身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(新婚編)

二〇話『また、春が来て』

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「次は四月なんですね」
「ええ」
「また、お待ちしています」
「ええ、帰ってきます」
 義孝達は機雷の撤去に携わることになった。

「お願いだから、無事に」
 海に沈んでいる、6万発以上の機雷と数多の残骸。海を征く船が、安全に航海出来るように。
「戦争は、二度としないんだから」
 駅からの帰り道、花は小さく震える。

 ーーー花ちゃん。

 通りの向こうから、誰かが呼んだ。見れば、佳代がいる。
「佳代」
「花ちゃん。あけまして、おめでとう」
「うん、おめでとう」
 二人で話しながら歩いた。
「じゃあ、旦那様を見送りに?」
「うん。艦長だから、一足先に戻るの」
「そうか。大志くんは明日の朝だけど、一日は大きいね」
「ん」
 淋しい、どれほど愛されても、淋しいと思ってしまう。

「え、寝言?」
「うん、私ね。寝言を言うみたいなんだ。義孝さんが、『お兄さんって、誰ですか』って」
「な、なるほど」
「子供の記憶なんだよね?小さい、まだ母が生きていた頃に、父が旅行に連れて行ってくれて。そこで若い海兵さんに出会ったの。背が高い・・・あれ?」
 ふと、花は思い返す。
「あの海兵さん、ちょっと・・義孝さんに似ていた?」
「え?」
 佳代が瞬く。
「うーん、似ていたっぽい?」
「ちょっと、それってまさか」

 佳代はドキドキしながら、花に訊ねる。
「例の、麦わら帽子を取ってくれた人?」
「うん。あの後、お母様が死んで・・・その二年後にお父様も」
「うんうん。で、会えなくなったんだよね?優しい海兵さんに」

 花はぽぽ、と頬を染める。瞳が潤む。
「まさか、ね?あれ、義孝さんかな」
「うん、かも知れないよ」
「だとしたら、嬉しいな」

 確かめたい、義孝に。
 あれは、運命の出逢いだったのかと。

   ✣✣✣◇◇◇✣✣✣

「艦長、手紙です」
「ああ、ご苦労さん」
 大志が部屋を出る。
 手紙の差し出しは、当然に花。

「今回は、なんだ」
 義孝は封を切る。

     ✣✣◇◇✣✣
 
 前略、義孝様。
 朝の空気が冷たいと、井戸水は温いと言いますが。

 私は毎朝の洗濯物に、指が千切れる思いが致します。

 さて、先日の寝言の件ですが、
義孝さんは舞鶴にいた経歴はありますか?

 私は舞鶴で、若い海兵さんに出逢いました。今から、十三年近く前にのことです。

    ✣✣✣◇◇◇✣✣✣

「舞鶴か」
 どうだったか。
 さすがに明晰な義孝も、少し朧気である。
「みっともないな、八歳の花さんの優しい記憶に嫉妬するなんてなぁ」
 写真の花は幸せそうだ。
「今、花さんが愛してくれているのは、他でもない私だ」
 ジリリと胸が焼ける。

「返事を、書かねばな」
 万年筆と便箋を出した。

   ✣✣✣◇◇◇✣✣✣
 
 花さん。
 舞鶴港になら、立ち寄ることはありますが、十数年前になるとさだかではありません。

 ですが、ありがとうございます。

 大切な記憶の人物が、私である可能性を考え、手紙を寄越してくれたことを嬉しく思います。

    ✣✣✣◇◇✣✣✣

「時東さん、手紙と電報です」
「はあい」
 花は手紙を受け取る。
「あ、義孝さんだぁ」
 ぱぁぁと、花は笑顔になる。
「しかも、電報まで?」
 クスッと、花は微笑んだ。

「四月、・・・にて」
 涙が滲む。
 また、二人の時間を考えてくれたのだ。

「服は、前回のがあるし」 

「駄目ですよ、花さん」
 千代がダメ出し。
「え、でも・・・まだ、着られますよ」
「それは、義孝が家に来た時になさい。よそ着は二着しかないでしょ」
「あ、はい」
「なら、もう二着作りなさい。四日の旅行よ?」
「・・・・はい!」
 花は頷いた。
 この優しい義母の、深い愛情を大切にしたい。花は、そう感じたのだ。

「じゃあ、明日は百貨店に行きますよ!」
「はい」

 こんな訳で、花、千代、鹿江、それから女中がこぞって出かけた。

   ✣✣✣☆☆☆✣✣✣
「また、お母さんがいっぱいです?」
 ふ、と義孝に笑みが浮かんだ。
 きっと、百貨店で着物を選んだ日と同じく、ふるふるとしているだろう。
「相変わらず、欲のない人だ」

 本当なら、当然の権利として受けられた浩一郎氏の財産。それは全て、継母と義妹により奪われた。
 実家である桐島邸からも、二人に追い出されたのだ。
 震えながら時東家に来た日、想定していなかった、義孝と千代の温かな歓迎。

 寂しさと不安に凍りついていた心が溶かされ、涙となり流れた。
 花はあの頃から、義孝に恋をしていた。

「義孝さん、あなたは御存知ではないかと思いますが。私は生い立ちを話した日から、義孝さんに恋をしていました。ずっと一緒にいたいと、心から願っていました」
 継母と義妹がいなくなり、桐島邸に戻れることになり、やっと幸せを掴んだ。
 義孝と千代、使用人達と暮らせると泣いた。

「私は、あの海兵さんが義孝さんだと信じたいです」
 幸せの象徴だった夏の海。
 ずっと帰りたい、そう願っていた夏の海。

 花は荷造りをしていた。
「えと、着替えよし。歯ブラシと・・・」
 鞄に衣類を詰めていた。
「あれから、一年になるんだぁ」
 去年は義孝を知らない。
 こんなに深い愛情を与えてくれる人と、まさか出会えるなんて。
「人生って、わからない」
 ふふ、と写真の義孝に微笑んだ。
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