身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)

七話『新婚旅行〜写真立て〜』

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「ん・・・」
 ゆっくり、意識が浮上する。

「・・・・」
「あ」
 目を開ける花は、義孝と目が合う。
「おはようございます、花さん」
「お、おはようございます」
 頬が熱い。
 昨晩のあれやこれやが、頭の中をぐるぐる回る。
「いつから、起きていたんですか?」
「三十分くらい前、でしょうか」
「・・・恥ずかしい」
 頰が熱い。
 結婚して三ヶ月を過ぎたが、まだ共寝は数えるほどしかしていない。

「まだ、寝ていて大丈夫ですよ。朝食まで、まだ一時間はあります」
「なら、お話しがしたいです。今日の午後には、艦に戻るんでしょう?」 
「ええ、そうなりますね」
「・・・」
 淋しげに花の瞳が揺れた。

     ✣✣✣✣✣

「花さん」
 朝食後、着替える義孝の背中に、花が額をつける。
「・・・着替えが出来ません」
 白いシャツの裾を握り、花は小さく震える。
「戦争に行くのではないのですから、泣かないで」
「・・・はい」
 花が離れる。
 震えながら、自身も着替えに向かう。

 別れの時間が、一刻一刻と迫る。
 昨日の招集がなければ、と義孝は悔やむ。

『淋しい』

 けして、花が口にしなかった本音に、胸が痛んだ。
(あれが、花さんの本音か)

(・・あと、三時間半もない)
 このあと、宿を出て軍港に向かう。泣きたいような淋しさを感じながら、花は服を着替えた。

「写真立て、ですか」
 誕生日プレゼントの包みを開け、義孝は呟いた。
「貝殻とシーグラス、青」
「海と、空です。一昨日の写真で、やっと意味のある物になりました」
 ふふ、と花が笑った。

「ありがとうございます。これで、艦の部屋に飾れます」
「良かった、喜んで貰えて。次の誕生日は、もう少し手の込んだ物にします」
「楽しみにしています」
「ふふ」

 良かった、ちゃんと渡せた。

      ✣✣✣✣
 宿を出て、宿場町を歩く。
「夜と昼では、まるで趣きが違いますね」
「海軍が来ると、町は海軍一色になりますからね」
「楽しかったです。義孝さん、旅行に連れて来て下さって、ありがとうございます」
 海が見えてくる。
 黒光りする軍艦が並ぶ港に、一歩一歩近づいてゆく。

「次は十一月でしたよね」
「はい。また、留守にしてしまいます」
「おまかせください、家とお義母さんは私が守ります」

 義孝が花を抱き寄せる。
「よ、義孝さ?皆に、見られますよ」
「構いません。むしろ、私の妻だと分かれば、妙な気を起こす輩もいなくなるでしょう」
「義孝さん。兄さまは、そんな人では」
 抱き寄せる腕に、力がこもる。
「愛しています、花さん」
「ふ・・・っ。ズルいです、私・・我慢してるのにっ。そんなこと言われたら、私っ」
 ふえっ、と嗚咽が漏れる。
「泣かないで、見送るって・・・決めてたのにぃ」

 淋しい、と花も抱きしめる。

「酷い、義孝さん。ズルい」
「あなたが失われたら、私は生きられません。だから、死ぬまで離しません」
「えぐっ・・・はい」
 コクコクと、花が頷いた。
「私も・・・愛しています」

 艦に戻るギリギリまで、二人は抱き合っていた。

 ーーーーー
 そんな姿を、康介が見ていた。

 昨日、宿場町を幸せそうに歩く花に、義孝への嫉妬からうそぶいた。途端に、花の笑顔が凍りつく。

『知らないんだ?海軍士官は宿場町や保養施設で、芸者や遊女と遊ぶんだよ。妻帯者の場合、妻の負担を減らす為に』

 絶望的な顔をする花。
 涙混じりの嗚咽が響いた。

 今、目の前には幸せそうな、二人の姿がある。
「っ」
 義孝が、こちらを見る。

 ーーー次は容赦しない。

 凍りつくような視線が、康介を見ている。

『ーー康介、再婚したらどうだ?』
 翔哉の言葉を思い出す。
 康介も義孝と同じく、芸者遊びをしない。

(愛しているというのか、海神が花ちゃんを本気で)
 ぐっ、と拳を握る。
 義孝の眼差しが柔らかくなる、花と見つめ合い、幸せと愛おしさに目を細める。

「花さん」
「義孝さん。お待ちしています、帝都の家で」
 花が笑顔になる。
 額に口づける。康介には、接吻に見えたはずだ。

(僕への牽制か)
 彼女は、自分の妻だと義孝は言っているのだ。
(・・・あと、一年早く会いに行けば、花ちゃんは僕のものに)
 二十歳も上の男に、嫁がずに済んだ。花を愛している心なら、自分だって負けていない。
(・・・僕はまだ、三十路を迎えたばかり)
 妻の香苗と結婚したのは、上官の命令だ。だが、花は違う。自分でかつて、好きだった女性だ。

「花ちゃん、認められないよ。そんな結婚、幸せなはずがない」
 踵を返し、璃月に戻る。

 芥子色のワンピースは、疾風の操舵室からもよく見える。
「目立ちますね」
 杉田中佐が笑う。
「ああ、よく似合う」
 着物の柄を選ぶ時、義孝が向日葵のようで花に似合うと言ったのを、花は覚えていたのだ。

『義孝さんのお好きな色を着たいのです』

 まだ、恋心を自覚する前の花の言葉に、『あなたの色に染まりたい』と言われた気がした。

「いってきます」
 義孝は敬礼し、その後ろで杉田中佐らが敬礼した。

「いってらっしゃい」
 笑顔で、花は照れながら、敬礼をした。


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