赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第六章:共栄連合構想──繁栄は交差する

第四節:インターン生の募集

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 ざわざわとした声が、講堂内に広がっていた。

「本当に……あの“大公”が来るのか?」
「いやいや、役職の人ってだけだろ? 大げさすぎる……」
「ていうか、授業で何話すんだよ、国家ファンドって……」

 産業交流科の学生たちが詰めかけた学院大講堂は、普段の講義とは比べものにならない熱気に包まれていた。
 教務官すら緊張の面持ちで整列しているのだから、学生が落ち着くはずがない。

 そして──

 講堂の扉がゆっくりと開いた。

 現れたのは、一人の青年。
 飾り気のない黒の上衣、銀の留め具。袖口には公国章。
 その姿を見た瞬間、場の空気が止まる。

「……加賀谷、零。公国財務顧問兼、共栄連合基金の議長──および、公国大公である」

 教務官の紹介に、会場が静まり返った。

(えっ、大公?)
(嘘……本物じゃん……)
(なんであんな人が、学院に……?)

 ざわめきは、言葉にすらならなかった。
 まるで別世界の存在が、突然この講義室に降りてきたような──そんな空気。

 だが、当の加賀谷は気負いもなく前に進み、教壇に立つ。

「……おはよう」

 その一言に、いくつもの背筋が伸びた。

「まず、今日ここに来た目的を話そう。いきなりだけど、俺は**“人を選びに来た”**」

 静けさが、さらに深まる。

「共栄連合基金では、今後、本格的に民間案件への投資を行う。その中で、ソーシング、精査、支援、回収──全部の現場に人が足りない。
 だから、インターンを募集する。第一期の現場実習として、今日この場から候補を選ぶ。それが、この講義の目的だ」

 言葉に、一瞬の間を置いたあと、空気が変わった。
 単なる“政治の話”だと思っていた学生たちが、次第に目の色を変えていく。

「もちろん、試験なんて形式ばったことはしない。俺が“使いたい”と思うかどうか。それだけだ。
 判断は全部見る。考え方も、反応も、間の取り方も。……数字を見るだけの役人はもういらない」

 スクリーンに、一つの課題が表示される。

 A案:三年間で地方の子ども向け技術教育施設を整備。利益はほぼ出ないが、将来の技術者育成が見込まれる。
 B案:鉱山採掘プロジェクト。利益は高いが、労働環境や安全性にリスクあり。

「君が“国家ファンド”の責任者だったとして──どちらの案件に出資すべきか。
 理由とあわせて、自由に答えてくれ。時間は五分。正解はない。けど、答えがないわけでもない」

 筆記音が走り出す。
 最初に手を動かしたのは、前列の少女──レーネ・アステリア。
 その数秒後、後方のジル・クラーヴェが頬杖をつきながらも、ちらりと設問を見て小さく笑った。
 中段では、ミュリル・フェーンが視線を鋭くして、何かを計算している。

(よし……数人は、ちゃんと“考えてる”目だ)

 加賀谷は、腕を組んだまま彼らの反応を見つめていた。

 五分後。砂時計の砂が尽きた瞬間──

「じゃあ、何人か。前に出て発表してくれ。名乗りも忘れずにな」

 一瞬の間を置いて、レーネがすっと立ち上がった。

「──レーネ・アステリアです。私は、A案……教育施設の方に出資すべきと考えます」

 彼女はきちんとした口調で言い切った。

「理由は、短期的な利益ではなく、国家全体の“基礎体力”を育てる必要があるからです。特に地方における技術者不足は深刻で、民間投資では後回しにされがちな領域です。だからこそ、国家が種を蒔くべきです」

 加賀谷が頷くと、後方のジルがゆっくり立ち上がった。

「……俺はジル・クラーヴェ。出資先はB案、鉱山の方にすべきだと思います」

 ジルは腕を組んだまま、やや砕けた調子で言った。

「確かにリスクはある。でも、今はこのファンド自体に“成功例”が必要だ。教育とか未来の話も大事だけど、食えるかどうかが目の前の現実だろ」

「なるほど。安全性は?」

「改善は必要。でも、それを“現場で変えていける人材”を送れば、危険なだけの仕事にはならない。……俺が行ってもいいよ」

 一瞬、教室の空気が笑いをこらえるように揺れたが、ジルの表情は真剣だった。

 最後に立ち上がったのはミュリル・フェーン。
 小柄な体格ながら、まっすぐと加賀谷を見つめていた。

「私は両案を統合した“複合投資案”を提案します」

「統合、とは?」

「はい。鉱山プロジェクトの収益の一部を、教育施設設立の財源に充てる構造にします。具体的には、鉱山側に実習制度を組み込む形で、現地に技術教育の場をつくる。利益と将来投資の両立です」

 彼女は躊躇なくそう述べた。

「民間でこうした施策をやるのは困難です。でも国家ファンドなら、“意味のある仕組み”として形にできると考えます」

 加賀谷は無言で三人を見つめ、ふっと笑みを漏らした。

(現実だけでも、理想だけでもない──思考を“構造”にできるかどうか)

(この三人……悪くない)

 加賀谷は軽く拍手を打った。

「ありがとう。三人とも、よく考えてくれた」

 数名の生徒が拍手に続き、教室内にざわめきが広がる。

「今日の講義の目的は──出資判断の訓練だけじゃない」

 加賀谷は円卓の端に手を置き、全員を見渡した。

「この自由都市で、俺たちは“国家ファンド”という制度を立ち上げた。目的は、国を良くすることだが……本質は、人を“信じて賭ける”ことにある」

 生徒たちの目が、一斉に加賀谷に向く。

「つまり、この国を一緒に作ってくれる仲間を、俺は探している」

 驚きの声が微かに漏れた。前列の生徒が目を見開き、後方では誰かが座り直す。

「この教室の中から、何人かに“インターン”として、国家ファンドの実務に関わってもらうつもりだ。もちろん報酬は出す。だが、それ以上に──君たち自身の未来を“試す”機会でもある」

 数人の生徒が顔を見合わせた。
 中には、何かを決意するように背筋を伸ばす者もいる。

 その視線の中には、先ほど発表した三人──レーネ、ジル、ミュリルも含まれていた。

 彼らはまだ何も言わなかったが、その目は、すでに“選ばれる側”から“選ばれたい側”へと変わっていた。

(さて……あと一人は、どう動く)

 加賀谷は心の中で、もうひとつの“見えない答え”を探す。

 ユリス──教室の隅で、無表情にノートを閉じた青年の存在を、加賀谷は初めから見ていた。
 発表はしなかった。だが彼のノートには、他の誰よりも多くの文字が並んでいたのだ。




 * * *


 鐘の音が響き、講義が終わると、生徒たちは静かに立ち上がっていった。
 だがその中で、加賀谷はひとりの生徒──教室の最後列、窓際に座っていた黒髪の青年に目を向けた。

 ユリス・アーヴェル。

 彼は講義中、発言もせず手も挙げなかった。
 けれど、誰よりも真剣にノートを取り、設問に食い入るように読み込んでいた。

(……あいつの視線、ただの生徒じゃないな)

 加賀谷が近づこうとした瞬間、ユリスはすっと立ち上がり、無言のままノートを閉じて去っていく。
 すれ違いざまに見えたその表情は、何かを悟り、そして拒絶するような――冷ややかさすら帯びていた。

「……なるほど」

 加賀谷は小さく呟いた。

 見込みはある。だが、自分から声をかけるようなタイプではない。
 むしろ、自分が試されているのかもしれない。あの目は、そういう目だった。

(拾うだけなら簡単だ。けど“向こうから来させる”……それが重要だな)

 加賀谷は踵を返し、扉の向こうで待っていた学院長に軽く頭を下げた。

「いい生徒たちですね。──来週中に数名、こちらから正式に連絡を入れさせてもらいます」

「ええ、ぜひ。生徒たちも、貴殿の授業を誇りに思うでしょう」

 その言葉を背に、加賀谷はゆっくりと階段を下っていった。




◆あとがき◆
異世界ではサマーインターンが開催されました。
学生にとっては大チャンス。だれがつかむのか。

更新の励みになりますので、
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今後も読みやすく、テンポよく、そして楽しい。
そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
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