赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

25BCHI

文字の大きさ
27 / 76
第三章:資本の光は辺境から

第六節:学びと技術は力──商業学院の設立

しおりを挟む
 自由都市構想が動き出して数日。
 新設地の測量報告が戻ってきた朝、加賀谷は執務室にミロを呼び寄せた。
 数値と制度を最も理解する「記憶魔導士」の彼女が主役だ。

 「ミロ、ここに座って。今日は“学校”の話をする」

 「が、学校……ですか?」
 大きなゴーグルを額にずらしながら、ミロは戸惑った表情を浮かべた。

 加賀谷は都市計画図の端に、新たな区画を赤で囲む。

 「読み書き算術、商法、魔法応用。――労働市場を開放するなら、学ばせる場所が要る。君の記憶魔導で『一学年ぶんの教本』を圧縮して投影し、半年で読み書きと計算を叩き込むカリキュラムを組めないか?」

 ミロの瞳が明るくなる。
 「そ、それなら……可能です! 記憶映写で一日二時間、あと演習を半日……」

 リィナが書類を抱えて入室し、加賀谷の言葉を継いだ。

 「都市に来る人たち、みんなが基礎を身につければ、商人も職人も雇いやすいわ。読み書きができないと、手形も契約も扱えないもの」

 「うん。だからこの学院が“自由都市の入場券”だ」
 加賀谷は指で赤線をなぞる。
 「授業料は初年度無料。卒業後、一定期間働いて初めて返済に入る“収益連動型”にする。銀行との連携で、不払いリスクも抑えられる」

 ミロは頷きながら魔導端末を起動し、映写板に式を走らせる。

 ――生徒一人につき初期コスト四十魔鉱貨、卒業後三年で回収率一二〇%。人口流入五百人時点で黒字化。

 「れいしゃちょー……数値上は、半年で採算が取れる設計になります!」

 「よし。教材編纂は君に一任だ。魔導投影の安全性チェックも忘れずに」

 ミロは胸に手を当て、深くお辞儀をした。
 「ま、任せてください……! “数字で国を救う”に、わたしも……!」

 加賀谷は微笑み、都市設計図を巻き上げる。
 教育の歯車が回り始めれば、次は産業と物流――そして、帝国がこの流れを無視できなくなる段階へ進む。

 城の高窓の外、遠く測量隊の旗が翻るのが見えた。
 学びは武器になる。小国は、知で帝国を揺らすつもりだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 その日の夕刻。
 学院設立の報せは、既に公都の街角でも話題になっていた。

 「義務教育……じゃないんだな」
 加賀谷は城の一角に設けた臨時の会議室で、椅子の背に寄りかかりながら呟いた。

 「ええ。“義務”じゃなく“選択”にした方が、人は集まります」
 リィナがすかさず答える。今日の彼女はどこか上機嫌だった。

 「おかげで、貴族の子女からの申し込みがもう二十件以上届いているわ。“帝国よりも早く、実利に通じた学びが得られる”って話題になってる」

 「情報の広がりも悪くないな。レオンが裏でちょっと流してるのかもな」
 加賀谷は苦笑する。

 その隣では、ミロが映写板を前にデータを整理していた。彼女は今日一日で三本のカリキュラム試案を提出し、加賀谷の指示に沿って次々と改良を加えていた。

 「れいしゃちょー、初期版の教科は五つでどうでしょうか。“読み書き”、”数の基本”、”記憶術”、”契約と規則”、そして……“仕事の選び方”」

 「最後だけずいぶんふわっとした教科だな」

 「で、ですが、こう……自分が何に向いてるか、分からない人も多いと思うんです。その参考に……その……キャリアガイド的な……」

 「いいじゃない」
 リィナが笑ってうなずいた。
 「“自由”って言っても、道が分からないと立ち止まるだけだもの。少しでも背中を押す授業、必要よ」

 ミロは嬉しそうに笑みをこぼし、また端末に数式を走らせ始めた。

 加賀谷は窓の外を見やった。夕日を浴びた公都は、少しずつ活気を取り戻してきていた。

 (教育。情報。流通。そして、都市の魅力か)

 武力で国は動かせない。だが、「住みたい」と思わせる仕組みをつくれれば、人と金は勝手に流れ込む。ここまでは計画通りだ。

 あとは、この“流れ”を止めないことだ。

 そのためには──帝国に、こちらの存在を見せつける時期が近い。

 「……リィナ。次は産業都市の方にも動こう。自由都市の根幹になるインフラを整える」

 「了解よ。物流、鉱山、水源……候補地は三つ。明日、現地確認に出る?」

 「任せる。俺は……もう一段、仕掛けを考える」

 そう言って、加賀谷は立ち上がった。
 教育が整った。次は「産業の舞台」そのものを形にする段階だ。

 教室に光が灯り始めた。夜もまた、この国の成長時間だった。







◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
更新の励みになりますので、
いいね&お気に入り登録していただけると本当にうれしいです!

今後も読みやすく、テンポよく、そして楽しい。
そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

処理中です...