19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第3章 同棲は突然に

6. 初めての、夜?

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片付けを適当に切り上げ、今日は外食で済ます。
明日からは私が作った方がいいのかな。
帰って入浴を済ませると、落ち着かなくなっていく。

「今日は疲れたし、そろそろ寝るか」

「そ、そうですね。
じゃ、じゃあ、おやすみなさい」

リビングの扉を開けかけて、片桐課長が振り返る。

「どうして一緒に来ないんだ?」

「あの、私はソファーで寝ますので」

はぁーっ、ため息をついて額を押さえ、二、三度あたまを振り、片桐課長は凄い勢いでソファーの私のもとまで戻ってきた。

「なに莫迦なこと言ってるんだ、一緒に寝るに決まってんだろ」

手を引いて強引に立たせ、そのまま寝室へと引っ張って連れていく。

「でも、その、あの」

「旅行行ったとき、一緒に寝ただろ?
なのになんか問題があるのか」

ある。
大いにある。


前回は未遂で終わってある意味よかったけれど、今回はそういうわけにはいかない。

……たぶん。

「だって、今日は……」

――シたりしませんか?

出かかった言葉を飲み込む。
言うとさらに、墓穴を掘りそうだから。

「俺の手を煩わせるとは、やっぱり笹岡はお仕置きしてほしいらしい」

「えっ、……!」

ベッドに突き飛ばされ、ぽすっとあたまが枕についた瞬間、片桐課長の唇に口を塞がれた。
驚いて開いたままになっていた唇からすぐに、ぬるりと熱いそれが侵入してくる。
押しのけようとした手は片桐課長の手でベッドへ縫い止められた。
拒否したいのに、彼の熱が私をとろとろに溶かしていく。
唇が離れたときにはなにも考えられず、ぼんやりとその顔を見上げていた。

「今日はやめないからな」

眼鏡をくいっと押し上げ、右の口端を上げてニヤリと笑う。
そして――。

「やっ、片桐課長!
もう無理、だからっ」

「こら、片桐課長じゃないだろ。樹馬たつま

何度も責め立てられ、おかしくなりそうなあたまを振って懇願したって、名前で呼ぶまで許してもらえない。

「樹馬!
樹馬さん、もう無理だから、お願いっ」

「ん、いい子の笹岡にはご褒美をあげないとな」

「あっ」

もらえたご褒美は、いままで知らなかった甘美なものだった。
私の身体は完全に片桐課長に支配され、溺れていった。


朝、目が覚めると片桐課長が隣で眠っている。

……とうとう一線を越えてしまった。

だいたい、旅行に行ったとき、そうなるはずだった。
だからいまさら、とは思う。
けれど言ってほしかったのだ、嘘でもいいから愛していると。
それにさんざん、人には自分の名前を呼ぶように強要した癖に、片桐課長は一度も私の名前を呼んでくれなかった。

……私は、片桐課長が。

「……好き」

呟いた途端に、涙がつーっと目尻から落ちていく。

「あれ、なんで……」

慌てて手のひらで涙を拭う。
自分でもどうして泣いているのかわからない。

「笹岡、起きた……なんで泣いてるんだ」

様子がおかしいと気づいたからか、わざわざ眼鏡をかけ、片桐課長は私を抱き寄せた。

「どうした、怖い夢でもみたか」

「……そう、ですね」

これが全部、夢だったらいいのに。
そしたらこんなに、悩まないで済んだ。

「夢なら全部、忘れてしまえ」

「……はい」

あやすように私の背中をとん、とんとゆっくり叩く片桐課長の手は優しい。

――好きなんです、片桐課長が。

言おうとしたけれど、思い出す。

『俺にはいま、好きなひとがいるからな』

片桐課長には好きな人がいる。
それはきっと、――私じゃない。
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