子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第2章 極悪上司の事情

1.彼氏問題

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京塚主任と打ち解けた……のかどうかはわからないが、互いに歩み寄る努力をしようと決めたそのすぐあとは、GWだった。

「ひさしぶり」

「元気だった?」

大学を卒業してからずっと会っていなかった友人の美空は、変わりないように見える。
彼女とは大学以来の友人だ。

「そっちの仕事、どう?」

「もう、きっついよー。
いっつもピリピリしてるし」

うんざり顔の美空に、笑うしかできない。
彼女は地銀に就職していた。
給料の振り込みはうちでよろしく! なんて頼まれたのがもうすでに、懐かしいくらい。

「やっぱり、並んでるね」

少し歩いて、パンケーキ専門店に着いた。
けれど店の外まで列ができている。

「どうする?
やめる?」

「うーん。
そのためにせっかく来たんだし。
それに予想していたよりは短い気がする」

「じゃ、待ちますか!」

少しの間にふたりでジャッジを下し、列に並んだ。

「桐子こそ、仕事はどうなのよ?
システム開発の会社だっけ?」

「まあね。
システム開発っていったって、私は営業事務で関係ないし。
普通の事務員だよ」

もう夏なのか、っていうくらいじりじりと日差しが肌を焼いてくるが、日陰がないから仕方ない。

「ふぅん。
ねぇ、会社にいい男、いる?
せっかく入った銀行だからエリートイケメン捕まえるつもりだったけど、ハズレっぽくってさー」

はぁっ、と美空がため息をつき、苦笑いした。
同じ女子校育ちでも、美空はそれを武器にガンガン合コンなんか攻めていく方で、私は反対にその影に隠れておとなしくしている方だ。

「営業には美空の求めるような男はいないよ。
若くて優しくて、彼氏にしたら頼りがいのありそうな人はいるけど」

……うん。
西山さんはイケメンではないけれど、いい人基準はクリアしていると思う。

「それこそ、桐子にお似合いじゃない?」

「あー、うん。
そうだね」

とりあえず、笑っておいた。
それしか、できなかったから。

「桐子」

ぽん、と私の肩に両手を置き、妙に真面目な顔で美空が私を見る。

「このままじゃ、彼氏できないぞ?」

「うっ」

「死ぬまで処女でいいのか?」

「ううっ」

ぽん、ぽん、と肩を叩き、手を離した美空は重々しく頷いた。

「優しそうでいい彼氏になりそうな男がいるんでしょ?
なら、付き合ってみろ」

「いやいや、好きでもないのに無理だって」

「付き合ってみたら案外、ありかも知れないでしょ」

「うっ」

そういう考え方もありだとは思う。
それで失敗しても、楽しそうにしている美空を見ていたら。

「それとも、好きな人でもいるのか?」

「好きな人……」

なぜか、京塚主任の顔が思い浮かんだ。
いや、ない。
あの人だけは、ない。
だって相手は、妻子持ちだよ?
しかもあの、極悪顔。

「いるの!?」

私の反応でそう確定したのか、目をキラキラさせて美空が私を見ていた。

「いない、いない」

「そっかー、残念」

がっくりと美空は項垂れてしまったが、なんで残念なんだ?
もしかして、私に好きな人がいたら、それをネタにからかおうと思っていたのか!

「GWも明けたら余裕出てくると思うからさ、合コン設定するよ。
桐子も参加しな?」

「うーん、考えておくよ」

馬鹿話を続けているうちに列の先頭になっていた。

「二名様のホシヤ様」

すぐに席へ案内され、あれもこれも食べたいと散々悩んで注文する。

「お待たせいたしました」

「美味しそう」

「並んだ甲斐、あったね」

運ばれてきたパンケーキに携帯をかまえ、写真を撮る。

「インスタ映えするよね」

早速、アップしている美空に苦笑い。
私もインスタにアップしたりはするが、美空ほどマメじゃない。

「じゃあ、いよいよ」

「いただきます」

ふっわふわのパンケーキは、口の中に入れるだけで溶けていく。
添えられている山盛りのクリームも美味しいし、本当、並んでよかった。
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