赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第六章:共栄連合構想──繁栄は交差する

第六節 しばしのブレイクタイム

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 三人が学院の応接室を後にし、校門を出ると、街には夕暮れの光がにじんでいた。
 ほど近くにある学生御用達のカフェ〈バウトレバ〉。古い煉瓦造りの外壁に、吊り下がったランタンが暖かい光を投げている。

「さすがに疲れたね……」
 店に入り、木製のテーブルに腰を下ろすなり、レーネ・アステリアがココアのカップを両手で包んだ。
 面談中には見せなかった、安堵の色がにじんでいる。

「でも、なんか、やっと地に足がついた気がする」
 ミュリル・フェーンが、レーネの言葉にゆるく頷いた。
「ずっと、学んでばかりで。でもあれが、始まりなんだなって。教室の外で、誰かのために動く――」

「外で……な」
 ジル・クラーヴェはスプーンでカフェオレをくるくるかき混ぜていたが、不意に笑みを浮かべた。
「まさか、“国家ファンド”のメンバーになる日が来るとは思ってなかったよ。まるで小説の中の話みたいだ」

「ジル、面談のとき、やけに落ち着いてたよね」
「うん。ずるいくらい落ち着いてた」
 二人のツッコミに、ジルは肩をすくめた。
「緊張はしてたよ。手の平、今もしっとりしてる。けど……怖いより、興味の方が強かったな」

「私たち、これから本当に変わっていくんだろうね」
 レーネがぽつりとつぶやく。
「支援の中身とか、資金の流れとか、学校じゃ教えてくれなかったことばっかり。ちゃんと向き合えるかな……」

「大丈夫。覚悟は決めた」
 ミュリルは真っ直ぐ前を見据えて言う。
「大公が言ってたよね。“選ばれる側で終わりたいか?”って。――私は、動く側になるって決めた」

「だね」
 ジルが立ち上がり、カップを掲げる。
「じゃ、結成祝いしとくか。国家ファンド第一期インターン三名、健闘を祈って」
「乾杯!」
「乾杯!」

 軽く打ち鳴らされたマグの音が、小さな祝福の鐘のように響いた。


✼✼✼


同刻 政庁応接室
 夜の政庁。
 窓の外では、ヴェステラの街灯が点々と並ぶ。その明かりを背に、加賀谷は報告書を閉じた。

「三名とも採用の方向で問題ありません」
「……やはり、そうなりましたか」
 ヴァルド・レヴァンティスは静かに頷く。
「彼らには、言葉にしにくい“温度”がある。冷たい計算でも、熱だけの情でもない、中庸の覚悟といえば良いでしょうか」

「なるほど、らしい言い方だな」
 加賀谷は茶を啜りながらふと問いかける。
「ところで、お前の領地は大丈夫か? こっちに詰めてばかりで顔出せてないだろう」

「実は、先日リデルという遠縁の少年を養子に迎えました。才覚があり、民からの信頼も得ています」
「養子か。初耳だな」
「実子はおりませんので……もしものため、家を託せる存在を、と考えまして」

「良い判断だ」
 加賀谷は、彼の茶にもう一杯を注ぎつつ言った。
「今日見た三人も、お前の目利きの賜物だ。ありがとう、宰相」
「とんでもございません。──この国にとっても、きっと力になります」

 二人の間に深く言葉は要らなかった。
 静けさの中で、新たな芽が静かに根を張り始めていることを、互いに確かめ合っていた。

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