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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される(その後)
六話『あなたが喪われたら』
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「旦那様、奥様、大変でございます!」
本阿彌家の屋敷中を女中頭が、ドタバタと廊下を駆け抜ける。
「どうしたね」
「何の騒ぎ」
「桐島聡美がいません」
―――なんだって!?
伯爵・本阿彌清忠は平安時代より天皇に仕える、由緒正しい伯爵の末裔である。現在は宮内庁長官を退き、妻の春江と穏やかな晩年を過ごしていた。
聡美を引き取ったのは、弁護士の友人から身元を引受けてくれる人間がいれば聡美を女子少年院に行かせずに済むと聞いたからだ。
「まさか・・・」
「早く探して。あの子はうちで働くことが、刑罰なのよ」
障害を持つ聡美を、犯罪者にしたくはなかった。まだ、十七歳の身の上で多額の借金を背負わされた聡美が、あまりに不憫だったからだ。
「真面目に働いていたのに」
「なぜだ・・・?何故、急に居なくなった?」
――――旦那様、奥様。
「あら、あなたは・・・たしか、聡美と親しくしていた」
「あの、聡美さんが行方不明だと聞いたので」
もじもじと、女中の多恵子は手をすり合わせる。
「分かるの?」
「こっちへ」
多恵子の話によると、昨日の休暇に一日・・・聡美の所在が分からなかったとの事だった。
『お願い。多恵子さんと一緒にいたと』
「あまりに切実だから、私と一緒だったと。でも、今ならなんとなく分かります。聡美さんは、自宅にいるのでは?」
「なるほど」
「聡美は自宅に近寄ることを、禁じられているわ」
「よく、話してくれた。ありがとう、多恵子」
清忠と綾子は、桐島邸に電話した。
「何も、起きなければ良いが」
❖❖❖◆◆◆❖❖❖
桐島邸の電話が鳴り響く。
「はい、時東です」
花の顔が、見る間に青ざめてしまう。
「・・・さ、聡美が?」
――昨晩から姿がありません。
「昨晩?」
カタカタと震えが走る。
「花さん、どうしました」
義孝が帰宅し、へたり込んだ花を見つける。
「聡美が、本阿彌伯爵の屋敷を離れたそうです。昨晩から所在が分からないって」
「聡美とは、義妹ですか?」
「はい」
―――怖い。
花が呟いた。
❖❖❖◇◇❖❖❖
その日から、海軍が桐島邸を警護した。
「狙うとしたら、私より花さんだ。聡美は花さんを毛嫌いし、逆恨みしている可能性がある」
「厄介な身内ですね」
杉田中佐が呟く。
「障害を持っているからな、精神年齢が子供並だそうだ」
「同じく子供を持っている人間として、なんともやるせないですな」
「ああ、三春が同じだったらと考えると、胸が苦しい」
❖❖❖◆◆◆❖❖❖
――――許さない。
聡美は一言呟いた。
「殺すなら、私だけに」
花は玄関を出た。
―――いいですか。
義孝は言った。
―――外に出ないで下さい。
狙われているのは、花に違いないと思ったのだ。ならば、自分が姿を見せれば、聡美が現れるはずだ。
「おい、あれ」
見張りの海兵が呟く、何かが閃いたのだ。
「ん?」
「なんか、反射しなかったか」
――――花ぁ!
甲高い金切り声を上げながら、聡美が走ってきた。
「桐島聡美だ、気をつけろ?刃物を所持している」
杉田中佐はハッとする。
――――なんで。
庭に花がいる。
「ばか、何で出来たんだ、花さん!」
血相を変え、義孝が走る。
聡美が包丁を振り回しながら、こちらに走ってくる。
「逃げるんだ、花さん。ばか」
何で、動かないんだ。
あんたなんて、何の役にも立たないくせに!
「!」
花がビクッと震える。
虐げられた日々が、萎縮させる。
「やめろぉ!」
刺される!
花は固く、目を閉じた。
何かが、身体を引き寄せた。
「死ね、花ぁ!」
次の瞬間、ザシュッという肉を切り裂く不快な音がした。
「え!?」
ポタポタと、紅い雫が滴り落ちる。
「な、な・・・ぁ!?」
花に振り下ろされた筈の包丁は、義孝の腕を切った。
「や・・・いや」
涙があふれる。
「義孝さん!」
「良かった、間に合った」
聡美は海兵に取り押さえられた。
「離せぇっ!私の場所よ、私がここにいるべき」
聡美は喚いた。
「あんな、役立たずの女には、もったいない話よ!」
―――泥棒ネコ!
「っ」
花の瞳が、傷ついた色に変わる。
「花さん、なぜ外に?」
「私」
「あなたを失えば、私は生きられない・・・なぜ、わからないのですか」
「・・・ごめんなさい」
軍医が駆け寄り、手当てを始める。
「大丈夫だ、皮膚の表面だけだ。泣かんでいい」
ふるふると震えながら、花は泣き続けた。
――――捨てないで。
新婚旅行で、花は告げた。
―――私は生きられない。
義孝の言葉が、突き刺さる。自分の行動が義孝を、傷つけてしまった。
「ごめんなさい!」
「聡美」
義孝は連行される聡美に、静かに告げた。
「花さんを傷つけたあなたを、私が妻にすることは、断じてありません。私は、あなた方母娘を決して許さない」
静かな怒りだった。
本阿彌家の屋敷中を女中頭が、ドタバタと廊下を駆け抜ける。
「どうしたね」
「何の騒ぎ」
「桐島聡美がいません」
―――なんだって!?
伯爵・本阿彌清忠は平安時代より天皇に仕える、由緒正しい伯爵の末裔である。現在は宮内庁長官を退き、妻の春江と穏やかな晩年を過ごしていた。
聡美を引き取ったのは、弁護士の友人から身元を引受けてくれる人間がいれば聡美を女子少年院に行かせずに済むと聞いたからだ。
「まさか・・・」
「早く探して。あの子はうちで働くことが、刑罰なのよ」
障害を持つ聡美を、犯罪者にしたくはなかった。まだ、十七歳の身の上で多額の借金を背負わされた聡美が、あまりに不憫だったからだ。
「真面目に働いていたのに」
「なぜだ・・・?何故、急に居なくなった?」
――――旦那様、奥様。
「あら、あなたは・・・たしか、聡美と親しくしていた」
「あの、聡美さんが行方不明だと聞いたので」
もじもじと、女中の多恵子は手をすり合わせる。
「分かるの?」
「こっちへ」
多恵子の話によると、昨日の休暇に一日・・・聡美の所在が分からなかったとの事だった。
『お願い。多恵子さんと一緒にいたと』
「あまりに切実だから、私と一緒だったと。でも、今ならなんとなく分かります。聡美さんは、自宅にいるのでは?」
「なるほど」
「聡美は自宅に近寄ることを、禁じられているわ」
「よく、話してくれた。ありがとう、多恵子」
清忠と綾子は、桐島邸に電話した。
「何も、起きなければ良いが」
❖❖❖◆◆◆❖❖❖
桐島邸の電話が鳴り響く。
「はい、時東です」
花の顔が、見る間に青ざめてしまう。
「・・・さ、聡美が?」
――昨晩から姿がありません。
「昨晩?」
カタカタと震えが走る。
「花さん、どうしました」
義孝が帰宅し、へたり込んだ花を見つける。
「聡美が、本阿彌伯爵の屋敷を離れたそうです。昨晩から所在が分からないって」
「聡美とは、義妹ですか?」
「はい」
―――怖い。
花が呟いた。
❖❖❖◇◇❖❖❖
その日から、海軍が桐島邸を警護した。
「狙うとしたら、私より花さんだ。聡美は花さんを毛嫌いし、逆恨みしている可能性がある」
「厄介な身内ですね」
杉田中佐が呟く。
「障害を持っているからな、精神年齢が子供並だそうだ」
「同じく子供を持っている人間として、なんともやるせないですな」
「ああ、三春が同じだったらと考えると、胸が苦しい」
❖❖❖◆◆◆❖❖❖
――――許さない。
聡美は一言呟いた。
「殺すなら、私だけに」
花は玄関を出た。
―――いいですか。
義孝は言った。
―――外に出ないで下さい。
狙われているのは、花に違いないと思ったのだ。ならば、自分が姿を見せれば、聡美が現れるはずだ。
「おい、あれ」
見張りの海兵が呟く、何かが閃いたのだ。
「ん?」
「なんか、反射しなかったか」
――――花ぁ!
甲高い金切り声を上げながら、聡美が走ってきた。
「桐島聡美だ、気をつけろ?刃物を所持している」
杉田中佐はハッとする。
――――なんで。
庭に花がいる。
「ばか、何で出来たんだ、花さん!」
血相を変え、義孝が走る。
聡美が包丁を振り回しながら、こちらに走ってくる。
「逃げるんだ、花さん。ばか」
何で、動かないんだ。
あんたなんて、何の役にも立たないくせに!
「!」
花がビクッと震える。
虐げられた日々が、萎縮させる。
「やめろぉ!」
刺される!
花は固く、目を閉じた。
何かが、身体を引き寄せた。
「死ね、花ぁ!」
次の瞬間、ザシュッという肉を切り裂く不快な音がした。
「え!?」
ポタポタと、紅い雫が滴り落ちる。
「な、な・・・ぁ!?」
花に振り下ろされた筈の包丁は、義孝の腕を切った。
「や・・・いや」
涙があふれる。
「義孝さん!」
「良かった、間に合った」
聡美は海兵に取り押さえられた。
「離せぇっ!私の場所よ、私がここにいるべき」
聡美は喚いた。
「あんな、役立たずの女には、もったいない話よ!」
―――泥棒ネコ!
「っ」
花の瞳が、傷ついた色に変わる。
「花さん、なぜ外に?」
「私」
「あなたを失えば、私は生きられない・・・なぜ、わからないのですか」
「・・・ごめんなさい」
軍医が駆け寄り、手当てを始める。
「大丈夫だ、皮膚の表面だけだ。泣かんでいい」
ふるふると震えながら、花は泣き続けた。
――――捨てないで。
新婚旅行で、花は告げた。
―――私は生きられない。
義孝の言葉が、突き刺さる。自分の行動が義孝を、傷つけてしまった。
「ごめんなさい!」
「聡美」
義孝は連行される聡美に、静かに告げた。
「花さんを傷つけたあなたを、私が妻にすることは、断じてありません。私は、あなた方母娘を決して許さない」
静かな怒りだった。
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