聖女のひ孫~婚約破棄されたのなら自由に生きます

青の雀

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 隣国に着いたアリエールは、ルクセンブルク公爵の紹介状と共に母の実家に身を寄せる。

 母方の祖父母は健在で、まだ齢60歳前後と言うことで若い。

 隣国でも王太子とその婚約者であったアリエールが不仲であるということは、周知の事実であったから、婚約破棄されて、隣国に渡ってきたことをすぐ理解されたのだ。

 その日の夜は、伯父のアムステルダム公爵とその息子(従兄妹)のレオナルドも駆けつけてくれて、ささやかなパーティが催された。

 みんなアリエールが婚約破棄されたことを知っているにもかかわらず、労うような言葉ばかりかけてくれる優しい人たちに、生き返って初めて緊張がほぐれる。

 なんだかんだ言っても、一度死んだから緊張していたのだ。

 女神様に会ったことやひいお婆様の聖女様に会ったと言っても誰が信じてくれようか。父と兄は王位継承権の話を持ち出したら、すんなり信じてくれたようだが。

 本来なら、エドワード兄様がともに隣国へ来て、アムステルダム公爵に挨拶してくれるところなのだが、なんせ次期国王陛下に最も近い存在だということがわかり、同行することを控えられた。

 あの卒業パーティで持っていた毒の小瓶をジークフリートに押収されたから、案外あれで自殺されるかもしれない。でも、あの毒では死ねないのだけど。

 それに家を出るとき、冗談交じりで

 「俺が結婚するとき、誓約魔法はいいからな。」と念を押される。

 よっぽど、ひいお婆様の誓約魔法が怖いみたい。くすくすと笑いながら、頷く。

 パーティでは、お婆様が腕によりをかけて料理長と一緒にお料理を作ってくださった。

 「確かアリエールちゃんは、トマトが好きだったわよね。」

 「それにしても、ずいぶん綺麗になったものだな。こんな美人なら嘔吐を連れて歩きたいものだよ。」

 「従兄妹でなかったら、真っ先にプロポーズしているよ。」

 和やかな歓談が終わり、そろそろお開きになるという頃合いを見計らって、アリエールがアムステルダム公爵にお願いをしてみた。

 「魔導士ねぇ……。どうして魔法の勉強がしたいんだ?嘔吐には魔法学院もあるにはあるのだけど……。」

 「わたくしの父方の曾祖母が聖女フリーチェ様ということはご存じですよね?」

 「ああ、聞いたことがある。もうなくなられて10年経つか、早いものだな。」

 「わたくし実は聖女アリエールなのです。ひいお婆様が聖女であることと魔力があることを隠せと遺言されて、今まで黙っていたのですが、先ごろ王家から婚約破棄されてしまい、もういいや。と思って公表することにしたのですが、よく考えたら魔力制御の方法など何一つ習ったことがなくて……。」

 「ああ、それで……。承知した。そういう理由ならば、速やかに手配致そう。明日にも紹介状を渡すから、しばらくここで待ってほしい。」

 「ありがとう存じます。伯父様。」

 久しぶりの歓待に疲れ切って、その夜はそのままお風呂に入って、ベッドにもぐりこむアリエール。

 そのころ、アムステルダム公爵は早馬を走らせていた。

 一つは魔導士の手配で、もう一つは……。

 「夜分に恐れ入ります。火急の要件がありまかり越しました。」

 「入れ。」

 「何⁉それは、まことか?大儀である。」

 アムステルダム公爵は、今夜耳にした話をこの国のハーバムルト国王陛下に話したのである。

 ハーバムルトの王太子殿下は、先ごろ婚約者をはやり病で亡くしたばかりで、独身。アリエールは、婚約破棄されたばかりだが、聖女フルーチェのひ孫で、自身も聖女。それにお妃教育は完ぺきに終わり、学園では首席で卒業した実績がある。

 聖女の兄は、王位継承権者第3位ながらも、次期国王陛下に一番近い存在であれば、早めに縁談として成立させる必要がある。

 お互いにとり、これほどの良縁はない。との思いから先走ってしまったのだ。二人がうまく恋愛してくれれば、こんなに喜ばしいことはない。
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