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第20話 魔法洋菓子店シンデレラへ、ようこそ
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あれから、数年の時が流れた。
王都から魔法列車で少し揺られた先にある、緑の豊かな、見晴らしのいい丘の上。
春には、たくさんのマグノリアの花が咲き誇る、その丘の上に、一軒の、小さな、可愛らしいお店が建っている。
カラン、コロン。
ドアベルの軽やかな音と共に、甘くて、幸せな香りが、訪れた人たちを優しく出迎える。
木製の看板には、私の、少しだけ丸っこい文字で、こう書かれていた。
『魔法洋菓子店 シンデレラ』
「はーい、いらっしゃいませ!」
私は、真っ白なエプロンをきゅっと締め、カウンターの中から、満面の笑みでお客さんを迎える。
そう。
ここは、私と、レオンの、夢のお店だ。
「いちごさーん! この前の『元気が出るマフィン』、最高だったわ! おかげで、魔法薬学の試験、大成功だったの!」
カウンターに駆け寄ってきたのは、私たちが卒業した後、マグノリア魔法学園に入学してきた、後輩の女の子だった。
「よかった! 頑張ったんだね!」
「うん! だから、今日も、お守りに、あのマフィンを一つちょうだい!」
「はい、喜んで!」
私が、ラッピングしたマフィンを手渡すと、彼女は、太陽みたいな笑顔で、お店を後にしていく。
そんな、キラキラした日常。
このお店には、毎日、たくさんの笑顔が、訪れる。
「よぉ、未来のお姫様! ……いや、もう、本物のお姫様か!」
ガラの悪い口調で入ってきたのは、かつての魔法科の、レオンの友人だった人だ。
今では、王国の騎士団で、立派な隊長さんになっている。
「もう、からかわないでください! それで、今日は、何にします?」
「んー、うちの隊の連中が、最近、疲れ気味でな。なんか、こう、ガツンと気合が入るような菓子、ないか?」
「それなら、新作の『獅子奮迅ジンジャークッキー』がおすすめです! ちょっとピリッとしますけど、魔力も体力も、回復しますよ!」
「お、そいつはいいな! じゃあ、それを、隊の人数分、頼む!」
「毎度ありまーす!」
そんなやり取りをしていると、お店の奥の、事務所のドアが、ゆっくりと開いた。
「……いちご。少し、休憩したらどうだ。朝から、ずっと立ちっぱなしだろう」
そこに立っていたのは、いつの間にか、私の背後に立っていた、愛しい、私の旦那様。
ヴァイスハイト家の当主として、毎日、山のような書類と格闘しているはずなのに、彼は、時間を見つけては、こうして、お店に顔を出してくれる。
その指には、私とお揃いの、光の指輪が、キラリと輝いていた。
「レオン! 大丈夫ですよ、私は。それより、あなたこそ、ちゃんと休んでいますか?」
「お前が作った、この『月の雫の琥珀糖』があるからな。どんな疲れも、すぐに吹き飛ぶ」
そう言って、彼は、私が彼のためだけに作り続けている、特別な琥珀糖を、一粒、口に放り込んだ。
その仕草は、昔と少しも変わらない。
でも、そのサファイアの瞳は、もう、氷みたいに冷たくなんかない。
私だけに向ける、とろけるように甘くて、優しい光を、いつも、宿している。
「……それより、いちご」
彼は、私の耳元に、そっと顔を近づけて、囁いた。
「今日の夜、楽しみにしている」
「~~~っ!」
(こ、この人は、また、人前で……!)
私が、顔を真っ赤にして、彼を睨むと、彼は、楽しそうに、くつくつと喉を鳴らして笑った。
そんな私たちの様子を、カウンターの向こうから、桜ちゃんが、呆れたように見ていた。
彼女は、約束通り、このお店の隣に、自分のパン屋さんを開いている。
「はいはい、ごちそうさまー! 公爵夫妻のイチャイチャは、お店を閉めてからにしてくださーい!」
「さ、桜ちゃん!」
「あ、そうだ、いちご! 明日の朝、焼きたてのパン、持ってくるね! あんたの作るスープに、絶対合うと思うんだ!」
「うん! 楽しみにしてる!」
桜ちゃんも、魔法科の彼も、そして、レオンも。
みんな、私の大切な、宝物だ。
そんな、幸せな時間を噛みしめていた、午後。
カラン、コロン、と、また、ドアベルが鳴った。
入ってきたのは、小さな、俯きがちの女の子と、その子の手を引く、心配そうなお母さんだった。
「あの……」
「はい、いらっしゃいませ」
「この子が、どうしても、ここのお菓子が食べたい、って言うものですから……」
見ると、女の子は、まだ、学園の初等部くらいの年頃だろうか。
その瞳は、自信をなくして、どんよりと曇っていた。
「魔法の練習で、失敗しちゃったの?」
私が、優しく声をかけると、女の子は、こくり、と小さく頷いた。
その姿が、昔の、落ちこぼれだった自分と、少しだけ、重なって見えた。
私は、にっこりと微笑むと、ガラスケースの中から、一種類のクッキーを取り出した。
こんがりきつね色に焼かれた生地の上で、七色のアラザンが、キラキラと輝いている。
『七色スマイルクッキー』。
私が、一番最初に、みんなを笑顔にしたくて作った、始まりの魔法菓子。
私は、そのクッキーを、一枚、女の子の手のひらに、乗せてあげた。
「大丈夫だよ」
私は、昔、おばあちゃんが、私にしてくれたみたいに、優しく、優しく、語りかける。
「これを食べれば、きっと、また笑顔になれる。失敗なんて、へっちゃらになるよ。私のおばあちゃんが教えてくれた、世界で一番、優しくて、温かい、特別なおまじないだから」
女の子は、おそるおそる、そのクッキーを、小さな口で、かじった。
サクッ、という、軽やかな音。
その瞬間、女の子の、どんよりと曇っていた瞳が、ぱあっと、見開かれた。
そして、次の瞬間には、満開の花が咲いたみたいに、最高の笑顔になっていた。
「……おいしい!」
その笑顔を見て、私の心も、温かい光で、いっぱいになった。
やっぱり、これだ。
これが、私の、魔法なんだ。
女の子とお母さんが、笑顔で帰っていくのを、見送った後。
いつの間にか、隣に来ていたレオンが、私を、後ろから、優しく、抱きしめてくれた。
「……今日も、お疲れ様。いちご」
彼の、心地いい、低い声。
「お前の魔法は、本当に、世界一だな」
「ううん」
私は、彼の胸に、こてん、と頭を預けた。
「私の魔法は、レオンがいてくれるから、もっと、もっと、輝けるんだよ」
彼が見つけてくれなかったら、私は、今も、あの実習室の片隅で、一人、落ち込んでいただけかもしれない。
「あの時、私を見つけてくれて、ありがとう」
「俺の方こそだ。……ありがとう、俺のシンデレラ」
私たちは、顔を見合わせて、笑い合った。
お店を閉めた後、二人で、丘の上に登る。
夕日が、世界を、オレンジ色に染めていた。
私たちは、手を取り合って、その美しい景色を、ただ、黙って、見つめていた。
「なあ、いちご」
「ん?」
「……愛してる」
ストレートな、彼の言葉。
何度、聞いても、私の心臓は、初めての時みたいに、きゅんと、甘く、高鳴る。
「私も……」
私は、彼の胸に、飛び込んだ。
「私も、愛してます、レオン」
私たちは、夕日に照らされて、優しい、甘い、甘い、キスを、交わした。
私の名前は、天野いちご。
……ううん、今は、いちご・ヴァイスハイト。
私の魔法は、人を、ちょっとだけ幸せにすること。
私の魔法は、あなたを、そして、この世界中のみんなを、笑顔にすること。
この、愛しい、たった一人の王子様と、共に――。
これからも、ずっと、永遠に。
この、とびきり甘い魔法が、解けることは、もう、絶対に、ないのだから。
王都から魔法列車で少し揺られた先にある、緑の豊かな、見晴らしのいい丘の上。
春には、たくさんのマグノリアの花が咲き誇る、その丘の上に、一軒の、小さな、可愛らしいお店が建っている。
カラン、コロン。
ドアベルの軽やかな音と共に、甘くて、幸せな香りが、訪れた人たちを優しく出迎える。
木製の看板には、私の、少しだけ丸っこい文字で、こう書かれていた。
『魔法洋菓子店 シンデレラ』
「はーい、いらっしゃいませ!」
私は、真っ白なエプロンをきゅっと締め、カウンターの中から、満面の笑みでお客さんを迎える。
そう。
ここは、私と、レオンの、夢のお店だ。
「いちごさーん! この前の『元気が出るマフィン』、最高だったわ! おかげで、魔法薬学の試験、大成功だったの!」
カウンターに駆け寄ってきたのは、私たちが卒業した後、マグノリア魔法学園に入学してきた、後輩の女の子だった。
「よかった! 頑張ったんだね!」
「うん! だから、今日も、お守りに、あのマフィンを一つちょうだい!」
「はい、喜んで!」
私が、ラッピングしたマフィンを手渡すと、彼女は、太陽みたいな笑顔で、お店を後にしていく。
そんな、キラキラした日常。
このお店には、毎日、たくさんの笑顔が、訪れる。
「よぉ、未来のお姫様! ……いや、もう、本物のお姫様か!」
ガラの悪い口調で入ってきたのは、かつての魔法科の、レオンの友人だった人だ。
今では、王国の騎士団で、立派な隊長さんになっている。
「もう、からかわないでください! それで、今日は、何にします?」
「んー、うちの隊の連中が、最近、疲れ気味でな。なんか、こう、ガツンと気合が入るような菓子、ないか?」
「それなら、新作の『獅子奮迅ジンジャークッキー』がおすすめです! ちょっとピリッとしますけど、魔力も体力も、回復しますよ!」
「お、そいつはいいな! じゃあ、それを、隊の人数分、頼む!」
「毎度ありまーす!」
そんなやり取りをしていると、お店の奥の、事務所のドアが、ゆっくりと開いた。
「……いちご。少し、休憩したらどうだ。朝から、ずっと立ちっぱなしだろう」
そこに立っていたのは、いつの間にか、私の背後に立っていた、愛しい、私の旦那様。
ヴァイスハイト家の当主として、毎日、山のような書類と格闘しているはずなのに、彼は、時間を見つけては、こうして、お店に顔を出してくれる。
その指には、私とお揃いの、光の指輪が、キラリと輝いていた。
「レオン! 大丈夫ですよ、私は。それより、あなたこそ、ちゃんと休んでいますか?」
「お前が作った、この『月の雫の琥珀糖』があるからな。どんな疲れも、すぐに吹き飛ぶ」
そう言って、彼は、私が彼のためだけに作り続けている、特別な琥珀糖を、一粒、口に放り込んだ。
その仕草は、昔と少しも変わらない。
でも、そのサファイアの瞳は、もう、氷みたいに冷たくなんかない。
私だけに向ける、とろけるように甘くて、優しい光を、いつも、宿している。
「……それより、いちご」
彼は、私の耳元に、そっと顔を近づけて、囁いた。
「今日の夜、楽しみにしている」
「~~~っ!」
(こ、この人は、また、人前で……!)
私が、顔を真っ赤にして、彼を睨むと、彼は、楽しそうに、くつくつと喉を鳴らして笑った。
そんな私たちの様子を、カウンターの向こうから、桜ちゃんが、呆れたように見ていた。
彼女は、約束通り、このお店の隣に、自分のパン屋さんを開いている。
「はいはい、ごちそうさまー! 公爵夫妻のイチャイチャは、お店を閉めてからにしてくださーい!」
「さ、桜ちゃん!」
「あ、そうだ、いちご! 明日の朝、焼きたてのパン、持ってくるね! あんたの作るスープに、絶対合うと思うんだ!」
「うん! 楽しみにしてる!」
桜ちゃんも、魔法科の彼も、そして、レオンも。
みんな、私の大切な、宝物だ。
そんな、幸せな時間を噛みしめていた、午後。
カラン、コロン、と、また、ドアベルが鳴った。
入ってきたのは、小さな、俯きがちの女の子と、その子の手を引く、心配そうなお母さんだった。
「あの……」
「はい、いらっしゃいませ」
「この子が、どうしても、ここのお菓子が食べたい、って言うものですから……」
見ると、女の子は、まだ、学園の初等部くらいの年頃だろうか。
その瞳は、自信をなくして、どんよりと曇っていた。
「魔法の練習で、失敗しちゃったの?」
私が、優しく声をかけると、女の子は、こくり、と小さく頷いた。
その姿が、昔の、落ちこぼれだった自分と、少しだけ、重なって見えた。
私は、にっこりと微笑むと、ガラスケースの中から、一種類のクッキーを取り出した。
こんがりきつね色に焼かれた生地の上で、七色のアラザンが、キラキラと輝いている。
『七色スマイルクッキー』。
私が、一番最初に、みんなを笑顔にしたくて作った、始まりの魔法菓子。
私は、そのクッキーを、一枚、女の子の手のひらに、乗せてあげた。
「大丈夫だよ」
私は、昔、おばあちゃんが、私にしてくれたみたいに、優しく、優しく、語りかける。
「これを食べれば、きっと、また笑顔になれる。失敗なんて、へっちゃらになるよ。私のおばあちゃんが教えてくれた、世界で一番、優しくて、温かい、特別なおまじないだから」
女の子は、おそるおそる、そのクッキーを、小さな口で、かじった。
サクッ、という、軽やかな音。
その瞬間、女の子の、どんよりと曇っていた瞳が、ぱあっと、見開かれた。
そして、次の瞬間には、満開の花が咲いたみたいに、最高の笑顔になっていた。
「……おいしい!」
その笑顔を見て、私の心も、温かい光で、いっぱいになった。
やっぱり、これだ。
これが、私の、魔法なんだ。
女の子とお母さんが、笑顔で帰っていくのを、見送った後。
いつの間にか、隣に来ていたレオンが、私を、後ろから、優しく、抱きしめてくれた。
「……今日も、お疲れ様。いちご」
彼の、心地いい、低い声。
「お前の魔法は、本当に、世界一だな」
「ううん」
私は、彼の胸に、こてん、と頭を預けた。
「私の魔法は、レオンがいてくれるから、もっと、もっと、輝けるんだよ」
彼が見つけてくれなかったら、私は、今も、あの実習室の片隅で、一人、落ち込んでいただけかもしれない。
「あの時、私を見つけてくれて、ありがとう」
「俺の方こそだ。……ありがとう、俺のシンデレラ」
私たちは、顔を見合わせて、笑い合った。
お店を閉めた後、二人で、丘の上に登る。
夕日が、世界を、オレンジ色に染めていた。
私たちは、手を取り合って、その美しい景色を、ただ、黙って、見つめていた。
「なあ、いちご」
「ん?」
「……愛してる」
ストレートな、彼の言葉。
何度、聞いても、私の心臓は、初めての時みたいに、きゅんと、甘く、高鳴る。
「私も……」
私は、彼の胸に、飛び込んだ。
「私も、愛してます、レオン」
私たちは、夕日に照らされて、優しい、甘い、甘い、キスを、交わした。
私の名前は、天野いちご。
……ううん、今は、いちご・ヴァイスハイト。
私の魔法は、人を、ちょっとだけ幸せにすること。
私の魔法は、あなたを、そして、この世界中のみんなを、笑顔にすること。
この、愛しい、たった一人の王子様と、共に――。
これからも、ずっと、永遠に。
この、とびきり甘い魔法が、解けることは、もう、絶対に、ないのだから。
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