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第3章 同棲は突然に
5. なんでベッドがキングサイズなんだろう
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その後も次々にやってくる業者に対応した。
配置はだいたい聞いていたし、好きにしていいとも言われていたからそれはいい。
――ただ。
「なに、これ……?」
寝室に置かれたベッドにあたまを抱える。
シングルを二台買ったものと思っていたが、届いたのはキングサイズのベッドだった。
いや、確認しなかった私も悪いが、なし崩しに一緒に寝ようとする片桐課長はたちが悪い。
イライラとしながらNYAINを立ち上げメッセージを送る。
【このベッド、どういうことですか!?】
仕事中だとわかっていながら、なかなかつかない既読にイラついた。
不機嫌なまま対応したので、その後来た業者の方には悪いことをしたと思う。
チロリロリン、やっと通知音が鳴り、携帯に食いついた。
【どういうこともこういうこともないだろ】
【帰りに寄る、待ってろ】
いつもながらの俺様にため息しか出ない。
こっちとしてはさっさと帰って引っ越しの準備をしたいのだが、待ってろと言われれば待っているしかない。
することもなくてベッドに寝転ぶと思いのほか、気持ちよかった。
片桐課長のこだわりのベッドだから当たり前といえば当たり前だが。
――好きな子。
朝方までごそごそ引っ越しの準備をしていたせいもあって、うとうとしながらあの日の、片桐課長に言ってもらいたかった答えがあたまを掠めていく。
自分で否定しておきながら、そう言ってもらえれば全てが解決する気がした。
急に点いた灯りで目を開けた。
どうもあのまま、眠ってしまったみたいだ。
「寝心地はどうだった?」
意地悪く片桐課長がニヤニヤと笑っていて、顔が一気に熱を持つ。
「……よかったです」
慌てて起き上がり、乱れている服を整えた。
「そりゃよかった。
なにか問題とかなかったか」
「なにもなかったです」
「じゃあ、メシ食って送っていく。
明日は忙しいからな。
体力つけるのに肉食いに行くか!」
そのまま焼き肉屋に連行され、家に帰ったのは夜遅かった。
翌日、引っ越し業者が来た時点で荷造りが済んでいなかったのは言うまでもない。
「お前、なんで済んでないんだよ!?
昨日、有給だったくせに!」
「……」
私を責める片桐課長を、ジト目で睨んだ私に罪はない……いや、ある。
この一週間、高来課長に手をまわしてくれたのか、残業はほとんどなかった。
なのに毎日、アルバムで躓き、出てきたまんがを読みふけり、全く準備を進めなかったのは私だ。
「そういう片桐課長はどうなんですか」
順番的に私の荷物を先に載せて片桐課長のお宅を回った方がいいらしいが、片桐課長は引っ越し業者が来る前からすでにうちに来ている。
「俺はもう、あとは運び出すだけになっている」
くいっと片桐課長が覆うように眼鏡を上げ、レンズがキラリと光る。
そういう得意げなところ、ほんとムカつく。
けれど片桐課長は残業だってやっていたし、昨日だって私を送って帰ったから、帰り着いたのは私よりずっと遅かったはずなのだ。
なのに終わらせたなんて……この人はどこまで完璧なんだろう。
「いいからさっさと詰めろ。
もうすぐ引っ越し業者来るぞ」
「えっ、もうこんな時間!?」
不毛な言い合いをしているうちに、時間はあっという間に過ぎていく。
「花重ー、片桐さーん、お昼ごはんできましたよー」
階下から母の声が響いてくるが、こっちはそれどころじゃないのだ。
「いらなー……」
「はい、すぐに行きます!」
私の声に被せるように、片桐課長が返事をする。
また彼を睨んだ私に、今度は罪はないはずだ。
「家を出たらいままでみたいに、ご両親とは食事ができないんだぞ。
最後くらいちゃんと食っとけ」
「……はい」
渋々、だけど片桐課長とリビングへ下りる。
それに、彼の言うことはもっともだ。
いままでは鬱陶しく思ったりしたこともあったけれど、今晩からは別の家なんだと思うと急に淋しくなってくる。
「ほんとは引っ越し先で食べるものだけど、いいわよね」
お昼ごはん、母は蕎麦を用意してくれていた。
「……ありがと」
「……うん」
父は朝から私と目をあわさない。
嫁にいくわけじゃなんだしとは思うが、親公認で男と同棲、となると心境的には同じなのかもしれない。
家で食べる最後のごはんが家族水入らずじゃなく片桐課長がいるのがなんか惜しいが、母は彼が大のお気に入りらしく、ご機嫌だし妥協することにする。
父も今日、片桐課長が持参してきた限定栗鹿の子でさらに懐柔されているみたいだし。
父は甘いものに目がないのだ。
「ちわー」
「えっ、もう!?」
お昼ごはんを食べた後、バタバタと荷物を詰めているうちに引っ越し業者が来た。
私を無視して片桐課長が指示を出しているうちに、残りの荷物を詰めていく。
私の荷物の運び出しなのに片桐課長が仕切っているのはなんか嫌だが、私にはそんな時間がないのだから仕方ない。
私の荷物の運び出しが終わると、今度は片桐課長の住んでいるマンションへと向かう。
よくよく考えれば、彼のマンションに行くのはこれが最初で最後だ。
「……狭い」
「そりゃそうだろ、入社したときにここに引っ越してきてからずっとそのままなんだから」
片桐課長の住んでいたマンションは、ごくごく普通のワンルームマンションだった。
この比較はひじょーに嫌だけれど、間野くんが住んでいたアパートと大差ない。
「なんで引っ越さなかったんですか」
お給料はたくさんもらっているはずなのだ。
なのにこんなところに住み続けていたなんて。
それに、女性を連れ込むとき、困りませんか?
「別に支障なかったしな。
高来はいい加減、引っ越せってうるさかったけど」
「はぁ……」
会社で噂になっている女性たちが、この部屋に幻滅しないわけがない。
もしかして、家には連れ込まないで外で済ます派?
狭いワンルームで荷物はきちんと整理されていたので、あっという間に運び出しは終わってしまった。
次はいよいよ、新しいマンションへ。
部屋への荷物の運び入れは、すぐに終わった。
実家住まいだった私と、ワンルームマンション暮らしだった片桐課長。
ふたりあわせたって、そんなに荷物があるわけじゃない。
「ありがとうございましたー」
引っ越し業者が帰り、ふたりきりになる。
アイボリーと白木を中心に揃えられた家具はまるで、恋愛ドラマに出てくる部屋みたいで素敵だ。
片桐課長はそんなリビングを見渡し、満足げに頷いた。
「最高の新居になったじゃないか」
その言葉にどきっとした。
新しい家という意味だとわかっている。
それでも片桐課長が言うとなぜか、新婚の家のように聞こえた。
配置はだいたい聞いていたし、好きにしていいとも言われていたからそれはいい。
――ただ。
「なに、これ……?」
寝室に置かれたベッドにあたまを抱える。
シングルを二台買ったものと思っていたが、届いたのはキングサイズのベッドだった。
いや、確認しなかった私も悪いが、なし崩しに一緒に寝ようとする片桐課長はたちが悪い。
イライラとしながらNYAINを立ち上げメッセージを送る。
【このベッド、どういうことですか!?】
仕事中だとわかっていながら、なかなかつかない既読にイラついた。
不機嫌なまま対応したので、その後来た業者の方には悪いことをしたと思う。
チロリロリン、やっと通知音が鳴り、携帯に食いついた。
【どういうこともこういうこともないだろ】
【帰りに寄る、待ってろ】
いつもながらの俺様にため息しか出ない。
こっちとしてはさっさと帰って引っ越しの準備をしたいのだが、待ってろと言われれば待っているしかない。
することもなくてベッドに寝転ぶと思いのほか、気持ちよかった。
片桐課長のこだわりのベッドだから当たり前といえば当たり前だが。
――好きな子。
朝方までごそごそ引っ越しの準備をしていたせいもあって、うとうとしながらあの日の、片桐課長に言ってもらいたかった答えがあたまを掠めていく。
自分で否定しておきながら、そう言ってもらえれば全てが解決する気がした。
急に点いた灯りで目を開けた。
どうもあのまま、眠ってしまったみたいだ。
「寝心地はどうだった?」
意地悪く片桐課長がニヤニヤと笑っていて、顔が一気に熱を持つ。
「……よかったです」
慌てて起き上がり、乱れている服を整えた。
「そりゃよかった。
なにか問題とかなかったか」
「なにもなかったです」
「じゃあ、メシ食って送っていく。
明日は忙しいからな。
体力つけるのに肉食いに行くか!」
そのまま焼き肉屋に連行され、家に帰ったのは夜遅かった。
翌日、引っ越し業者が来た時点で荷造りが済んでいなかったのは言うまでもない。
「お前、なんで済んでないんだよ!?
昨日、有給だったくせに!」
「……」
私を責める片桐課長を、ジト目で睨んだ私に罪はない……いや、ある。
この一週間、高来課長に手をまわしてくれたのか、残業はほとんどなかった。
なのに毎日、アルバムで躓き、出てきたまんがを読みふけり、全く準備を進めなかったのは私だ。
「そういう片桐課長はどうなんですか」
順番的に私の荷物を先に載せて片桐課長のお宅を回った方がいいらしいが、片桐課長は引っ越し業者が来る前からすでにうちに来ている。
「俺はもう、あとは運び出すだけになっている」
くいっと片桐課長が覆うように眼鏡を上げ、レンズがキラリと光る。
そういう得意げなところ、ほんとムカつく。
けれど片桐課長は残業だってやっていたし、昨日だって私を送って帰ったから、帰り着いたのは私よりずっと遅かったはずなのだ。
なのに終わらせたなんて……この人はどこまで完璧なんだろう。
「いいからさっさと詰めろ。
もうすぐ引っ越し業者来るぞ」
「えっ、もうこんな時間!?」
不毛な言い合いをしているうちに、時間はあっという間に過ぎていく。
「花重ー、片桐さーん、お昼ごはんできましたよー」
階下から母の声が響いてくるが、こっちはそれどころじゃないのだ。
「いらなー……」
「はい、すぐに行きます!」
私の声に被せるように、片桐課長が返事をする。
また彼を睨んだ私に、今度は罪はないはずだ。
「家を出たらいままでみたいに、ご両親とは食事ができないんだぞ。
最後くらいちゃんと食っとけ」
「……はい」
渋々、だけど片桐課長とリビングへ下りる。
それに、彼の言うことはもっともだ。
いままでは鬱陶しく思ったりしたこともあったけれど、今晩からは別の家なんだと思うと急に淋しくなってくる。
「ほんとは引っ越し先で食べるものだけど、いいわよね」
お昼ごはん、母は蕎麦を用意してくれていた。
「……ありがと」
「……うん」
父は朝から私と目をあわさない。
嫁にいくわけじゃなんだしとは思うが、親公認で男と同棲、となると心境的には同じなのかもしれない。
家で食べる最後のごはんが家族水入らずじゃなく片桐課長がいるのがなんか惜しいが、母は彼が大のお気に入りらしく、ご機嫌だし妥協することにする。
父も今日、片桐課長が持参してきた限定栗鹿の子でさらに懐柔されているみたいだし。
父は甘いものに目がないのだ。
「ちわー」
「えっ、もう!?」
お昼ごはんを食べた後、バタバタと荷物を詰めているうちに引っ越し業者が来た。
私を無視して片桐課長が指示を出しているうちに、残りの荷物を詰めていく。
私の荷物の運び出しなのに片桐課長が仕切っているのはなんか嫌だが、私にはそんな時間がないのだから仕方ない。
私の荷物の運び出しが終わると、今度は片桐課長の住んでいるマンションへと向かう。
よくよく考えれば、彼のマンションに行くのはこれが最初で最後だ。
「……狭い」
「そりゃそうだろ、入社したときにここに引っ越してきてからずっとそのままなんだから」
片桐課長の住んでいたマンションは、ごくごく普通のワンルームマンションだった。
この比較はひじょーに嫌だけれど、間野くんが住んでいたアパートと大差ない。
「なんで引っ越さなかったんですか」
お給料はたくさんもらっているはずなのだ。
なのにこんなところに住み続けていたなんて。
それに、女性を連れ込むとき、困りませんか?
「別に支障なかったしな。
高来はいい加減、引っ越せってうるさかったけど」
「はぁ……」
会社で噂になっている女性たちが、この部屋に幻滅しないわけがない。
もしかして、家には連れ込まないで外で済ます派?
狭いワンルームで荷物はきちんと整理されていたので、あっという間に運び出しは終わってしまった。
次はいよいよ、新しいマンションへ。
部屋への荷物の運び入れは、すぐに終わった。
実家住まいだった私と、ワンルームマンション暮らしだった片桐課長。
ふたりあわせたって、そんなに荷物があるわけじゃない。
「ありがとうございましたー」
引っ越し業者が帰り、ふたりきりになる。
アイボリーと白木を中心に揃えられた家具はまるで、恋愛ドラマに出てくる部屋みたいで素敵だ。
片桐課長はそんなリビングを見渡し、満足げに頷いた。
「最高の新居になったじゃないか」
その言葉にどきっとした。
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それでも片桐課長が言うとなぜか、新婚の家のように聞こえた。
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