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第1章 私と極悪上司
2.男性は苦手
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この春に大学を卒業し私が入社したのは、システム開発の会社だった。
営業部に配属された私の仕事は、営業事務。
小規模企業なのもあって、同じ仕事の人間は京塚主任ひとり。
こういう言い方をすると性差別みたいであまり好きではないけどそれでも、男性で事務って珍しい気がする。
しかも、事務って顔じゃないだけに。
「わかったか?」
「あ、はい!」
返事はしたものの、理解できているかなんて自信はない。
そもそも、顔も雰囲気も怖い京塚主任じゃなくても私は……男性が苦手なのだ。
「じゃあここまで、やってみて」
「はい」
返事だけはちゃんとして、パソコンに向かう。
えっと、この画面の空欄埋めて実行……。
――ピンコン!
【入力値が有効ではありません】
「え……」
実行ボタンを押した途端に鳴った警告音と、上がってきたポップアップに固まった。
「えっと……」
これは、どこか入力を間違った?
手元のデータと照らし合わせみたものの、間違いはない。
「なんで?」
念のためにもう一度、実行ボタンを押す。
――ピンコン!
【入力値が有効ではありません】
再び鳴る警告音と、画面にはポップアップ。
「……はい?」
でも、入力は間違っていないわけで。
システムがおかしい……なんてことはないか。
斜め前に座る京塚主任をちらり。
「あ?
どうかしたのか?」
視線に気づいたのか彼が顔を上げる。
眉間に縦皺を刻み、彼の発した言葉は私には、「殺すぞ、こらぁ」に聞こえた。
「な、なんでもない、です」
「なら、さっさとやれ」
再び彼がパソコンに向かう。
「……はぁーっ」
聞こえないように小さくため息をつき、私もまたパソコンの画面を見た。
けれどそこには【入力値が有効ではありません】の文字が自己主張をしている。
「せめてどこが間違っているのか教えてほしい……」
申し込みとかするときは、赤字の場所を確認……とか出るのに。
相手が消費者じゃないとそこまで優しくないか。
「うー……」
ここか、あそこか、とか見当をつけて微妙に変えてみる。
――がしかし。
――ピンコン。
【入力値が有効ではありません】
――ピンコン。
【入力値が有効ではありません】
――ピンコン。
【入力値が……】
「だーかーらー」
なにが悪いの、本当に!
「さっきからなにを騒いでるんだ?」
頭上から声が振ってきて、びくんと肩が大きく跳ねた。
「あー、これか」
私の右横から入ってきた手が、マウスを握る。
さささーっと動いてカチカチと何度かクリックし、今度はテンキーに手が伸びる。
その大きな手が目にも留まらぬ速さでダダダーッ、とキーを打つ。
最後にまたマウスを握り、実行キーを押した。
「これでいい。
さっさと次をやれ」
「……はい」
操作を終えた男――京塚主任は、自分の机へ戻っていった。
いまのはなにが悪かったんでしょうか、なんて訊く隙はない。
それに仮にあったとしても訊けなかった。
だって私は、――熱い顔で俯いているしかできなかったんだから。
「つ、続き……」
速い心臓の鼓動を落ち着けようと、何度か深呼吸を繰り返す。
――けれど。
――ピンコン!
【不正な値が入力されています】
「えっ、あっ」
慌てて見直すと、今度は入力間違いが見つかった。
直して実行ボタンを押したものの。
――ピンコン!
【不正な値が入力されています】
「えっ、あれ?」
もう一度見直したら、さらに間違いが見つかった。
落ち着け、私。
ちょっと男性から密着されたくらいで。
密着……。
またさっきのことを思いだし、みるみる顔が熱を持っていく。
「……はぁーっ」
自分のついたため息の音に、さらに他の誰かのため息が重なった。
「もうそれはいい。
これをファイルごとにホッチキスで留めてくれ」
「……はい」
京塚主任からファイルの山と大型ホチキスを渡された。
ううっ、情けない。
こんな簡単な入力もまともにできないなんて。
おとなしくガツン、ガツン、と書類をホチキス留めしていく。
私は――男性が苦手なのだ。
中学から大学まで女子校育ち。
話すことはまあできるが、あのように過剰に反応してしまう。
さらに京塚主任のような極悪顔の人……うん、もうはっきり言っちゃう。
とにかく、ああいう怖い顔の人は無理、って感じなのだ。
なのに上司で教育係だとか、どういうことですか!? という心境なのだ。
営業部に配属された私の仕事は、営業事務。
小規模企業なのもあって、同じ仕事の人間は京塚主任ひとり。
こういう言い方をすると性差別みたいであまり好きではないけどそれでも、男性で事務って珍しい気がする。
しかも、事務って顔じゃないだけに。
「わかったか?」
「あ、はい!」
返事はしたものの、理解できているかなんて自信はない。
そもそも、顔も雰囲気も怖い京塚主任じゃなくても私は……男性が苦手なのだ。
「じゃあここまで、やってみて」
「はい」
返事だけはちゃんとして、パソコンに向かう。
えっと、この画面の空欄埋めて実行……。
――ピンコン!
【入力値が有効ではありません】
「え……」
実行ボタンを押した途端に鳴った警告音と、上がってきたポップアップに固まった。
「えっと……」
これは、どこか入力を間違った?
手元のデータと照らし合わせみたものの、間違いはない。
「なんで?」
念のためにもう一度、実行ボタンを押す。
――ピンコン!
【入力値が有効ではありません】
再び鳴る警告音と、画面にはポップアップ。
「……はい?」
でも、入力は間違っていないわけで。
システムがおかしい……なんてことはないか。
斜め前に座る京塚主任をちらり。
「あ?
どうかしたのか?」
視線に気づいたのか彼が顔を上げる。
眉間に縦皺を刻み、彼の発した言葉は私には、「殺すぞ、こらぁ」に聞こえた。
「な、なんでもない、です」
「なら、さっさとやれ」
再び彼がパソコンに向かう。
「……はぁーっ」
聞こえないように小さくため息をつき、私もまたパソコンの画面を見た。
けれどそこには【入力値が有効ではありません】の文字が自己主張をしている。
「せめてどこが間違っているのか教えてほしい……」
申し込みとかするときは、赤字の場所を確認……とか出るのに。
相手が消費者じゃないとそこまで優しくないか。
「うー……」
ここか、あそこか、とか見当をつけて微妙に変えてみる。
――がしかし。
――ピンコン。
【入力値が有効ではありません】
――ピンコン。
【入力値が有効ではありません】
――ピンコン。
【入力値が……】
「だーかーらー」
なにが悪いの、本当に!
「さっきからなにを騒いでるんだ?」
頭上から声が振ってきて、びくんと肩が大きく跳ねた。
「あー、これか」
私の右横から入ってきた手が、マウスを握る。
さささーっと動いてカチカチと何度かクリックし、今度はテンキーに手が伸びる。
その大きな手が目にも留まらぬ速さでダダダーッ、とキーを打つ。
最後にまたマウスを握り、実行キーを押した。
「これでいい。
さっさと次をやれ」
「……はい」
操作を終えた男――京塚主任は、自分の机へ戻っていった。
いまのはなにが悪かったんでしょうか、なんて訊く隙はない。
それに仮にあったとしても訊けなかった。
だって私は、――熱い顔で俯いているしかできなかったんだから。
「つ、続き……」
速い心臓の鼓動を落ち着けようと、何度か深呼吸を繰り返す。
――けれど。
――ピンコン!
【不正な値が入力されています】
「えっ、あっ」
慌てて見直すと、今度は入力間違いが見つかった。
直して実行ボタンを押したものの。
――ピンコン!
【不正な値が入力されています】
「えっ、あれ?」
もう一度見直したら、さらに間違いが見つかった。
落ち着け、私。
ちょっと男性から密着されたくらいで。
密着……。
またさっきのことを思いだし、みるみる顔が熱を持っていく。
「……はぁーっ」
自分のついたため息の音に、さらに他の誰かのため息が重なった。
「もうそれはいい。
これをファイルごとにホッチキスで留めてくれ」
「……はい」
京塚主任からファイルの山と大型ホチキスを渡された。
ううっ、情けない。
こんな簡単な入力もまともにできないなんて。
おとなしくガツン、ガツン、と書類をホチキス留めしていく。
私は――男性が苦手なのだ。
中学から大学まで女子校育ち。
話すことはまあできるが、あのように過剰に反応してしまう。
さらに京塚主任のような極悪顔の人……うん、もうはっきり言っちゃう。
とにかく、ああいう怖い顔の人は無理、って感じなのだ。
なのに上司で教育係だとか、どういうことですか!? という心境なのだ。
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