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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
三十四話『婚約成立』
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それから数日後、義孝は時東家に帰ってきた。だが、居間で待ち構えていた千代は、怪訝そうに頭を捻った。
「義孝、ずいぶん時間がかかりましたね」
「ええ、実は、こちらに戻る前に、あれこれ用事があったもので」
「花さんの元に帰って来る以上に、大切な用事があったのですか?ねえ、花さん?」
「えっ?」
急に話を振られ、花は素っ頓狂な声を上げた。義孝が帰ってきた喜びで、胸がいっぱいだった為、咄嗟の言葉が出てこなかった。
「ちゃんと説明しますよ、母さん。・・・花さん、荷物は其の辺で構いませんので、こちらに座って下さい。大事な話があります」
義孝に、ちゃぶ台の前に呼ばれる。
花は玄関で預かった荷物を部屋の傍らに置いて、千代の隣に座る。
「まず、一つ。花さんと私の婚約許可が下りました」
「あら、花さん。良かったですねぇ」
花の肩を抱いて、千代がパッと笑顔になる。当の花は本人は、突然の吉報に固まってしまった。だが、それも一瞬のこと。
すぐに感激が大波となって押し寄せてくる。安堵が言葉となって、花の口をついた。
「よ、良かった。このまま許可が下りなかったら、どうしょうかと」
「すみません、花さんには不要な心配をおかけしましたね・・・ですが、これには少々理由がありまして」
「海軍のお偉方のゴタゴタではないのですか?」
千代の皮肉めいた言葉に、義孝は意味深な苦笑いを浮かべた。その表情の理由は、すぐに分かった。
「それもまあ、あったのですが。実は・・・花さんの、実家の件で」
「私の実家が、なにか・・・・」
「これを・・・」
義孝はスーツのポケットから、袱紗を取り出した。その袱紗を開けば、中から一通の封書が出てきた。義孝は封書から出した書類を、スッと花の前に出した。
「これは花さんのご実家、霧島家の邸宅並びに所有地に関する権利書です」
「え・・?」
花は目をぱちくりした。書類を見ても、理解が及ばない。実家には継母と義妹が住んでいるはずだ。
「まず、婚約許可がなかなか下りなかったのは、近頃ご実家の噂が芳しくなかったことが原因でした。さらに、霧島邸が売りに出されていた事が判明し、これも許可の妨げになったそうです」
「実家が、売りに」
「ええ。ただ邸が売れる前に、現当主が夜逃げをしてしまったそうで、軍が一時的に接収をしましてね」
「よ、夜逃?」
さらに混乱が深まる花に、義孝は詳細を話してくれた。
花が時東家にやって来る以前より、霧島家には借金があった。それらは、父亡きあとから継母が当主になってから散財を重ねた結果、生じた負債だったこと。
継母は借金返済に家財を売りに出し、屋敷も売りに出した。しかし、屋敷を売るには権利書が必要で・・・・。
「権利書の在り処が分からず、屋敷は売れず。取り立てに権利書を探す時間もなく、夜逃げしたそうです」
「―――あらま」
千代が呟く。
継母は夜逃げ同然で屋敷を出たので、義妹を気に掛ける余裕もなかった。置き去りにされて、借金のカタに売り飛ばされたとのこと。
「この権利書は、海軍のお偉方か渡して下さったのです。受け取って下さい。これは、花さんのものです」
そう言って、義孝は権利書を差し出した。
「でも、屋敷は継母のものでは?」
花はそれを前に困惑した。
「いいえ、土地の権利書の名義は、花さんのお父様の浩一郎氏のままです。権利書が見つからなくて、名義変更も出来ず―――屋敷を売れず」
花は思い出した。
「そう言えば。いつだったか、書類がないとか、なんとか」
「あなたのお義母上も、義妹さんも、もうもどってはこないでしょう」
「そう、ですか」
借金によって逃げ出さねばならなくなった義母の行く末や、親に売られた義妹を不憫に感じたのも一瞬のこと。
かつて実家で義母と義妹にされたこと、その苦い記憶が花の脳裏に浮かんでは消える。それは、虐待の類だったのだろう。
もう、自分は大丈夫なのだ。
苦しかった、水の底に沈められたように―――――。
「あの、鹿江たちは?」
「安心してください、皆さん、お変わりはありません」
「良かった」
「花さん」
義孝が訊ねる。
「花さんさえ良ければ、霧島邸に移りませんか」
いずれ、上官に返さねばならないのだ。
「お義母さんは、一緒に来ていただいても、よろしいですか」
「むしろ、私が一緒にいても、いいのかしら?」
「もちろんです」
「花さんがそう言ってくれるのであれば、断わる理由はありませんね」
千代がちゃぶ台の向こうで、笑顔で頷く。花は手をつき、深々と義孝に頭を下げた。
「義孝さん。ありがとうございます、本当に・・・・ありがとうございますっ!」
こうして、時東一同は霧島邸に移ることになった。
「義孝、ずいぶん時間がかかりましたね」
「ええ、実は、こちらに戻る前に、あれこれ用事があったもので」
「花さんの元に帰って来る以上に、大切な用事があったのですか?ねえ、花さん?」
「えっ?」
急に話を振られ、花は素っ頓狂な声を上げた。義孝が帰ってきた喜びで、胸がいっぱいだった為、咄嗟の言葉が出てこなかった。
「ちゃんと説明しますよ、母さん。・・・花さん、荷物は其の辺で構いませんので、こちらに座って下さい。大事な話があります」
義孝に、ちゃぶ台の前に呼ばれる。
花は玄関で預かった荷物を部屋の傍らに置いて、千代の隣に座る。
「まず、一つ。花さんと私の婚約許可が下りました」
「あら、花さん。良かったですねぇ」
花の肩を抱いて、千代がパッと笑顔になる。当の花は本人は、突然の吉報に固まってしまった。だが、それも一瞬のこと。
すぐに感激が大波となって押し寄せてくる。安堵が言葉となって、花の口をついた。
「よ、良かった。このまま許可が下りなかったら、どうしょうかと」
「すみません、花さんには不要な心配をおかけしましたね・・・ですが、これには少々理由がありまして」
「海軍のお偉方のゴタゴタではないのですか?」
千代の皮肉めいた言葉に、義孝は意味深な苦笑いを浮かべた。その表情の理由は、すぐに分かった。
「それもまあ、あったのですが。実は・・・花さんの、実家の件で」
「私の実家が、なにか・・・・」
「これを・・・」
義孝はスーツのポケットから、袱紗を取り出した。その袱紗を開けば、中から一通の封書が出てきた。義孝は封書から出した書類を、スッと花の前に出した。
「これは花さんのご実家、霧島家の邸宅並びに所有地に関する権利書です」
「え・・?」
花は目をぱちくりした。書類を見ても、理解が及ばない。実家には継母と義妹が住んでいるはずだ。
「まず、婚約許可がなかなか下りなかったのは、近頃ご実家の噂が芳しくなかったことが原因でした。さらに、霧島邸が売りに出されていた事が判明し、これも許可の妨げになったそうです」
「実家が、売りに」
「ええ。ただ邸が売れる前に、現当主が夜逃げをしてしまったそうで、軍が一時的に接収をしましてね」
「よ、夜逃?」
さらに混乱が深まる花に、義孝は詳細を話してくれた。
花が時東家にやって来る以前より、霧島家には借金があった。それらは、父亡きあとから継母が当主になってから散財を重ねた結果、生じた負債だったこと。
継母は借金返済に家財を売りに出し、屋敷も売りに出した。しかし、屋敷を売るには権利書が必要で・・・・。
「権利書の在り処が分からず、屋敷は売れず。取り立てに権利書を探す時間もなく、夜逃げしたそうです」
「―――あらま」
千代が呟く。
継母は夜逃げ同然で屋敷を出たので、義妹を気に掛ける余裕もなかった。置き去りにされて、借金のカタに売り飛ばされたとのこと。
「この権利書は、海軍のお偉方か渡して下さったのです。受け取って下さい。これは、花さんのものです」
そう言って、義孝は権利書を差し出した。
「でも、屋敷は継母のものでは?」
花はそれを前に困惑した。
「いいえ、土地の権利書の名義は、花さんのお父様の浩一郎氏のままです。権利書が見つからなくて、名義変更も出来ず―――屋敷を売れず」
花は思い出した。
「そう言えば。いつだったか、書類がないとか、なんとか」
「あなたのお義母上も、義妹さんも、もうもどってはこないでしょう」
「そう、ですか」
借金によって逃げ出さねばならなくなった義母の行く末や、親に売られた義妹を不憫に感じたのも一瞬のこと。
かつて実家で義母と義妹にされたこと、その苦い記憶が花の脳裏に浮かんでは消える。それは、虐待の類だったのだろう。
もう、自分は大丈夫なのだ。
苦しかった、水の底に沈められたように―――――。
「あの、鹿江たちは?」
「安心してください、皆さん、お変わりはありません」
「良かった」
「花さん」
義孝が訊ねる。
「花さんさえ良ければ、霧島邸に移りませんか」
いずれ、上官に返さねばならないのだ。
「お義母さんは、一緒に来ていただいても、よろしいですか」
「むしろ、私が一緒にいても、いいのかしら?」
「もちろんです」
「花さんがそう言ってくれるのであれば、断わる理由はありませんね」
千代がちゃぶ台の向こうで、笑顔で頷く。花は手をつき、深々と義孝に頭を下げた。
「義孝さん。ありがとうございます、本当に・・・・ありがとうございますっ!」
こうして、時東一同は霧島邸に移ることになった。
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