俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
250 / 311

救いの手②

しおりを挟む
 その言葉の意味を理解した途端、ぶわりと冷たい汗が溢れた。

「……いつ、だ」

「え?」

「いつヴィダルスの部隊は、城を出たんだ……!」

 ヴィダルスが戻って来たらなんて、悠長なことを考えていた俺が馬鹿だった。既に運命は、既定の未来通りに進んでいたのに。

 ーーヴィダルスは、ネルドゥース辺境伯領を滅ぼした報酬に、俺を手に入れるつもりだ。

 そしてヴィダルスと同じ部隊のアンゼは、それに巻き込まれたのだ。

「えーと、2時間くらい前かな」

「……くそ。だとしたら、最短で明日の明け方には辺境伯領に到着するな」
 
 4時間ほどでネーバ山を抜けて辺境伯領までやって来られるアストルディアを基準にしてはいけないが、それでもヴィダルスが率いる部隊は精鋭揃いだ。その中から集団ならば問題なくネーバ山を越えられるメンバーをさらによりすぐっただろうことを考えると、辺境伯領に辿り着くまでの猶予はそれほど期待できない。
 夜間で時間を取られる可能性を鑑みても、恐らく半日もすれば、辺境伯領に辿り着いてしまうだろう。

「何人くらいが、向かったんだ?」

「ヴィダルス様の部隊から、さらに選ばれた十五人だけ。たったそれだけの人数で、一つの領を滅ぼすだんて普通なら不可能なはずだけど……ヴィダルス様が、いるからさ」

 不可能だなんて、とても思えなかった。
 父が幼い頃、辺境伯領の精鋭の兵士達はたった一人の獣人によって呆気なく殺された。
 セネーバの独立は、元を正せばたった一人の王家所有の獣人奴隷が、彼に恋した姫君によって隷属の首輪を外され、当時の王都の精鋭兵を殺し尽くしたことから始まった。
 獣人全てがそれほど強大な力を持つわけではないが、それでも一人で何百、何千もの人間を簡単に殺せる驚異的な力を持った獣人は、確かに存在する。
 そしてその中には、間違いなく王族であるヴィダルスも含まれていた。

「……アンゼは負けず嫌いだから、嫌だ嫌だって言いながらも、部隊では確実に実績を積んでてさ。優秀だったんだよ。ああ見えて。でも、だからこそ、十五人のうちの一人に選ばれちゃったんだ」

「…………」

「俺達は兵士だからさ。理不尽な命令でも、上官命令なら従わなければいけないわけ。ましてや女王直々の命令なら、当然だよね。わかってるんだ。俺もアンゼもわかってる。……もしかしたら、セネーバの為には、女王の命令を聞くのが一番良いのかもってこともさ。でっち上げの理由から始まった戦争だとしても、勝てば得るものは大きいのはたしかだもん。都合が悪いとこは見てみぬふりをした方が、楽だし安全だってこともわかってるんだ。……でもさ」

 タンクは俺を繋いでいた鎖を手に取ると、鉄でできたそれをまるでプラスチック製のおもちゃかなんかのように軽く引き千切った。

「俺、アホだからさ。無理なんだ。友達がこんな理不尽な目にあってんの知ってて、飲み込んだり割り切ったりなんかできるわけないじゃん。そうすることが大人だって言うなら、俺は一生子どものままでいい」

「……タンク」

「っおい、タンク! 話すだけならともかく、鎖まで引き千切ったってなったら、さすがに俺は見過ごせないぞ
! 行動に疑問こそ抱いていても、俺は女王陛下を敬愛してるんだっ」

「見過ごさなくていーよ。さすがにこれ以上君を巻き込むのは、申し訳ないもん。ごめんね。ユゼ。今から俺は君の敵だ」

 ユゼと呼ばれたサーバルキャットらしき獣人の男が言返す前に、タンクは獣化して完全なカバの姿になった。

「背中に乗って! エド様」

「っありがとう! タンク」

 背中に乗るだけでは逃走とはみなされないのか、問題なくタンクの背によじ登ることができた。

「しっかり捕まってね。エド様。ちょっと痛いかもだから、気をつけて」

「待て、タンク! 早まるな!」

 慌てて扉を開いて室内に駆け込んで来たユゼの制止を無視して、タンクはまっすぐ壁に突っ込んで行った。

「カバの体重は1.5トン……こんな石造りの壁くらいなら、突進だけで壊せる」

「馬鹿! ここは二階だぞ!」

「あれ? そうだっけ? ま、いーや!」

 気が抜ける言葉と共に、派手な音を立てて壁を壊したタンクが、俺を背中に乗せたまま宙を駆ける。……ユゼさんが突っ込むまで、俺もすっかりここが二階なこと忘れてたな。大丈夫か。これ。

 1.5トンの巨体は瞬く間に地面に向かって落ちて行ったが、カバの体躯には似合わない猫のような俊敏さで着地したタンクは、そのまま城門へと駆けて行った。

「へっへー! カバの足はね、意外と速いんだよ」


 
しおりを挟む
感想 161

あなたにおすすめの小説

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

処理中です...