身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)

十九話『寝言と嫉妬』

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「むにゃ・・・大好きぃ🩷」

 それは、ある日の寝言だった。

「お兄さん」
 義孝は、このところ、よく花の寝言に悩まされる。

「誰、なんですか、お兄さんって」

 花に浮気は有り得ない。
 それは、分かっているし、信じている。
 だが、自分は花より二十五も年上である。もし、若くて将来性のある男が現れたら、そちらの方が良い、と言われたら。
「縛る権利は、私にない」
 深い、深い、溜息を吐く。

 まさか、自分がここまで花に、溺れるなど・・・出会った日には想像すらし得なかった。
(花さん)
 叶うなら、自分の夢を見て欲しい。夢の中でさえ、花を独占したい自分に嫌気がさす。

「あ、おはようございます」
「おはようございます」
 いつも通り、はにかんだ笑顔で、花が台所から出てくる。
「どうか、しました?」
「いえ、別に」
 気になるが、夢にまで干渉は出来ないと、洗面所に向かう。 

 ーーーーはあ。

「旦那様、どうしたんです?」
 重松が訊ねた。
「いや、実は」

 ふむ、と重松は薄笑いを浮かべるべくもなく、誠実に話を聞いてくれた。
「それは、お嬢様に聞いた方が良くないですか?儂が思うに、お嬢様は旦那様に純粋に恋をしていますよ。疑われたら、酷く傷付くでしょう」
「・・・まあ、そうですね。以前、大泣きされました」
「泣かしたんですか」
「ええ、実は」
 偽旗作戦の件を重松に話した。
「迂闊でした。薬屋の店主に嫉妬して、言ってはならんことを」
 だから、同じ轍を踏む真似はしたくない、義孝は話した。
「なるほど。まあ、惚れた女の子の涙は見たくないですね。とくにお嬢様みたいに、苦しい想いをした子には」
「情けない」
 額を押さえた。

「義孝さん、重松!お茶が入りましたよ、中にどうぞ」
 優しい花の声が響いた。

「さ、行きやしょ」
「ええ」
 義孝は頷いた。
 花を信じる。
 優しく純粋な愛をくれる花の心を、義孝は知っている。

「薪割り、お疲れ様。今日は虎屋の羊羹がありますよ」
「ほう?」
「美沙ちゃんがくれたんです。二本あるからって」

 桐島家は使用人を、家族として扱う。行き場をなくした辛い境遇の重松達を、花達父娘は迎え入れた。

 ーー儂にも、息子がいました。

 明るく朗らかな重松にも、辛い過去がある。笑えるまで、何年もかかった。

「花さん」
「はい」
 洗濯物を取り込む花に、義孝が近づく。
「愛しています」
 敷布に影で、口づける。
「やぁっ」
「花さん」
 しっかり腰を抱きしめ、もう一度口づけた。

 ふしゅーっ!

 リンゴのように、花が逆上せる。
「きゅう」
「花さん?」
 酸欠になり、ぐったりしている花を抱き上げ、義孝は和室に上がる。

「花さんに、何をしたの?」
 千代が目を吊り上げる。
「いや、別に」
「別にって、お前といて逆上せたんでしょ!」

 千代は花を可愛がっている。
 優しく素直で、健気な花を溺愛しているのだ。

「・・ったく」

 ーーーーきゅう。

 目を回した花が、寝言を呟く。

「ーーー気が付きましたか?」
「・・・!」
 義孝を見て、また、ふしゅーっと茹で上がる。
「あ、あの、えと?」
「すみません」
「いえ、嫌じゃないです。義孝さんが相手なら、接吻の二回や三回・・・やだ、私は何を?」
「すみません」
「謝らないで」
 苦しげな義孝に、胸が痛い。
「私も、愛しています」
 義孝を抱きしめる。

「初めてお会いした時は、こんなに好きになるなんて・・・こんなに、幸せになるなんて、想定外でしたけど」
「私もです。いまでは、いなければ生きられません」
「良かった」
 花の目が潤む。
「私の片想いじゃないと、実感出来ます」
「花さん、最近・・・うわ言でよく、『大好き、お兄さん』と言っていますが」
「あ・・・あれは、その」
 花は、ぽぽと紅くなる。
「昔、格好いい海兵さんに会って・・・」
「格好いい」
「まだ、二十歳ソコソコ?」
「ーーーー二十歳」
 義孝が凍りつく。
「も。夢の話を、どうだっていいじゃないですかぁ」

 やだぁ。

「夕食、準備します」
 花が立ち上がり、部屋を出る。

 ーーーー若い、海兵。

 はっ、と乾いた嗤いが出る。
 胃の辺りが、スッと冷たくなる。

「落ち着け、私は花さんの夫だ」

 乾いた嗤いが、嘲笑になる。

「・・・落ち着け」

 不安がぶり返す。
 誰なんだよ、とドス黒い嫉妬が義孝の心に渦巻いていた。

「花さん、大丈夫?」
 千代が額にふれた。
「だ、大丈夫です」
「ごめんなさいね、あの馬鹿」
「あ、あはは」

 まさか、接吻されて気絶したなんて、恥ずかしくて言えない。
 そして、義孝の心に嫉妬が芽生えたことを、花は知る由もない。

「義孝さん、夕食です」
「分かりました」
 そして、この嫉妬は誰も気付くことなく、長く燻ることになる。

「冬はやっぱり、鍋ですねぇ」
「温まります」
「おでんも、いいですよ」

 賑やかな食卓に、花が微笑んでいた。
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