身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

絵麻

文字の大きさ
36 / 116
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される

三十三話『義孝の艦』

しおりを挟む
 義孝が時東家を経って、数日が過ぎた。
「あの、これって・・・義孝さんが乗ってらっしゃる艦ですか?」 
 商店街を歩いている最中、号外屋から買った新聞を手にした花は、興奮に頬を紅潮させながら、千代に言った。
 号外屋に集まる人達から離れたところで、花は新聞の内容を確かめる。その新聞の紙面には、不審艦を掌捕した戦艦疾風の手柄と、それを称賛する記事が大きく載っていた。
「あらまあ、ええ、あの子の乗っている艦ですよ」
 千代が目元に皺を寄せて笑う。
 それを訊いて、花は安堵の溜息をつく。
「・・・・良かった」
 花の口から自然とこぼれ落ちた言葉が、それだった。すごい、という尊敬の念は、あとから湧いてきた。
 それよりも、義孝が一つ危険な波を乗り越えたのだと分かり、安堵する気持ちが先立ったらしい。 
 身体から力が抜ける様だった。

「こんなに早く成果を挙げられるなんて、あの子・・・この分だと早く帰って来られるかもしれませんね」
「えっ!」
 想定外の喜ばしい話に、花は思わず大きな声を出してしまった。
 しまった、と思った時にはもう遅い。通りを歩く人々の視線が、チラチラと集まる。
 今度は恥ずかしさで紅く染めた頬を、花は広げた新聞の内側に沈み込むようにして隠した。

 けれど、嬉しさのほうが勝った。時東家の門で彼を見送っ日から、まだ数日しか経っていない。  
 それでも、
(早く、お会いしたい!)
 花は、改めて紙面を見つめる。
 頭では、待てと分かっているのに、心が居ても立っても居られないのだろう。
 ここから駆け出したいような、そんな気持ちになっている。

 彼がいる海を目指し、今すぐにでも会いにゆきたい、と。
「行きましょうか、北部鎭守府」
 花の心を読んだかのように、傍らで、千代が言った。
「えっ、でも、それはご迷惑に」
「迷惑になら追い返されるだけです。それに、私との北部鎭守府小旅行なら、何も気兼ねする必要はないでしょう?待っているばかりでは、ヤキモキするだけですよ」
「お義母さん」
 そうしたい、と花の心は沸き立つ。千代の言葉は、とても魅力的だった。だが、花は首を振る。
「・・・・お気遣い、ありがとうございます。でも、私はこちらで、義孝さんのご帰還をお待ちしたいと思います」
「いいの?」
 眉を下げて、千代が訊ねる。
「はい、そう義孝さんと約束したので」
 花が遠慮しているのでは、と千代は心配したのだろう。しかし、花は遠慮したわけではない。
 義孝が出立前夜、花は彼に『待つ』と言ったのだ。
 自分は、彼の妻になるのだ。
 だからこそ、家と家族を守りながら、心を波立たせずに待ち続けられる・・・そんな強い人間であらねばならない。
 自分は彼の妻に相応しいのだと、証明したい。その為にも、花は、彼と交わした約束を守りたいと思った。

 ふと見れば、二羽の鶺鴒セキレイが緑の木々の間を飛んでゆく。  
 つがいの鳥だろう。
 互いが離れぬように、離れてもすぐに近づけるように、懸命に羽ばたいている。
 まるで互いを、気遣い合っているようだ。
 その仲睦まじい様子が眩しくて、眺める花は目を細めたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

会長にコーヒーを☕

シナモン
恋愛
やっと巡ってきた運。晴れて正社員となった私のお仕事は・・会長のお茶汲み? **タイトル変更 旧密室の恋**

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

好感度0になるまで終われません。

チョコパイ
恋愛
土屋千鶴子(享年98歳) 子供や孫、ひ孫に囲まれての大往生。 愛され続けて4度目の転生。 そろそろ……愛されるのに疲れたのですが… 登場人物の好感度0にならない限り終わらない溺愛の日々。 5度目の転生先は娘が遊んでいた乙女ゲームの世界。 いつもと違う展開に今度こそ永久の眠りにつける。 そう信じ、好きなことを、好きなようにやりたい放題… 自覚なし愛され公女と執着一途皇太子のすれ違いラブロマンス。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?

すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。 ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。 要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」 そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。 要「今日はやたら素直だな・・・。」 美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」 いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

処理中です...