19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第4章 公表は突然に

1. 新婚生活……ではない

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こうして、片桐課長との生活がはじまった。

「じゃあ、いってくるな」

「あっ、はい、お弁当!」

玄関まで見送ると、ちゅっと唇に口付けを落とされた。

「会社で待ってる」

「いってらっしゃい」

ドアが閉まり、ばいばーいと手を振っていた片桐課長の姿が見えなくなる。
新婚のような毎朝の光景だが、私は片桐課長と結婚していなければ、ましてや付き合ってすらいない。

朝食の後片付けを済ませ、私も会社へと向かう。

出勤時間をずらしているのは、その方がお前のためにいいと言われたからだ。
一緒に出社すれば揉め事に発展するのはわかっている。

けれどその理由は間野くんのときと全く同じで、片桐課長もなにか私に隠しているんじゃないかとつらくなった。

それでなくてもつい最近、社長が娘婿に片桐課長を考えている、なんて話を聞いたばかりだ。

制服に着替えて営業部に行く。

すでに出社している片桐課長は高来課長と話をしていた。
真剣に話をしていたのに私が出社してきたのに気づくと、ぱっと嬉しそうに顔を輝かせる。
けれど私は無視するかのように真顔のまま、自分のパソコンを立ち上げた。

片桐課長なんていないかのように仕事をこなす。
いままでずっと、片桐課長は隣の課の課長で、部長代理といったって関わりあうことなく過ごしてきた。
意識しはじめたのは、メモを置かれたあの日から。


気がつけばお昼になっていた。
お茶を淹れに行く途中、エレベーターの前で片桐課長が女子社員に囲まれていた。

「片桐課長、お昼、一緒にどうですか」

「あー、俺、弁当なんだよね」

証明するかのように、片桐課長が弁当の包みを少し掲げてみせた。

「えー、ここのところ、ずっとお弁当ですよね。
それ、誰が作ってるんですか」

私には関係ないと、通り過ぎようとしていた足が止まる。

「んー、内緒。
お前たちには関係ないだろ」

「ええっー、秘書室の新海さんですかー?」

「それとも、経理の関根さん?」

「ああもう、うっさいなー。
誰だっていいだろ。
ほら、エレベーター来たぞ」

エレベーターが到着して片桐課長一行が乗り込んでいなくなり、辺りは静かになった。
私も給湯室へと向かう。

「……内緒、か」

お茶を淹れながらぽつりと呟いた言葉は、私の胸に重くのしかかってくる。

片桐課長にとって私は、人には言えない存在なんだ。
一緒に住んでいるなんてバレたら大変なことになるのはわかるが、それでも胸がずきずきと痛んだ。


誰もいない部署内の会議室でお弁当を食べながら、ため息が出る。

「なにやってるんだろ、私」

あんなに誓ったのに、前と同じことを繰り返している自覚はある。
これはもはや、私の悪癖なんだろうか。



家に帰り、家事をこなす。
家賃は払うと言ったんだけど、いらないって拒否された。
理由を聞いてもいつも通り、「俺の勝手」。
家賃を受け取ってもらえないだけでも肩身が狭いのに、さらに。

「はい、これ」

引っ越しの次の日、手の上にのせられたのは、ピンクのモノグラム柄の長財布だった。

「とりあえず五万、入れてある。
生活費は必要だろ?
いつも一緒に買い物行けるんだったらいいが、そういうわけにはいかないからな」

「はぁ……」

「足りなくなったらいつでも言え」


ひとり暮らしをしたことがない私には、これが多いのか少ないのか判断ができない。
しかもこの財布が不思議なのは、ある程度減ると知らないうちにまた補充されているところだ。

――なーんて、片桐課長が私の見ていないところで、補充しているのは知っている。

一度、問い詰めたけれど。

「妖精かなにかが、勝手に入れてるんじゃないか」

むすっと不機嫌に片桐課長に言われ、あたまが痛くなってくる。

「でも、片桐課長しかいないですよね」

「片桐課長じゃない、樹馬」

一気にパーソナルスペースを無視して距離を詰めた片桐課長の顔が、右目下の並んだ黒子がはっきり見えるほど間近にある。

「い、いまはそんな話してるんじゃなくてですね」

「うるさい」

あ、とか思ったときには片桐課長の唇が重なっていた。
拒否しようと胸を押したが、左手がぐっと腰を抱き寄せ、右手は後ろ髪の中に差し込み、逃げられなくしてしまう。
さらに彼は巧みに私を翻弄し、閉じたくないのに勝手に私の瞼は落ちる。

「……とにかく俺は知らない。
減るんじゃなくて増えてるんだからいいじゃないか」

「……」

あたまがじんじんと甘く痺れて、いまはなにも考えられない。
都合が悪くなると、こうやってごまかす片桐課長をどうにかしてほしい。


とにかく、居候させてもらっているうえに生活費までいただいているので、せめて家事は私がするべきだと思っている。
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