赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第六章:共栄連合構想──繁栄は交差する

第五節 若人の世のために

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 ――緊張、というよりも、期待に近い。
 そんな張り詰めた空気が、学院応接室を満たしていた。

 ジル・クラーヴェはソファに軽く腰掛けながらも、内心では胸が高鳴っていた。
(この場に呼ばれたってことは──俺の答え、刺さったんだろ?)
 彼の回答は、正直“問題児”すれすれの斜に構えた論理だった。けれど、それでも加賀谷は自分を選んだ。その事実が、妙にうれしい。

 ミュリル・フェーンは逆に、背筋をきっちり伸ばしたまま一言も発さず、目線だけで相手の表情を追っていた。
(想像してたよりも、“実地”だ……)
 試験で見せたのは、分析と数字に偏ったプラン。それが実地に通用するか、不安は少しだけあった。
 けれど、加賀谷が語る“国家ファンド”の姿は、まさに現場と机上をつなぐ本物だった。

 そして、レーネ・アステリアはと言えば、ふと膝の上で手を組んだ。
(こんなに早く“ここだ”と思える場所に出会うなんて)
 彼女が目指していたのは、誰かの背中をただ追う場所ではなく、自分の選択で道を切り拓ける場所。その入り口が、今、目の前にある。

 加賀谷は、三人の顔をゆっくりと見渡してから、静かに口を開いた。

「まず、今日ここへ来た時点で、君たちは“前に出た”存在だ。その覚悟は、十分に伝わってる」

 緊張がほんの少し和らぐ。

「けど、実際にこの国家ファンドに加わるとなれば、ただの名誉職じゃない。本気でやるなら、こちらも全力で迎える。――ただし、問うよ。“本気”の覚悟を」

 ジルは、口角を少しだけ上げた。
 こんな真正面な大人、初めてかもしれない。けど……だからこそ、面白い。

「たとえば、投資の成否ひとつで誰かの生活が変わる。利益が出なければ、未来がつながらない。“見捨てた”って言われることもある。だから、学びながらじゃなく、“責任を背負いながら”学んでもらう」

 その言葉に、ミュリルの胸がひりついた。
(……こっちが“見られる側”でもあるってことだ)

「でも、君たちがその覚悟を持って挑むなら、俺も全力で支える。育成も、実地も、資金も惜しまない。ここには、未来を作るための舞台がある」

 レーネの中で、何かが明確に輪郭を持った。
(挑んでいいんだ。ここは、“間違えないための場所”じゃない。間違えても、また進める場所)

 沈黙。
 けれど、すぐにレーネが口を開いた。

「やらせてください。私、自分の目で、未来を選びたいんです」

 ミュリルも続く。
「責任を伴う現場を、知りたい。……お願いします」

 ジルは笑いながら両手を広げた。
「今さら逃げたらダサいでしょ。乗ります、カガヤ閣下」

 加賀谷は、三人を見渡し、小さくうなずいた。

「ようこそ。“未来を作る側”へ」

 そして、窓の外ではいつの間にか風が吹き始めていた。
 それは、若人の覚悟を表したかのような爽やかな風だった。



✼✼✼✼


――時を同じくして公都の南部

 屋根の葺き替えが終わったばかりの建物の前に、リィナ・ミティアは立っていた。
 視察だというのに、いつの間にか作業着の裾が泥にまみれている。

「いいの。これくらい」
 傍らの補佐役が気にして声をかけてきたが、リィナはさらりと応じた。

 ここは公都の南部にある小さな孤児院。
 数ヶ月前まで屋根は雨漏りし、壁はひび割れていた。それが今、国家ファンドの出資によって──少しずつ“希望の形”を取り戻している。

 中から子どもたちの笑い声が聞こえてきた。
 リィナはそっと目を細める。

(“出資”って、こういうことなんだ)

 財務会議で机上に並べられた数字とは違う、湿った土の匂いや、頬に当たる風の感触。
 それらは、確かにこの街の“今”であり、“未来”の種だった。

「公女様、この後の行程ですが──」

「もう少し、見ていくわ」

 リィナは、あえて事務方の声を制した。
 この孤児院を、ただの“投資案件”で終わらせたくはなかった。

 建物の裏手に回ると、若い女性が子どもたちに読み聞かせをしている姿が見えた。
 その女性は、ふとリィナに気づいて慌てて立ち上がったが、リィナは手を振って制した。

「そのままで」

 子どもたちが夢中で絵本を覗き込む光景に、リィナの胸が温かくなる。
 ふと、頭に浮かんだのは加賀谷の言葉だった。

 ──“人の数だけ、未来の形がある。それを信じられないと、国なんて運営できない”。

(あなたが見てる“未来”に、私はどこまで並べるだろう)

 内政を任される身として。
 そして、国の“顔”として。

 リィナはそっと、屋根の陰から空を見上げた。
 そこに浮かぶ雲が、ほんのすこしだけ春めいているように見えた。

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