身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)

八話『手紙の返事』

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「この会合が始まり、何十年になりますが、まさか海軍省がなくなるなど。私達は関係なく、時々は集まりましょうか」
 会長夫人の提案に、皆が頷いた。
「これからは主に、福祉など」

 皆が、平和を待ち望んでいた。
 戦わず、自分の国を守れたら、それはどれほど幸せか。

「さ、本日はここまで、皆さん。また、元気にお会いしましょ」

 会合が終わり、花は一人の女性に声をかけられた。
「時東さん、待って」
「はい?」
「ね、人違いなら、ごめんなさい」
 息を切らして、女性は訊ねる。
「・・・あなた、旧姓は霧島では」
「はい、霧島です」
「やっぱり、花ちゃん?」
「え?」
「私、田中美沙。花ちゃん、美沙よ?」
 花はしばし考え、「あ」と声を出す。そして、二人の瞳はふるふると、涙にあふれる。

「美沙ちゃん?」
「花ちゃん!」
 しかと、抱きしめ合う。
「また、会えたね」
「うん。会えたね」

 また、お喋りしようと誓い、この日は分かれた。

「義孝さんに、手紙を出そう」
 花は万年筆と手紙を出した。

「前略、義孝様」

    ◇◇◇✣✣◇◇◇
「艦長、手紙です」
 そう言って来たのは、疾風の乗員・沢城時致さわきときむね少佐、二十七歳だ。
 硬派で誠実で正義感の強い時致を、杉田中佐は義孝に似ていると話した。
「ありがとう」
 
「私はあれほど、堅物ではないぞ」
「いえいえ、堅物ですよ」
「そうか?」
 さて、と義孝は席を立つ。
「私はもう休むが、皆は明日は日曜日だからと羽目を外さないようにな」
「お疲れ様です」
 皆が、敬礼する。

「さて、今回は何の話しだ」
 月に三回、花は手紙を出す。
 それは娯楽の少ない艦内で、貴重な和みの時間だった。

「なになに、幼馴染に会った?」

   ◇◇◇✣✣✣◇◇◇ 
 前略、義孝様。
 夏の暑さも影を潜め、秋の気配がし始めた今朝。
 彼岸花が咲き始め、風に金木犀がほのかに香ります。

 今日は花筏会で会った、幼馴染みの田中美沙さんについて書きます。

 美沙ちゃんは尋常小学校の学級生でしたが、小学校を卒業を前に、転校してしまいました。
 でも、去年結婚して旦那様が疾風の配属となり、引っ越してきたそうです。

 美沙ちゃんの旦那様は、沢城時致少佐だそうです。
 以前に義孝さんが信頼していると話していたので、ちょっと吃驚しています。

 世間は、狭いですね。

 では、季節の変わり目です。
 くれぐれも、ご自愛ください。
       花

    ◇◇◇✣✣✣◇◇◇

「沢城少佐の?」
 義孝は瞬く。
「良かったですね、花さん」
 写真の中で笑う花に、目を細める。
「さて、返事を書くか」

 何を書こう。
 ネタを考えが、他の男を手紙に書くのは、なんとなく嫌だ。

「ふむ。とすると、内容が絞られてしまうな」
 難題だなと思い、艦内を歩く。

「あ、艦長」
「いいとこに」
 馬鹿、となじる士官。
 見れば、ゆで卵が大ザルいっぱいにある。
「何事だ、このゆで卵は」
「いや、厨房のハプニングで」
「なんと言いますか」
「で、消費中か」
 モキュモキュと、頬張る士官達。
「良ければ、艦長も。なんか、賞味期限が近いし、次の寄港で食材が入るらしいです」
 杉田中佐と時致も、ゆで卵を頬張る。
「やれやれ」
 肩を竦め、上着を椅子にかける。

      ✣✣✣✣✣
「時東さん、手紙です」
「ありがとう」
 花が笑顔になる。
「なになに?『先日、厨房の発注ミスにより、賞味期限間近の』、ふふっ。ゆで卵はしばらく、食べたくありません?楽しそう」
 互いに、近況を知り微笑んだ。
「艦ではこのように、賞味期限が近い食材を使って、新作メニューが考案する第三日曜日があります。いいなぁ、義孝さんと一緒」
 涙が滲む。
 グスグスと嗚咽が漏れる。

 ーーー会いたいよ、義孝さん。

「私が男なら、一緒に」
 水兵の服を着た自分が、義孝の身の回りを世話する。そんな夢想を、手紙に書いた。

   ✣✣✣◇◇◇◇✣✣✣

「私が、水兵なら毎日、義孝さんと」
 となればーーーー。
「花さんが男だと、ちょっと困るな」 
 きっと、役に立つ。
 細やかで、賢い水兵になる。
「だが、となると、私は男色だな?」

   ✣✣✣◇◇◇✣✣✣
「え、えと、男色?」
 花は紅くなる。
「男色・・・男でも、好きになってくれる?でも、私もきっと」
 目が熱い。
 世間には受け入れられないが、きっと幸せだ。

「ちょっと、早いけど。冬支度を始めようかな?」
 押し入れを物色して、毛糸の入っているバスケットを出す。
「この濃い灰色が似合うかな?」
 濃紺の軍服が似合う義孝だ、深みのある色が格好いい。
「でも、サイズ」
 どうしようかと考えた時、玄関が開く音がした。

「あら、義孝」
 千代の声に、花が立ち上がる。
 廊下に出ると、義孝が玄関にいる。

 ーーー花さん。

 ふる、と視界が潤む。

 泣き虫でいけない。
 でも、今はこの気持ちを大切にして生きたい。

 戦争がなくとも、不意の事故や病で、別れは来るのだから。

「おかえりなさいませ」
 花は笑顔を作った。
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