ枠も、奴隷解放者と冒険者ギルド、両方に割り当てます。自治組織の骨子もご確認ください」
差し出された書類には、すでに都市運営に必要な機構の素案が列記されていた。教育、警備、租税制度……どれも実用段階にある。
「……まるで、元から考えてたみたいだな」
「いえ。ただ、閣下なら“必ずそうされる”と思っておりましたので」
軽く一礼するヴァルドの瞳に、いつものように熱が灯っている。
加賀谷は、それ以上何も言わず、視線を再び地図へ戻した。
◇ ◇ ◇
その日の夜。
加賀谷とリィナは、外套を羽織りながら公都の夜道を歩いていた。整備された通りを、ほのかな光が照らす。通貨が回り、商人が店を開け、子どもたちの声が戻ってきた。
「ずいぶん、変わったね」
リィナがぽつりと呟く。
「まだ途中だけどね。でも――」
加賀谷は立ち止まり、振り返って彼女を見た。
「……俺たちで、もう一つ創ってみない?」
「もう一つ?」
「国じゃない。都市だよ。“人が集まり、育ち、夢を見られる場所”ってやつをさ」
驚いたように目を見開くリィナ。だが、すぐにわずかに笑った。
「ふふ……ほんとに、欲張りね」
「そうしないと、面白くないだろ?」
加賀谷は手を差し出した。リィナが戸惑いながらも、その手を取る。
◆あとがき◆
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