身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(その後)

五話『ゾッとする視線』

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 敷物を敷いて、弁当を並べて。

 一段目は、五目おこわのおにぎりと、塩にぎりに紫にぎり。
 二段目は鶏肉のザンギ焼きと魚のたまり醤油焼きに、だし巻き卵と菜花の和物。
 そして、小さな器には漬物。

 美味しいニオイに、皆がお腹を鳴らした。
「腹、減りましたね」
「はい」
「食べますか、お昼ですし」
「賛成!」
 どっと、笑いが起きる。

 取り皿と箸を渡し、皆で弁当を食べる。

「美味いね、大勢で青空の下で見上げれば桜がある」
 重松が呟く。
「ほんと、今年は小さなお嬢様もいますし」
 鹿江が微笑んだ。

「来年、再来年と、毎年賑やかに」
「冬に楽しみが出来ます」
「早く、春よ来い」

 あはは

「赤ちゃんは、何ヶ月くらいで座れますか?」
「うーん、頸がすわれば・・徐々に練習して。三春ちゃんは、まだ」
「もう少しですか?」
 花は訊ねる。
「個人差ですねぇ。義孝は成長が早かったですよ。背も、こんなに大きく・・・」
「ふふ、健康優良児ですね」
「ま、健康と真面目が取り柄ですね」
 おにぎりを噛りながら、義孝が言った。
「健康第一ですよ」
 きゃあきゃあ、ガヤガヤ。
 代わる代わる三春を抱いて、楽しい時間は過ぎていく。

「ん?」
 ふと、義孝が辺りを見回す。
「どうしました、義孝さん」
「いや、なんか・・・視線が」
「視線?」
 重松が視線を巡らす。
 特に、嫌な感じはない。
「気の所為では?これだけの、花見客がいますし、通行人も」
「そうですね、きっと気の所為ですね」
 義孝は微笑んだが、花は嫌な予感がしてならなかった。

 ただの視線に、義孝が反応するだろうか。

「そう言えば、去年のバザー。あの劇は傑作でしたね」
 鹿江がくすくすと笑う。
「ああ、男女逆転『灰かぶり姫』ですねぇ。あれは・・・ふふ、義孝が」 
 千代が吹き出す。
「あれは確か、美沙さんが台本を書いたんでしたねぇ。中将が魔法使いさんで、杉田中佐が継母。皆が役になりきって」
「あ、あれは・・・やり過ぎ」
「中将、楽しんでましたよ。杉田中佐の奥さんも中将の奥さんも、最前列で」
「お義母さんも、手を叩いて笑っていましたよね」
「お腹、痛くなりました」
「中佐、美しかった」
 双子の女中がぽぅと、頰を染める。

 ―――やはり、似合わない。

 義孝が青くなる。
「義孝さん、素敵でしたよ。優しい顔をしていて」
「・・・そうですか?」
「はい。何でも似合います」
 花の笑顔に、義孝が頰を染めた。
「まあ、花さんがいいなら」

 話の種は他の出し物や、露店などに変わる。

「旦那様、バザーは夏だけですか?秋や冬は」
「夏だけですね。何しろ、学校も休みでしょ。親子連れが来て、沢山のお金を落としてくれますから

「また、夏ですね」
「劇は、やるんですか」
 双子の視線に、義孝は苦笑いする。
「美沙がやるかも。逆転『白雪姫』とか?今度は、白勢さんがやればいいですね」
「はは、王子様は誰が」
「それは、やっぱりぃ」
 視線が花に向かう。

 ―――――ダメダメ!

 花が首を振る。
「私は義孝さんの奥さん。接吻はフリでもだめ!」
 花の言葉に、義孝はほっとする。
「なら、お嬢様?」
「花さんが書いては?」
 え。
 花が固まる。
「花さん、今度は沢城と美沙さんで、白雪姫を」
「は!いいかも」
 ふふ、と花が笑う。

「美沙と沢城さんを・・・ドキドキですね?接吻もありますし。前回は私達でしたから」
「ええ」
 ほくそ笑む。
 美沙が涙目で、ふるふるするのが浮かぶ。
「可愛いだろうなぁ、美沙」
「はは」

 ―――なかなか、似合いです。

 前回、ドレスを着た義孝に時致は、しれっと言った。
(さて、少佐はどうするやら)
 密かにバザーの計画は立てられた。

  ✢✢✢✢◆◆◆✢✢✢✢

「な、なんなのっ、あれ!」
 ここに、怒りに震える聡美がいる。
 赤ちゃんを抱き、愛する夫と姑に使用人達と笑顔で弁当を摘む、幸せな花がいた。
「私は、こんななのに!」
 身売りは免れたが、母・貴子は下女として働かされる。
 アカギレだらけの指先、下女が着る粗末な着物の自分が、ショーウィンドウに映される。

 ―――なんて、惨めなの?

 義孝は逞しい体躯の、端正な男性だった。愛おしそうに見つめる眼差しは、百貨店の時のままだ。
「幸せ、だというの?そこは、私が座るに相応しい席で、あんたは代わりの」
 ギリッと、奥歯を噛みしめる。

 ―――許さない、絶対に!
   私は、こんなに惨め。

 母に置き去りにされ、遊郭に売られる寸前で手を差し伸べた、今の雇い主夫妻。
 
 ―――反省と更生の機会を!

 真面目に働いて、一年が経過して。久々の休日を与えられた聡美は、知らずに桐島邸に向かった。

 ――――お母様。

 置き去りにされても、聡美は貴子を愛していた。自分を愛してくれるのは、母・貴子だけだったから。

「許さない、そこは―――私の居場所よ!」

 ふるふると怒りに震えながら、聡美は奉公先に戻った。そして、その日のうちに、姿を消した。
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