【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ【完結】

旅する書斎(☆ほしい)

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第19話 卒業、そして誓いのキス

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あの、星降る夜の庭園での、レオン様の提案。

それは、私の想像を、遥かに超える、とびきり素敵なものだった。

『ヴァイスハイト家の当主として、俺は、この国の未来を支える。だが、それだけじゃない。俺は、天野いちごの夫として、君の夢も、一緒に叶えたい』

『だから、二人で店を開こう。王都から少し離れた、緑の豊かな、あの丘の上に。身分も、家柄も、何も関係なく、誰もが、お前の作る温かいお菓子で、笑顔になれるような……そんな、小さな、魔法の洋菓子店を』

その言葉を聞いた時の、私の気持ち。

嬉しくて、幸せで、胸がいっぱいで……。

あの時の、心臓がとろけてしまいそうなほどの幸福感を、私は、一生、忘れないだろう。

そして、季節は巡り――。

私たちは、王立マグノリア魔法学園の、卒業式の日を迎えていた。

うららかな春の日差しが、満開のマグノリアの花をキラキラと照らしている。

講堂に集まった、たくさんの卒業生たち。

みんな、少しだけ大人びた顔をして、希望と、ほんの少しの寂しさを胸に、この日を迎えていた。

もちろん、私も、その一人だ。

隣には、親友の桜ちゃん。

そして、少し離れた魔法科の席には、他の誰よりも凛々しく、輝いて見える、私の、大好きな人――レオン様が座っている。

式は、厳かに、そして、順調に進んでいく。

そして、いよいよ、卒業生総代による、答辞の時間になった。

壇上に上がったのは、もちろん、レオン様だった。

マントを翻し、ゆっくりと演台の前に立つ。

その姿は、もう、学園の誰からも、“氷の王子”なんて呼ばれていなかった。

彼は、その圧倒的な存在感と、そして、内に秘めた優しさで、みんなから尊敬される、本当のリーダーになっていた。

彼は、会場を、ゆっくりと見渡した。

そして、そのサファイアの瞳が、まっすぐに、私を捉える。

ドキッ、と私の心臓が、甘く跳ねた。

彼は、マイクを通して、静かに、だが、力強く、語り始めた。

「卒業生の皆さん。そして、私たちを支えてくださった、先生方、ご家族の皆様。本日は、このような、素晴らしい日を、ありがとうございます」

彼の声が、講堂に響き渡る。

「振り返れば、この学園で過ごした日々は、私にとって、決して、平坦な道ではありませんでした」

彼は、自分の過去を、正直に語り始めた。

孤独だったこと。力を恐れ、心を閉ざしていたこと。偽りの自分で、周りを傷つけていたこと。

「そんな、氷のように冷たく、空っぽだった私に、光をくれた人がいます」

会場中の視線が、一斉に、私に集まる。

(う、うわぁ……! やっぱり、こっち見るよね……!)

顔が、カッと熱くなる。

「その人は、私に教えてくれました。本当の強さとは、何かを破壊する力ではなく、誰かの心を、温める優しさなのだと。自分の弱さを受け入れ、誰かと支え合うことの、大切さを」

「彼女の作る、ささやかで、温かい魔法は、私の凍てついた心を、ゆっくりと、優しく、溶かしてくれました。彼女がいなければ、私は今、ここに、こうして立っていることは、できなかったでしょう」

彼の言葉が、温かいシャワーみたいに、私の心に降り注ぐ。

「この学園で得た、最高の宝物は、魔法の知識でも、名誉でもありません。かけがえのない友と、そして――」

彼は、一度、言葉を切った。

そして、私だけを見つめて、最高の笑顔で、言ったのだ。

「――俺の未来を、その存在の全てで照らしてくれた、たった一人の女性、天野いちご。心から、感謝する。愛している」

(~~~~~っ!!!)

もう、ダメ。

完全に、ダメ。

涙腺が、大決壊。

私の瞳から、ぼろぼろと、幸せの涙がこぼれ落ちる。

周りからは、「キャーッ!」「ヒューッ!」という、祝福の歓声と、拍手が、嵐のように巻き起こっていた。

恥ずかしいのに、それ以上に、嬉しくて、幸せで、私は、泣きながら、精一杯の笑顔で、彼に、頷き返した。



卒業式の後。

私たちは、思い出の詰まった、この学園で、仲間たちとの、別れを惜しんでいた。

「いちごー! 絶対、お店、遊びに行くからね! そしたら、私のパンも、置かせなさいよね!」

桜ちゃんが、泣きながら、私に抱きついてくる。

彼女は、卒業後、実家である、王都で人気のパン屋さんを継ぐことが決まっていた。

「うん! もちろん! 桜ちゃんのパンと、私のお菓子で、最強のお店にしようね!」

「約束よ!」

固い、固い、約束。

「天野さん、レオン様、ご卒業、おめでとうございます!」

「今まで、本当にありがとう!」

魔法科の生徒たちも、みんな、笑顔で、私たちを囲んでくれた。

もう、そこに、魔法科と製菓科の壁なんて、どこにもなかった。

そんな時、一羽の、美しい白鳥が、私の元へ、一通の手紙を届けてくれた。

差出人は、海の向こうの国にいる、ロゼリア様からだった。

『ご卒業、そして、ご婚約、心より、お祝い申し上げますわ。
お二人の幸せを、遠い空の下から、いつも、祈っております。
わたくしも、こちらで、ようやく、自分のやりたいことを見つけました。
いつか、もっと、もっと、素敵なレディになって、お二人に、胸を張って、再会できる日を、楽しみにしておりますわ』

その、どこまでも気高く、そして、温かい言葉に、私の胸は、また、熱くなった。

(ロゼリア様も、頑張ってるんだ。私も、頑張らなきゃ)

みんな、それぞれの、新しい未来へ。

一歩、踏み出す時なんだ。



そして、その日の夕方。

私とレオン様は、二人きりで、あの、製菓科の実習室にいた。

私たちの、全ての物語が始まった、この場所で。

「本当に、いいのか? 俺が手伝っても」

「もちろんです! 今日は、特別なんですから!」

私たちは、学園生活、最後の魔法菓子を作っていた。

お世話になった先生方や、仲間たちへの、感謝の気持ちを込めた、特大の、三段重ねのデコレーションケーキ。

それは、もう、二人きりの作業じゃなかった。

「いちご、生クリームの泡立て、終わったぞー!」

「レオン様、こっちのフルーツ、カットお願いします!」

桜ちゃんを始め、製菓科の仲間たちが、みんな、自分のことみたいに、生き生きと手伝ってくれる。

「おい、ヴァイスハイト! イチゴのヘタ取り、もっと丁寧にやれ!」

「うるさい! やっているだろう!」

魔法科の、仲の良かった男子生徒たちまで、いつの間にか、作業に加わっていた。

みんな、笑っていた。

ぶつかり合って、助け合って、泣いて、笑って。

私たちの、キラキラした、学園生活の全てが、このケーキの中に、ぎゅっと、ぎゅっと、詰め込まれていくようだった。

そして、ついに。

世界で一つだけの、私たちの、卒業記念ケーキが、完成した。

みんなで、そのケーキを囲んで、ささやかな、でも、最高に温かい、卒業パーティーを開いた。

パーティーが、お開きになって。

夕日が差し込む、ガランとした実習室に、私とレオン様は、二人きりになった。

オレンジ色の光が、彼の銀色の髪を、優しく照らしている。

彼は、窓の外を眺めていた私の後ろから、そっと、優しく、私を抱きしめた。

「……明日から、新しい生活が、始まるな」

彼の、穏やかな声。

「はい、レオン様。……いえ」

私は、少しだけ、勇気を出して、彼のことを、呼び直した。

「……レオン」

「……!」

彼の腕に、ぎゅっと、力がこもる。

「……ああ。ずっと、そう呼んでほしかった」

彼の、嬉しそうな、甘い声が、耳元で囁かれる。

私たちは、しばらく、そうして、夕日に染まる校庭を、黙って眺めていた。

「俺たちの、お店の名前、もう決めたのか?」

「はい。もう、ずっと前から、決めてました」

「ほう?」

「『魔法洋菓子店 シンデレラ』です」

「シンデレラ……か」

「はい。落ちこぼれだった私が、王子様に見つけてもらって、お姫様になれた。そんな、夢みたいな物語が、本当にあったんだって、忘れないように」

「……そうか」

彼は、私の肩に、こてん、と頭を乗せた。

「だが、お前は、俺が魔法をかける前から、ずっと、俺だけの、輝く姫だったがな」

(……もう、本当に、この王子様には、敵わない)

彼は、私の体を、ゆっくりと、自分の方へ向かせた。

夕日に照らされた、彼の顔。

真剣で、愛おしそうで、そして、少しだけ、緊張している、顔。

彼の顔が、ゆっくりと、近づいてくる。

あの夜会で、あの実習室で、邪魔が入って、できなかった、約束の、続き。

私も、そっと、目を閉じた。

重なった唇は、私が今まで作った、どんなお菓子よりも、とろけるように、甘かった。

私の魔法は、あなたを笑顔にすること。

でも、本当は、あなたの笑顔が、私に、魔法をかけてくれていたんだ。

これからも、ずっと、永遠に。
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