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身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
三十三話『義孝の艦』
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義孝が時東家を経って、数日が過ぎた。
「あの、これって・・・義孝さんが乗ってらっしゃる艦ですか?」
商店街を歩いている最中、号外屋から買った新聞を手にした花は、興奮に頬を紅潮させながら、千代に言った。
号外屋に集まる人達から離れたところで、花は新聞の内容を確かめる。その新聞の紙面には、不審艦を掌捕した戦艦疾風の手柄と、それを称賛する記事が大きく載っていた。
「あらまあ、ええ、あの子の乗っている艦ですよ」
千代が目元に皺を寄せて笑う。
それを訊いて、花は安堵の溜息をつく。
「・・・・良かった」
花の口から自然とこぼれ落ちた言葉が、それだった。すごい、という尊敬の念は、あとから湧いてきた。
それよりも、義孝が一つ危険な波を乗り越えたのだと分かり、安堵する気持ちが先立ったらしい。
身体から力が抜ける様だった。
「こんなに早く成果を挙げられるなんて、あの子・・・この分だと早く帰って来られるかもしれませんね」
「えっ!」
想定外の喜ばしい話に、花は思わず大きな声を出してしまった。
しまった、と思った時にはもう遅い。通りを歩く人々の視線が、チラチラと集まる。
今度は恥ずかしさで紅く染めた頬を、花は広げた新聞の内側に沈み込むようにして隠した。
けれど、嬉しさのほうが勝った。時東家の門で彼を見送っ日から、まだ数日しか経っていない。
それでも、
(早く、お会いしたい!)
花は、改めて紙面を見つめる。
頭では、待てと分かっているのに、心が居ても立っても居られないのだろう。
ここから駆け出したいような、そんな気持ちになっている。
彼がいる海を目指し、今すぐにでも会いにゆきたい、と。
「行きましょうか、北部鎭守府」
花の心を読んだかのように、傍らで、千代が言った。
「えっ、でも、それはご迷惑に」
「迷惑になら追い返されるだけです。それに、私との北部鎭守府小旅行なら、何も気兼ねする必要はないでしょう?待っているばかりでは、ヤキモキするだけですよ」
「お義母さん」
そうしたい、と花の心は沸き立つ。千代の言葉は、とても魅力的だった。だが、花は首を振る。
「・・・・お気遣い、ありがとうございます。でも、私はこちらで、義孝さんのご帰還をお待ちしたいと思います」
「いいの?」
眉を下げて、千代が訊ねる。
「はい、そう義孝さんと約束したので」
花が遠慮しているのでは、と千代は心配したのだろう。しかし、花は遠慮したわけではない。
義孝が出立前夜、花は彼に『待つ』と言ったのだ。
自分は、彼の妻になるのだ。
だからこそ、家と家族を守りながら、心を波立たせずに待ち続けられる・・・そんな強い人間であらねばならない。
自分は彼の妻に相応しいのだと、証明したい。その為にも、花は、彼と交わした約束を守りたいと思った。
ふと見れば、二羽の鶺鴒が緑の木々の間を飛んでゆく。
つがいの鳥だろう。
互いが離れぬように、離れてもすぐに近づけるように、懸命に羽ばたいている。
まるで互いを、気遣い合っているようだ。
その仲睦まじい様子が眩しくて、眺める花は目を細めたのだった。
「あの、これって・・・義孝さんが乗ってらっしゃる艦ですか?」
商店街を歩いている最中、号外屋から買った新聞を手にした花は、興奮に頬を紅潮させながら、千代に言った。
号外屋に集まる人達から離れたところで、花は新聞の内容を確かめる。その新聞の紙面には、不審艦を掌捕した戦艦疾風の手柄と、それを称賛する記事が大きく載っていた。
「あらまあ、ええ、あの子の乗っている艦ですよ」
千代が目元に皺を寄せて笑う。
それを訊いて、花は安堵の溜息をつく。
「・・・・良かった」
花の口から自然とこぼれ落ちた言葉が、それだった。すごい、という尊敬の念は、あとから湧いてきた。
それよりも、義孝が一つ危険な波を乗り越えたのだと分かり、安堵する気持ちが先立ったらしい。
身体から力が抜ける様だった。
「こんなに早く成果を挙げられるなんて、あの子・・・この分だと早く帰って来られるかもしれませんね」
「えっ!」
想定外の喜ばしい話に、花は思わず大きな声を出してしまった。
しまった、と思った時にはもう遅い。通りを歩く人々の視線が、チラチラと集まる。
今度は恥ずかしさで紅く染めた頬を、花は広げた新聞の内側に沈み込むようにして隠した。
けれど、嬉しさのほうが勝った。時東家の門で彼を見送っ日から、まだ数日しか経っていない。
それでも、
(早く、お会いしたい!)
花は、改めて紙面を見つめる。
頭では、待てと分かっているのに、心が居ても立っても居られないのだろう。
ここから駆け出したいような、そんな気持ちになっている。
彼がいる海を目指し、今すぐにでも会いにゆきたい、と。
「行きましょうか、北部鎭守府」
花の心を読んだかのように、傍らで、千代が言った。
「えっ、でも、それはご迷惑に」
「迷惑になら追い返されるだけです。それに、私との北部鎭守府小旅行なら、何も気兼ねする必要はないでしょう?待っているばかりでは、ヤキモキするだけですよ」
「お義母さん」
そうしたい、と花の心は沸き立つ。千代の言葉は、とても魅力的だった。だが、花は首を振る。
「・・・・お気遣い、ありがとうございます。でも、私はこちらで、義孝さんのご帰還をお待ちしたいと思います」
「いいの?」
眉を下げて、千代が訊ねる。
「はい、そう義孝さんと約束したので」
花が遠慮しているのでは、と千代は心配したのだろう。しかし、花は遠慮したわけではない。
義孝が出立前夜、花は彼に『待つ』と言ったのだ。
自分は、彼の妻になるのだ。
だからこそ、家と家族を守りながら、心を波立たせずに待ち続けられる・・・そんな強い人間であらねばならない。
自分は彼の妻に相応しいのだと、証明したい。その為にも、花は、彼と交わした約束を守りたいと思った。
ふと見れば、二羽の鶺鴒が緑の木々の間を飛んでゆく。
つがいの鳥だろう。
互いが離れぬように、離れてもすぐに近づけるように、懸命に羽ばたいている。
まるで互いを、気遣い合っているようだ。
その仲睦まじい様子が眩しくて、眺める花は目を細めたのだった。
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