19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第4章 公表は突然に

2. お仕置きはつらくて甘い

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「ただいま」

「おかえりなさい」

帰ってきた片桐課長の顔か近づいてきて、つい顔を背けていた。

「なーんで嫌がる?」

片桐課長の手が私の顔を掴み、頬をギリギリと挟む。
別に嫌じゃないのだ、ほんとはキスしてほしい。
でもそこにない彼の気持ちが私に顔を背けさせる。

「だって」

「ん?」

少しだけ眉を寄せ、眼鏡の向こうから片桐課長がじっと私を見つめている。

――片桐課長は私を、好きじゃないですよね。

などと言えたらきっと、この状況を打破できるのだろうが、私にはそんな勇気はない。

「お腹空いてつまみ食いした唐揚げ、思いのほかニンニクがきいていた……ので」

嘘はついていない、今日の食卓にはその買ってきた唐揚げが用意されている。
はぁっと小さくため息をつき、片桐課長は私から手を離した。

「なら、仕方ない」

諦めてくれたんだとほっと息をついたのも束の間。

「……!」

気を緩めた瞬間、片桐課長の唇が重なっていた。

「……なに、するんですか」

握った拳に力が入り、ぷるぷると身体が小刻みに震える。

「だって帰ってきたら笹岡とキスしないと、一日の疲れが取れないし?」

悪びれもせずにそんなことをしれっと言い、片桐課長がくいっと上げた眼鏡のレンズがキラリと光る。
そんな光景に頭痛がしてくるのはいつものこと。

「あ、さっきの笹岡は悪い子だったから、今晩はお仕置きな。
明日は休みだし、たーっぷり可愛がってやるよ」

右頬だけでニヤリと笑い、ネクタイを緩めながら片桐課長はリビングを出ていった。

「……はぁーっ」

私の口から落ちるため息は、海よりも深い。
いつもいつもあの人は私をからかって、なにが楽しいのだろう。
私には少しも理解できない、彼の気持ちなんて。

片桐課長が部屋着に着替えて戻ってくる。
上下グレーのスウェット姿でも、格好いいのがなんか悔しい。
ちなみに私はピンクのもこもこロング丈セーターにレギンス。
つい先日、買い物に行ったときに片桐課長が「これを着ろ」って買ってくれた。

「いただきます」

向かいあって晩ごはんを食べる。
今日は買ってきた唐揚げにポテトサラダ、あとはお味噌汁とごはんに白菜と豚バラのミルフィール蒸し。

実家にいたときは休日に晩ごはん作ったりもしていたし、それに学生時代は共働きで忙しい母に代わってときどきごはんを作っていた。
だから、料理は苦手じゃない。

「残業だった日は簡単でいいんだぞ」

今日もトラブルを押しつけられ、しかもそれがちょっと面倒なもので、一時間ほど残業した。

「でも、唐揚げは買ってきたものなので。
それに、片桐……」

じろり、片桐課長が眼鏡の奥から睨んでくる。

「……樹馬さんだって、残業だったので」

こほんとごまかすように小さく咳をして、言い直す。
片桐課長は家で、絶対に私に〝樹馬〟と名前で呼ばせる。

「俺はいいの。
仕事頑張んないと……なんでもない」

ぷいっと片桐課長の視線が逸れる。
仕事を頑張らないとなんなんだろう?
出世できない、とかかな。

「頑張るのはいいですが、あまり無理はしないでくださいね」

一緒に暮らしはじめて気づいた。
片桐課長は超多忙、なのだ。

毎日、一、二時間程度の残業は当たり前。
ときどき、帰ってくるのが深夜のときもあるし、休日出勤することもある。

奥川部長はご両親の介護が忙しく、月に数度しか会社に来ない。
だから、片桐課長が部長代理をしているのだけれど。

営業の仕事と課長の仕事、さらに部長の仕事までとなると、確かに多忙だろう。

そうなると、どうして無理をしてまで、週一くらいのペースで私を食事に誘っていたのかますます謎になってくる。

「笹岡は優しいな」

眩しそうに目を細め、目尻を少しだけ下げて片桐課長が笑った。
その笑顔に胸がきゅーっと締め付けられて切なくなる。

「べ、別に心配してるわけじゃないですから」

自分の感情を知られたくなくて、俯いた。

「ふーん、そう」

無関心な声に顔を上げる。
さっきの表情が嘘みたいに、片桐課長は無表情だった。

……嘘。
本当は心配なんです、片桐課長が。

出かかった言葉は噛みついた唐揚げと一緒に飲み込んだ。


お風呂に入り、入念に歯磨きをする。
週末なのにニンニクのきいた唐揚げにしてしまったのが悔やまれる。

――いや、別にそんなことは全く期待していないが。

うん、期待していないとも。

ベッドに入った途端、押し倒された。
唇が重なって、やけどしそうなほどの熱をうつされる。

「今日はお仕置きだって言ったよな?」

あっという間に服は剥ぎ取られ、私の身体を片桐課長のきれいな手が撫でていく。

「どんなお仕置きがいいかなー?」

右の口端だけを上げて片桐課長が意地悪く笑う。

――その顔に。
背筋がゾクゾクした。



「水」

喉はからからに渇いていて水を飲みたいのに、だるくて指先すら動かせない。

「仕方ないな」

のろのろと視線だけで片桐課長を見上げる。
彼は持ってきたペットボトルの蓋を開け、中の水を口に含んだ。
そのまま唇が重なり、口の中に少しだけ生ぬるくなった水が流れ込んでくる。
反射的にそれをゴクンと飲み込むと、喘ぎすぎた喉に染みた。

「まだいるか?」

「……ぁ」

ひりついた喉から出るのはかすかすに掠れた音だけ。

愛おしそうに片桐課長が笑い、口に水を含んでまた、唇を重ねてくる。
何度かそれを繰り返し、私が満足するまで水を飲ませてくれた。

「無理させすぎたな」

ゆっくりと髪を撫でる手が気持ちよくて、疲れているものあってうとうとしてくる。

「でも笹岡がいけないんだぞ?」

素直に片桐課長を受け入れないのが悪いっていうのなら反論したい。
あなたがなにを考えているのか、私をどう思っているのかちゃんと教えてくれたら、私も素直になれるのに。

「俺がどれだけ――」

眠りの帳が下りてきて、その先が重要なのに聞き取れなかった。
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