赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第六章:共栄連合構想──繁栄は交差する

第二十節:ヴェステラへの帰路(前編)

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 夜風が、潮の香りを運んでくる。

 港路を戻りながら、加賀谷はさっきの会談を頭の中で反芻していた。

 ――“婚姻”という単語を皮切りに始まった、あの帝国皇女・セレスティアの提案。

 建前は婚姻。だが実態は、帝国内部の覇権争いへの「外圧」と「切り札」として、
 自分と、そして自由都市ヴェステラを組み込みたいという、極めて現実的な政治取引。

 (……王の器じゃない、か)

 そう言われて、腹は立たなかった。むしろ痛快だった。

 自分を見誤る者の多いこの世界で、的確に評価し、利用価値を見いだした上で声をかけてくる。
 彼女が恐ろしいのは、知略や肩書きではなく、その“直感と即断”の鋭さだ。

 (でも──あれは、毒にも薬にもなる)

 表面的には軽口を交えた駆け引きだが、内包する力はまぎれもなく「帝国の地殻変動」だ。

 ……共栄連合の発足から、まだ数か月。
 ヴェステラを起点とした新しい経済圏は、ようやく形を成しはじめたばかり。

 帝国を取り巻く周辺諸国は、未だに力で領土を奪い合い、古い覇権をなぞるばかりだ。
 そのなかで、「交易で富を、信用で秩序を築く」という理念が、果たしてどこまで通じるのか。

 (……でも、始まっている)

 投資議会は、すでに半数以上の議席を埋めていた。
 レーナ連邦、砂漠のキャラバン国家、沿岸の港湾都市、古いギルド連合――

 (確か、五十の都市と国家が参入を表明していたな)

 昨日の別れ際、かねてより依頼していた件についてレオンから"報告"があった。

 「それはそうと、合意を得た都市が五十を超えた。お前の描いた“共栄連合”構想、ちゃんと現実になってきてるぞ。あんたのとこの宰相殿にも報告済みだ。例の議場、そろそろ本格的に回す準備に入る。」

 「あと、“金の話”をしに来たギルドもぼちぼち増えてる。なかには、帝国と微妙な距離感の奴らもいてな……そういう意味でも、次の一手は慎重にな。」

 ……いまやレオンは本業の傍ら“投資の伝道者”として各地を飛び回っている。

「五十か……上出来すぎるな」

 あの男に任せて正解だった。何より、“まだ半分”とも受け取れる口ぶりが、加賀谷にとっては何より頼もしかった。

 帝国の皇女に政略結婚を持ちかけられたばかりの頭には、さすがにまだモヤが残っていた。だがこの思索で、再び地に足がついた感覚を取り戻す。

「……戻るか、ヴェステラ」

 そう呟いきながら宿に戻ると寝台のジルが寝返りを打ったが、まだ意識は遠いようだった。

 加賀谷は静かに立ち上がり、窓を開ける。
 港の夜風が、遠く自由都市から吹いてくるように感じた。

 (ま、あいつのいる場は退屈しないってだけでも……助かってる)

 加賀谷はベッドのそばを静かに通り抜け、部屋の隅の机に向かう。

 月は高く、街は寝静まっている。
 けれど、加賀谷の頭のなかでは、さっき交わされた言葉がまだ冷めていなかった。

 帝国皇女・セレスティアの“提案”。
 そして、彼女の背後にある、裂け始めた巨大国家の継承戦。



_______________________
_______________________
★あとがき
帝国を見返すことから始まった物語。
けれどその帝国も、実のところ一枚岩ではない。

覇権を争う兄たち、軍略で王をも翻弄する異邦の勇者。
そして表舞台を避ける末弟に、静かに爪を研ぐ“姫”。

それぞれが、それぞれの“帝国”を見ている。
もはやこの大国は、誰かひとりの手に収まる器ではないのかもしれない。

──ならば、どう生き残るか。どう仕掛けるか。
生き残るのは“正義”ではなく、“冷静な現実主義”なのだから。

次節、加賀谷は再び選択を迫られる。
その手紙が、すべての引き金になる。

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