【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ【完結】

旅する書斎(☆ほしい)

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第16話 二人の魔法、奇跡のドロップ

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「私が、あなたのために、世界で一番すごい、最強のお守りを作りますから」

私のその言葉に、レオン様は一瞬だけきょとんとした顔をし、そして、すぐに、全てを理解したように、深く、優しく微笑んだ。

「……ああ。期待している、俺のパティシエール」

その日から、私とレオン様の、そして、私たちの仲間たちの、最後の戦いが始まった。

決戦の日は、三日後。

王国の創立記念祭。

それまでに、アルビオン公爵の邪悪な魔法を打ち破る、最強の魔法菓子を完成させなければならない。

実習室は、私たちの秘密の作戦基地になった。

テーブルの上に広げられた、おばあちゃんのレシピノート。

そして、その隣には、ロゼリア様から託された、淡い虹色の光を放つ伝説の宝石、『妖精の涙(フェアリー・ティアー)』が置かれている。

「この宝石の力を、お菓子に込める……。でも、どうやって……」

レシピノートのどこにも、宝石を使ったお菓子の作り方なんて、載っていない。

私が頭を抱えていると、レオン様が、私の隣に座り、ノートを覗き込んだ。

「普通に考えれば、砕いて粉にして、生地に混ぜ込むのが一番だろうな」

「だ、ダメです! そんなことしたら、宝石が可哀想です! それに、ロゼリア様の想いまで、粉々になっちゃう……!」

「……ふっ、お前らしいな」

彼は、呆れたように、でも、どこか楽しそうに笑うと、私の頭をくしゃっと撫でた。

「なら、どうするんだ?」

「宝石の持つ、聖なる力を、そのまま、お菓子に『転写』するんです」

「転写、だと……? そんな芸当、聞いたことがないぞ」

「私も、やったことはありません。でも、おばあちゃんのノートの最後のページに、それらしき記述が……」

私は、ノートの一番後ろの、ほとんど白紙のページを指さした。

そこには、おばあちゃんの字で、たった一文だけ、こう書かれていた。

『本当の魔法とは、心と心を繋ぎ、力を合わせることで、初めて生まれる奇跡のこと』

「心と心を、繋ぐ……」

レオン様が、その言葉を、ゆっくりと反芻する。

「……なるほどな」

彼は、何かを理解したように、深く頷いた。

「この『妖精の涙』は、純粋な魔力にしか反応しない。そして、その力を最大限に引き出すには、二つの、異なる性質の純粋な魔力が必要だということか」

「二つの、異なる性質の魔力……?」

「ああ」

彼は、私の目を、まっすぐに見つめた。

「俺の、攻撃と浄化を司る『聖なる魔力』。そして、いちご……お前の、全てを癒し、育む、優しい『癒しの魔力』。この二つが合わさった時、初めて、奇跡は起こる」

(レオン様の、聖なる魔力と……私の、癒しの魔力……)

二人で、力を合わせる。

その言葉の意味を理解した瞬間、私の心臓が、ドキッと大きく高鳴った。

「やりましょう、レオン様! 二人で、最高の魔法菓子を!」

「ああ。もちろんだ」

私たちの、初めての共同作業が始まった。

私たちが作るのは、儀式の最中でも、レオン様がすぐに口にできるように、小さな『光のドロップ』。

砂糖と水飴を鍋で煮詰め、そこに、私が育てた、心を落ち着かせる効果のあるハーブのエキスを加える。

ここまでは、いつもと同じ。

でも、ここからが、未知の領域。

熱い飴のベースを、清めた大理石の台の上に広げる。

そして、その中央に、『妖精の涙』を、そっと置いた。

「……いくぞ、いちご」

「はい!」

私たちは、向かい合って立ち、大理石の台の上で、手を繋いだ。

彼の大きな手が、私の手を、優しく、力強く握りしめる。

ドキドキして、顔が熱くなる。

「目を閉じて、集中しろ。俺の魔力に、お前の魔力を重ねるんだ。喧嘩させるなよ? 優しく、寄り添うように」

「……はい!」

私は、ぎゅっと目を閉じた。

まず、レオン様から、温かくて、力強い、黄金色の聖なる魔力が、流れ込んでくるのがわかった。

その力強い流れに、私は、おそるおそる、自分の、ふんわりとした、若葉色みたいな癒しの魔力を、重ねていく。

最初は、うまくいかなかった。

二つの魔力は、反発し合って、バチバチと小さな火花を散らす。

「……っ、焦るな、いちご。もっと、力を抜け。俺を、信じろ」

彼の、静かで、落ち着いた声。

そうだ。

私は、彼を信じている。

彼の強さも、優しさも、全部。

私の魔力は、彼を支えたい。彼の力になりたい。

そう、強く、強く、念じた。

すると、今まで反発しあっていた二つの魔力が、ふわりと、一つに溶け合った。

黄金色と、若葉色が、綺麗に混じり合って、まるで、春の陽だまりみたいな、キラキラとした、新しい色の魔力が生まれていく。

(すごい……!)

「そうだ、その感じだ……!」

私たちの魔力は、繋がった手を通して、一つになり、そして、台の上の『妖精の涙』へと、注ぎ込まれていった。

その瞬間。

宝石が、これまでで一番強い、虹色の光を、ぱあっと放った!

うわぁ……!

あまりの美しさに、目を開けてしまった私の目に、信じられない光景が飛び込んできた。

宝石から放たれた虹色の光が、まるで生き物のように、飴のベース全体に、広がっていく。

そして、光が染み込んだ飴は、ただの透明から、オーロラみたいに、角度によって色が変わる、不思議な輝きを放ち始めたのだ。

「……やった! やりました、レオン様!」

「ああ……すごいな。これが、お前と俺の、力か」

私たちは、顔を見合わせて、笑い合った。

もちろん、私たちの戦いは、二人だけじゃなかった。

「いちごー! レオン様ー! 差し入れ、持ってきたわよー!」

バン! と、勢いよくドアを開けて入ってきたのは、桜ちゃんだった。

彼女は、山盛りのサンドイッチと、フルーツの入ったバスケットを抱えている。

「二人とも、ちゃんと食べてる!? 集中も大事だけど、体力勝負でもあるんだからね!」

「ありがとう、桜ちゃん」

「それに、これ!」

彼女が、得意げに取り出したのは、一枚の羊皮紙だった。

「アルビオン公爵の配下の、見張りの配置図よ! 魔法科で、いちごに助けられた子たちが、こっそり調べてきてくれたの!」

「本当!?」

「みんな、いちごの味方だからね! レオン様だけにかっこいいとこ、見せさせないんだから!」

桜ちゃんが、悪戯っぽく笑う。

その優しさが、温かくて、また涙が出そうになった。

製菓科の仲間たちも、私たちが作業に集中できるように、材料の下準備や、実習室の掃除を、率先して手伝ってくれた。

みんなの想いが、私たちの力になる。

私たちは、決して、一人じゃないんだ。

その頃、王都のフォンティーヌ家の屋敷では。

ロゼリア様が、父親である公爵に、毅然とした態度で向き合っていた。

「……よろしいのですか、お父様。ヴァイスハイト家と、完全に敵対することになりますぞ」

「構わん。私は、アルビオン公爵のやり方には、到底賛同できん。我がフォンティーヌ家の誇りは、正義と秩序を守ることにある。彼の暴走を、これ以上、見過ごすわけにはいかない」

「……ありがとうございます、お父様」

ロゼリア様は、窓の外を見つめた。

その視線の先には、私たちがいる、王立マグノリア魔法学園がある。

(……頑張って、天野さん。そして、レオン様……)

彼女の最後の仕事は、もう、始まっていた。

そして、創立記念祭の前日。

私たちの、最強の魔法菓子、『虹色の光のドロップ』は、ついに完成した。

それは、ただのドロップじゃなかった。

一粒一粒が、まるで宝石そのものみたいに、内側から、七色の優しい光を放っている。

太陽のように温かく、月のように静かで、星のように、キラキラと輝いている。

希望そのものを、お菓子にしたような、奇跡のドロップ。

「……できた」

私は、完成したドロップの入った小さなガラスの小瓶を、レオン様に手渡した。

「これがあれば、大丈夫です。どんな邪悪な魔法も、アルビオン公爵の罠も、絶対に、はね返せます」

「……ああ」

レオン様は、その小瓶を、大切そうに受け取ると、私の手を、強く、強く、握りしめた。

「お前がいれば、俺は無敵だ」

そのサファイアの瞳に映る、私への絶対的な信頼。

それだけで、私は、なんだってできる気がした。

いよいよ、明日は、決戦の日。

創立記念祭の、華やかなお祭りの裏で、王国の運命を賭けた、最後の戦いが、始まろうとしていた。
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