【奨励賞】元・地味な令嬢ですが、婚約破棄されたので聖獣と建国します~追放した王太子と聖女は、今さら私を求めないでください~

旅する書斎(☆ほしい)

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私が「星の民」の遺産を継承した直後、脳内に流れ込んできた膨大な知識は、私の創成魔法によって瞬く間に整理され、完全に私自身のものとなった。

「エリアーナ様、一体何が……?」

ギムリ長老が、まだ戸惑いを隠せない様子で私に問いかけた。私はゆっくりと彼らに向き直り、今しがた起きた出来事を、できるだけ分かりやすく説明した。

「この遺跡は、この星全体の龍脈を安定させるための、超古代の調整装置だったようです。そして、私はどうやら、その装置の新しい管理者に任命されたみたい」
「か、管理者……!?この星の……!?」
「つまり、エリアーナ様は、この星の神様にでもなったというのか!?」

ボリンが信じられないといった顔で叫んだ。

「そういう大げさなものではないわ。でも、このアークの力を使えば、私たちの国造りは、さらに飛躍的に進むことになるでしょう」

私はそう言うと、巨大な球体状の装置アークに向き直り、管理者として最初の命令を下した。

「アーク、私の創成魔法とリンクし、エネルギー供給システムを起動。目標地点は、現在掘削中の縦坑の最深部。地下大動脈計画に必要なエネルギーを、直接供給しなさい」

私の言葉に、アークが青白い光を強く放って応えた。すると、私たちが立っている広間の壁面の一部が液体のように変化し、そこから水晶と未知の金属で構成された太いパイプラインが自己生成され始めた。そのパイプラインは生き物のように壁や天井を這い、驚異的な速さで縦坑のある方向へと伸びていく。

「お、おいおい、なんだこりゃあ!?」
「壁が……勝手に……!」

ボリンもボルガンも、目の前の光景に腰を抜かさんばかりに驚いている。

「これで、掘削作業のエネルギー問題は完全に解決したわ。ボリン、ボルガン殿。掘削機の魔導エンジンをこのアークからの直接供給に切り替えれば、出力は今の数十倍にまで高められるはずよ」
「じゅ、数十倍だと……!?」
「そんなことができちまったら、地の底まで穴を掘るのに、一月もかからねえんじゃねえか!?」

二人の天才鍛冶師は、もはや興奮を通り越して笑うしかなかった。

「さあ、地上に戻りましょう。やるべきことが、山積みよ」

私たちは興奮冷めやらぬまま、アークを後にして地上へと戻った。村に戻ると、私はすぐにガンツを執務室に呼んだ。彼から王都の続報を受け取るためだ。

「エリアーナ様、ご報告いたします。我々が流した食料により、民衆の暴動は鎮静化しつつあります。しかし……」

ガンツの表情は厳しかった。

「王太子ジュリアスは、我々の動きを嗅ぎつけ逆上している模様です。『北の魔女エリアーナが、邪悪な力で民衆を惑わし、王国を乗っ取ろうとしている』という布告を、明日にも王国全土に出す準備を進めている、と」
「愚かね。自分の無能さを棚に上げて、全てを私のせいにするつもり……」
「それだけではございません。彼はわずかに残った王家の私兵と、彼にまだ追従する一部の貴族の兵をかき集め、我がヴァイスランドへ懲罰軍を派遣する動きも見せているとのことです」
「懲罰軍ですって?」

国が内乱で崩壊しかけているというのに、まだそんな余裕があるとは。

「兵の数はおよそ二千。数だけで見れば、我が国の防衛隊を上回ります。ですが、その大半はろくな訓練も受けていない寄せ集め。士気も低いでしょう」

ガンツの懸念はもっともだった。しかし、私にはもはや、そんな小さな軍勢を相手にするつもりはなかった。

「ガンツ、心配は要らないわ。その懲罰軍が、ヴァイスランドの土を踏むことは決してないでしょう。それに、ジュリアス殿下の布告が、民衆の耳に届くこともない」
「と、仰いますと?」
「これから、私が、この国の全ての民に、直接語りかけるから」

私はその足で、村の東の外れにある丘の上に立った。そこからは、ヴァイスランドののどかな風景と、その先に広がる空が一望できる。目を閉じ、意識を地下深くに眠るアークへと接続した。

『大気観測および広域情報伝達システム、起動。目標エリア、クライン王国全土。伝達対象、全ての知的生命体』

アークのシステムが、私の意思に完璧に応える。次の瞬間、クライン王国の全ての場所で、人々は天からの声を聞いた。

王都の貧民街で、ヴァイスランドのパンを分け合っていた人々。暴動で荒らされた街を呆然と眺めていた商人たち。王家を見限り、領地へ帰ろうとしていた貴族たち。そして、王宮の玉座で憎悪に顔を歪めていたジュリアスと、その隣で絶望に打ちひしがれていたユナ。

彼らの頭の中に、直接、私の声が響き渡った。

『クライン王国の民よ、聞きなさい。私は、北の大地を治める者、エリアーナ・フォン・ヴァイスランド』

その声は、荘厳でありながら、どこまでも優しかった。

『あなたたちの苦しみは、天が与えた試練ではありません。それは、自らの務めを忘れ、私利私欲に走った為政者の怠慢と、大地から生命力を搾取する、偽りの聖女がもたらした災厄です』

王都の広場で、人々は一斉に空を見上げた。その声には、誰もが逆らうことのできない絶対的な説得力があった。

『真の聖性とは、奇跡を安売りすることではありません。大地と共に生き、日々の営みの中で、地道に恵みを育むことの中にこそ、それは宿るのです』

玉座の間で、ジュリアスは床に転げ落ち、耳を塞いで絶叫した。

「やめろ……やめろ! どこから聞こえる! 誰だ!」

ユナもその場にへたり込み、わなわなと震えている。

『これ以上、偽りの王と言葉に惑わされてはなりません。あなたたちの未来は、誰かに与えられるものではない。あなたたち自身の意志と、その手で掴み取るものです』
『立ち上がりなさい。そして、自らの手で、正しき国を取り戻すのです』
『私は、飢える者には食料を、助けを求める者には手を差し伸べましょう。しかし、国を立て直すのは、あなたたち自身です。私は、その覚悟ある者たちを、決して見捨てはしない』

その言葉を最後に、声はぴたりと止んだ。一瞬の静寂の後、王都は熱狂の渦に包まれた。

「聞いたか! 今の声!」
「ああ、天からのお告げだ!」
「エリアーナ様こそ、我らを救ってくださる真の聖女様だ!」

民衆のエネルギーは、もはや王家への怒りではなく、新しい国を創るという希望へと変わっていた。王宮を守っていた近衛騎士団も、その「天啓」を聞いていた。彼らは顔を見合わせると、静かに武器を置いた。

騎士団長が玉座の間へ向かう。そこには、床に蹲り、正気を失ったように何かを呟いているジュリアスとユナの姿があった。

「……王太子殿下。もはや、あなたに付き従う者は、誰一人おりません」

騎士団長はそう告げると、部下たちに命じて二人を捕縛させた。彼らに抵抗する力は残されていなかった。

その日のうちに、王都に残っていた主要な貴族たちが集まり、緊急の評議会が開かれた。議題は、この国の未来について。結論はすぐに出た。

ジュリアス王太子の廃嫡と、ユナの国外追放を満場一致で決定。そして、この崩壊した国を再建するために、天啓の声の主、エリアーナ・フォン・ヴァイスランドを、新たな女王として招聘すること。

評議会は、すぐにヴァイスランドへの正式な使節団を編成することを決定した。宰相を筆頭に、各派閥の代表者たちが、国の命運を賭けて北の地を目指すことになったのだ。
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